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『グロロ……教えてやろう。神に逆らうということの愚かさを』




「ケー!」


 巨大鶏が再び襲い来る。また同じように足を振り上げての蹴撃。大きさは違えど所詮は鶏、攻撃手段は限られる。


「ぐっ!」


 迫りくる鋭い爪を、私はIベイオネットで受け止める。重い衝撃が左腕にのし掛かるが、変化はそれだけに留まらない。蹴りを受け止めた部分から機械の槍がドロリと溶け出す。蹴りの威力に耐えきれず、Iベイオネットがインクに戻ってしまったのだ。そう、これがインク武器の弱点の一つ。耐久力が本物に比べ遥かに劣る。

 Iベイオネットを失った私だが只では転ばない。防御には成功したのだから完全にマイナスでは無い。得物の犠牲を無駄にはしないためにも巨大鶏の足元から急いで離脱する。そして空いた手をリュックサックに伸ばした。


「やれやれ。低コストとはいえ数に限りはあるのだがね……」


 そう言いながら私が取り出したのは更なる小瓶。義手の握力で無理矢理割砕き、その中身のインクを武器に変える。現われたのは先程壊されたばかりの武器、Iベイオネットだ。

 インク武器の耐久力が低いことは予め分かっていたこと。その為の対応策が、とにかく数を用意することだった。リュックサックにはいっぱいの小瓶が、その中には同じ形状をしたインク武器がいくつも詰まっている。スペアはいくらでもあるのだ。

 ただこのペースで消費しているとすぐに底を尽きるから……早めに状況を打破したいところだ。


「くっ!」


 すぐ横に蹴り足が着弾し、コンクリートの地面が爆発したように捲れ上がった。小さな瓦礫が私の身体を礫に打つ。打身程度にしかならないが、これも蓄積すれば馬鹿にならないダメージになる。


「紫電!」


 Iベイオネットの穂先から内蔵機構によって増幅された雷撃が巨大鶏を襲う。人間なら感電死必須なそれを、しかし巨大鶏は鶏胸肉で受けても平然としていた。効いていない……というよりは、出力が足りていないか。低周波装置で人間が感電死しないのと同じ。ダメージを与えるにはやはり。


「強烈な一撃が必要ってことか……!」


 確信を深めつつ、私は渾身の一発を叩き込む隙を探る。巨大鶏の動きは獣が暴れている姿その物で、隙だらけではあるが、その巨躯故に近づくことは困難だった。一歩間違えれば、身体を揺らしただけで巻き込まれてしまう。それに再生する表皮を私のパワーで貫けるかどうかも不安だった。

 ならば遠距離で、とは思うが、それを許す相手かどうか……。

 ん、巨大鶏が身を屈めている?


「まずっ!」


 巨大鶏が何をしようとしているのか気付いた私は、咄嗟にその場から飛び退いた。その瞬間、巨大鶏の巨躯が撥条のように跳ねた。


「ケケー!」

「っ、くぅ!」


 巨大鶏は大きく跳躍し、落下の勢いをつけて跳び蹴ってきた。距離を取り、警戒していたため回避が間に合う。私がいた場所が破壊痕を通り越し、小規模なクレーターとなる。今までとは比にならない威力だ。

 鶏は飛ぶことが苦手な反面、跳躍力がある。巨大鶏も、その性質を漏れなく持っているらしい。

 これでは距離を開けていても一瞬で詰められてしまう。


「となるとやはり接近戦か。しかし私じゃパワーが……待てよ?」


 ふと思いつく。そうだ、例え私にパワーが無くともいいじゃないか。

 そうと決まれば。私は下準備に入る。再び距離を離し、Iベイオネットの穂先を巨大鶏へ向けた。


「ホラホラ、来いよ!」


 トリガーを引き、銃弾をばらまく。弾丸は羽毛に着弾し突き刺さるが、その端から再生されてしまう。それでいい。挑発にさえなれば。


「ケー!!」


 案の定、巨大鶏は怒りを露わにけたたましい鳴き声を上げた。そして先と同じように、跳躍するために身を屈める。強力な跳び蹴りを放つつもりだ。まともに当たってしまえば私は床の染みになる……。

 だから、紙一重だ。


「来い、来い……」


 巨大鶏が足に力を溜める間、私も電力をチャージする。決着は一瞬でつくだろう。

 そして勝負の時が訪れる。


「ケッケー!!」


 白い巨体がゴム鞠の如く跳ね上がった。それはさながらシュートされたサッカーボールのように、私目掛け一直線に跳ね飛んでくる。鋭い爪を持つ四本足が迫りくる。

 対して私は逃げない。逃げずに、機械槍の穂先を定めた。

 動かない私と、飛んできた巨大鶏の距離が零になる、瞬間。


「はぁっ!!」


 私は少し、ほんの少しだけ身を逸らした。それで鶏の爪先は、私の数㎝隣を行き過ぎる。だがそれでも、完全に躱し切れていない。このままでは巨大鶏の巨躯に押し潰される。

 だから私は、Iベイオネットを突き出した。


「ぜあああああぁぁっ!!」


 トリガーを引く。銃弾を発射するのとは別の、もう一つのトリガー。それはかつて竜兄を列車上から叩き落とした、最後の手段。

 パイルバンカー。機構が作動し、穂先が杭打ち機となって撃ち出された。


「ケゲー!?」


 槍は羽毛へ突き刺さり、その中へ沈んでいく。再生よりも速く、中枢へ貫く。カウンターだ。

 パイルバンカー単体ではパワーが足りなかっただろう。だから巨大鶏の跳躍を利用した。私の力が足りなければ、相手の力を利用すればいい。その発想が功を奏し、槍は深く深くへ突き刺さる。

 が……届かない。手応えが無い。羽毛が分厚すぎて、中枢まで槍が届かない。


「だったら!」


 私は発電機構を唸らせ、全身に電気を漲らせる。この距離、そして内部から。ヒーローだろうが魔使だろうが、耐えられまい。


紫電銃槍超放電(ランス・メガブラスト)!!」


 Iベイオネットの機構も利用した、全力を越えた120%の一撃。槍を伝って紫電が迸り、巨大鶏を中から焼き尽くす。


「コゲーッ!!」


 悲鳴を上げて仰け反る巨大鶏。その白い身体が発火し燃え出すと同時に、私の手中の持ち手がドロリと溶け出した。


「っ!」


 メガブラストに耐えきれず、複製のIベイオネットが限界を迎えたのだ。深々と突き刺さったまま、インクへと溶けていく。私は仕方なく手を離した。

 さて……どうなるか。

 これで倒せていれば私の勝ち。耐えきられていたらハッキリ言って私の負けだ。もう一度同じように出来る自信は無い。警戒もされるだろう。


 果たして巨大鶏は……起き上がることは無かった。


「……ふぅー」


 安心して溜息を出す私の前で、焼ける羽毛の中から倒れ伏したコンバードが姿を現す。生きている気配はあるが、完全に気絶しているようだ。動く様子は無い。一先ずは、片付いたと見ていいだろう。


「……コンバード……」


 伏して動かない彼を見ているとなんとも言えない気分になる。初めて遭遇した時から彼は魔使に操られ、ヒーローをさせられていた。しかし二回目の邂逅の時には迷っていた。狛來ちゃんを追い詰めることが正しいのか、何が本当の正義なのか。もしかしたらそこに垣間見えたのが、本来のコンバード……その役を被せられていた、彼本人の人格なのかもしれない。

 だが、今は他に優先すべき物がある。


『グロロロ……』


 遠雷のような笑い声が響く。振り返れば、首魁が何一つ変わらぬ姿でそこにあった。


「クシャナヒコ……」


 私たちを睥睨するその表情は、変化ない。続々と自陣の戦力が削られているにも関わらずに、だ。

 まるでゲームの駒を眺めているかのようなその視線に、ゾッとする。


「……狛來ちゃんを解放しろ」

『ほう?』

「お前の部下は倒れつつある。これ以上やってもお前が不利になっていくだけだぞ」


 私の告げた言葉にクシャナヒコは意外そうに目を丸くした。

 事実、クシャナヒコの配下たちは私の手勢が抑え込んでいる。私とクシャナヒコが対峙出来ているのが何よりの証拠だ。


「狛來ちゃんを解き放ち、もう狙わないと約束するなら命は考えてやってもいい」


 元々私たちの目的は狛來ちゃんの救出だ。彼女を保護することが叶うなら、正直クシャナヒコはどうでもいい。ユナイト・ガード的には困るのだろうが、私たち悪の組織が知ったことでは無いのだ。


『グ、グロロロ……』

「? 何を笑う?」


 が、私の提案に可笑しそうにクシャナヒコは笑った。


『笑うに決まっておろう? 何故なら……』


 クシャナヒコが立ち上がる。狛來ちゃんを拘束している長毛が分離し、彼女ごと壁に貼り付けにする。奴の毛は分離しても効力を発揮するようだ。


『我がいる』


 四肢を踏みしめゆらりと立つその姿は、言い知れない威迫に満ちていた。燐光を纏っているような気さえする。思わず生唾を飲み込んだ。

 ……隔絶した存在を前にしていると、今更にながらに実感する。そうか、こいつは……。


『グロロ……教えてやろう。神に逆らうということの愚かさを』


 牙を剥く。クシャナヒコが戦闘態勢に入る。

 そしてその次の瞬間には、私の眼前へ鋭い爪が迫っていた。






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