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「ヒーローって、そんな簡単に育つものなのか?」




「……ヒーロー育成計画ぅ?」


 無事帰還して夕食の約束にも間に合った私は、帰り道に疑問に思ったヒーローの活発化について調べるよう情報部に依頼した。どうしても気になったのだ。

 数日経って現在、その調査結果を携えたメアリアードに告げられた単語に私は首を傾げた。


「はい。数年前から国の主導で計画されていたそうです」

「そんな話、私は聞いたこと無いぞ」

「どうやらかなり厳密に隠蔽されていたようで、我々の情報網にも上がってきていませんでした。ついこの間まで」


 渡された資料によると、どの悪の組織にも話が漏れていなかった、機密の計画だったらしい。


「それがどうして今になって分かっ……あぁ、花開いたからか」

「はい。そのようで、今回のヒーローの活発化は計画第一陣の新米ヒーローが完成したからのようです」


 育成計画と活発化がどう繋がるのか、そして何故今になって厳重に隠されていた計画が伝わってきたのか。それは、計画が一応の完成をみたからだった。

 ヒーローの活発化は、単純にヒーローが増えたから。計画によって新たに誕生したヒーローが暴れ回っているのだろう。だから昨日のように普段かち合わないような場所でヒーローと接触してしまった、と。そして隠蔽が解けたのはもっとシンプルに、もう隠す必要が無くなったから。


「まだ卵なヒーロー候補生を国で庇う必要はもうない……ということか」


 育成、ということは未熟な時期が絶対あった筈だ。その時に出る釘を打たんと悪の組織の襲撃があってはたまらないので、情報を厳重に隠蔽していた。ヒーローの卵たちを保護する為に。しかし雛は孵った。前線で活動できるくらいには一人前になったので、隠蔽も解除したということか。育てたヒーローたちが活躍するようになれば広く知れることだし、情報を隠し続けるのにもコストが掛かるからな。

 それでも計画の全容はまだ分かっていない。育成計画について分かったことが資料に羅列されているが、虫食いの穴だらけだ。流石に国家が関わっているというだけはある。

 だが、そもそもの疑問。


「ヒーローって、そんな簡単に育つものなのか?」


 ヒーローは、強い。個の強さで圧倒的な数を覆し、追い詰められても鋼の意志で膝を折らずに戦い続ける正義の使者だ。それ故に希少性が高い。言ってしまえば、そんなぽこじゃかと量産出来るようなら今頃悪の組織なんか根絶やしにされている。

 私の同じ疑問をメアリアードも覚えたようで、納得のいっていない表情を見せていた。


「その点はまだ調査不足です。なので調査続行の許可をいただきたいのですが」

「あぁ、許可する。私としても興味があるのでね」


 不思議な現象だ。何が起きているのか私も知りたい。

 一瞬、ユナイト・ガードに所属する竜兄に聞いてみようか、という思考が過ぎったがすぐ掻き消した。真面目な竜兄のことだ。家族の関わらないことで身内の情報を暴露したりはしないだろう。それにユナイト・ガードの発足はつい最近で、数年前から始まっているというこの計画を知らない可能性も高い。

 我々の手で突き止める必要がある。そしてそれを為せるのは、情報部門を置いて他にいないだろう。


「頼むよ。追加の予算が必要なら私に申請してくれれば出す。……出せる範囲でね」

「ありがとうございます。では」


 失礼します、とお辞儀してメアリアードは出て行こうとした時だった。


「メアリアード様、摂政様!」


 勢いよく執務室の扉が開き、焦った様子の構成員が飛び込んできた。着けている腕章からして情報部門。つまりメアリアードの部下だ。


「どうした?」

「大変なことが……テレビを!」


 言われるがままにゴチャゴチャした室内に転がっていたテレビの電源をつける。電波が通じない地下本部でも見られるようにケーブルを引いてあるテレビは一般のチャンネルを映し出した。

 映ったのはニュース。生中継……記者会見?


『……我々は幾多もの苦渋を舐めさせられてきました』


 壇上の中央でマイクを握っているスーツのおじさんはえぇと、国防大臣だった筈。その後ろに整列して並んでいるのは、色とりどりで多様な装束に身を包んだ男女たち。ヒーローだ。しかしどれも見たことがない……いや、会場の端に見覚えがある姿がある。ユナイト・ガードの長官と、植物の鎧を纏った銃士。お母さんと竜兄がいた。


『悪の組織は強い。何故か? それは数が多いからです。強力で強靱な怪人たちは湯水のように湧き出で、悪事を為す。それと引き換えに、ヒーローたちは僅か。いくらヒーローが強くとも追いつけません』


 そう、それがヒーローの泣き所だ。ヒーローは強い。悪の組織という強さと数を両立させた集団であっても、下手を打てば壊滅してしまう圧倒的な強さだ。たった一人のヒーロー相手に何百人が捨て駒として戦って、それでもなお勝てないことがあるということもこの業界では常識。だがそれでも悪の組織が根絶しないのは、ヒーローが少ないからだ。それ故に辛うじて拮抗していられる。

 悪の組織が蔓延っていられるのは、ヒーローが少ないから。

 ではその前提条件が崩れたら?


『ヒーローと国は常に後手に回り、防衛を強いられてきました。果敢に戦うヒーローと警察。それでも守り切れず命を散らした人は大勢いました。遺族たちは泣き腫らし、戦士たちは無力に震え力なく拳を握る日々……』


 並んだヒーローは皆若く見える。それも竜兄のように二十代にも至っていない、ティーンらしき姿もチラホラ窺える。若い、育成……まさか。


『……ですが、その時は終わりを告げました。これからは、我々が攻勢に転じる番です!』


 大臣が大振りな仕草で背後に立つヒーローたちを指し示した。


『ご紹介しましょう! 彼らこそが国が密かに主導していた『ヒーロー育成計画』の第一陣! 若き俊英たちです!』


 その言葉にヒーローたちは一斉に動き、各々のポーズを取った。武器を構える者、バリアのようなものを展開する者、姿を変える者。その特殊な力を目の当たりにして紛れもなくヒーローであると確信した聴衆たちは、歓声を上げる。

 その様子を見て私はため息をついた。


「……やられたな」


 先手を打たれた。調査よりも早く、公開したか。

 メアリアードも動揺している。


「これは……」

「悪の組織共に探られるよりも早く公表してしまうことで攻めに転じたんだ。調査能力の低い悪の組織なら寝耳に水で浮き足立つだろう。恐らくはそこが狙いだ」

「ですがわざわざ手の内を明かすだけのメリットは……」

「後は、真実を明かして市民を安心させようという効果もあるか。隠して後から発覚するより印象は余程いい」


 この辺、悪の組織と公的機関の差だな。非合法な集まりである悪の組織は情報をなるべく隠蔽しようと試みるが、表向きクリーンであろうとする公的機関なら後ろ暗くない情報は公開してしまった方が都合がいいというわけだ。


『新ヒーローたちは今後、ユナイト・ガードと協力して正義を執行します!』


 あぁ、それでお母さんたちもあそこにいるのか。

 未熟な新米ヒーローを、統率された組織や先輩ヒーローがカバーする。まったく、これ以上無いほど効果的だ。

 これは……非常にまずい。ヒーローが増えれば、悪の組織の肩身は当然狭くなる。あるいは、宣言通り攻勢に回られ、壊滅まで押し込まれるやもしれない。協力関係にあった相手と縁を切られるということもあるかもな。


「これから……我々にとって厳しい時代が到来するだろうな」


 ヒーローたちの春。怪人たちの冬。

 少なくともこれからローゼンクロイツにも波乱が待ち受けているのは、確かなことだった。






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