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「行くぞ! ローゼンクロイツの更なる栄光の為に!」




 激動の日々が過ぎ去れば、次に巡ってくるのは日常だ。


「うわぁー! 怪人だ、怪人が出たぞー!」

「きゃー! 誰かー!」


 まぁ私たちの日常は他人にとっては非日常なんだけど。


「はっはっはー! このモールは私たちローゼンクロイツが支配したー!」


 今日も今日とて、悪の道。私は適当な怪人を率いてショッピングモールを荒らしていた。

 なんでこんなことをしているのかと言えば、まずしばらく対外に向けて悪の組織っぽいことをしていなかったというのが一つ。ここ数ヶ月、私たちは対黒死蝶に注力していた為、本分が疎かになっていた。悪の組織としての通常営業。即ち悪いことだ。

 悪の組織は言わば悪さを売る稼業。そしてシノギや縄張り争いのために虎視眈々と同業者の弱みを狙い狙っている業界だ。余所から弱体化したと見られれば、すぐさま四方八方から叩かれてパイのように切り分けられてしまう。それを阻止するには悪いことを再開するのが一番だ。だからこうして人の多くて金のあるところを襲撃している。こうして派手に暴れればそれが営業再開の広報代わりになるという寸法だ。


 もう一つは、黒死蝶の件の後始末だ。何を隠そうこのモール、私とはやてがお茶をした、昴星官系列ばっかりが入ったあのショッピングモールなのだ。

 昴星官と強い縁のあるここを私たちが襲撃すると、あら不思議。荒らされた跡地から昴星官、ひいては赤星と黒死蝶が繋がる証拠(偽造)がわんさと出てくるじゃありませんか。既に日本支社の地下に仕込んだ偽の証拠と相まってより赤星への容疑は堅硬となり、牢獄への一直線が更に加速するという訳だ。なので私たちが派手にやっている間、こっそりと偽造証拠は仕掛け終えている。


 だから私たちがやることは悲鳴を上げて逃げていくお客の前で派手に暴れることだ。


「ほらどっかーん!」


 逃げ惑う人々の合間を縫い、モールに並んだ店の一つを爆発させた。既に避難を終えた無人の店が燃え上がる。そして鎮火した店の奥からは隠し金庫が見つかり、その中には証拠が収まっているという筋書き。これで目的は果たした。後はまぁ、今回の出動が黒字になるよう適当に金品を強奪して……


「むっ!」


 風を切る音を察知して咄嗟に身を躱す。私が立っていたそこには、鋭い氷の刃が突き立っていた。

 氷……おっと、ちょいと嫌な予感。


「それ以上の乱暴狼藉は、少しばかり見過ごせませんね」


 頭上から涼しく凜としたテノールボイス。上から降ってきた声に見上げれば、そこにはモールの灯りを後光のように背負った貴公子の姿。それを見た私は小声で呟く。


「……はっ、知らずの内に恩人に刃を向けているとなると、少し可哀想だな」


 氷刃のレイスロット! 奇縁の精算時といった感じかな。

 だが悪く無い。


「来たかヒーロー! 今日はお前がダンスのお相手のようだな!」


 結果的に私たちは奴を助ける形になったが、ヒーローの悪の組織はいがみ合ってなんぼの関係だ。悪の悪が戦う? ヒーローの命を救う? いや、こうして戦い合う方が、私たちにとっての日常だ。

 不敵な笑みを浮かべ、私はサーベルを天井の騎士へと突きつけた。


「聞けば病み上がりらしいが、それで私の相手が務まるかな?」

「お気遣いをどうも。しかしご婦人の相手をするのに弱みを出すほど情けなくはありませんよ」


 流れるように展開した魔法陣から、氷の礫が降り注ぐ。美しくも恐ろしい雨霰はモールに広く展開していたイチゴ怪人たちを貫き、赤い果汁を四方へ飛び散らせる。


「やってくれる! だがそちらにも精算してもらおう!」


 地上部隊を殲滅している隙を突き、隠れていた伏兵による一斉射撃を慣行した。十数の火線により哀れレイスロットは蜂の巣に……ならない。

 貴公子の純白な衣服には埃の一つすらつかず、弾丸は彼の周りを覆う光の膜に阻まれた。魔法少女と同じ障壁。やはり生半可な火力では貫けないか。


「七番隊、八番隊は狙撃を続行。九番隊は狙撃位置をポイントDに変更。他部隊残存兵は私の周囲に集結」


 通信機でイチゴ怪人共の指示を出し、レイスロットを待ち構える。私の必死の対応に対し、当の本人は悠々とした構えで更なる魔法を繰り出した。新たな魔法は氷の剣を生み出す魔法。流麗な刃は幾本か造られると、モールに立ち並ぶ店舗へと飛来した。

 ちっ、当たりだよ。そこは私が狙撃部隊を忍ばせていた場所だ。


「七、八……それから九もやられたか。八割方機能停止とは、まったくやってくれる」


 数を覆すのがヒーローの最低条件。とはいえ見事な狙い撃ちだ。こうも形無しだと、逆にどうやって黒死蝶に敗北したのかが気になるところだよ。


「騒がしい奴原は除去しました。次はあなたに踊ってもらいましょうか」


 滞空するレイスロットがこちらを見下ろしてそう言い放つ。さて……どうするか。確かに奴の言う通り、残りの戦力ではちょっと心許ないな。

 だがこうなることを見越して新戦力を用意しておいたのだ。


「いや、君と踊ってもらうのはこちらだ!」


 高らかに指を鳴らす。それが合図だ。

 即座に壁から飛び出る黒く細い影。それらはレイスロットへと殺到し、その周囲の空間、より正確に言うならば障壁へと纏わり付いた。


「何っ!」


 その正体はワイヤー。しかも、爆弾付きのな!

 驚愕するレイスロットを至近距離での爆発が襲う。並みの人間なら間違いなく粉微塵になっているであろう爆風。しかしそれを受けても、貴公子は健在だ。

 だが流石に、障壁は弱った。


「次だ、行けっ!」


 私の号令と共に、地上へ投影されたシルエットが過ぎ去った。モールの天井スレスレを飛ぶのは、機械の翼を背負った怪人だ。鋼の翼人は脚部に格納されたクローを展開し、動きの止まったレイスロットへ飛び蹴る。


「ハァッ!」

「くっ、コイツは!?」


 鋼鉄の爪を辛くも氷のレイピアで受け止め、レイスロットは目の前の男を直視した。見覚えがあるのかもしれない。ただそれが本物か、複製かは知らないが。


「紹介しておこうか。私の新たな部下、コールスローとメタルヴァルチャーだ」

「あ、俺も明かしちまうんすか」

「どうせバレてるだろう」


 隠れていたコールスローが私の言葉に反応してひょっこり出てくる。先のワイヤートラップは奴の仕業だ。

 コールスロー、メタルヴァルチャー。

 この二人こそが、黒死蝶戦で得られた我が組織の数少ないプラスだ。


「ぐっ、傭兵の……ローゼンクロイツへと降った、ということですか」

「これも仕事だ。悪く思うな」


 クローでレイピアと鍔迫り合うメタルヴァルチャーだったが、その背後に突然氷の刃が出現した。レイスロットの魔法。だが冷静なメタルヴァルチャーは即座に回避を選択。力を抜いてレイスロットから離れ、冷たい刃を木の葉のように舞って躱した。

 身体から離れたメタルヴァルチャーを狙い、追撃しようとするレイスロットを今度はコールスローの構えたマシンガンが妨害した。無事に私たちの上空へと舞い戻ったメタルヴァルチャーと揃って、レイスロットと対峙する。


「……うん、悪く無い。気に入った」


 新入りの働きを見るという名目で連れてきた二人だが、やはり腕がいい。病み上がりといえヒーロー相手にこの立ち回り。流石腕利きの傭兵と言わざるを得ない……おっと、元、か。


「はぁ……何で就職早々ヒーローとヤらなきゃなんねぇんだよ」

「仕事、仕事だ……我慢しろ」


 二人の方は不服のようだがな。


「では貴公子殿。私たち三人と派手にワルツでも踊ってもらおうか」


 向こうは復帰明け。しかもモール内なので切り札たる氷雪機神は出せない。

 対してこっちは三人。イチゴ怪人もまだ少数だが残っている。

 これはもしかして……勝ってしまうのでは!?


「行くぞ! ローゼンクロイツの更なる栄光の為に!」

「「了解!!」」


 全ては総統閣下に勝利を捧げる為に!

 それぞれの得物を手に、私たちは飛び出した。




 ……なお、レイスロットがユナイト・ガードと連携をしていることを忘れていたので、駆けつけた奴らに押されて普通に敗退するのだが。

 まぁ、ヒーローに敗北するのも悪の組織の日常だよね、ということで一つ。






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