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「指針は了解した。ではまずどこから探す?」




『許すよ! その女の子が心配なのは私も一緒だから、お姉ちゃんが動くのは許すけど……でも絶対、ぜ~ったい! 無茶したら駄目だからねっ!』

『ヘルガーさん、はやてちゃん、お姉ちゃんを見張ってね! 変なことしようとしたら止めてね!』


「……とまぁ、信用ないね、私」

「むしろよく許してくれた方だろう」


 百合の言葉を思い返しながら溢した言葉に、ヘルガーがさもありなんと呻く。隣でははやてが無言で頷き同調していた。


「エリザは無茶しすぎ」

「いやでも、怪我の多さでははやても良い勝負じゃないか? ……そういえば、身体の具合はどうだ?」


 私は少し心配になって問うた。はやては黒死蝶の件で長時間の飛行を繰り返し、一時は意識不明の状態に陥っていた。そこから養生し復調したが、完全に戻ったのかは気になった。


「うん。大丈夫だよ。薬も貰ってるから、羽も動く」


 そう言ってはやては背の翼をパタパタと動かして見せた。その動きに淀みは無い。彼女の言う通り、体調は万全のようだった。

 纏っている衣装も魔法少女のドレスだ。美月ちゃんから返してもらったアンバーで、はやては魔法少女として完全復調していた。


「そうか。ヘルガーの方は……」

「俺は完全な怪人だ。怪我なんてすぐ治る」


 ヘルガーはぐるっと肩を回し、自身の健康さをアピールした。

 ブラックエクスプレスから脱落して私を庇い強かに身体を打ち付けたヘルガーだが、もうそのダメージは残っていない。私のような怪人モドキや変身を解除すれば羽の生えただけのはやてと違い、ヘルガーは身体の芯まで改造した怪人だ。頑丈さも回復力も桁違いだった。


 そして私の方も、問題ない。ヘルガーのおかげで怪我らしいものは無く、切られた義手の指も交換済み。試しに握り開きを繰り替えしてみるが、違和感は微塵もない。

 三人とも万全の状態だった。

 いや、更にプラスの要素もあった。私ははやての肩に留まった黄色い筋の通った黒褐色の鳥に目をやる。


「そのビルガとやら、使えるのか?」

「うん。蝉時雨と改造室の人たちが調整をしたから、実戦に耐えうる物にはなってるって……言ってたよ」

「なら、いいんだが」


 その姿は百舌に似ている。だが実際は、蝉時雨の手によって一から魔術で作られた疑似生命だ。

 魔法の劣化版である魔術によって命を作ることは難しいが、一つ一つの臓器を魔術で丹念に作り上げれば不可能ではない。だがやはり、生体改造に慣れた改造室の協力あっての賜物だろう。

 いくつかの魔術が籠められたこの百舌型使い魔、ビルガは今回の捜索に当たって様々な働きをしてくれる手筈になっていた。

 しかしはやての頬に頭を擦り付ける姿を見ているとただの愛玩動物にしか見えないが……。


「よし……取り敢えずこの三人と一匹で『狛來ちゃん捜索班』とする」

「他の怪人はいいのか?」

「ぞろぞろ引き連れると新ヒーローに見つかる。奴らも狛來ちゃんのことは躍起になって探しているだろうからな」

「美月は? エリザの権限で連れて行けるよね」

「あの子には別の調査に行ってもらってる。そっちはそっちで重要だから今は手を放して欲しくはないな。それに美月ちゃんには、既に協力してもらってる」


 私は新たに腰のベルトへ身につけたポシェットを叩きそう応じた。

 取り敢えずは、この三人だけで行動する。ヘルガーにも言った通り、目立ちすぎるとヒーローたちに見つかる。ただでさえ新ヒーロー増員による悪の組織の行動しづらいご時世なのに、そこへブラックエクスプレス事件による警戒、つまりユナイト・ガードによる狛來ちゃんの捜索も上乗せされてしまえば大人数での隠密行動はまず不可能だった。

 ヒーローたちから隠れて行動しつつ先に狛來ちゃんを見つける。それがしばらくの行動指針だ。


 私の説明に納得がいったのか、ヘルガーとはやては深く頷いた。


「指針は了解した。ではまずどこから探す?」


 ヘルガーの言葉に私は携帯端末のディスプレイを見せながら答えた。


「取り敢えずは、ここだな。その後の状況も知りたいし」


 端末の液晶を覗き込み、ヘルガーは顔を顰める。


「よりにもよって、そこかよ……」


 私が示したのは狛來ちゃんたちの通う小学校だった。






 ◇ ◇ ◇






 その学校は別に変哲の無い、小学校と聞けば十人中九人が思い浮かべるようなごく普通の学校だった。

 つい先日、事件に巻き込まれて数人が死んでしまったことを除けば。


「今日はお別れ会か……」


 午後の昼下がり。普段なら授業をやっているか半日学級なら帰宅している時間帯。外から覗き込む校庭には白黒の大人しめな服装をした、陰鬱な生徒たちの姿が見えた。

 彼らのいくらかは、白と黒の幕が掛けられた体育館を出入りしていた。

 恐らくは、死んでしまった生徒たちのお別れ会が体育館で開かれていたのだろう。


「痛ましいことだ」


 私たち一行は静かに目を瞑り、黙祷を捧げた。悪の組織と言えど良識が全くないわけじゃない。この程度の礼儀は弁える。

 だがそれはそれとして、今を生きる命の為にこそ私は行動している。すぐに調査を再開した。


「さて、それではどこから当たるか」


 私たちは今、小学校を上から見下ろせるビルの屋上に潜んでいた。怪獣事件の時にも使った双眼鏡を手にして校庭を覗き込んでいる。ローゼンクロイツ製の高性能な電子双眼鏡を以てすれば生徒たちの表情まで鮮明に判別出来るが、それでも漠然と見ているだけでは得られる情報は多くない。

 ということで、早速出番だ。


「はやて、ビルガを飛ばしてくれ」

「うん」


 それまで大人しくはやての掌にいたビルガは、私が指示を出しはやてが頷くとひとりでに飛び立った。はやてが魔法で操作しているのだ。

 ビルガはある程度自律で動くことも出来るが、ラジコンのように遠隔操作も出来る。自律の時は簡単な指示しかこなせないが、遠隔操作時は操縦者の好きに動かすことが出来た。

 魔術的な操作法を覚えれば誰でも操縦可能で、私も操作しようと思えば出来る。だが魔法少女であるはやてがいるなら彼女に任せた方が無難だろうと思い、操縦ははやてに任せた。

 はやての操縦でビルガは小学校の上空を旋回する。


「……みんなソワソワしてる。全体的に自習時間になってるみたいで、お別れ会はもう終わったみたい。でも教室を抜けて体育館に行くことは出来るみたいで、出歩いている生徒がいるのはその所為だって」


 目を瞑り、耳を澄ませるような仕草をしているはやてはビルガと感覚を共有している。そして魔術的な手段によって視覚聴覚を高められたビルガは人間の数倍の情報を拾うことが出来る。はやては短時間で大量の情報を集め、私に報告してくれた。


「悪く無いな、ビルガ。特に怪しまれないのがいい」


 間をすり抜けるビルガを見ても、生徒や教師たちに怪しむ素振りはない。それも当然だ。普通の野鳥の姿をしているのだから。


「魔術に精通した人には見抜かれちゃうけど……」

「それもこんなところにはまずいないだろう。他に分かることは?」

「うん……先生たちも混乱してるみたい。自習にしてるのは教師陣でも整理がつかないからみたい」

「まぁ、そうだろうな……」


 学校行事で複数の死者が出るなんてそうそうない。教師側も保護者への説明や生徒たちのフォローと、多忙を極めているのだろう。自習にしているのは授業をしている余裕がないからか……。

 折角の自習だが自粛の空気を生徒たちも感じているのか、表だって騒ぐ子どもはいない。ビルガが集めた情報は黒板などに書かれた視覚情報か、ひそひそ話だ。それ故に有力な情報は上がってこない。私も双眼鏡で眺めてみるが、やはりこれといった収穫は……。


「ん?」


 流し見た教室の窓、その内の一つをフォーカスする。どうやら空き教室であるそこに、三人の男女が集まっていた。

 そういえばそうだ。あの子らもここにいるよな。


「丁度いいか。はやて、ビルガをあそこへ」


 私は深刻な表情で話し合う三人――雷太少年の一行へビルガを飛ばした。






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