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「ィィィーー!!」




「こ、これは一体!?」


 唐突な異変。あり得ない筈の事件。研究室が騒然となる中で、やはりと言うべきかいの一番に行動を起こせたのは俺だった。


「このガラスは!?」

「え、あ、強化ガラスです。ダンプがぶつかっても割れない超硬度な……」

「なら入り口に回る!」


 白井さんからの答えを聞き割るのに苦労しそうだと判断した俺はガラスを破ることを諦め、今襲われている研究員たちが入ったのと同じ入り口へ向かう。その途中で、走りながらタリスマンを取り出して。


「――変身!」


 腰についたベルト、そのバックルに青紫の花を模したタリスマンを装填する。たちまち俺の身体は、葉と花の鎧に覆われていく。


「地に咲く一輪の戦花(いくさばな)!」


 青紫の花が咲き誇るその姿は、今の俺そのもの。


「我が名は、銃士、ジャンシアヌ!」


 高らかにそう叫びつつ、俺はエイリアンのいる部屋へと侵入した。


 中は既に酷い事になっていた。

 研究員は皆倒れ、床に伏しているか壁に寄りかかるかしていた。機材は破壊され滅茶苦茶に散らばっている。そしてそれを為した権化は、部屋の中央で触手を振り回し暴れていた。


「ィィィィィィーーー!!」


 相変わらず甲高く耳障りな声は鳴り響いている。


「くっ、白井さん、この音は!?」


 兜の中で僅かに緩和されているが、あまりにも五月蠅いその正体を白井さんへ問いかける。騒音の中でも辛うじて聞き取ってくれたのか、スピーカー越しにその答えは入ってきた。


『お、恐らく自ら高音を発することでこちらの音波を打ち消しているんです! だから硬直するところを動けるように……』

「なるほど、つまりこの音を止めれば大人しくなる、ってことか」


 コイツが音波を嫌がって暴れているのは明白だが、だからといって音を止めれば更に暴れるだけだ。止める選択肢は無い。であるならアイツの口を塞ぎ、音波をモロに浴びせることが最善策。

 とはいえそれは、困難な道だった。


「っ、近くで見ると余計にデカいな……」


 見上げる程の巨体はガラス越しで見るよりもずっと迫力があった。象を見上げる犬の心境は、こんな感じなんだろうな。

 とはいえ、臆するほどのプレッシャーじゃない。これよりも巨大な相手と、俺は戦ったことがある。

 俺は別のタリスマンを取り出した。


「デカブツにはコイツって決まってるんだよ」


 タリスマンを青紫から白色へ。


「リリィフォーム!」


 装填し直すと、俺の花の色もまた白く変わっていく。小回りの利く基本形態のジェンシャンフォームから、砲撃特化のリリィフォーム。俺の周囲に並ぶようにして、白いマスケット銃が出現する。


「フルファイア!」


 一斉に発砲。凄まじい銃火がエイリアンを襲う。並大抵の生き物や鉄板程度なら蜂の巣に出来る大火力。だが硝煙が晴れたその先の巨体は。


「ィィィーーー!!」


 ほぼ無傷だった。


「ちっ、柔らかい部分ならまだ通りそうだ……が!」


 反撃とばかりに鞭のように振るわれる触手を避けながら、俺は今の砲撃を分析する。銃弾は全くのノーダメージという訳では無い。触手や口の周りといった柔らかい部分には食い込んだり、穴を開けたりしている。丈夫ではあるが通じない訳じゃ無い。

 問題は、フジツボのような甲羅だ。そちらに当たった銃弾は、漏れなく弾かれていた。バイオ怪人を思い出す。アイツが襲い掛かった時も、攻撃はまるで通じていなかった。


「つまり一斉射撃は効果が薄そうだ……と」


 ヒュンという風切り音に、前もって飛び退く。すぐにその場を触手が鞭打つ。エイリアンの攻撃は手当たり次第で、正直言って知能は低い。攻撃を読むこと自体は簡単だ。

 だが……。


「ちっ、触手が多い!」


 すぐに追撃が来る。攻撃自体が単調でも、それを行なう触手は多かった。十本、いや二十本……とにかく咄嗟に数えることが難しい程の触手がうねうねと蠢いて俺を襲う。手数が多い。文字通り。


「! くそっ!」


 その内の一本がどう足掻いても躱せない位置から迫り来る。俺は咄嗟にマスケット銃を向け、迎撃した。弾け飛ぶ触手。が。


「!? 再生した!?」


 その触手は弾けた断面から再生し、元通りの長さに戻ったのだ。見れば、最初に弾丸で与えたダメージも治癒している。恐るべき再生能力だ。これでは傷つけた先から回復してしまう。俺が狙い通りに口を塞いでも、再生されてしまうだろう。


「不味いな……」


 前提が崩された。これはヤバいかもしれない。

 戦いながらチラリと背後を確認する。そこには倒れて動けない研究員。彼らをこの場から助け出すことが第一目標だが、これではそれも難しいかも……。


「ィィーー!!」

「! しまった!」


 そう余所見していたのが悪かったのか。気を逸らしていてもある程度は躱せる自信はあったが、それは予想外だった。まさか動いている俺では無く研究員へ触手を向けるとは。


「ヤバ――」


 手を伸ばす。が、届かない。銃弾は放てない。外れたら研究員に当たる。

 守れない――そんな言葉が脳裏に浮かんだ、その瞬間。


「ヤミ!」


 少女の声が響き、触手は寸断された。たこのぶつ切りのように引き裂かれた触手はボトリと床に落下し、研究員には届かない。

 見えない斬撃。一見超常現象なそれは、俺には誰が放ったのかすぐに分かる。


「狛來!」

「ボクが守ります!」


 目を向けたそこにはいつの間にか部屋に入ってきていた狛來が、犬神ヤミを従えて立っていた。俺を追ってきたのか。


「ヤミならあの触手も、全部迎撃できる!」

「だが……」


 まだ幼い彼女を実戦させるのかという戸惑いが俺を躊躇わせる。だが俺が迷っていてもエイリアンは止まらない。再び触手を暴れさせ、俺含めて周囲をやたらめったらに襲う。そして俺以外へ向かった触手を、狛來操るヤミは全て切り払って見せた。


「大丈夫です。戦えます!」

「……そうか」


 実際、俺一人で研究員たちも守ろうとすれば手が回らない。多少危険でも任せるしかない、か。


「なら防御に専念しろ! 奴は……俺が叩く!」

「はい!」


 小気味よい狛來の返事を背に、俺はタリスマンをチェンジさせエイリアンに迫る。


「銃弾が駄目ならこっちだ!」


 白から、桃色へ。

 花の色は移り変わり、俺はライラックフォームへと変化する。


「はぁぁ!」


 俺が裂帛の気合いと共にエイリアンへ突き出した右手には、桃色の花弁が集まり特異な形状の武器を作り出していた。それは円形の盾と中世の馬上槍を組み合わせた、盾槍だ。花や蕾をあしらったそれを俺は振るい、エイリアンへ突き込んでいく。


「おらおらぁ!」

「ィッィィーー!」


 柔らかい部分目掛けて突き刺す度、幾つもの口から漏れる怪音が悲鳴のようにブレる。ライラックフォームへの膂力で深く突き入れ穴を広げれば、その分だけ再生も遅い。少なくとも銃撃するよりは有効なダメージを与えられていた。

 だがエイリアン側もただやられるだけじゃない。至近距離の俺を打ちのめさんと触手を容赦無く、何度も叩きつけてくる。閉鎖された空間に幾度となく破裂音が鳴り響く。


「竜胆さん!」


 狛來からの悲鳴めいた声が聞こえる。だが、心配ない。ライラックフォームは怪力で、硬い。


「おおおぉぉ!!」


 痛みを堪えることで防御を捨て、攻撃に全てを割り振った俺の連撃はエイリアンへ次々と穴を開けていった。再生はするが、それが治りきるより早く次の穴を開ける。それを繰り返し、エイリアンを穴だらけにしていく。

 やがて、開けた穴から液体が漏れ出した。黄色い膿めいた、粘性のある体液。恐らくは血に近い何か。再生するコイツにダメージが入っているという証拠だ。


「よし!」


 攻撃が通っているという確証を得た俺はますます攻撃を加えていく。触手の鞭打ちによる痛みも無視できなくなってきたが、あと少しと思えば耐えられる。


「ィィ……ィ……」


 合唱のように叫んでいた声も小さくなる。俺は勝機とみて、ベルトのタリスマンを取り外し盾槍へと装填した。


「喰らえ!」


 槍の穂先を、今までで一番深くまで突き刺した。根元まで深々と入り込む盾槍。そして俺は漲った桃色の光を、解放する。


「ライラック・メガブラスト!」


 直後、エイリアンの身体が膨らみ、弾けた。


「ィィィーー!!」


 弾けた皮膚の下。そしていくつも開いた穴から風が噴き出る。それは暴風だ。

 桃色の花弁を纏った竜巻。俺の必殺技であるメガブラストを、コイツの中で炸裂させた。ビルに穴を開ける程度は訳無い一撃だ。幾重にも傷ついたコイツに、堪える術は無い。


「ィィィーーーャァァァーーーッ!!!」


 断末魔の雄叫び。暴風で膨れ上がりながらエイリアンは劈くように叫び――そして、爆発した。

 水風船が破裂するかのような、汚らしい爆発だった。体液が飛び散り辺り一帯を汚す。特に、爆心地にいた俺を。


「うぇ……」


 膿を思わせる黄色い液体を頭から被ってしまった。鎧を着ているとはいえ気持ち悪い。


「シャワー借りよう……さて」


 取り合えず、これで一件落着な筈だ。大事な実験体は屠殺してしまったが、この状況では仕方の無いことだ。今は怪我人の手当を――。


「竜胆さん!」

「あ?」


 そう、振り返ろうとして。

 指差す狛來の緊迫した表情を目撃する。


「まだ終わって無いです!」

「何だって!?」


 いや、しかし爆発した筈だ。中身からメガブラストを受けて、無事でいられる訳が……!

 そう思いながら、爆心地を注視する。黄色い体液と肉片が飛び散ったその中央部。そこには、まだ蠢いている存在があった。

 しかも、


「ィィィーー!!」

「ィィィーー!!」

「ィィィーー!!」


「な……分裂!?」


 三体も。






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