容姿を決めよう!
エレナは、こちらに待ってくるシスティをそわそわして待つ。
髪は少し手ぐしで整えただけ、服はこちらに転移してきた時とそのままなので、普通はあまり人とは会いたくないと思うものなのだが。
しばらくすると、扉をこんこんと叩く音がした。
「はーい、今出まーす」
と、扉を開けようとドアノブに手をかけると、扉は突然横にスライドした。
あまりにも突然の出来事すぎて、エレナは前につんのめる。
「ドアノブ意味ないじゃん!怪我しそうだったしー」
相変わらず、ここのトップは人をいじる事が好きなのだろうか、とエレナは考える。
「きゃーはっはっは!何あれー?ただのバカなのー?」
こちらに指を向け、全力でシスティが煽ってきた。
「仕方ないじゃないですか。ここ三日間ずっと扉来なくてひきこもってたんですから」
「そんな時はトップの人に言えばいいのに~」
「嫌ですよめんどくさい」
面倒事はご勘弁だ。
エレナは、そうシスティに伝えると、システィは、
「まあ先輩に話しかけるのって勇気いるからねー。うんうん」
と、何故か誇らしげに言ってきた。
「あの……あなたって本当に先輩なんですよね。私には全然そう感じられないんですけど」
「そう言ってもらえて光栄」
「まったくほめてないんですけど。私が言いたいのは、先輩としての威厳とかが全然感じられないって意味です」
「でも別にそれはそれでいいんじゃないの?長い付き合いになると思うんだし。堅苦しくやっちゃうと後がつっかえるよー」
どうしてそんな考えが持てるのかエレナには全く分からなかった。
いきなりシスティに指をさされて笑われたので全然周りが見えていなかったが、ここはとても凄いところだと一目で分かる。
エレナ達が今立っている所の壁は、所々青く発光しており、全体は黒に包まれている。
その独特な雰囲気はまるでファンタジー世界の神殿のようだった。
「あの……突然なんですがここってどんな構造になってるんですか?」
「じゃあ今から案内するからついてきてよ。きっと楽しいよ。最初だけは」
「慣れたらいくら良くってもつまらなくなってくるようなかんじですか?」
「そうそう。そんな感じだと思う、っていうか、ここをつまらない場所だって言わない!」
「それあなたが言ったんですよね。私はそんな事一言も言ってないですよ」
どこかかみ合わない会話を交わしながら、エレナとシスティはこのあたりを少し歩いた。
そうすると、突然大きな扉が現れた。
「ここを出たら地上につながってたりしませんかね」
多分そんな事はあり得ないのだが、一応聞いておく。
「まあ、そうなんじゃない?私何も知らない。この扉の外、出た事ない」
「反応に困りますよ……一回でてみたらだめなんですか?」
「先輩命令で嫌」
なぜだかわからないが、システィはこの時、強い口調で返してきた。
もしかしたら何か裏があるのかも知れないと思って、エレナは少し警戒する。
しかし、エレナは理由を聞かずには居られない性格。条件反射で質問してしまう。
「何でですか」
「後で問題になるのがめんどくさい。とりあえず私は先輩に関わりたくない」
「そうですかそうですか。単純ですね」
思っていたよりも普通というか、なんだか情けない返事だった。
確かに、エレナも先輩はあまり関わりあいになりたくない。しかし、こんな先輩女神を最初に経験したからか、エレナにとっての先輩女神のイメージが、記憶力のない人、で固定されつつある。
だからか、エレナはこの世界の先輩はそんなに怖くないと考えている。
「でも、そんなにこの世界の先輩って怖かったりするんですか?私が見てる限りは全然怖くなくて、むしろ面白そうなイメージしかないんですけど」
「私を見ていて?」
「悔しいですけどそうです」
何で悔しいのかはエレナにもさっぱり分からないが、とりあえずはこうやって返しておくのが無難だろう。
しかし、システィの今までの言い方だと、この世界でも先輩は怖い存在、という事になる。それだけは勘弁願いたい。
「別に皆そんなに怖くないよー。皆私みたいな感じだし」
「それって結構やばい奴じゃないですかね……」
エレナがわざとらしく肩をがっくり落とす。
それを見たシスティは笑って、
「まあね。そんなことは気にしなーいの精神で居れば大丈夫なんだよ」
「それ被害者いるやつです。絶対」
「いるかなー?」
「気にしなーいの精神を持ててない人もいるはずです。私みたいに」
「確かにエレナは持ててない。でもまたそれはそれで良き?」
この世界は絶対におかしいと思う。価値観が。
システィはかなり能天気というか、そんな感じだが、真面目な人はそんな人にいつも苦労させられているのだ。
エレナはやはり少しおかしいこの女神が先輩だと考えると、これからの生活が不安になる。
真面目にこなしすぎていると、システィから仕事を回されかねない。
「というか、これ何の話をするために呼び出されたんですか?」
「エレナの容姿をちゃんとするため、さ!」
キラッ、という擬音が似合いそうなポーズでシスティは格好付けてエレナに言った。
確かに、エレナはいま、とても人様の前に出せるような格好をしていない。
容姿はちゃんとすべきだろう。一応でも女神だし。
「でも、どこに行ったらそんなこと出来るんですか?」
「まあまあ。ついてきて!」
そう言って走りだしたシスティをエレナは追う。
その時、エレナは少しだけ、後ろ姿だけだがシスティの容姿を観察した。
育ちのよさそうな体。そして何よりも印象的な銀髪はきれいに梳かされており、喋らなければ人形だと勘違いしてしまいそうなほど整っている。
服装も、今までエレナがきていたような普段着ではなく、きらびやかな装飾の施されたくるぶし丈のワンピースに黄色のローブを羽織っている。
言葉だけだと走りにくそうだが、特殊な力が働いているのか、本人は軽快そうに走っている。
そんなシスティの容姿を見て、本当に女神なんだな……とエレナは思った。
「そうそう。ここを飛び越して!」
「何で走る必要があるんですかー!」
「気分的な問題?」
「……」
全力疾走で走りながらエレナは叫んだ。
やはりなかなかシスティの行動原理がつかめない。
しかも、室内なのにいきなり飛び越えるなど、全く分からない事を言ってくる。
まあ、言われた通りにしていれば波風は立たないはずなので、疑問に思いながらもエレナはシスティに従う。
「うん。ついた、かな?」
「何で私に聞くんですか」
しばらく走っていると、システィが急に立ち止まった。
そこは、何もない場所だった。
ただ一面の白がそこを支配していた。一点を除いては。
中央に、タブレットのようなものが設置してある。
その周囲にはたくさんの女神が居た。みな楽しそうに笑っている。
「というより、ここってどこですか」
「あのタブレットがすべての秘密~」
「なんか怖いんですけど、とりあえずあのタブレットを確保したらいいんですか?」
「順番は守ろうね―」
「誰も並んでいませんが」
「じゃあ勝手に取ってきていいんじゃない?」
なんだか怖かったが、エレナはタブレットを取りに行く。
その時、女神から感じる妙なものを見るような目線が少し気になった。
「持ってきましたよー」
「じゃあ女神っぽくなってもらおっか」
システィはそんな事を言い出した。
そういえば、思い返してみるとエレナはまだ何も女神らしい格好をしていない。確かに容姿は替える必要はあるらしい。
しかし、
「やたらハイテクですねこれ」
「まあ、最新技術使ってるらしいしね」
「それにしてもおかしいですよこれ」
何故か指紋をかざすだけで、エレナの現在の姿がタブレットに表示される。
それを見て、エレナはとても困惑してしまった。
「じゃあねー、後は適当にするだけで女神エレナ様の完成だから―。ってか私あっちいってていい?」
「なんか怖いんですけど、私一人で何とかなりそうです。大丈夫ですよ」
と、エレナが返事をしてから、システィは女神たちのほうへ駆けていく。
と、そのとき、突然システィがエレナのほうを振り返って言った。
「顔とか、体のつくりは今後ずっと変えられないから宜しくねー」
さらっと重要な事を言って、去って行った。
「えー……一気に夢を壊された気分」