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「え!? いやそんなこと無いからホント。まじで」




 早乙女さんのシフト終わり、我々秘密部隊(私と現場主任君)は決断的インタビューを敢行した……!


「やぁ、早乙女さん」

「あ、オーナーさん。お疲れ様です」

「ああ、こちらこそお疲れ様」


 早乙女さんへの説明として、私はこの店のオーナーということになっている。シマリス君は店長だ。チェーン店のオーナーって言うとなんだか変だが、早乙女さんに気付かれなければ問題ない。

 荷物をまとめて帰り支度をしている早乙女さんへ声をかけると、挨拶してくれる。

 いい子だ。いい子ゆえに下世話な質問をしてしまうことに些かの躊躇を覚えてしまう。

 まぁするけど。


「休憩時間に話していた……」

「あ……すみません。私、仕事中に話してしまって……」


 しゅん。と申し訳なさそうに身を縮める早乙女さん。

 私は慌てて弁解した。


「あぁ、違うんだよ。それはいいんだ。休憩中に誰と話そうが別にいいさ。厨房とレジにさえ入れなければね」

「そうなんですか? よかったぁ……」


 ほっとする早乙女さん。いい子だなぁ……こんな可愛い子が世間擦れせずに育つって中々奇跡じゃない? あ、ウチの妹も天使だったわ。そんなことなかったな。


「で、興味本位で訊くけど……」


 私は本題を切りだす。


「あの人、誰だい?」


 白いライダースジャケットのイケメン。果たしてその正体は……?


「あ、白馬君ですかぁ? お友達ですよ~」


 お友達。ほう。

 いやいや、対外的には恥ずかしがって隠してしまうこともあるだろう。ここで鵜呑みにする訳にはいかない。


「いやぁ、まぁ、恥ずかしいのは分かるけど、ホントのところどうだい? その、彼氏……だったりとか」


 私は諦めずに食い下がった。隣から「そこまでにしておいたらどうです?」という現場主任君の目線を感じるが、ここで下がる訳にはいかない……!

 しかし朗らかに、まったく顔を赤らめるだとかいう仕草をすることなく早乙女さんは答えた。


「ホントにお友達ですよ~。大学に来た当初から、色々よくしてもらって~。お店で働くことを進めてくれたお友達も彼なんですよ~」


 ……成程? 成程ね。

 どうやら、その……本当に本当のようだ。彼女から嘘の気配は一切感じず、その笑みは純真で真実のみを伝えているようだった。

 え? あんな美男美女が親しくてくっついてないの? それなんてラブストーリー? どう考えてもどっちか攻略対象じゃん。


「そっかー、いやあんなにカッコイイ男の子だと早乙女さんにお似合いだなぁって思ってさぁ! てっきり私そう言う関係だと……!」


 計画をプランBに変更する。すなわち付き合っている事実が無ければ作り出す。二人を本当のカップルにすればいい。

 私と現場主任が突撃インタビューを決行したのはシマリス君を諦めさせ恒常な状態に戻す為だ。アレがあんな状態じゃおちおち本部に戻れない。

 最早目線だけでは足りないと考えた現場主任君が私の肩を叩いて「マジでやめときましょうって」と指信号で伝えてくるが私は止まらない。確かに他人の恋愛の必要以上に関わるのは気が引ける行為だが、こちとら使える怪人が一人減るかどうかがかかっているんだ。引き下がれねぇ……!


 が、早乙女さんのリアクションは。


「え~? でも恋愛は私にはまだ早いかなって~」


 取りつく島もなさそうな答えだった。

 何というか、ニュアンスが……恋愛に心底興味なさそうな……。

 いや諦めるな。


「でもほら、普通はもう恋愛真っ盛りって歳じゃない? 早乙女さんだったらきっと向こうも即オーケーでしょ。ユー、告っちゃいなよYO」

「え~? でもそれを言うならオーナーさんもどうなんですか~? まだお若い……っていうか私よりも年下みたいに見えますし~」


 アレ!? こっちに跳弾した!?

 いや実際年下だけど、同級生とか恋愛大好きだろうけど、いやいや私はどうでもいいでしょ。ホント勘弁してよ。


「いやぁ、私はほら、相手が居ないから……」

「でもほら~、店長とか~」


 哀れ過ぎるだろうシマリス君。

 でも人間に化けているシマリス君はカッコイイ爽やかな好青年に見えるからね。そういう話の対象に上がるのは分かる。

 けどつまり、話題に出したからには別に早乙女さんにとって恋愛対象でも気になる相手でもないということを示す。強く生きろ、シマリス君……。


「あ! ほら後あの人~! たまにオーナーさんと一緒に居るワイルドな銀髪さん~!」


 うん、え? うん? いやそれはヘルガーが人間に化けている時の姿だな。

 ヘルガーは人間に化けるのがあまり得意では無いので、滅多に人前に人間態で出ることは無い。でもシマリス君が使い物にならない時は私が表に出たりする必要があったので、ヘルガーもついでに私付きでついて来てもらうことがある。

 狼怪人であるヘルガーの人間態は、その体毛をそのまま表現した銀髪と、体格そのままを再現した力強い肉体が特徴的だ。若く精悍そうな顔も相まって、軍人風のワイルドな青年って雰囲気だが……。

 いやなんでヘルガーの話が?


「いや、アイツは別に関係ないでしょう? それよりほらその、天馬君とか……」

「あ~! ほらそうやって話を逸らすってことは図星じゃないんですか~?」

「え!? いやそんなこと無いからホント。まじで」

「嘘だ~。すごい慌ててますよ~?」


 いやいやいや。マジで違うし。恋愛とか……無いし。

 そりゃ確かに百合の次にローゼンクロイツ内で信用しているのはヘルガーだけど、それは別にそう言う話とは関係ないし、いや関係ないならなんで考えたし。

 恋愛とか、私はそう言うことにあまり興味は……確かに無い事は無いが。それでも一番大事なのは百合の事だし、百合に相応しい男が出るまでは恋愛とかしないって言うか、そういう目線で誰も見ていないから、ホントほら。

 でもそういう目で見るとヘルガーは頼りがいがある男ではあると思うが。モフモフも気持ちいいし、抱えられて逃げる際は安心感に包まれるが、それはそれで。

 無茶苦茶頭がこんがらがる。ぐるぐる無駄な情報が頭を駆け廻り、私は混乱の極致へ至った。


「あ、あの、その」

「オーナー、オーナー?……戻りますか?」


 すぐ隣の現場主任君が私にそっと囁く。その言葉で、私はようやく我に返った。

 そ、そうだった。私が押されてどうするんだ。


「ま、まぁほら、私は仕事が第一だから、お店の維持が大切だから」


 そう誤魔化した。嘘は言っていないし。今はローゼンクロイツの安定が第一だし。


「え~?」


 しかし早乙女さんは不満そうだ。

 だがもう色々限界な私はこれ以上突っ込まれる前に軌道修正した。

 即ち白馬君の話題である。


「それよりさぁ、白馬君ってどんな子なの? 友達でしょう?」


 友達の事を教えて、となれば無碍には出来ない筈だ。

 実際、早乙女さんは切り替えて教えてくれた。


「白馬君は~すっごい良い人なんですよ~。入学当初から色々教えてくれて~。講義も大体一緒で遊びにも誘ってくれるんですよ~」

「え」


 え、いやそれは。


「すっごい高そうなレストランにも連れてってくれて~。奢るからって言ってくれたんですけど、流石に申し訳無くてお願いして割りカンにしてもらったんですよ~」


 その……白馬君、友達以上になりたいのでは……?

 どうやら早乙女さんはとんでもない鈍感モンスターのようだった。だからこんな美人でも恋人が全然できないのか。というかシマリス君、勝ち目無いんじゃないかこれ。


「バイト終わりも一緒に食事に行く予定なんですよ~」


 キラキラ輝く笑顔が眩しくて、でもどこか虚しさを覚えた。

 それは、その笑顔に魅入られて、そして散っていった男たちが数多くいることを知ってしまったからだろうか。


「ああ、うん、楽しんでね……」

「はい! じゃあこれで~」


 私は手を振って早乙女さんを見送り、その場に立ち尽くした。

 隣で同情するように現場主任君が肩をポンと叩く。

 こうして、プランBはあっけなく潰えた。






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