先輩女神の評価は……
「はぁ……はぁ……」
「案外弱っちいんですね。先輩って」
「……だって……エレナが……強いだけ……」
「こんなもん普通ですよ。ただ私がめんどくさいと感じてるだけで」
システィは、移動時はいつも走っているくせに、どうやら体力は全然ないようだった。
エレナが感じた事だが、ざっと五百メートルほどの全力疾走。普通の人は息が上がってもおかしくない距離なのだが、エレナは最近まで冒険をしていたので、普通の人の何倍もの体力がある。
「でもさ……ここって全部白だから疲れる」
「言い訳ですか。それとも演技なんですか。確かさっきはもっと長い距離走ってた気がするんですけど」
「……あれは、ただ魔力を、使った……だけ」
「魔力って結構凄いんですね。でもここでは魔法使えない気がするんですけど?」
エレナは、魔力の意外な使い方をシスティがしていたので、かなり興味深々だ。
というより、システィは今回は魔力を使わなかったのか。エレナは、やはりシスティの思考回路はなかなか読めない。……ただ、今回に限ればなんだか読めそうな気がしないでもないが。
「それはこの服のおかげだよー」
「結構なチートですね。それって」
「でもここの服って全部そんな感じよー。というよりも、そういうのなかったらプロジェクト出来ないし」
「結構それって重要なんですね。ただのきれいな服だなーって思ってました」
「まあ私たち女神だし多少はね?」
「まあそうですよねー」
すっかり忘れかけていたプロジェクトの話を、エレナは今思い出した。
というよりも、エレナも最近この女神界の雰囲気に染まりつつある。
エレナはまったく気づいていないようだが。
「まあ、何はともあれ服は早急に選ばないとなんだけど……」
「なぜ詰まるんですか。早く言ってくれないと困りますよ」
「相変わらずエレナはせっかちだなー。今話すって」
「そう言っていつも話題がそれるんで早くしてって言ってるんです」
エレナも、最近かなり変人の仲間入りをしてきているのは気のせいではないはずだ。
しかし、エレナはそんな自分の変化に気づいていない。ただ、まあ人というのはそのようなものなのだろう。
「あ……誰か走ってくる」
だから言ったじゃないか、とエレナは思った。
さすがに口には出さなかったが。
「ん?リー?なんでここにいるのさ」
「だからなんだってんだ。ただ私がここにいたいから居る。それだけなんだ」
「……はい?」
リーと呼ばれた女神は、どうやらシスティと同じく面白い思考回路を持っているようだ。
エレナは、少し警戒しかけたが、システィと仲が良いのをみると、すぐに警戒を外す。類は友を呼ぶ、それがエレナの考え方だ。
リーは、青い目、青い髪、そして青の少し透けたワンピース、と見事に水の女神のようだった。
腰までありそうな青い髪はきれいに梳かされており、風が吹くとさらさらとなびきそうだ。
そうして、とても整った顔。ただ、これは自分で考えた理想の女神様を自分に当てはめただけの顔なので、元の顔はまあ考えないほうがいいし、考える理由もないだろう。
「初めましてです。私の名前はリナ。女神やってる、です」
「やだなーもう、エレナはもう勘付いてるって。この子鋭いからー」
「これくらい当たり前だと思うんですけど。で、リナさんですね。これから宜しくお願いします」
「だーかーらー、エレナは堅いってー!私初めてリーに会った時からずーっとため口だったんだよー?」
「こいつは、先輩への口のきき方がなってない、です。馴れ馴れしい」
案外リナはエレナと同じ性格をしているのかも知れない。
エレナは、そんなシスティとリナを見ていて、やっぱりこの組み合わせって鉄板なのかな……と、ひそかに思う。
ただ、見るからにリナのほうが童顔かつ背も低かったので、てっきり後輩だと思い込んでいたが、どうやら違ったようだ。
「でもでも~私とリーは一番最初から一緒だったわけだし~」
「教育係だっただけ、です。こいつには苦労させられっぱなしだ」
「リナさんも大変ですね……」
システィが、お茶らけたことを言うと、二人はかわいそうなものを見るような目でシスティを見る。
「何でそんな目をして私をみるのよー!」
「だって実際そうじゃないですか」
「システィの教育係になってから、仕事量が三倍になった、です。あの時には真面目に恨んだ。借りは早く返せ、です」
「……システィ先輩、さすがにそれはかわいそうだから返してあげてくださいよ」
「……えっ?何何?私何か悪いことした?」
「「当たり前じゃないですか。人にすっごい迷惑かけて」」
システィが涙目になった。
しかし、こう言う時のテンプレ、走って逃げるという事はしなかった。
「あっ、この話題すぐ逸らす女神じゃなくて、こっちの真面目そうなリナさんに聞きたい事があるんです」
「……私、教育係なのに」
「どーぞ、です」
エレナは、システィに質問をする事はあきらめ、リナに質問するようだ。
はぶられたシスティはすねて、頬を膨らましているが、自業自得だ。仕方がない。
「ここで魔法とか、魔力を束手走るとか、そんな高度な芸当は……」
「結論を」
どうやらリナは、エレナよりせっかちのようだった。
「魔力って一日一回しか使えないんですか?」
「全然そんな事はない、です。こいつがただポンコツなだけ」
「何で私がポンコツ扱いされないといけないのよ――!」
「「だって実際そうじゃないですか」」
何故かエレナとリナは、二人でハモる事がおおいな、と思った。
もしかしたら実際に、とても相性がいいのではないか、と、二人とも期待する。しかし、そんな思い気づかない。二人とも鈍感なのだ。
「で、こいつはただ単に魔力の貯蔵量が最低レベルだったってだけだ」
「中身までポンコツだったってわけですね―」
「というより、こいつは女神として実体化している事も出来ないほど魔力の貯蔵量がない、です。
だから地上に魔力分けてもらいに行ってるんだ」
「だからシスティ先輩は私が何で地上に行くかって聞いた時口ごもってたんですね―。隠す必要なんてないと思うんですけど。情けないですが」
「だって私地上にいたころずっと剣士やってたし――!」
システィの意外な事実が分かった所で、エレナは一安心した。
それも、システィがただポンコツだったというだけで、魔力は普通の人なら何度でも使える事が発覚したからだ。
しかも、エレナは地上にいたころ、魔法使いうをしていたので、魔力量と扱い方には自信がある。
どうやら魔法に困る事はなさそうで、エレナは一安心する。
「なんとなくわかりました。それはそうですが、私、服どうしたらいいんですか?今のままだとあまりにもミスマッチのような気がするんですけど」
「それくらい私もっしょに決めさせてよーー」
「絶対嫌です。絶対話題それて決まらないから」
エレナとシスティがいつもの会話をしていると、リナがすっとタブレットを差し出してきた。
そこには、たくさんの服がラインナップされており、見ているだけで楽しくなってきそうだ。
「あ、ありがとうございます。凄い種類の服があるんですね」
「いえいえ、です。服は変えられるから、適当に選んでいい、です」
「そう簡単に変えられるものじゃないじゃん――!」
「それはシスティが何の役にも立っていないから給料もらえないからだ、です」
「システィ先輩って、本当に人生損していると思いますよ」
エレナは、システィの事を少しは評価していたが、リナの言動を見るに、相当の問題児のようだ。
やはり評価は下げたほうがいいのかもしれない。
と、思いながら、エレナは服のリストを探っている。そこにはきらびやかな装飾が施されている物から、そこそこ質素でありながら上品なものまで、たくさんのものがあった。
「じゃあ、この中から選ぶといい、です」