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「聞いていたな。この四人で地下に行く」




 ユナイト・ガードのいくつかある地域支部、その性質は、消防署に近い。

 住民からの通報に限り無く迅速に急行する必要があるからだ。故にその立地は、自然と住宅街にほど近い場所になる。

 国道に面した道路沿いに建つその建造物に到着した私は、装甲トラックから降りて素早く指示を飛ばす。


「トラックを使って道を封鎖しろ。事故を装って通報を遅らせるのを忘れるな。突入班は即時突貫。爆薬を忘れるな」


 私はリュックサックを背負い直しながら建物を見上げた。頑丈そうなコンクリート造りで、小さな要塞のようにも見える。何人かの隊員が詰めていたのか、にわかに騒がしい。急に押し寄せてきた私たちに気付いたか。

 だがもう遅い。


「爆薬セット完了しました!」

「よし、起爆!」


 奇襲はスピードが鍵だ。何の躊躇もしていられない。

 分厚い合金製の扉は、この建物に攻め込まれることも考えられての代物だろう。おそらく通常の手段での破壊は困難を極める筈だ。だが私たちは悪の組織。普通の強盗共とは格が違う。

 扉に仕掛けられたローゼンクロイツ特製の爆薬が炸裂する。轟音が鳴り響くと共に銃弾を物ともしないであろう扉はバラバラに砕け散る。もうもうと立ち上る黒煙の下から、堅硬な門扉に閉じられた入り口が無惨な姿を晒した。


「突入!」


 私の号令と共に、怪人たちに率いられた戦闘員が突撃した。入り口に殺到した突入班たちは一斉に雪崩れ込んでいく。私と護衛のヘルガー、美月ちゃんはその後に続きながら指示を出す。


「速やかに制圧せよ! 体勢を整える暇を与えるな! 非戦闘員は拘束! 殺害は許さない!」


 ここはあくまでユナイト・ガードの支部だ。悪魔の巣窟じゃない。そんな彼らを害して百合に知られれば彼女は傷つく。敵戦闘員との戦闘による物ならばともかく、非戦闘員を傷つけるような真似は極力避けなければならない。

 忠実な戦闘員は指示を守り、事務員や民間人らしき人物を次々に捕らえていく。それを見届けながら手掛かりとなる物を探していると、銃声が響いた。


「! ヘルガー、鎮圧しろ!」

「応!」


 敵隊員の応戦だ。すぐにヘルガーに対処させる。かつて戦闘部門のトップであったヘルガーは指揮能力も高く、態勢の整いきっていない敵部隊を瞬く間に制圧した。

 鎮圧はスピーディーに進んでいく。どうやらこの支部にヒーローは詰めていなかったようだ。新ヒーローの活躍によってヒーロー全体の活動域が広がっている今では珍しいことだ。

 いやもしかしたら、ここがクシャナヒコのアジトだから本来はコンバードたちが置かれているのかもしれないな。だが奴らは姿を現さない……どこだ?


「エリザさん。制圧完了しました」

「そうか。よくやった」


 突入班の報告を統括した美月ちゃんが私にそう告げる。地上にはいなかったか……であるなら、地下か。隠し通路だな。


「どうするか。隊員を尋問するか……?」

「摂政様!」

「ん?」


 思案している私に隊員が息を荒げて急き込んできた。焦った様子で私に報告を告げてくる。


「周辺監視カメラをクラッキングしている構成員からの報告です。既にユナイト・ガードの応援が向かっていると!」

「馬鹿な、早すぎる。いや、まさかクシャナヒコ、先んじて応援を呼んでいたな……?」


 あまりに早すぎる対応に驚くが、すぐに思い至った。ビルガを始末したクシャナヒコならここが狙われていることが分かる。私たちの襲撃前に応援を呼ぶことは可能だ。

 だがどうする。これで更に時間が無くなった……!


「エリザ……だったかい?」

「ん?」


 思い悩む私は不意に話しかけられて振り返る。そこには回復した様子のキノエがいた。


「応援を呼んだってこたぁ、奴はここにいるな」

「あぁ、その可能性は高まった」


 私たちがやってくることに気付いたクシャナヒコがここから既に逃げ出している可能性は考えたが、応援がやってきていることでその線は薄くなった。逃げ出した後なら、仲間を呼ぶ必要はない。


「つまりここがクシャナヒコの総本山ってこたぁ、アイツの手が及んでいるかもしれねぇ」

「……そうか、洗脳の力か」


 記憶を書き換えられるクシャナヒコの力。ここにいる隊員たちに使わない訳は無い。


「んだら、オラがそれを解除してやる」

「出来るのか?」

「魔使に憑依されているのならともかく、そうじゃねぇならすぐに済む」

「よし、分かった。おい、一番地位の高そうな奴を連れてこい!」


 私はキノエの案に頷き、構成員に指示して一番偉そうな奴を連れてこさせる。地位の高そうな相手を選ぶのはそちらの方が知っていることが多いかもしれないからだ。


「な、なんだ! 私にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」


 連れてこられたのは髭面の壮年だった。


「これは重罪だぞ! 国家から独自裁量権を与えられている我らは貴様らを即時抹殺できる! 無惨に死にたくなければすぐさま私を解放しろ!!」

「うーんテンプレートなお偉いさんだ」


 見るからにここの責任者。喧しいことを除けば完璧な人選だ。ここからどうするのかと思って見ていれば、キノエは両側を構成員に押さえつけられた男に近づき、目の前で指を動かした。


「オン・ハリバヤ・ソワカ。……ほい!」


 複雑な印を指で編んだ後、パシンと手を叩く。その手拍子が鳴り響いた瞬間、髭面の男は目覚めたばかりのように目をぱちくりした。


「あ、な……わ、私は一体?」

「やっぱ洗脳されてたな。んで、すまねぇが……ソワカ」


 問答する暇が無いと判断したキノエは更に術をかけた。男の頭がかくんと項垂れ、瞳から光が失われる。意識が朦朧としているようだ。


「はえ……?」

「聞きたいことだけ答えんな。クシャナヒコはどこだ?」

「う……ち、地下、だ。支部長にも秘密で作った……」


 髭面の男は譫言のように情報を呟く。話が早くていい。


「そうかい。その入り口はどこにある?」

「ぐ……第二倉庫の壁に……エレベーターが……」

「よし分かった。見てこい!」


 私は構成員に命じて確認にいかせる。本当ならここからが本番だ。

 そうしている間にもキノエは男から更に情報を引き出す。


「小さな女の子がおっただろ?」

「あぁ……いた……連れて行かれた……」

「クシャナヒコの他には誰がいんだ?」

「コンバード……ウォートホグ、バニーホップ……タイガーマイト……パイソン……猿面の男……」

「……ふむ。私たちを襲撃したのと同じメンバーだな」


 あれからあまり時間も経っていないから、それもそうか。だが追加の面子がいないのは助かる。増えていたらタダでさえ細い勝率が更に低くなってしまうところだった。


「摂政様! エレベーターが確認できました! 動きます!」

「よくやった! よし、最低限の人員だけ残して突入――」


 構成員からの朗報に私が地下に突入する為の指示を出そうとした、その瞬間。外から車が衝突するような轟音が響いた。


「何事だ!」


 私が叫ぶと同時に外から構成員が飛び込んでくる。


「敵襲です! ユナイト・ガード増援が到着しました!」

「来たか……!」


 嫌なタイミングだ。これでは足止めのために戦力を分散せざるを得なくなる。

 誰を残していくか……私は判断に迷ったが、決断した。


「戦闘員は全員残れ。私とヘルガー、美月ちゃんとキノエだけで突入する」


 地下こそが本丸。……だがかといって、中途半端な数を地上に残して突破されれば私たちは退路を失う。そうなれば全滅だ。地下の決着は最悪狛來ちゃんを奪還さえ出来れば後は逃げてもいい。しかし逃げ場を失えばそれも叶わない。地上に戦力を集めるべきだ。


「絶対に死守しろ。抜かれたら許さんぞ!」

「はっ! 了解しました、絶対防衛します!」


 構成員の小気味よい返事を聞き届け、私は先に告げたメンバーに振り返る。全員覚悟の決まった表情を浮かべていた。


「聞いていたな。この四人で地下に行く」

「へっ、リベンジマッチということだな」


 ヘルガーは拳を打ち付ける。重そうなアタッシュケースは背負ったままだ。その中身が、コイツの復讐戦の明暗を分けるだろう。


「私は違いますけど……でも、はやての敵討ちくらいはやってみせます」


 美月ちゃんも決意を以て頷く。前回はいなかったメンバーである彼女こそが、勝敗の鍵を握るかも知れない。


「……オラの責任さ。自分でケリをつけるさ」


 重々しく首を縦に振るキノエは未知数だ。付き合いが浅い所為で実力の底を図りきれない。だがこの中で恐らく最強。場合によっては私たちがサポートに回ることになる。


「そうか。準備はいいようだな」


 私は調子を確かめるように拳を握り、開きを繰り返す。体力は回復した。傷もたいしたことない。リュックサックに詰めた秘密兵器は準備万端。最後の切り札は懐に。サーベルも拳銃も備えて装備面は完璧だ。

 後は、出たとこ勝負。


「――よし、突入する!」


 四人で頷き合って、私たちは隠し通路へ向け駆けた。






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