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「青春、かなぁ……」




 かつて散ったイチゴ怪人エンハンスド君は言わば改造室の廃材利用に近い存在だった。イチゴ怪人強化のテストべッドでもあったしね。

 しかし今回のクルセイダー君は装備部門に要請した新型装備を身につけた改造部門と装備部門の合作である。

 頭部以外の全身に着込んだ騎士甲冑はローゼンクロイツで生成に成功した新型合金を使用した特製の鎧だ。スペック上は四千度の熱に耐えミサイルの直撃でも一発なら問題ないと書かれていた。流石に鵜呑みにはしないがそれぐらいに誇れる硬度であるということだ。

 更に関節部はカーボン、セラミックで覆い隙は無い。まさに人型の要塞だ。

 まぁ弱点である頭部は丸出しなのだが。


 必殺技を阻まれたビートショットが唸る。


『盾……絶縁体を仕込んでいるのか?』

「ご明察だよ、カブトムシ君」


 クルセイダー君の持つ盾は先のローゼンクロイツ製特殊合金に加えジェラルミン、絶縁ゴムによって製造された『耐雷タワーシールド』である。雷どころか発電所の全力放電にすら耐える代物だ。

 コイツで防御すれば電撃系の攻撃にはほぼ無敵である。

 まさに堅牢……イチゴ頭以外は。

 ヘルガーがポツリと呟く。


「……なぁ、兜とか用意できなかったのか?」

「仕方ないじゃないか……強度は普通のイチゴと変わらないんだから、下手に合金製の兜を被せれば潰れちゃうし……」


 頭部を破壊されればイチゴ怪人は機能を停止する。しかし保護しようとすればイチゴ本来の柔らかさで潰れてしまう。

 ジレンマ……イチゴ怪人が全員頭丸出しな理由である。


 だがそれも盾で防いでしまえば問題は無い。

 私は機械のヒーローを挑発した。


「さて、電撃が通用しないだけで全力が尽きたのかな?」

「ビートはそんな弱くない! 行くよ!」

『ああ、雷太!』


 雷太少年の声に応えたビートショットは、右手を掲げ二本並んだ鉄棒を腕から伸ばした。


『超電磁ソード!』


 ビートショットの掛け声と共に二本の棒は電気を帯び、数瞬で雷のオーラを纏う剣へと変貌した。ビートショットの持つ機能の一つ、超電磁ソード。数万ボルトを帯びた剣は触れたもの全てを感電させ、1㎝の鉄板すら焼き切ると言われている。

 手の平から生えた剣をクルセイダー君へと向けて構える機械の巨人。


『当方と雷太が乗り越えてきた戦いには、当然雷への対策をしていた敵もいた! 当方たちはそれを乗り越えて来たんだ!』

「そうだ! 頑張れビート!」


 雷太少年の応援を受けてビートショットはクルセイダー君に肉薄する。

 なんていうか……見ていて心が洗われるヒーローたちだ。機械の少年の友情って感じで、微笑ましいというと少し違うが……。


「青春、かなぁ……」

「お前に縁の無かった物だな」


 うるさい、自覚はあるよヘルガー君。

 迫る超電磁ソードを、しかしクルセイダー君は盾で弾いた。

 イチゴ怪人は指示を受けなければ動けないが、予め言い含めておいた動作はある程度こなせる。例えば「近づいて来た敵を撃て」とかね。

 クルセイダー君には「攻撃を盾で弾け」と命じてある。どれくらいできるのかと思ったが、意外と対応できているようだ。自分で考える事は無理でも、反射の行動の精度は高いのか?

 まぁ戦えるのは嬉しい誤算だ。

 何度かアタックを試し、その度に弾き返されるビートショット。

 業を煮やした機械の巨人は、背中の装甲を展開した。まるでカブトムシが羽を広げるように装甲が二枚上に開き、内部から可視化出来るほどに濃い電磁波がまるで翼のように広がる。


『電磁スラスター展開!』


 電磁スラスター。電磁波によって磁力や熱エネルギーを放出することによって推進力を獲得するビートショットの持つ高機動アタッチメントだ。その最高時速は電車とすら並走出来るという。

 コイツを使われて背後に回り込まれればさしものクルセイダー君も太刀打ちできない。

 なのでここは戦略的後退だ。


「クルセイダー君! ジェットコースター跡地へ後退せよ!」


 私の命令はインカムを通しクルセイダー君のイチゴ頭へと届く。イチゴ頭の騎士は目の前のビートショットを無視しすぐさま踵を返した。


『逃がすか!』


 当然ながらビートショットはクルセイダー君を逃がすまいと迫るが、そこは我が最強の怪人がフォローさせて貰おう。

 私の視線に頷いたヘルガーが一瞬のうちにビートショットの眼前に躍り出る。


『何っ!?』

「意外と機会が無かったな。お初にお目にかかる。そして喰らえ!」


 ヘルガーの鋭い蹴りがビートショットの腹部に突き刺さる。装甲の隙間にブーツの先端が食い込んだ。


『ぐぅ!?』

「こんなものか? これが俺の部下を何度か討った腕前かよ?」

『何? ……まさかお前がローゼンクロイツ最強の怪人、騎士ヘルガー!?』

「今は特務騎士って名乗っているがな」


 更にヘルガーは拳を振るい、ビートショットの頭部を狙う。流石に追撃を許す程ビートショットも甘くない。腕の装甲で食い止め、反対の腕で超電磁ソードを振り抜く。


『はぁっ!』

「ちっ」


 私の放電能力で痺れたように、獣型であるヘルガーは電撃に対して耐性は無い。喰らうまいと超自然の輝きを帯びた斬撃から逃れ、距離を取る。

 牽制に成功したビートショットへと雷太少年が駆け寄った。


「大丈夫か、ビート!」

『あぁ、かすり傷だ』


 実際、ヘルガーの蹴りによるダメージは浅い。これはヘルガーの蹴撃の威力が低かったというより、それだけビートショットが頑丈であるということだ。機械の体ということもあり、防御力は凄まじいものがある。多分ミサイルを直撃させたとしてもこっちは余裕で耐えるだろう。

 だがクルセイダー君がジェットコースター跡地へと逃げ込むことには成功した。


「さて、我々も新たな戦場に向かおうか」


 私はビートショットと対峙するヘルガーに近づいて肩に手を掛け、そのままヘルガーに抱き抱えてもらう。生身の機動力は人間と大して変わらないからね、私。

 地を蹴ったヘルガーはそのままジェットコースター跡地へ向かう。


「追いかけて来たまえ、勇敢なる戦士よ!」

『くっ……!』


 あからさまな誘導。しかし正義のヒーローであるビートショットに現状での撤退の二文字は無い。少なくとも、我々が撤退するか追いつめられなければしないだろう。

 だから、必ず追いかけてくる。


『待て!』


 ほらね。

 私たちは再びスラスターを起動させ追いかけて来たビートショットを尻目に跡地へと入りこむ。崩れかけた看板をビートショットに向かって蹴って飛ばす。

 追いすがるビートショットはなんなく迫る看板を切り捨てた。まぁこっちも当たるとは思っていない。

 だが一瞬看板に遮られ視界を失った。ならば避けられまい。

 ビートショットが跡地内に入った瞬間、マシンガンによる一斉掃射が機械の巨人を襲った。


『ぐおぉ!?』


 弾丸のほとんどが装甲に弾かれてしまうが、殺到する衝撃に身動きの取れないビートショット。

 しかしその隙を狙ってロケットランチャーが迫る。


『っ! シールド!』


 掛け声と共に、ビートショットを中心に球状の雷が発生する。雷はマシンガンの斉射を遮り、触れたロケットは爆発四散した。

 ビートショットの備える防御兵装、超電磁シールド。自らを中心として最大半径5メートルを覆うことのできる球状のバリアを発生させることのできる武装である。ロケットはともかく、マシンガンの弾すらも焼き切り防ぐとはかなりの防御性能だな。

 シールドを発生させたまま、ビートショットは状況を確認する。


『伏兵……!』


 煙が未だ立ち昇るジェットコースター跡地には、15特殊機動部隊第二小隊が展開していた。マシンガンを構えた班、ロケットランチャーを構えた班に分かれてビートショットへと標準を定めている。

 私はその背後からビートショットへと声をかけた。


「どうかね? 我が軍勢の歓迎は?」

「イチゴの兵隊……!? なんで?」


 雷太少年が跡地の入口から顔を出して疑問の声を上げる。聞くな……深い訳があるのだ。

 ビートショットは展開した15特殊機動部隊を見回し、そして吐き捨てる。


『……数だけは揃えたようだ』

「数は力だよ」


 尤も、そうではないということを物語っている存在こそが目の前にいる巨人なのだが。

 組織へと立ち向かう英雄。それこそがヒーロー。数を否定する無双の存在。

 だが数の優位がまったくの無効という訳でもない。現にこの弾幕があれば奴は身動きが取れない。


『……頭を潰せば!』


 そう言ってビートショットは胸部を展開した。チャージを始めてもう一度メガブラストを撃つつもりか? 流石にやらせないぞ?


「射撃再開」


 シールドの消えたビートショット目掛け、再びマシンガンが殺到した。

 超電磁シールドの弱点、それは他の兵装との併用が不可能という点だ。ビートショット自身は無限のエネルギーを誇るが、それを常に出力するには機械の体は少しばかり頼り無い。エネルギーの熱量に耐えかねて融解する恐れがあるからだ。だから大量のエネルギーを消費する超電磁シールドは他の武装と同時に扱えない。

 そしてシールドが消えた今、マシンガンを遮る壁は無い。チャージなどさせるものか!

 だがシールドが消えた瞬間に、一条の雷が私目掛けて発射された。


『ノーマルブラスト!』


 チャージ無しの攻撃!? しかし光線の太さはメガブラストと比べて細い。成程、威力を犠牲にチャージの時間を省いたビームという訳だ。

 頭である私さえ倒せば、イチゴ怪人の集団は瓦解するという読みで放たれた狙撃。いい判断だ。彼の存在を忘れていなければ。


「クルセイダー君」


 私の一言で前に躍り出るクルセイダー君。一条の光線は、耐雷タワーシールドに阻まれ霧散した。


『くっ……!』

「残念だが、その為のクルセイダー君だ」


 集団を指揮していれば、頭が狙われるのは当たり前だ。クルセイダー君はその為の備えである。

 再びビートショットを襲うマシンガンの猛威。機械の体は銃弾を弾くが、無傷では無い。細かい傷が装甲の表面に刻まれていく。

 しかしビートショットは再度超電磁シールドを展開するそぶりを見せない。それどころか胸部装甲を開きっぱなしだ。いくらなんでも内部構造を露出させたままマシンガンを受け続けるのは不味い筈。腕を交差させて守っているが、それでも閉じていた方が防御し易い。何を?


『機体への負荷が大きいから、あまり使いたくは無かったが!』


 ビートショットの関節部が電気の光を帯びていく。それどころか背部の装甲を再び開き、電磁の翼を展開している。飛ぶ気か? しかし銃弾から逃れるには相当遠くに飛ばなければ無理だぞ?

 いや……。いや、そうか。これはチャージだ!


「ロケットランチャー部隊! 一斉射撃だ!」

『もう遅い!』


 輝きを増すビートショットは叫んだ。


『ギガ・ワイド・ブラスト!!』


 その瞬間、全身に纏っていた電撃がビートショットを中心に拡散した。四散した雷は広範囲に広がり、周囲を出鱈目に襲いまくる。

 15特殊機動部隊も例外ではない。


「うおぉっ!?」


 私の事はクルセイダー君が庇うが、部隊全体はそうはいかない。雷に打たれ、一体、また一体と倒れていく。

 苦し紛れに発射されたロケットも、雷に触れ爆散する。なんて密度の雷撃だ。


「く……イチコマンダー下がれ!」


 私は最早第二小隊は壊滅すると見切りを付けて、代えの効かないイチコマンダーを下がらせる。

 まるで豪雨のように雷が降りしきる時間。それが途切れた時、十数人いたイチゴ怪人はそのほとんどが焼け焦げ、弾け、引き裂かれていた。立っているのは、私、クルセイダー君、避けきったヘルガーと下がったイチコマンダー。そしてこの猛威を作りだした張本人、ビートショットだけだった。


「なんて、威力……」

『さて、これですっきりした』


 機械の巨人は蒸気を噴き出しながら装甲を閉じ、クルセイダー君に守られた私を睨みつける。


『しかし頭を狙うことに変わりは無い。ここで潰えろ、悪の華……!』






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