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「……知らない物は、分かろうとしなければならない」




「……はぁ、思ってた数倍は厄介な案件だったなぁ」


 白井さんの案内の元でエイリアンを見た後、俺は研究所内に作られた休憩室でベンチに腰掛けて溜息をついていた。隣には勿論狛來もいる。彼女もまた、浮かない表情だ。


「……ヒーローって、あんな怖いこともしなきゃいけないんですね」

「いやぁ、流石に今回が異常だけどな」


 とはいえ、無くは無い。常人には任せられない危険な仕事にこそ、超人であるヒーローの出番があると言える。


「ヒーローならどうにか出来るという信頼あっての依頼だからな。一応、経験はあるし。何とかするさ」


 エイリアンは巨大で凶暴だったが、自分の身の丈より巨大な敵を相手どった経験は他にもある。バイドローンとの最終決戦、巨大化したシンカーとの戦いだ。

 あの時はエリザやビートショットが一緒だったが、エイリアンの優に二倍はある敵だった。そう思えば、エイリアンの方がまだマシというものである。

 対処は可能だ。

 しかしそう話しても、狛來の顔はまだ晴れない。


「……やっぱり、怖いか?」

「え、いえ、その」


 俺の問いかけに狛來はしばし惑って、やがて意を決したように答える。


「……あのエイリアンは、怪人と何が違うのかな、って」

「……あぁ」


 ポツリと呟いたのは疑問だった。

 エイリアンは恐ろしい存在だった。凶暴で、心など感じられず、命を捕食する餌としか捉えていない化け物だ。

 しかし守るべき対象だ。俺たち、ヒーローが。


「あんな奴を守っても、誰かが助かるとは思えないんです……」


 暗い顔でそう話す狛來は、自分のしていることが正しいのか判別がつかないようだった。

 狛來の話はもっともだ。確かにあの化け物を世に放ったところで、犠牲者を作るだけの結果になるだろう。生かしておいたところで、とても正義の味方になるとも思えない。そう考えると守ることが無意味に見えてくる。狛來はそう感じて、迷っているのだろう。

 だが俺の考えは、少しだけ違う。


「確かにアイツ自身が誰かを助ける……ことは無いのかもしれない」

「だったら……」

「でも分からない物を見て見ぬ振りをすることは違う」


 エイリアンは恐ろしい存在だ。だがそれを恐ろしいからといってそのまま見なかったことにしてしまえば、更に恐ろしいことになる。


「あのエイリアンと同型の奴らが襲来して、それを普通の手段では倒せないとしたら? そのまま為す術無く、何人も犠牲になってしまうとしたら?」

「! それは……」


 狛來がハッと息を呑む。そう、あのエイリアンは復元された存在。だったらまだ生きている個体がいるのかもしれない。そしてあの凶暴性そのままに人類を襲ったら? そんな時、対処法がなかったら? ……多くの犠牲者が出てしまうだろう。

 だとしたら、それを見過ごすのは悪だ。


「だから、俺たちは知らない物は分かろうとしなければならない。あの人たちがやっているのはそういうことだ。……まぁ、いささか行き過ぎている面はあるのかもしれないがな」


 狂気的な光を思い出しそう締めくくってしまう。仕方ないだろ、ちょっと怖かったんだから。


「……知らない物は、分かろうとしなければならない」


 俺の言葉を受けて狛來は小さく反芻する。自分と重ねているのだろうか。

 そうして話していると、休憩室の扉が開かれ白井さんが入室してきた。


「どうもどうも、お待たせしました」

「いえ。それで、実験の準備は出来ましたか?」

「それは、はい。いつでも可能です。護衛であるお二人が良ければですが」

「勿論です。狛來、大丈夫だな?」

「あ、はい! 行けます!」

「よし、良い返事だ」


 一応のやる気は取り戻したのか。ハッキリとしたその返事を聞き取った俺は白井さんの先導に付いていく。狛來も一緒に。

 辿り着いたのは、同じ部屋。


「では実験の概要を説明します」


 室内には先程よりも研究員が増えていた。何やら機材も持ち込まれている。俺みたいな素人には分からない物だらけだ。


「今回行なうのは実験体の鎮圧処置。体内に機械を埋め込むことで実験体の動きをコントロール可能にします」

「出来るのか? あんな暴れっぷりで」

「手はあります」


 そう言うと白井さんは、機械の一つを指差した。それは四角い巨大な機械で、俺には電子アンプのようにも見える。


「音波発生装置です。普通では扱えない音域の特殊な音波を流すことが出来ます」

「ふむ。それが?」

「アレで実験体が嫌う音波を流すのです。例えば人間で言うと、黒板を引っ掻く音を大音量で掻き鳴らすようなものでしょうか」

「それはキツいな……」


 実際の場面を想像し苦い顔になる。そんなことをされたら堪ったものじゃない。


「だがそれじゃ、却って滅茶苦茶に暴れたりするんじゃないか?」

「いえ、実験体の習性は確認済みです。その場合、実験体は硬直し動かなくなります」

「そうなのか」


 ならば安心……か? いや確実とは言い切れないからこそ俺たちがいるのか。


「そして実験体が動けなくなっている間に実験体を切開し、制御装置を中へ埋め込みます。そうすれば今後、実験体が暴走し我々の手を離れるような事態になってもコントロールすることが出来るようになるのです」


 そう言って白井さんが指し示したのは人間の胴ほどはある機械だった。アレを埋め込むのか……まぁ、エイリアンの巨大さを考えればそのくらいは必要か。


「ここまでの概要は、よろしいですか?」

「あぁ、把握した」


 白井さんの質問に俺は頷く。問題は無い。ようはその仮定で万が一が起こった際、俺たちが戦えばいいのだ。動けなくなっている実験体を確保しようとする敵勢力。あるいは、エイリアンか。戦う相手はどちらか分からないが、とにかくそれが俺たちの今日の仕事だ。


「では実験を開始します」


 そう宣言し、研究員たちは動き始めた。接続した機械をそれぞれに機械を操作していく。特に音波発生装置は振るって稼働している。

 やがて、ガラス窓の向こうのエイリアンに変化が起こった。見るからにギクリと身体を硬直させ、苦しそうに身動ぎ震えているのだ。音波が正常に流れている証左だろう。俺たちには聞き取れない音域なのか、こちらには一切聞こえないが。


「よし、第一段階は成功です」


 嬉しそうに白井さんが呟く。そして、ガラス窓の向こうの壁が開かれた。

 さっきはバイオ怪人が放たれた場所から、今度は機械をワゴンで牽いた研究員たちが現われる。中には剣と見紛う程の巨大なメスを握っている者もいた。アレでエイリアンの身体を切開するつもりなのだろう。

 研究員たちが近づいていく。その間、エイリアンは動かない。先程は嬉々としてバイオ怪人に襲い掛かったというのに。音波の影響は如実に表れていると言える。


「よし、そのまま……」


 息を呑む気配が聞こえる中、研究員の一人がついにメスを近づけ、そしてその刃先を……、


「ィィィィィィィィーーー!!!」

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「なんだっ!?」


 突如として、耳障りな高音が鳴り響いた。音の発生源は、エイリアン。各処についた口から放たれているようだ。


「悲鳴か?」

「いえ、今まで実験体が声を発したことなど……!」


 向こう側の研究員を驚き、動揺しているようだ。メスを握ったままどうするべきか戸惑っている。一度中止して、戻るべきか。それを相談しようと実験体から目を離した瞬間だった。

 鳴り止まない甲高い音の中で、空気を裂く音が響いた。


「!? まずいっ!」


 俺がそう叫んだ時にはもう、遅い。

 全員の視界には、鞭のようにしなった触手が研究員を吹き飛ばす姿が映っていた。






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