顔を変えよう!
エレナは、システィの美貌がもしかしたら作られたものかも知れないかもと知って、少しショックを受けた。
ただ、女神、という職業に就くのだ。やはり神々しさを保つためにはかなりの美貌でなければならないのだろう。
「えーっと……ってかちょっと気持ち悪いかも」
エレナは、まず目もとのパーツから決めていくようだった。
そこには、切れ長の目から垂れ目、そしてまつ毛の量や目の色までおよそ百種類もの目が表示されていた。
そのページにぎっしりと眼が表示されているので、エレナには少し気持ち悪いと感じたようだ。
「なんか自分のアバター作ってる気分」
と言いながら、エレナはたくさんの種類の目から、自分の好みであるものを探す。
「あっ、これ私好みかも」
そう言ってエレナがタップしたものは、切れ長で、上品な朱色の目だった。
かなり即決のような気もするが、案外悩みすぎるよりはいい選択をするものなのだと思う。
そうして、エレナが決定ボタンを押すと、そこに顔のようなものが現れ、エレナが選んだ目が取り付けられた。
「ちょっと待って。これ決定押しても変えられるの?」
そこには、つけなおし、というボタンが緑色に光り輝いていた。
どうやら、最終決定するまでは何度でもやり直しオッケーらしい。
「私が持っていた緊張感を返してほしい……」
エレナは、次は鼻を選ぶようだった。しかし、鼻のきれいな形はそれほど種類が多くない。
エレナは、即座に決定ボタンを押し、次は口を選ぶ。
お気に入りの形を見つけたのかまたそれもすぐに決まったので、最後は髪の毛だ。
「……あれ?これ輪郭とかって勝手に決められちゃうの?せっかくここまで自分好みの女神様をデザイン出来たのに」
顔の輪郭は変えられない、もしくは勝手に決定される事を知り、エレナは少し残念がる。
しかし、エレナは別に今のままでも十分きれいなので、今のままの輪郭線でも違和感はない。
そうして、髪のページを開いたエレナは、少しぎょっとした。
「何で髪の毛一本一本しか表示されないのよー!」
ついつい叫んでしまった。
その時、その叫び声を聞いたためかどうかわからないが、システィが帰ってきた。
「ごめんごめーん。ついつい話し込んじゃった」
「楽しかったですか?」
「珍しくエレナが優しい!楽しかったよ」
「楽しんできた後悪いんですけど、私の容姿決めを手伝ってくれませんか?」
「全然いいよー。でも一人で決めなくて大丈夫なの?」
「センス悪いんです!ほんとに」
エレナは、自分の選ぶものに自信が持てないからか、システィに手伝ってもらい、一緒に決めたいようだった。
「今どこ決めてるのー?」
と、システィが言ったので、エレナはすっとタブレットをシスティのほうへ持っていく。
「ちょっと待って、これだと全然決められないじゃん」
「だから困ってるんですよ。これどうしたらいいんですか?」
「でも私の時はもっと束で表示されてたような気がするから……」
「アレンジ例とかは表示されてなかったんですね。今も、その時も」
エレナは、この何がしたいんだかよくわからない、騙す気満々の容姿決定システムにもお怒りのようだった。
「でも、これとか色が私好みなんだよね……」
と言って指をさしたのは、淡い青色の髪だった。
「でもさ、よく考えてみよ。エレナって目の色赤だよねー。ちょっと変かなー?」
「確かにそうですよね。でも髪の毛の色は絶対これがいいし―」
エレナには、髪の色にはかなりこだわるようだ。
変えようとする姿勢が見えなかったからか、システィが言った。
「じゃあ目の色変える?」
「そうします。私、爽やか系のほうが好みなんだと思いますし、赤はちょっと似合わないかもなので」
「じゃあそうしよう!」
と言って、再び目のページを開く。具体的なイメージが固まっているからか、エレナは一瞬で自分のイメージの目をシスティに見せた。
「これとかどうですか?」
「エレナってさ、切れ長の目、好きだよね。でもさ、ちょっと他の人に怖いイメージ持たれちゃうからもうちょっとかわいらしい目のほうがいいかも」
システィが、エレナの先輩として初めてかも知れないオーラを醸し出していた。
それを感じ取ったエレナは、初めてシスティが頼もしいと思える。
「ああ……いい先輩を持ったなぁ……」
「……?なんか言った?」
「気にしないでください」
少し照れくさいからか、エレナはシスティには言葉で伝える事ができない。
何かのタイミングでお礼、しないとなー、とひそかにエレナは思う。
「じゃあ、これとかどうですか?
「それ凄いいいと思う!」
と言って、エレナが差し出したものは、明るい黄緑色の、少し釣り眼気味だがかわいらしい、そんな目だった。
「じゃあ、もうこれでいい?後悔しないね?」
と言って、システィがエレナにタブレットを差し出す。
「大丈夫です。顔はこれで行きます」
そう言って、エレナはタブレットの決定ボタンを押した。
刹那。エレナの顔が謎の光に包まれ、顔のパーツが作りかえられた。
「うんうん。じゃあエレナ、鏡あるから見てみなよ」
「ちょっと怖いですね……さっきまで黒髪黒目の普通の人だったってことを考えると」
「怖くないからだいじょーぶ。可愛いよ」
と言って、システィが鏡を差し出す。それをエレナは弱々しい動きで受け取り、それをまじまじと覗き込んだ。
「……これ、ほんとに私?信じられないよ」
「冗談抜きで今後はずっとその顔で生きてもらうからね。ちゃーんと慣れるように!」
「何教師みたいなこと言ってるんですか。別に思い通りの姿だったから不満なんてないんですけど」
「ならば良き」
システィは独特の口調で返してきた。
しかし、エレナから見ても、自分の顔が人間離れしていると感じる。
少し不安だった輪郭線も、しっかり顔のつくりに合わせて変わっている。
この女神システム、意味が分からない事ばかりだと思っていたが、案外いい面もあるようだ。
「でもですよ。私せっかくこんないい顔してるのに服すっごい汚れてる……」
「大丈夫さー。ちょっとこっち来て」
と言って、急にシスティが走り出した。
「何で移動時はいっつも走るんですかーー?女神って時間有り余ってるはずですよね?!」
「それが私のスタイルなのだー」
「じゃあ会話の脱線ももうちょっと減らしてもらいたいものですよ―ー!」
「それは絶対に嫌ーー!」
なんだか微笑ましい光景が展開されている。
まだ実際に会って数時間。やはりシスティとエレナは相性がいいようだった。