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「はいはい。ローゼンクロイツは野蛮ですよ」




「あぁよかった。ジェットコースターは復旧していたみたいだ」


 ホッとした。折角遊びに来たのに目玉の一つが潰れていたらと思うと。

 かつて私が襲撃した遊園地は惨事の跡など無かったかのように復旧していた。ジェットコースターはリニューアルされ、人の入りも上々だ。休日ということだけあって、とても賑わっている。


「折角来たのに閑散としてたら面目が立たないところだったよ……」

「最近は悪の組織に襲われた際の保証とかもしっかりしてるからな。人の集まるところは狙われやすいから保証金も高いんだよ」


 隣でポップコーンを食べながら、竜兄がそう解説してくれた。

 まぁ、それならなによりだ。襲った側が言うことじゃないが、壊れたままよりも直っていた方がいいのは確かだ。……悪の組織的にはまた襲うからという意味が含まれているが……。


 百合はお父さんお母さんと手を繋いで先を行っている。予想通りのはしゃぎっぷりだ。

 悪いけど、私は百合ほど楽しめそうにない。


「……あの辺で下半身不随になったんだよねぇ」

「そういう話やめろよ……」

「まぁ恨んではないけどさ」


 この遊園地で私とビートショットは戦い、そして電撃を受けて私は負傷した。その結果下半身は感覚はあるものの動かなくなり、今歩いてるこの時も補助器具が外せない。

 別にそれを恨みに思ったことはない。動けてるならそれでいいと思ってるし、むしろ脚力は前よりも増している。

 ただわざわざ痛い思い出の蘇る場所ではしゃげないだけだ。


「恨んではないけど……」


 遊園地をよく眺めてみれば、ところどころに急造の跡がある。来園客からは巧妙に見えないようにしているが、注意して見てみればいくつか目につく。

 保証があったとはいえ、民間の遊園地にとっては大きな経済損失に変わりは無い。それにあの時私たちは、金目のものを随分といただいた。遠のいた客足を戻すためにも涙ぐましい努力があっただろう。

 そして何より、あの時あそこにいた家族たちは忘れられない恐ろしい思いをした筈だ。


「………」


 少しだけ、モヤッとした気持ちになる。

 これからもっと同じような思いをするだろう。でも私は止まる気は無い。私が背負わなきゃ、いつか百合がこんな思いをすることになる。それだけは、駄目だった。

 償うことはきっと永遠にない。


「……まぁ、だったら精々金を落とすか」

「ならあそこのフランクフルト買ってくれよ」

「妹にたからないでよ。ヒーローって安月給なの?」

「装備を考えると湯水のように消えていくんだよな……」


 そんな感じのことを言い合いながらも、私たちは遊園地を私たちなりに楽しんだ。主に堪能したのは百合で私たちは付き合ったという側面が大きかったが、それでもそれなりに楽しかった。

 お父さんお母さんに見守られながら、いい歳してメリーゴーランドに跨がったり。

 三兄妹で乗ったコーヒーカップを無茶苦茶に回した結果、一番三半規管が強かったのが百合だと判明したりした。総統紋の身体強化ってそこにも働くのか……。

 ジェットコースターに乗った時は「私が戦ったのはあの辺かな……」とか気になって楽しむどころじゃなかったけど。

 まぁ散々遊んで、流石に疲れてきたから遅めの昼食にしようかと相談していた時だった。


 突如園内全域を劈く轟音が鳴り響いた。来園客から悲鳴が上がる。

 竜兄は瞬時に警戒モードに入り、目付きを鋭くして周囲を見回した。私も同じようにする。


「……何?」

「……事故、か? それにしては音が大きかった。まるで、爆発……」


 竜兄と顔を見合わせ、顰める。折角楽しくやっていたところなのに、青天の霹靂もいいところだ。

 すかさず懐からインカム型の通信機を取り出し、ヤクトへと連絡を取る。奴は今、駐車場で待機している筈だ。


「ヤクト、何があったか分かるか?」

『通信傍受によると、どうやら謎の爆発が起こったようです』

「爆発……」


 穏やかじゃなさ過ぎる。

 とにかく優先すべきは百合の避難だ。ざわざわと騒がしくなってきた来園客の声に負けないよう、百合に向かって声を張り上げる。


「百合! お母さんとお父さんを連れて駐車場に行って!」

「え、お姉ちゃんは!?」


 調べてくる、と言うと着いて来かねない。


「お父さんとお母さん守って!」

「! ……うん!」


 そう言うと、百合は二人の手を引いて駆け出していった。両親は二人とも心得た顔をしている。会話いらずだ。

 それを見送りながら、竜兄を見上げる。


「……あくどいかな?」

「いや、いいんじゃないか。百合を巻き込めないしな」


 お父さんお母さんを守るように言えば素直に聞くだろうと思った。実際百合の能力なら二人を余裕で守れる。ただ戦いには向いてないから、実際にはお父さんお母さんが百合を守る形になるだろうけど……。

 取り敢えずこれで行動できる。


「爆発はどこで起きた?」


 ヤクトと連絡を取りながら竜兄と一緒に事態の中心地へと向かう。


『しばしお待ちを。情報が錯綜して……恐らくは、ジェットコースター付近かと』

「……よりにもよって」


 私は深いため息を吐いた。

 因縁だ。だけど嫌がってもいられない。

 人混みと避難誘導する係員を掻い潜って、現場へと走る。


 すぐに見覚えのある景色になった。無人の遊園地の広場。どうやら爆発のあった場所からは係員も遠ざかっているようだ。

 この広場で私とビートショットは相まみえた。そしてすぐ近くには、ジェットコースター乗り場がある。

 あの時と違うのは、ジェットコースターが崩壊しておらず、レールの一部から煙が上がっているだけだということだ。


「お前よりも紳士的のようだぞ」

「はいはい。ローゼンクロイツは野蛮ですよ」


 どのみち係員の目がないのは好都合だ。存分に暴れられる。……また野蛮だと言われそうだけど。


 下手人と思われる影はジェットコースター乗り場へと続く階段にいた。二人組。一人は座り、一人は階段を登り切ったところに立っている。

 ……知った顔ではないけど、知った姿だ。


「黒コート……!」


 あの時立体駐車場で相まみえた、黒死蝶と思われる黒いレインコート姿の男たち!

 隣に立った竜兄が問うてくる。


「知り合いか?」

「なんだったらお知り合いになりたいね……」


 敵の正体は私も是非知りたいところだ。


「それで? また偶然の出会いかい? それとも狙って?」


 ショッピングモールで出会ったときのように偶然のエンカウントなのか。それともはやてが傍に居なくなった私を狙っての襲撃なのか。いずれにせよ、私としては戦う気満々だ。こいつらの正体に迫りたいし、それに竜兄がいる。


「……俺にとっても敵か?」

「少なくとも、市民の被害はあまり考えないタチだよ」

「そうか」


 竜兄は頷くと、腰のホルダーからタリスマンを取り出した。


「――変身」


 そう呟くと同時に蔦のベルトが現れ、中心部へ青紫のタリスマンが装填される。竜兄の身体を光と花びらが覆い、晴れた時にはそこにいたのは一人のヒーローだった。


「我が名は、銃士、ジャンシアヌ!」


 名乗りを上げた竜兄に、私は内心でガッツポーズを取った。よし、今回は竜兄は味方だ。ヒーローでとても強力な竜兄が一緒に戦ってくれるなら、今度こそ勝って正体を突き止められるかも知れない。

 更に言えば、対策もバッチリだ。

 蝉時雨に頼んで作らせた魔術に対してのみ効果を発揮する護符を持ってるし、スモークを使われても相手を見つけられるゴーグルも所持している。こんなこともあろうかと持ち歩いててよかった。


「さあ、そのフードを剥がしてやる!」


 荷物の中から意気揚々と拳銃を取りだし、黒コートへと突きつけた。

 その瞬間、男の片方が動きを見せた。

 魔術か? それとも銃か? どちらにしろ、華麗な反撃を見せてやる。


「……あ?」


 だが、黒のレインコートをはためかせた男が見せた動きは、私にとって予想外のものだった。

 何故なら男はそのまま浮かび上がり、私たちを上から睥睨したからだ。

 その背中には、機械の翼が生えている。


「べ、別人!?」


 空を飛んだレインコート男は、そのまま私たちへ急降下して飛びかかってきた。






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