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「ビックリしたか? ならもっとビックリさせてやるさ」




「はぁっ!!」


 真っ先に動いたのはキノエだった。手で印を組み、意識を集中する。何か術を使うつもりのようだ。その矛先は、縛られている狛來ちゃんに向けられている。


「させるか、キキィーッ!!」


 それを見たミエザルが止めるべく跳躍する。だが目の前に現われた黒い影に空中でインターセプトされた。

 イザヤの生み出したコールスローの複製だ。


「邪魔だ!」


 ミエザルの手刀一閃。特別な防御手段を持たないコールスローはそれを間近で受け、首を断たれてしまう。だがインクに戻るより早く、最後の力で手の中に残していた道具を起動させる。

 それは強烈な閃光を伴って炸裂した。


「!? ギギッ!?」


 閃光弾だ。膨大な光量を間近で見てしまったミエザルは耐えきれず地面に落下する。対する私たちはコールスローの身体が盾となったおかげで無傷だ。光の被害は向こう側だけ。

 その好機を生かし、キノエが術を完成させた。


「オン・ラン・ソワカ!!」


 キノエの掌が輝き、光の球を発射した。光球は狛來ちゃんへと着弾する。が、光は狛來ちゃんの身体を焼くこと無く広がって、その身体を優しく包み込んだ。心なしか狛來ちゃんの苦しげな呼吸が少し安定する。


「クシャナヒコの浸食をちぃとばかし弱めた。だが左程長くは持たねぇぞ」

「上等!」


 頷いたヘルガーが飛び出す。その眼前にはウォートホグが立ち塞がった。奇しくも先の戦いで抑えられてしまった仇敵相手に、ヘルガーは凄絶な笑みを浮かべる。


「丁度良い、実戦テストだ!」


 手にしたアタッシュケースをヘルガーは開いた。中から取り出されたのは重厚な機械を埋め込んだガントレットだった。ケースから飛び出したそれは自動的にヘルガーの両腕に取りつき装着される。

 そして機械の腕を装備したまま、ウォートホグとやはり同じようにがっぷり四つ手で組み合う。


「力比べに――悪いが付き合わねぇよ!!」


 そう叫ぶとヘルガーのガントレットが火花を散らした。いや、あれはスパーク……紫電だ。


「喰らえよ、カンダチmkⅢ!!」


 瞬間、ヘルガーの両腕から雷が迸った。電撃は腕を伝ってウォートホグを襲う。


「ブッ……ガッ……!?」


 意思を奪われていても痛みを無視して無限に闘える訳じゃ無い。感電したウォートホグは痙攣するとその場に倒れ伏す。身体からは焦げたような匂いが立ち上っていた。

 まずは一人。それにしても……カンダチmkⅢか。私の発電機関の改良型が完成したんだな。その使い手が私のカンダチmkⅡの最初の餌食であるヘルガーというのは、何というか、皮肉だ。


「よぉし! 次はどいつだ!」


 勢いづいたヘルガーは次の相手を求める。タイガーマイトが雷の篭手を警戒しながら立ちはだかるのを見て、私はヘルガーから視線を逸らした。アイツはもう大丈夫そうだ。

 新たに開戦したのは美月ちゃん&イザヤVSパイソンだ。既にインクから生み出した兵士が足止めしている。だが新ヒーロー相手には単なる壁にしかならない。

 悪いことに、そこへ更にバニーホップが参戦した。雑兵たちが蹴散らされる。


「……私もね、ただエリザさんに着いてきただけじゃないのよ」


 だが美月ちゃんはそれを物ともしなかった。新たに兵隊を生産しつつ、己の中から更なる複製を生み出す。


「ムカついているのよ。はやてを叩きのめしたこと。かつて自分がやったこととは言え、いや――だからこそ、ね」


 かつて美月ちゃんはイザヤの力ではやての中からIF存在のはやてを生み出した。それは悪辣なる存在だった。しかし今は違う。

 彼女の記憶から新たに生み出されたはやては、美月ちゃんが仲間となったからこそ現われた。

 黒い翼を広げる魔法少女は、美月ちゃんを護る守護天使のように寄り添う。


「リベンジさせてもらうわ。呵責があるとは思わないことね!」


 魔法弾の嵐が二人の新ヒーローへ降り注ぐ。防戦一方になった所を更に兵隊たちの一斉射撃で追い打ちする。言葉通り一切の容赦が無い戦いっぷりだ。しかも美月ちゃん自身はまた別の複製を用意している。

 相変わらず恐ろしい戦力だ。今この中じゃキノエとどちらが勝るか。少なくとも最強が私じゃ無いことだけは確かだ。


 味方は全員奮戦している。さて、私も働かなきゃな。


「で……私の相手は君か、コンバード」

「………」


 私の前に現われたのは白い羽根を蓄えたヒーロー、因縁のコンバードだ。

 最初に出会った時の生意気で攻撃的な感情も、今は無い。あの時はムカついたが、こうなると哀れだ。結局コイツは正義のヒーローでは無く、ただの駒だった。


「義理がある訳ではないが……その束縛から解放してやろう」


 私はサーベルを構え、切り込んだ。特に工夫の無い斬り下ろし。コンバードは後ろにジャンプして躱し、羽を逆立てた。そして私目掛けてマシンガンのように殺到する羽根の嵐。


「それは、流石に読んでいた!」


 発電機関を励起し、電磁シールドを展開する。コンバードの羽根はこれで攻略出来ると実証済みだ。


「………」


 コンバードはすぐに羽根での斉射を止めた。この状態では千日手になると分かっているからだ。白い身は翻り、私へ向かって一直線に迫りくる。迎え撃つ為、私も防御を解く。


「せやぁ!」


 雷撃。それこそ紫電の速さで迸る稲妻をコンバードは身を捻って躱す。常人を超えた身体能力で無理矢理行えるからこその芸当だ。そしてそのまま私と克ち合った。防御のために突き出したサーベルと短剣に仕立てられた羽根で鍔迫り合う。


「くっ……」


 力はやはり、向こうの方が上だ。すぐに押され出す。このまま続ければ不利と見て、私は見切りをつけ刃を受け流した。ギャリンと甲高い音が地下室に反響し、私とコンバードはすれ違う。


「さて……」


 再び対峙して、私は考えを巡らせる。

 今までの私の手札でコンバードに勝つことは難しい。身体能力は向こうが上で、さして剣技で勝る訳でもなし。電流は効果が無くも無いが、痛覚がないので失神させるまでやらないと意味が無い。ヘルガーのカンダチmkⅢは私の改良型だ。出力では敵わない……。

 であるなら、別の手だ。


「可能な限り隠して起きたかったんだけどね」


 出来るならクシャナヒコまでの隠し球にしておきたかった。今回切れる切り札は左程多くない。


 コンバードが再び迫る。両手には羽根の短剣を握っている。得物は小さいなれどあの膂力で斬りつけられれば只では済まない。

 だから私は右手でサーベルを、そして――


「ッ!?」


 コンバードから驚いた気配が伝わってくる。感情を失ってはいても戦闘しているのだから、ある程度の自己判断機能は残されているのだろう。だから予想外の応手に混乱した。

 私の左手、義手には巨大な大槍が握られていたのだから。


「ビックリしたか? ならもっとビックリさせてやるさ」


 機械式の大槍で短剣を弾き返し、返す刀で穂先を突き出す。漆黒の先端、そこからは白い一条の光が飛び出した。光は真っ直ぐにコンバードの胸を穿ち、スーツを貫きはしないもののその身を仰け反らせる。


「ッ……!?」

「私の事、勉強しなかったかな? ユナイト・ガードの前でなら、使ったことがあるのだが」


 まだ困惑の気配を残すコンバードに対し、私はこれ見よがしに大槍を振るってみせる。それはかつて私がシルヴァーエクスプレスで使った、様々な機構を凝らした機械式の大槍、Iベイオネットだった。

 しかし知っていたとして、コンバードの疑問は晴れないだろう。何故なら彼の困惑の元は武器その物では無く、『どこから現われたのか』なのだから。


 確かに私はサーベルの他にはリュックサックくらいしか背負っていない。如何なローゼンクロイツの技術といえどこんな小さな所に身の丈ほどもある大槍をしまっておける訳も無い。ではどこから出したのかと言えば、それはやはりリュックサックからだ。

 ただし、そのままの形で仕舞っていた訳では無い。


「さて……」


 私はサーベルを収め、空いた手をリュックサックに突っ込んだ。警戒するコンバードの目の前に現われたのは――小瓶だった。

 掌の中に収まる程度の小さな瓶。ガラスの中には黒い液体が詰まっている。それだけだ。何の変哲も無い。この液体も、成分自体は特におかしくは無い。

 ただの、インクだ。


「お前らは、確か記憶を書き換えようとしたな」


 小瓶のコルク栓を抜き、中身を振りまく。それは空中にバラ撒かれると同時に広がって形を作り、私の手に収まった。黒い刀身に、年季の入った鍔。久しぶりの握り心地に心が高ぶる。


「だが知っておけ、記憶こそが、力になることもあるとなぁ!」


 かつての愛刀、漆黒の光忠を握り締め私は吠える。

 今、黒星が牙を剥く。






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