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『そうだ。これで我らが悲願に大きく近づける』




『到着。……ちょっとやな感じだね』


 グレンゴ一家とそれを追跡するコールスローが辿り着いた古びたコテージは、どこか不気味な空気を纏っていました。例えるならお化け屋敷でしょうか。ですがどのみちただのコテージである筈がありません。仮にも魔法生物であるビルガが撃墜されたのですから。


「警戒してください。少なくとも飛翔体を迎撃する仕組みがあります」

『了解。ただ、今のところは大丈夫かな。……それより、中に入っていくよ』


 コールスローの言う通り、仕込みカメラを通してモニターに映し出された画面には建物の中へ消えていくグレンゴ一家の背中がありました。正体不明の迎撃システムが発動している様子はありません。グレンゴ一家には効かないのか、あるいは地上の存在には発動しないのか……。


『……このまま着いていって侵入するよ』

「! ですが……」

『多分大丈夫。勘だけど』


 そして迎撃システムの原理が不明であるのに、コールスローはグレンゴ一家に続いてコテージへと接近していきます。もしシステムがグレンゴ一家以外を排する物であったなら、コールスローはビルガと同じ末路を辿るというのに。

 しかしこういう時、現場の判断の方が正しいこともまた往々にしてあるもの。その場の空気感という物はこうして監視している私では感じ取れない物ですから。それが分かっているので、強く制止することはしませんでした。

 固唾を呑んでコールスローが建物へ近づいていくのを見守ります。そして光学迷彩やその他隠れるための道具をフル活用したコールスローは――無事、コテージの扉に触れました。


「……ふぅー。迎撃システムは発動しませんでしたか」

『何となくだけど、空中から近づく物を撃退するだけの物なんじゃ無いか? グレンゴ一家は自分たちが攻撃される心配を一切していなかった感じだったし、そんな気がする』

「……実際それで貴方も到着したのですから、それが正解なのでしょうね」


 勘であっても、やはり現場の判断というのは侮れません。

 コールスローは次いで扉に耳を当て、中の様子を聞き取りました。眼鏡に仕込まれた集音器で私にも聞こえますが、無音でした。どうやらグレンゴ一家はコテージの奥へと行ったようです。


『侵入する。奴らが出てきた時に備えて、ビルガは外で待機させておいてほしい』

「分かりました」


 コールスローの言う通り、ビルガを迎撃されない位置で旋回させ待機させます。そしてコールスローは音を立てないよう扉を開け、中へと素早く滑り込みました。


『……成功。人影は無い』


 カメラ越しに映る中の景色は殺風景な物でした。普通の玄関ですが物は乏しく、花の一つも飾られていません。あまり掃除がされていないのか、床には埃が積もっていました。


『……? 足跡が……』


 その埃の上には足跡がクッキリと残っていました。まず間違いなくグレンゴ一家の物です。しかしその数が異常でした。明らかに二人分ではありません。


『二人だけじゃ無いのか。既に何人も入り込んでいる……』


 どうやらあの二人が入るよりも前にこのコテージに来ていた者たちがいるようです。恐らくは他のグレンゴ一家の構成員。足跡は幾重にも重なっていて、その人数を把握することは困難です。つまりはそれ程の数。


『でも足跡があるのは好都合だね。これを追えば奴らに自動的に奴らへ辿り着ける』

「慎重に、コールスロー。相手の『目』が多くなれば発見される確率は高まります」

『了解。光学迷彩を欠かさないようにするよ』


 コールスローはそのまま足跡を辿り、コテージの廊下を進んでいきます。当然音は立てていませんが、仮にも悪の組織の建物です。何があるかは分からない以上その歩みは慎重で、非常にゆっくりとした足取りになります。

 見ているだけでも息を呑むような緊張感の中、コールスローは足跡を追いました。


 そして辿り着いたのはリビングでした。扉などは無い、開放的な大部屋になっているようです。廊下側から中の様子を探りながら、コールスローは唸ります。


『……中に多くの気配がある』

「どうしますか?」


 どうやらその部屋の中に一同集まっているようです。しかしそんな部屋を扉も無い入り口から観察するのはリスクが高いでしょう。


『待った。……二階への階段がある。構造的に大部屋は吹き抜けになっているんじゃないかな』


 辺りを見回したコールスローはそう当たりをつけました。


『二階からコッソリ見下ろそう。そうすれば入り口よりかは見つかるリスクが低いはず』

「分かりました。任せます」


 ここに至ってはもう判断を尊重した方が良いでしょう。いざという時の為、こちらで今までに見た景色から構造を逆算し、逃走ルートを見当しておきます。


 二階に上がるとコールスローの言う通り吹き抜きになっており、階下が見下ろせました。そこには大きなテーブルを囲んで、七人の怪人が何かを話し合っていました。

 テントから出てこなかった怪人を含め、計八人の怪人。かなりの数の怪人が集まっています。これはただ事ではありません。

 集音器を通じ、怪人たちの会話が耳に入ってきます。


『クリメイションとかいう奴の方はどうだった』

『あぁ。任せられそうだ。これで集めた怪人は全部揃った。そっちは?』

『順調だ。地下に一度戻ったアイツがここへ来れば全員揃う。後一日で事を起こせるだろう』


 何やら不穏な会話でした。いえ、悪の組織なのだからそれは当たり前なのですが。しかしこれは……?


『なら決行は予定通り明日の夜だな』

『あぁ。休日だし、キャンプ場にも多くの人間がいるだろう』

『丁度良い。かなりの収穫が見込めるな』


 ……私はてっきり、奴らグレンゴ一家はクリメイションとの落ち合う場所としてここを利用している物だと思っていました。ここでは奴を雇うだけで、何かを起こすのは別の場所かと。そう思っていたからこそ、二人での偵察に乗り込んだのです。


『クリメイションにもそう話しておこう』

『だな。……あぁ、それにしてもいよいよか』

『そうだ。これで我らが悲願に大きく近づける』


 しかし話を聞いていると、違います。

 奴らの計画は……


『明日。キャンプ場にいる人間全てを生贄に捧げ、悪魔を招来する』


 この場で引き起こされるようでした。






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