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「一刻も早く見つけなければ。さもなくば……」




 後日、村周辺の地形の把握を終えた私とヘルガーは、美月ちゃんから聞いた神社跡に訪れていた。


「……基部はそのままあるんだな」


 村人に怪しまれないようハイキングスタイルに着替えた私は、山の中で石の階段を登っていた。石階段の長さから考えるに、結構大きな神社だ。もう少し交通の便がよい場所にあれば観光名所になっていてもおかしくない。

 登り切れば、そこには平らな土地が広がっていた。


「……確かに、神社はないな」

「あぁ……」


 ヘルガーの呟きに私は頷く。だが、そこにあった風景は妙な物だった。

 自然溢れる山の中、切り拓かれ石畳が敷き詰められた広間は一目で境内だと分かる。だがその中央、四角く区切られた空間だけは土が露出していた。おそらく、神社のあった場所だ。

 解体されたと予め聞いていたのだ。そこに驚きは無い。だが。


「社務所はあるというのは、どういうことだ」


 その近くには、一棟の建物が健在だった。神職が神事を務め、御守りなどを販売したりなどする社務所だ。神社は解体されているのに、それだけは残っていた。


「……誰かいるんですかー?」


 近づいて声をかけてみるが、無反応。扉に手をかける。鍵は……かかっていない。


「お邪魔しまーす」


 ならばと、私は社務所の中へ侵入した。不法侵入だが、まぁ悪の組織なので。

 中はやはり無人だ。近くにあった棚の上に指を這わせる。指の腹にこびり付く大量の埃。しばらく人の手は入っていないようだ。

 軽く歩き回って見るが家具なども見当たらず、放置された廃墟そのものだった。


「流石に放棄されているか」


 当たり前と言えば当たり前の話だ。社務所は神社の神事を行なう為の場所。神社その物が無くなれば用がなくなるのが普通だ。

 だからこそ、妙だ。


「何故用無しになった社務所を残したんだ? ただの廃屋になるのは目に見えているだろうに……」


 特に何も無かった社務所を出て、私は改めて中央へ目を向ける。社務所とは違い、神社は影も形も無い。朱塗りの鳥居も存在しなかった。


「これじゃまるで……」


 ――神社を解体することだけが目的だったみたいじゃないか。

 そう思い至った瞬間、私の背筋がゾクリと震えた。

 自分の考えに、では無い。

 どこからか向けられた、殺意にだ。


「ヘルガー!」

「おう!」


 私とヘルガーは一瞬で戦闘態勢になり、背中合わせに構えた。ヘルガーは人型への変化を解く。私もバッグから指揮官用の拳銃を取り出し、安全装置を外した。

 感覚を研ぎ澄ませる。ザワザワと木々が揺れる音が五月蠅く耳につく。煩わしさに私が顔顰めるより早く、ヘルガーの鋭い声がそれを掻き消した。


「八時の方向!」

「!」


 私は自分から見て左手前側に照準を合わせ、引き金を引いた。山中に響く一発の銃声。驚いた鳥が遠くで飛び立った。

 私が狙ったのは境内の入り口近くにあった小さな構造物。それは俗に言う手水舎という奴だ。水が涸れ用を為していないそこへ、銃弾が突き立った。


「……出てこい。次からはマガジンが切れるまで止めないぞ」

「キキッ……よく分かったもんだ。流石は悪の大幹部様と言ったところですかい……」


 物陰からぬっと立ち上がったのは猿の面を被った奇妙な男だった。古くさい和装に身を包んでおり、間違いなく民間人では無い。纏う空気も、尋常では無い。


「……何者だ?」


 こんなところで怪人とエンカウントか? 私は不思議に思い、猿面の男を誰何した。


「キキッ! オラはまぁ……ミエザル、とでも呼んでくだせぇ」


 ミエザルと名乗った男は戯けた仕草でペコリと頭を下げた。私は油断せず銃口で狙いを定めながら詰問を続ける。


「ここで何をしている? いやそれよりも……何故私たちを狙った?」


 いくら私たちでも問答無用でこんなことはしない。私たちが戦意を剥き出しにしているのはこいつが殺意を向けてきたからだ。先の発言といい、私たちの正体を知っている敵であることは確かだ。


「怪人か? ヒーローか?」


 私の問い質す言葉に、ミエザルは肩を竦めた。


「そのどちらでもねぇっすよ」

「……何?」


 訝しむ私の前で、ミエザルが動いた。脚に力が籠もったかと思えば、次の瞬間には大きく跳躍していた。


「っ、止まれ!」


 私は迷わず発砲した。だが、捉えきれない。速すぎる。並外れた瞬発力だ。


「俺が行く!」

「頼む!」


 身体能力に優れたヘルガーが追いかける。だが色つきの風となったミエザルは、ヘルガーの鉤爪の一撃を悠々と躱した。


「キキッ! その程度のスピードじゃオラを追い切れねぇ、ぜ!」

「ぐっ!?」


 反撃にミエザルのキックがヘルガーの背に突き刺さる。ヘルガーでも捉えきれないスピードか! これは厄介極まりない。


「だったら面の攻撃だ!」


 左腕を正面に構え、銃をしまった右腕でそれを支える。ギガ・ワイド・ブラストの構えだ。


「! させねぇ!」


 それを察知したミエザルが、進路を変えて私に迫る。あの速度で真っ直ぐ突っ込まれたら、堪った物ではないだろう。

 だが私はニヤリと不敵に笑った。


「!? ちっ、こちらは囮ってわけかい!」


 そう。目に追い切れないほど速くとも、その動きが一直線なら容易く読める。

 ギガ・ワイド・ブラストの構えは囮。本命はそれを止めようと直線で迫るミエザル、お前本人だ。


「ゼヤアッ!!」

「へぶっ!?」


 ヘルガーの拳が猿面の横っ面に決まった。ミエザルは錐もみ回転しながら境内を吹き飛んでいく。そして丁度奴が出てきた手水舎に衝突し、破砕した。

 木の瓦礫に半ば埋まり動かなくなったミエザルを見て私は隣に並んでヘルガーに問う。


「死んだ?」

「いや、スピード優先の攻撃で力が乗り切っていなかった。それに手応えも妙だ」


 ヘルガーは油断なく倒れ伏したミエザルを睨み付けている。それを見て私も警戒を新たにする。全力じゃないとはいえヘルガーの一撃を受けて死なないのなら、要注意人物だ。


「む、ぐぐ……」


 案の定、猿面の男は呻きつつ瓦礫から身を起こした。


「キキッ、いやはや戦い慣れてる幹部様はちげぇな……オラじゃとても敵わねぇ」

「抜かせ」


 遜るミエザルへ向け発砲する。その銃弾が和装の型に突き立つより速く、ミエザルは瓦礫の中から脱出した。


「キキキッ! こりゃあ、少し本気出さねぇとな!」


 ミエザルがそう言った瞬間、奴の姿は掻き消えた。


「何っ!?」


 スピードが更に上がった……訳じゃない。移動する痕跡すら見えない。これは……透明になったのか!?


「ぐあっ!」

「ヘルガー!」


 突然ヘルガーが身体をくの字に折って吹き飛ぶ。まるで真正面から殴られたかのようだ。だがそんなものは一切見えなかった。透明化で間違いない。


「電磁シールド!」


 私は素早く雷の防御膜を展開した。それが功を奏したらしく、バチリという音と共に何かが焼き焦げる臭いが鼻を掠める。


「ギッ! こいつぁ面倒な……!」

「それはお互い様だよ……」


 相手に格闘以外の手段が無ければこれ以上奴は手を出せない。しかし解除した途端透明打撃が飛んでくるため私からも手が出せない。互いに詰み。膠着状態だ。

 ミエザルもそう思ったのか。何も無い空間から溜息が聞こえた。


「……はぁ、こりゃ決着つかねぇな」


 タン、と地を蹴る音。次いで遠くの枝葉が揺れる気配。どうやらミエザルは大きく私たちから距離を取ったみたいだ。


「元々偶発的な遭遇さ。面倒なんで、オラはお暇させてもらうよ」

「待てっ、お前はどこの所属だ!」


 去る気配を見せるミエザルへ私は叫んだ。何故ここでエンカウントした。何者なのか。一切分からない謎の男へ答えを求める。


「キキッ! そりゃ言えねぇ。雇い主さんの名前はいっちばん重要だ。ま、正義の使者とでも名乗っておくかね」

「正義……?」


 とてもそうは思えない振る舞いに私は疑問符を浮かべた。いや、悪の怪人である私たちと敵対しているなら決して間違いとも言えないが……煙に巻くための出任せか?


「キキッ……ま、オラとしてももうアンタらと出会わないことを願うよ」


 そう言い捨て、ミエザルは気配すらも消した。感覚を研ぎ澄ませるが捉えられない。試しに電磁シールドを解いてみるが、攻撃は無かった。どうやら去ったらしい。


「……ミエザル。不味いな」


 正体は分からない。だが、一つだけ心当たりがある。


「ヘルガー、大丈夫か?」

「あぁ……問題ない」

「ならすぐに村へ降り、はやてたちと合流する」


 吹き飛ばされたヘルガーへ駆け寄り、怪我が無いことを確認し立ち上がらせるとすぐに下山を提案する。


「そしてしばらくは、四人体勢の全力稼働で、狛來ちゃんを探す」

「何?」

「もしかすると」


 心当たり。それは私たち自身にある。


「奴は、私たちと同じなのかもしれない」


 私たちと同じ目的。つまり狛來ちゃんの捜索。だからこそ克ち合わせた。

 ならばここに狛來ちゃんがいる可能性は高い。


「一刻も早く見つけなければ。さもなくば……」


 ビートショット。新ヒーロー。他悪の組織。

 そのどれよりも……。


「……悲惨なことになる、嫌な予感がする」


 私の勘が警鐘を鳴らしていた。







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