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「出来ません!」




「ひぃーっ!!」

「うわぁーっ!!」


 一瞬にして阿鼻叫喚の地獄となった研究室で悲鳴が響き渡る。幸いガラスで怪我をした人は誰もいなかったが、それはなんの慰めにもならない。

 エイリアンはもう、解き放たれてしまったのだから。


「ィィーー!」

「ィィーー!」


 爆発した身体から飛び出した二体の小型エイリアンが研究室に降り立つ。そして狙いを定めると、一体は機材に、そしてもう一体は腰を抜かした研究員へと飛びかかった。


「ィィーーッ!!」

「ひぃっ!!」

「させるか!」


 エイリアンを追いかけ研究室へ飛び込んで、研究員にのし掛かるその気持ち悪い身体を掴み取る。


「この……離れろ!」

「ィィッ!」


 引き剥がす。服が破れる嫌な音が鳴る。手の中で暴れる小型エイリアンを抱えながら、白衣を犠牲にギリギリ捕食されずに済んだ研究員へと俺は叫ぶ。


「這ってでも逃げろ!」

「は、はいぃぃっ!」


 言われた通り、這々の体で逃げる研究員を横目に、俺は滅茶苦茶に暴れる小型エイリアンを床へと叩きつけた。


「ィィッ!」

「くそっ、早く処理しねぇと!」


 コイツらがもし研究所から逃げ出し、外の世界へと流出したら。周りにあるものをどんどん食べて巨大化、増殖していくだろう。地上を同類で埋め尽くすビジョンがありありと再生される。

 んなこと、当然させねぇ。ココで食い止める!


「らぁっ!」

「ィィィッ!」


 レイピアを突き刺し、奥まで抉る。何度か仕留めたことで、どれだけのダメージを与えれば絶命するのかは大体分かった。手応え通り、小型エイリアンは動かなくなる。


「よし後一体!」


 俺は死んだエイリアンから目を上げ、辺りを見渡した。確かアイツは、機械へと向かった筈だ。獲物を食えないから、大きくなったりは……。


「……は?」


 と、思っていた。

 しかし予想に反し、そこにいたのは研究用の機材を貪り、みるみる内に大きくなるエイリアンの姿だった。


「無機物でも喰えるのかよ!」


 俺は慌ててレイピアを振るった。エイリアンの大きさは中型にまで大きくなっている。硬くはなっているがスピードは落ちている筈。当たる。

 しかしこちらも予想を外れ、振るわれた青紫の刃は空を切った。


「なっ!」


 あっさりと俺の攻撃を躱したエイリアンは触手を撥条に跳ね飛ぶ。俺の身長を遥かに超える跳躍。天井に張り付いたエイリアンはカサカサと虫のように這い回り、俺の射程圏から逃げていく。その動きは俊敏そのものだ。


「なん、でだっ!」


 急にスピードを増した理不尽さに叫びながら追いかける。研究室にはまだ避難出来ていない研究員も残っている。白井さんもその一人だ。

 責任者である白井さんは部下たちの脱出を指示しながら俺の叫びを聞き、そしてその事実に気付いた。


「あ……音波が!」

「音波? っ、そうか」


 白井さんの視線の先。そこにはエイリアンの動きを封じる超音波を発生させるための装置があった。だが、無惨な姿で。エイリアンが研究室に入るや否や捕食したのは、あの装置だった。そう言えば、耳障りな奇声も聞こえなくなっている。打ち消す必要が無くなったからか。身体を硬直させる音波から解放されたおかげで、スピードが増したのか!


「運の悪い!」


 言いながら、俺は本当にそうか? と疑った。この状況は、悪運によるものか?

 知能はないと思っていた。餌であるバイオ怪人の時は、あまりに間抜けで残酷な捕食シーンを見せつけられた。赤ん坊が玩具を振り回すが如き醜態。故にエイリアンにはちゃんとした知性が無いと思い込んでいた。しかしそれにしては、エイリアンの手際がよすぎる。

 飛び出した小型エイリアンが研究員と機械に別れて飛びかかったのだって、今思えば。俺にとって緊急性があるのは当然人命である研究員だ。故に機械類へ向かった方へと優先度は下がると、そう考えての戦略的行動だったようにも思えてしまう。無論、まだ偶然で片付けられる範疇ではあるのだが。


「くっ!」


 それにしても、すばしっこい! レイピアを何度も振るうが、悉くを避けられる。


「不味いな……!」


 このまま逃げ出されたら、パンデミックが起きる。それだけは避けなければいけないが、こうも攻撃が当たらないと……!


「! やばっ……!」


 そしてついに最悪の方向に事態が向く。

 研究員たちの避難はまだ続いている。それは当然ながら、この部屋から出るという形で。

 だから、開いている。扉が。


「ィィッ!!」


 触手を叩きつけての跳躍。弾丸のように鋭い動きで、入り口へと迫る。研究員たちの表情が恐怖で歪む。そっちも危険だが、外に出られるのもヤバい。


「くそっ!」


 駆ける。が、間に合わない。出られる……!


「ィィ……ィィッ!?」


 しかしあと一歩で外の世界というそのエイリアンの足取りを、見えないものが遮った。

 床に刻まれるのは斬撃。撃ったのは誰か、聞くまでもない。


「狛來!?」


 振り返るとそこには、やはりヤミを従えた狛來。キッと眦を吊り上げエイリアンを睨むその表情には戦う覚悟が生まれている。


「怪我した人たちの避難は、終わりました! ボクもこっちを手伝います!」

「危険だ!」


 俺は止めた。さっきまで研究員を守っていた時とは違う。コイツの敏捷性では、離れていても食い付かれる可能性があった。危険すぎる。


「お前は下がれ。ここは俺がやる!」

「出来ません!」


 だが狛來は首を横に振った。エイリアンの動きをヤミの斬撃で牽制しながら、俺に向け反論する。


「コイツを逃がしたら、被害が出るかもしれない。誰かが悲しむかもしれない。だったら、出来ません。ボクは、誰かを助ける為にここにいるんだから!」

「っ!」


 迫真の言葉は、俺を撃ち抜いた。そうだった。この子は、その信念を貫くために優しい手を振り払ったのだ。

 この少女は、必死に前へ進もうとしているのだ。悲しい過去を抱えながらも。

 だったら、俺がすべきことは――。


「……分かった」


 俺は頷いて、静かにタリスマンを換装する。青紫から緑へ。花が色づいて、ガーベラフォームへと変わる。


「俺がサポートする。トドメと、研究員のガードは――任せたぞ、狛來」

「! ――はいっ!」


 狛來は嬉しそうに頷き、そして表情を引き締めてエイリアンと対峙した。エイリアンはヤミの斬撃を警戒して回避に集中していたが、それも慣れてきたのか動きが再びキレを取り戻し始める。このままでは、反撃を受けてしまうかもしれない。

 だがそうは俺がさせない。


「攻撃を考えなければ、コイツほど強いフォームは無いんだよ」


 蔦が走る。縦横無尽に室内を巡り、エイリアンの退路を塞いでいく。


「ィィッ!?」


 水に落とした絵の具が広がるように、次々と蔦は研究室を埋め尽くしていった。そして蔦は、ついにエイリアンを捕らえる。


「ィィッ、ィィッ!」

「今までよくも逃げ回ってくれたな……」


 ギリギリと締め上げる。そのまま握りつぶせたらよかったんだが、生憎パワーが足りない。蔦の本数を増やすにはスタミナが、溜めた日光が尽きかけている。


「ィィ、ィィィッ!!」

「くっ、暴れるな……!」


 暴れるエイリアンを押さえつけるので精一杯だ。この期に及んで凄まじい膂力。だがもう、動けないのならこのまま……!


「ィィィーーッ!!」

「っ、しまった!?」


 だがしかし、最後っ屁とでも言うべきか。エイリアンは俺の隙を突いて蔦の隙間から触手を大きく伸ばした。その先には、まだ逃げ切れていない研究員が。


「ひぃっ!?」

「うわぁっ!」


 悲鳴を上げ、蹲る研究員たち。恐ろしい打擲に身を固める。しかし待っても痛みは一向に来ない。疑問を覚え、ゆっくりと目を開く。

 そこには庇うようにして立つ、狛來の姿があった。


「――大丈夫ですか?」


 触手を輪切りにして二人を助けた狛來は年相応の声で問いかけた。そして呆然とした研究員が無事な様子を見届けると、再び頼もしい表情でエイリアンに向き直る。

 ――彼女は気付いているだろうか。今自分が助けた相手が、さっき陰口を叩いていた相手だということに。

 多分、気にもしてないだろう。誰隔てなく守る――それは紛れもなく、ヒーローの資質だった。


「ィィィ……!」


 だから俺は今度こそ、一切の動きが出来ないようエイリアンを縛り上げる。彼女とその忠犬に本懐を遂げさせるべく。


「決めろ!」

「はいっ!」


 骨犬のオーラがより一際に大きくなる。紫を纏った黒が陽炎のように立ち上り、炎のように揺らめいた。遠吠えするように顎を上げ――そして一気に振り下ろす。


「――これが!」


 斬撃は相変わらず見えない。だがそれでも感じる程の、圧。不可視の刃が今まで以上の鋭さで、そして圧倒的な数を以て、迫る。

 それは嵐。どこか俺と――そして、エリザにも似た、


「ボクの、メガブラストだ!!」


 無尽の刃が、異星より来たりし醜悪を斬り潰した。






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