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「で、お姉ちゃん。言い訳は?」




「見たところまだ少女のようだが、戦う心得がお有りで?」

「まぁ、それこそ心得程度だがな。実力を見せてくれた返礼という訳だよ」


 距離を離し相対する私とユニコルオンは軽口を叩き合う。中々おしゃべりなヒーローだなぁ。

 私の背後から、ヘルガーが耳打ちする。


「おい、大丈夫か?」

「いざという時は助けてくれよ」

「じゃあ俺にやらせればいいだろう……」

「いや、一応一回は当たってみないとね」


 敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。

 私の座右の銘の一つだ。ちなみにもう一つは百合LOVE。当たり前だよなぁ?

 改造された私の戦闘能力がヒーロー相手にどれだけ通用するか、そしてヒーローとの実力差はどれくらいか。一度は試してみないと分からない。とてもじゃないが敵も己も知れたとは言えないだろう。

 だからこそ、命を賭してでも確かめる価値がある。


「手遅れだった場合は脳と脊髄引っこ抜いてホルマリン漬けにしといて。いつか復活できるかも知れないし」

「アイツさっき頭を砕いていたけど」

「……まぁ、骨は拾っといて」


 私はヘルガーの隣から一歩前に踏み出した。

 腰の光忠を抜き、正眼に構える。

 ユニコルオンは目を瞠った。


「驚いた……様になっているな」

「摂政は後方でえばってばかりで戦えないとでも思ったか? これでも現在、〝ローゼンクロイツ最強の怪人〟は私なのさ」


 まぁ表向きはそうなっているのだけど、実際は私の後ろで控えているヘルガーこそが最強だ。それに比べれば私は平怪人にすら勝てないだろう。流石に一般兵士やイチゴ怪人には勝てると思うけど。


「ほぅ……」


 ユニコルオンは私の背後のヘルガーを流し見る。あ、そうか。ユニコルオンは長年ローゼンクロイツと戦っているんだから、そりゃ面識があってもおかしくは無いよな。

 だが今回は誤解したままでいてもらおう。


「ふ、そういう事だ」

「成程、それは楽しみだ」


 ユニコルオンは格闘の構えを取る。先程蹴りを放つ前に構えた体勢だ。確か聖騎士甲冑術と言っていたな。

 聖騎士甲冑術。それはユニコルオンが修めたといわれている武術である。古くは戦国時代より伝わる小具足であり、その成り立ちには海外より渡って来た教会に仕える騎士が関わっているとか……眉唾だな。

 しかしその威力は先に証明されたように凄まじい。加えて使い手本人の格闘センスも抜群だ。キックN時の空中での動きを見れば一目瞭然である。まさか戦国時代の武術にスラスターを使った技が有る筈もない……無いよね?


 ユニコルオンは三度地を蹴る。その動きに衰えは無い。

 その勢いのまま繰り出された一撃を、私は光忠で正面から受けた。

 日本刀というのは横から受ける衝撃には脆いが、刃の正面から受ける負荷に対しては驚くほど強い。それは所謂峰という後ろの部分が刃に反して柔らかく作られているからだ。

 刃は固く全てを切り裂き、背は柔らかく全てを受け流す。このタッグがあるからこそ日本刀は鉄すらも切り裂く切れ味を誇る。

 刃先が欠けないかということだけが心配だったが、なんとか耐えてくれたようだ。そのまま刀で受け流し、初撃を凌ぎ切った。


「ほぅ……」


 勢いを乗せた突進を受け流されたことにユニコルオンは感心したようだ。少し口角を上げている。

 しかしこっちは笑っていられない。刃で受けたということはつまり、刃が相手に立てられたということだ。加えて相手の勢いで切り裂いた、ということでもある。

 だがユニコルオンのスーツは無傷そのものだった。やはり防刃か。


「受け切るとは。確かに少女の業前ではないな」

「一応僅かながら筋力も強化しているんでね」


 事実だった。ヒーロー相手に克ち合うということで、ドクターに頼み若干ながらの筋力強化施術を終えていた。とはいえ総統紋を使いこなせていない百合にも劣るくらいの微々たる強化でしか無く、人間の域を超えてはいない。精々が女子高生ではありえない領域の筋力といったくらいか。

 だが効果はある。筋力があれば刀術も存分に振れるということだ。筋肉が足りず扱うことを断念していた技も、今の状態なら使える。

 問題は防刃相手ではほぼ無意味ということだが。


「シッ!」


 ユニコルオンは追撃としてハイキックを放った。キックの威力は当然ながらパンチよりも強い。約三倍といわれているから、単純計算で7tの三倍の21tか。車の衝突並みの衝撃だな。

 当然ながら受けられない。上体を逸らして躱す。


「ハァッ!」


 そのまま体を回転させて二撃目の回し蹴りを繰り出してきたが、それは一歩離れて避けた。荒事の経験はこちらとて決して少なくは無い。

 回し蹴りも避けられたことによって体勢を崩したユニコルオン。そこを狙って光忠を振り下ろす。


「チェストォ!」


 私が修めた刀術は示現流ではないが、全力を込めた振り下ろしにはつい叫びたくなってしまう掛け声だ。

 改造前とは段違いの速度で振り下ろされた光忠を、ユニコルオンは右手で受けた。防刃なため傷はつかない。


 が、触れたな?


「油断が命取りだ!」


 両目が紫色にスパークし、腕から迸った紫電が刀身を伝い白いスーツへと感電する。私が持つユニコルオンに唯一通じそうな攻撃手段、発電能力だ。

 威力はヘルガーに放った時と同じ10万ボルト。さぁ果たして?


「がぁっ!?」


 呻きを上げ、膝を付くユニコルオン。

 効いた! やはり電撃は効果がある!

 しかし動くことは可能だったようでユニコルオンは腕を振るって刀を振り払い、バックステップで私から離れた。くっ、結構動けるな。


「これは……成程、故に〝紫電〟という訳か」


 バイザー越しの目線が私と克ち合った。奴の視界にはおそらく、薄紫色の私の瞳が映っているだろう。


「お気に召していただけたかな? これが本当の〝挨拶〟だ」

「小手調べの一撃、って訳か」

「そういうことだ」


 嘘です。割と全力でした。

 カタログスペック上のほぼ百パーセントの出力だ。試してみたところもう少し頑張ればもう少し出力アップしそうだとは感じたけど、一応定められたスペックは超越しないよう心がけた。安全性を少々問題視していてね……。あの時の研究員の話をまだ聞けていないんですよ。お互い忙しくて。


 ユニコルオンは手を握ったり開いたりして具合を確かめている。その動きに違和感は無く、麻痺の効果も薄いようだ。


「多少は痺れてくれたのかな?」

「少しな。感電耐性は十分だった筈だが……やはり攻撃に使われるとある程度通るな」


 うぅん、全力でやってもこの程度か。こりゃ勝てないな。

 ここは撤退しよう。


「ふ、顔見せには十分だろう」

「何?」

「今日の所はここまでにしておく。また会う日を楽しみにしていてくれたまえ」

「待て! 逃がすと……」

「煙幕弾、発射」


 私がインカムで指示すると、何処か遠くからミサイル状の物体が飛んでくる。

 それは私とユニコルオンの間で着弾すると、周囲に黒煙を撒き散らした。


「ぐぅ!?」

「ヘルガー!」


 私の合図にサーモグラフィーゴーグルをつけたヘルガーが答え、私をお姫様だっこで抱える。この為にヘルガーを温存しておいたのだ。

 ユニコルオンに捨て台詞を置いていこう。


「〝紫電〟のように立ち去るとしよう。さらばだ!」

「くそっ、待て、うっ」


 固い物が床に落ちる音が聞こえた。どうやら膝をついたのかな? 電撃はそれなりには効いていたのかもしれない。

 ヘルガーに抱えられた私はその場を離脱した。


「じゃあ解析班と合流して帰還しようか。追っ手は撒けるか?」

「秘密結社なんてやっているんだ。〝お手〟の物さ」


 私とヘルガーは解析班が待機していた装甲車と合流し、追走を躱し拠点へと帰還した。

 損害はイチゴ怪人エンハンスドタイプ一機、装甲車用煙幕ミサイル四機。

 得られた戦果はユニコルオンのデータとショッピングモールの小火。

 まぁトントン、といったところか。






 ◇ ◇ ◇






「ヒーローと戦ったんだってね? お姉ちゃん」


 帰還した私を出迎えてくれたのは、最愛の妹の笑顔だった。

 にっこりと笑ったその可愛らしい笑みに、しかし私は戦慄を覚え冷や汗を流した。


「……あー、諸君らは持ち場に戻って解析。一通り終わったら今日はもう上がっていいぞ」


 私はヘルガー以外の部下たちをそれぞれの部署に帰し、大人しく百合に連れられ総統室に連行された。

 扉を閉め、執務机の前に立った百合を前に私は被告人のように立たされる。


「で、お姉ちゃん。言い訳は?」

「いや、その前に何故ばれた? こんなに早く……」


 私はそこまで言いかけて、ハッとして振り返った。

 視線の先には、素知らぬ顔で口笛を吹く狼面が居た。


「お、お前……! チクったな!」

「偉大なる総統閣下の御命令をお聞きしたまでです」


 くっ、先んじてヘルガーに監視を命じていたのか。

 成程、無茶をすれば副官であるヘルガーを通じて百合へと連絡がいくのか……口封じは無理だな。ヘルガーの忠誠心は揺るがないだろうし、物理的に封じるのはもっての外だ。普通に返り討ちにあう。

 私は大人しく運命に従った。


「オーケイ、オーケイ。妹よ。確かに私は戦った。それは認める」


 ハンズアップし観念した仕草で弁解を始める私。認めたことで百合の視線が鋭くなったが、私は言葉を続ける。


「でもエンハンスド君がやられてしまったからね。退却の時間を稼ぐには私が戦うしか無かったんだよ」

「ヘルガーさんが居たんじゃ?」

「おいおい妹よ。ヒーローと戦う以上危険なのはどちらも変わらないだろう?そこに優劣は無い」

「う……確かにそうだけど」


 お、押し切れそうだな。

 しかしそこで百合の傍に控えていたヤクトが口を挟んだ。


「総統閣下、摂政殿の発言に騙されますな。ヒーローとの戦闘経験が豊富なヘルガー殿が戦った方が遥かに効率は良い筈です。それなのに摂政殿がヒーローと対峙したのは危険行為以外の何物でもありますまい」

「そ、そうだよね」


 ちぃ……!

 ヤクトめ、余計なことを。

 近衛騎士であるヤクトは総統の副官を任されるだけあって頭が回る。更に戦闘経験が豊富なのか分析も正確だ。

 そんな彼が百合の補佐をしてくれるのは頼もしい限りだけど、今現在に限れば邪魔以外の何者でもない。


 どうやってこの場を切り抜けるか? 脳を回転させて作戦を練り、この場を脱しようと画策する。

 しかし実行するよりも早く百合は判決を下してしまった。


「しばらくお姉ちゃんは外出禁止ね」


 私は偉大なる総統閣下から直々に謹慎の令が下された。






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