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「さて、形勢逆転だと、思うけど?」




「試し斬りといこうかぁ!!」


 私は左手でIベイオネット、右手で光忠を握り、コンバードの前へ躍り出た。困惑していた筈の新ヒーローはしかし、即座に短剣を構えて反応する。流石の反射だ。Iベイオネットの突き込みを二本の刃で受け止められてしまう。だが、武器の質量的に止められるのはそこまで。

 ヒィィンという空気を冷ややかに裂く音が響き、コンバードの胸元を美しい刃紋を浮かべた刃が切り裂いた。浅い、だが切れ味は充分であることを確かめられたので試し斬りとしては満点だ。


「うん、いいね。ソックリそのままだ」


 刃圏から外に出るために大きく距離を開けたコンバードを余所に、私は黒い日本刀をしげしげと眺めた。握り心地も切れ味も、完全再現されている。真っ黒な見た目はともかくそれ以外は本物とほぼ同一だ。Iベイオネットも同様だ。

 リュックサックから取り出したインクから生み出したこれらの武器は、美月ちゃんの、イザヤの力による物だ。

 イザヤの力は、記憶から映し身を作り出すことが出来る。その能力は過去の本人と全く同じだ。そこでピンと来たのだ。それならば、過去に失った装備も作れるんじゃ無いか、と。

 結果は大成功。しかも一時的にインクに戻して持ち運びできるというオマケ付きだ。故にこそ、私は再現した名刀光忠を久々に振るうことができている。


「しかも壊してもお咎め無しだ。至れり尽くせりとはまさにこのことだね」


 始末書の心配も無い。

 私は上機嫌に光忠の刀身でコンバードの逆撃を受け止めた。


「おっと、攻めが単調になってきたね」


 刀で受け止め、Iベイオネットで反撃する。その穂先をコンバードは大きく躱した。大振りな動きだ。機械の義手で辛うじて振れる巨大な質量はコンバードとしても御免らしく、明らかに警戒している。

 だがその動きは、警戒しすぎているが故隙も大きい。


「はぁ!」


 私は発電機関を唸らせ、全方位に電撃を発した。Iベイオネットの機構を借りた電流はパワーアップしている。今なら全方位に撃っても問題ない。波打つような雷がコンバードを打ち据え、白いスーツを纏った身体を痙攣させた。

 足を止めた。そのまま畳みかける。まずは光忠での切り込み。横から掬い上げるような一撃。これは短剣一本で受け止められる。電撃の痺れは残っている筈だがまだまだ機敏な動きだ。ヒーローの耐久力は並みでは無い。

 だが無限でもない。続くIベイオネットの豪快な振り下ろし。これをコンバードは残るもう一本の短剣で止めるが、質量の差に押し切られ、ガードを崩される。槍の穂先は短剣を弾き飛ばし肩口を切り裂いた。


「!!」

「よしっ!」


 攻撃が通じるようになってきた! やはりコンバードで一番厄介なのは遠距離攻撃に徹せられることだ。あの羽毛のマシンガンを前にして一度防御に回ると、切り返すのに苦労する。だが今のように近距離戦に持ち込めば、かなり戦いようがある。


「さて、形勢逆転だと、思うけど?」


 向こうは短剣一本。こちらは巨大な機械槍と日本刀。得物だけなら、確かにこちらが有利だと言える。

 だがやはり、そこはヒーロー。決して油断は出来ない。

 案の定、コンバードは新たな戦術に出た。


「! 飛ぶのか」


 羽毛を広げ、コンバードは飛び上がった。飛べることは知っている。だが限られた地下空間でそれを選ぶということに私は驚愕した。広いとはいえ室内は室内だ。自由に飛行しながら戦うのは難しい筈。

 だが狙いが分からず困惑する私の前で、コンバードは更なる動きを見せた。

 逆立った羽毛が更に盛り上がり、増えていく。それ自体はいい。あの羽根が無尽蔵なことは分かっていた。だが、様子がおかしい。止め処ない。


「おいおい……」


 羽毛は遂にコンバードの全身を覆った。しかもまだ止まらない。モコモコとした塊はコンバードをすっぽりと包んで二回りほど大きくなる。すると、何か形を取り始めた。翼が、足が、首が出来上がっていく。


「これは……!」

「コケー!!」


 目の前で出来上がったのは……巨大な鶏だった。見上げる程に大きな雄鶏。羽毛で出来ている筈なのに鶏冠は赤く染まり、足先の爪も硬質だ。恐らくは魔使の力……いやもしかしたら。


「本体、なのか!?」


 その可能性は大いにある。クシャナヒコの配下である魔使はコンバードたちに取り憑いているだけなのだから、本来の姿は別にある筈だ。追い込まれてその正体を現した、というのは如何にもありそうな話だった。

 現に巨大鶏は、機械のようだったコンバードとは異なり激情を露わにして私に襲いかかってきた。嘴を開いて耳障りな鳴き声を上げ、鋭利な爪のついた足を振り上げた。


「ケー!!」

「くっ」


 迫る鳥足を転がるように躱す。勢い余った蹴撃は床を穿ち、鶏その物な四本指の足跡を刻んだ。絵面は間抜けだが、威力は極めてシリアスだ。


「ケ、コケケッ!」


 巨大鶏の攻撃は単調で、躱すことは難しくない。だが羽毛の塊とは思えない程の怪力と質量は、一撃が当たっただけでも戦闘不能になる威力がある。ぺしゃんこになってしまう、とこちらも間抜けな表現だが実際には凄惨なことになるだろう。プレッシャーで冷や汗が止まらない。


「こ、のぉ!」


 転がって巨大鶏の足元に潜り込んで私は光忠で残る足を切りつけた。枯れ木のように見える細い足も全体と比べればという話で、街路樹の幹程度の太さはあった。それでも名刀である光忠なら、両断出来る筈だったが……。


「!? 治る!?」


 切り込みは入った。刀身が食い込み半ばまで両断する。だがそこで止められてしまった上、刃は押し返された。内側から盛り上がった羽毛が、足を治しているのだ。


「再生するのか。不味いな……」

「ケー!」


 持ち直した巨大鶏の地団駄を踏むような攻撃を足元から逃げ出して回避する。その間も私はどうやって倒すかと思案する。これだけの大きさがある相手で、しかも生半可な攻撃じゃすぐ再生されて無意味になってしまう。

 と、なれば。


「中枢、だな。遺跡の時のように……」


 私はシンカーとの戦いを思い出し、重要部の破壊が最適だと判断した。

 バイドローンの幹部、シンカー。紆余曲折の果てに私たちと敵対した怪人。奴は自前のキメラ怪人たちを吸収することで巨大な肉体を得ることが出来た。しかも多少の傷は更にキメラ怪人を取り入れることで補完する。そのまま削り合いのイタチごっこに応じていたら、物量で押し切られていただろう。

 ソイツをどうにか倒すことが出来たのは、協力した竜兄の火力で一気に中枢部を破壊したからだ。つまり巨大化の中心になっている……、


「コンバードを、倒す!」


 巨大鶏は羽毛で構成されているようだ。ならばそれを生み出しているコンバードさえ倒せば、もう再生はしない筈。

 方針を決めた私は、改めて白い巨躯を見上げた。


「ケケー!」


 巨大鶏は獣らしい獰猛な表情で私を見下ろしている。コンバードの時以上に、話の通じなさそうな面構えだ。いっそ分かりやすくすらある。

 シンカーの時とは違い、傍に強力なヒーローはいない。

 でも出来る筈だ。私だってあの時とは違うのだから。






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