表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/281

『収束完了! 行くぞ必殺! メガブラスト!!』




 謹慎が解けた。やったぜ。

 しかし愛しの総統閣下にしっかりと言い含められた。


『ヒーローとの戦闘は絶対禁止!』


 ぷりぷりと頬を膨らませながら話す百合の怒り顔は、正直全く怖くなかったが一応私はお言葉を胸に刻んでおいた。

 それに古来から悪の幹部は怪人をけしかけ後ろでふんぞり返っているというのが基本だからな。中にはそうでもない幹部もいるだろうが、私は自分を策謀タイプだと自認している。

 という訳で、必要なのはデータだ。

 そしてデータ収集において最も効率の良い方法は、実地に出向く以上は無い。


「ヒャッハーッ! 皆殺しだー!!」


 私は遊園地にてショッピングモールと同じ様なことを繰り返していた。隣でヘルガーが「またか」と呆れたかのような表情をしている。

 しかし前回と違って今回はちゃんと頭数を揃えていた。


15(イチゴー)特殊機動部隊! ジェットコースターへ爆薬を仕掛けろ!」


 逃げ惑う人々を適当に煽りながら出した私の指示を聞き、戦闘服を着たイチゴ怪人共がキビキビと動き、我々が襲撃したことで既に停止しているジェットコースターへ爆薬を設置する。

 伺いを立てるイチコマンダーへ私が頷くと、イチコマンダーが懐から取り出した爆薬のスイッチを入れ、ジェットコースターのコースは倒壊した。中々爽快な光景だ。

 私は手元の無線機を起動し部下たちに指示を飛ばす。


「よし、15-2小隊はそのままジェットコースター跡地にて陣地を構築しろ。15-1小隊、コントロールルームはどうなっている?」

『制圧完了しました。全員制圧。被害なし』

「死者はいないだろうな? 迂闊に死者を出すと人質の価値は下がる」

『問題ありません。全員怪我無く捕縛しました』


 よしよし、死人を出すと百合が悲しむからな……。


「ならばゲートを全開にしろ。邪魔な客共を逃がしてやれ」

『よろしいので?』

「人質は従業員がいれば十分だ。いいな?」

『はっ!』


 ハッキリとした返事が無線機の向こうから返ってくる。うんうん。やっぱり指揮ってのはこうじゃなくちゃ。ただイチゴ怪人に指示を飛ばすのは操縦っていうんだ。

 そう、今回のイチゴ怪人は意思を持つ。正確にいえば、イチゴ怪人の部隊の中に意思を持つ存在を紛れ込ませている。

 イチゴの被り物を被せカモフラージュした人間の指揮官級戦闘員……私は彼らをたった一人の指揮官(コマンダー)という意味を込め『イチコマンダー』と呼んだ。

 『15(イチゴー)機動特殊部隊』はイチゴ怪人を軍隊の様に運用する為のプロトコルである。

 基本的に意思を持たないイチゴ怪人を大量に運用しようとすると、どうしても一人では手に負えない。正直ピ○ミンをあれ程大量に運用できるオ○マーは化け物だ。人間業じゃない。

 そこで私はイチゴ怪人の小隊ごとに一人人間の指揮官を付け、私が指揮官に命令する形で部隊を運用する方策を考え付いたのだ。

 あからさまに指揮官だと分かれば狙い撃ちされるので、イチコマンダーたちには高性能センサーヘルメットを擬態したイチゴ怪人なりきりセット(頭部のみ)を装備させている。

 今回連れてきたのは三小隊。第一小隊はこの遊園地のコントロールルームを制圧させ、第二小隊にはジェットコースターの敷地を陣地に変えさせた。第三小隊は……。


『こちら15-3。金品の接収が完了しました』

「ククク、よくやった」


 第三小隊にはコソ泥をさせていた。だって悪の組織だぜ? これぐらいしなきゃ貫録が付かない。人的被害は出さないが……だからといって悪い事を何もしなければ他組織に舐められてしまう。

 その為には仕方のない事だ……。決して強奪した金品を懐に入れる為ではない。ドクターから百合の身体検査の写真を買い取る為に目減りした所持金を補填する為では断じてない。くそっ、アイツめ私に恩があるくせにアコギな商売しやがって。


「……せめて半分は組織に入れろや」


 ギロリとヘルガーが睨んでくる。むぅ、仕方ない。流石に横領を百合に報告されては私もどうなるか分からないからな。謹慎では済まないかもしれないし。


「……お前に半分じゃ駄目か?」

「賄賂は受け取らねぇよ」

「ちぃっ」

「お前ホント……」


 そんなやり取りをしていると、私たちが今居る中央広場から民間人の気配が消えた。どうやら遊園地に遊びに来ていた客は全員逃げおおせたようだ。これで人的被害を気にせずに済む。

 ここまでお膳立てして奴らが来ない筈が無い。


『空間異常を感知。摂政殿の10m先です』

「了解した」


 遊園地の駐車場に停めてある装甲車にて待機し、私たちを観測していた研究員から連絡が入る。どうやら来たようだな。

 私の目の前の空間が歪み、虹色に光る円形の穴が現れた。

 空中に浮かんで固定された穴は、輪郭が時計の文字盤の様でどこか機械的だ。

 そしてそんな穴から、人間にしては巨大なシルエットが滲み出る。


『ゲート通過! 現場に到着!』


 出現したのは、機械の体を持った巨人だった。

 全高はおよそ3m程。重厚感溢れるボディは青色に彩られていて、その双眸は複眼を思わせる。

 頭部と背中からは黒い立派な角型のパーツが生えており、そのシルエットにただ鈍重ではないことを想起させる攻撃的なアクセントを加えていた。

 第一印象としては、直立した二足歩行の機械のカブトムシ。

 その機械の巨人に追随するように幼げな顔立ちの少年も現れた。


「ビート! ……うっ! ひ、ひどい……」


 少年はジェットコースター跡地から立ち上る煙を見て目を瞠った。何も知らない人間から見れば相当な被害に見えることだろう。

 少年はきっとこちらを睨みつけ、毅然と言い放つ。


「お前らはローゼンクロイツだな! よくもこんなひどい事を……!」

「はは、それは私たちにとって褒め言葉だよ、少年」


 憤る少年に私は笑みを浮かべて答える。見れば中々可愛らしい少年だ。短く刈った黒髪に、やんちゃさを示すように日に焼けた肌。休日である今日は何処かに遊びに出ていたのか、短パン姿だ。予め写真で確認はしていたけれど、やっぱり生身で見ると少し印象が変わるな。実地に出ることの重要さが身に沁みる。


「お初にお目にかかる。私は〝紫電〟と呼ばれる女。エリザベート・ブリッツという。ふふ、お見知りおき願うよ、かわゆい少年」


 妖艶な微笑を作りながら語りかけると、少年は顔を赤くしながら怒った。


「か、可愛いっていうな! 俺は黄金(こがね) 雷太(らいた)って名前があるんだよ!」

「知っているとも、雷太君。そちらの機械の御仁もね。ビートショット君、だったかな」


 私が水を向けると機械の巨人――ビートショットは唸りを上げた。


『……ローゼンクロイツ。何度か戦ったことはあるがお前とは初めてだな。当方とわざわざ矛を交えに来たのか?』

「まさか、たまたま用事があっただけさ」


 おいおい、ビートショット君鋭いな。勿論目的を晒す事はしないが、それでもちょっとドキッとしたよ。


 ビートショット&黄金雷太は異星からの来訪者と、その協力者である少年のコンビヒーローだ。

 雷太少年の遊び場にしていたジャンクパイルに、突如として落雷が落ちた。不思議な事に落雷はその場に留まって、球状を形作る。

 そして、すぐ傍にいた雷太少年へとSOSを送った。

 雷太少年はそれに答え、持っていた玩具のロボットを雷へと差し出し……そして契約が成った。

 不思議な雷の正体は異星よりやって来た電磁生命体で、この星へとやって来た別の電磁生命体を止めるために追いかけてきた正義の雷だった。雷に触れた玩具はたちまち周囲のジャンクを吸収して強靭な四肢をもつロボットに変じる。こうして少年と電磁生命体の戦いが始まった。


 ビートショットと名付けられたヒーローは、雷太少年がスイッチを押さなければ玩具から戦闘形態へと変身できない。だから常に一緒に活動し、緊急時にはビートショットの力でゲートを開いて急行する。

 今こうして目の前に彼らがいるように。


『どの道、当方の目の前で悪を為す者を見逃す事は出来ない』

「ああ、やってやるぜ! ビート、〝メガブラスト〟だ!」

『応!』


 少年の掛け声に、ビートショットは胸部の装甲を開きエネルギーをチャージし始めた。

 その行為の意味を、私はデータで知っている。しかしいきなり来るのか!


 ビートショットは金色にスパークするエネルギーを制御しきり、胸の前で球状に束ねた。


『収束完了! 行くぞ必殺! メガブラスト!!』


 エネルギーは雷の奔流となって私に向かって照射された。見て分かる凄まじい電圧だ。まともに食らえば私程度消し炭になるだろう。データ上百合は耐えられるけど。

 だが当然、それを知っていれば対策はある。


「クルセイダー君! 前に出たまえ!」


 私の号令に、背後で待機していた怪人がヌッと前に出た。

 ガシャリと足音を鳴らす怪人は騎士甲冑に身を固め、私くらいの大きさならばすっぽり全身を隠せてしまえる大盾を持っている。

 そして当然の如く頭部はイチゴだった。

 我らの盾、イチゴ怪人クルセイダー君である。


「受け止めたまえ!」


 インカムを通した私の指示にクルセイダー君は大盾を構えながら私の前に立ち雷に立ちはだかった。

 そして真正面から立ち向かう。


 その瞬間、まさしく落雷のような轟音が周囲一体に轟いた。

 衝撃波も発生し踏ん張りきれなかった私はヘルガーに受け止められる。


「む、済まない」

「しっかり立ってろ」


 ヘルガーに礼を言って、私は再び正面に向き直る。クルセイダー君は……健在だった。盾からは若干煙が上がっているが、その背中は一切揺らいでいなかった。


『何!?』

「ビートのメガブラストを受け止めた!?」

「いきなり必殺技とは……中々物騒なヒーローじゃないか」


 最も、そういう容赦のないヒーローは好みだがね。


「さて対決だ! イチゴの騎士対機械の巨人! 果たしてどちらに軍配が上がるかな!?」


 まぁ十中八九向こうだろうが。

 それはそれとして今、正義の機械ヒーローと私たちの努力の結晶たるイチゴ頭の騎士が激突する!

 ……ビジュアルもう少しなんとかならんかったかなぁ。






ビートショットのイメージはヒー○ーマン×トラン○フォーマー×カブテ○モン。

少年と共に並び立つ王道ヒーローをイメージしました。

ちなみにユニコルオンはタツノコヒーローを意識しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪のイチゴヘッド騎士…中々にシュールな光景ですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ