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「こちらヘルガー……すごいことになってるぞ……」




「んあ? なんだこれ……?」


 魔法陣に映った光景に私は首を傾げた。

 現在は昼下がり。借りている資料館の一室で私はビルガを飛ばしていた。はやては一時的に休憩。私とはやてで交代を繰り返しつつ二十四時間体制でビルガを偵察させている。

 そのビルガの視界に、異様なものが映った。


「景色が歪んでいる……?」


 映像には上空から見た広い屋敷が映っている。道場のような物がある村の中でも屈指の敷地を持つ塀に囲まれた屋敷だ。狛來ちゃんが潜むであろう山中ではなく村を偵察していたのは、ミエザルのことも探していたからだが……。

 その屋敷は特に変哲も無い筈だった。それが今、乱れていた。景色が妙に歪んだり、切り裂かれたりを繰り返している。まるで景色が映り込んで水面に、石を投げ込んだりして波紋を作っているかのように。


「はやて、こっちに来て」

「んー?」


 すぐ傍のソファで寝転がっていたはやてを呼び寄せ、魔法陣のモニターを覗かせる。眠そうに半分閉じられていた眼は、そこに映る風景を見た瞬間に見開かれた。


「……これ、隠蔽の魔法?」

「はやてがいつも使っている奴か」


 はやての翼は、魔法少女の装束では無い。バイドローンのバイオウィルスによって精製された彼女の一部だ。どう見ても異形異類のそれを、人前に出る時はやては魔法によって隠している。


「魔術か、それに類した技術かもしれないけど……」

「何かを隠している」

「と、思う」


 私たちは頷き合い、行動を起こした。


「エリザ、ビルガのコントロール貰うね」

「うん、よろしく。……ヘルガー、ヘルガー聞こえているか?」


 私はビルガの操作をはやてに譲渡し、代わりに通信機を手に取った。数瞬ノイズが奔った後、向こう側から聞き慣れた声がする。


『こちらヘルガー。どうした?』

「ビルガが偵察していた屋敷で不自然な景色の揺らぎを確認した。おそらくは隠蔽魔法か、それに近い技術が使われている。何があるか確認して欲しい」

『……了解した! ビルガの真下だな?』

「あぁ、目印にしばらく飛ばしておく。はやて、いいな?」


 こくりとはやてが頷いたのを見てヘルガーとの通信に戻る。


「では頼む。一応戦闘があることを想定しておいてくれ」

『了解!』


 ヘルガーとの通信が切れる。これで奴は現場に急行してくれた筈だ。通信機を持ったまま、今度は別の回線を開く。


「……美月ちゃん。今大丈夫?」

『エリザさん? どうかしましたか?』


 出たのは美月ちゃんだ。彼女は今、本部への報告で一旦村から離れている。


「報告は終わったかい?」

『はい、つつがなく。私たちの状況を報告し、向こうからの伝達事項を受け取りました。それによると……』

「報告は後で受け取る。それより至急戻ってきてくれ。……村で魔法か、それに類する何かを見つけた」

『! 分かりました。一時間で戻ります』


 通信が切れる。こちらへ戻る準備をするのだろう。

 一時間……この村が辺鄙な場所にあることを考えれば早い方なんだが、結構かかるな。待っている時間は無い。


「はやて、私たちも現場に向かおう」


 地図を広げ、屋敷の位置に旗を立てながらはやてへ向け言う。こうしておけば美月ちゃんが帰還した後真っ直ぐこちらへ向かってくれる。だから連絡係は不要だ。


「分かった。ビルガで監視しながら行こう」


 私たちは準備を整え、ヘルガーが待つであろう屋敷へと向かった。

 展開したままの魔法陣に映る相変わらず不自然な景色を見て、不思議な焦燥に駆られる。

 何か、嫌な予感がする。……私たちは村人にバレないよう、しかし足早で向かうことにした。






 ◇ ◇ ◇






「ここか……」


 すぐ上空で旋回するビルガを見て、ヘルガーは唸った。

 エリザから連絡を受け全速力で辿り着いたのは、一見普通に見える屋敷の門構えだった。村の中では大きい方だが、おどろおどろしい気配などは特に感じない。

 だが、ヘルガーの鼻がヒクンと跳ね上がる。


「匂うな……これは、アイツの匂いだ」


 ヘルガーは鋭敏な嗅覚を持つ。そして一度戦った相手の匂いはしばらく忘れない。その優れた嗅覚が捉えたのは、先日神社跡で遭遇した奇っ怪な男が発する匂いだった。

 すぐに通信機を取り出してエリザにそれを伝える。


「エリザ」

『……なんだ?』

「奴だ。ミエザルとか名乗った奴の匂いがする」

『っ、本当か!?』

「間違いない。他の匂いも香ってくるが……む!?」


 ミエザル以外にも、二人ほど。他にも存在する匂いを嗅ぎ分けようとして、ヘルガーはそれを嗅ぎ取った。

 探していた、少女の匂いを。


「エリザ! 見つけたぞ!」

『何? ……まさか!?』

「あぁ、俺たちが探していた嬢ちゃんだ!」


 数度息を吸い込み、間違いが無いか確認する。しかし間違いなく血眼になって探していた、狛來の匂いだった。


「確実だ……この屋敷の中にいる」

『そうか……ならやはりミエザルが追っていたのは……』

「匂いの感じからして恐らく戦闘中だ。ミエザルと、もう一人。狛來は動いていない」

『誰かが守ってる……? だけど安心できない。ヘルガー、突入して』

「了解!」


 通信を切ったヘルガーは、迷わず門を蹴破った。錠前と閂がかかっていたらしき木造の門は、しかしヘルガーの脚力によってへし折れて砕け散る。そのまま即座に侵入し、匂いを辿って庭らしき場所へ向かう。

 そこにはやはり、見慣れぬジャージ姿の狛來がいた。


「嬢ちゃん!」

「!? え、エリザベートさんの……!」

「あぁ、ようやく見つけ――!?」


 ヘルガーを認識し、目を丸くする狛來。だがヘルガーもまた、庭で起こっている光景を見て驚愕していた。


「なんだ、これ……!?」


 そこでは老域とは思えない健脚で飛び跳ねる老婆と、何も無い空間から現われては老婆に迎撃されるミエザルによる高速の応酬が行なわれていた。

 目には追えぬ速さで地を這うように肉薄するミエザルを跳躍して躱す老婆。ブレーキを踏んで追撃を加えようと見上げる猿面を、老婆の草履が踏んづけ、地に押しつける。亀裂をつくり沈み込むミエザルを更にストンピングしようと足を上げる老婆の隙を突いて這いだしたミエザルは再び姿を消す。

 スピードと透明化の能力で拮抗してはいるものの、そのほとんどを圧倒する老婆の姿にヘルガーはあんぐりと口を開けていた。

 ミエザルが戦闘をしていることを予測していたヘルガーだったが、まさかその相手が老婆だとは、しかも優勢だとは流石に予測していなかった。


「こちらヘルガー……すごいことになってるぞ……」

『は?』


 思わず感嘆だけを通信に乗せてしまったヘルガーだが、それも無理からぬ異常な光景であった。






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