システムに慣れよう!
「あの、えーっと……」
突然現れた女神らしき人に、エレナは驚きが隠せない。
とりあえず、いろいろ聞いてみる事にした。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
どうやら向こうのほうが驚いているようだった。
というよりも、さっきからずっと涙目で謝りっぱなしだ。
「いきなり部屋に現われて、それで謝られるっていうのも変な話だと私は思うんですよ。とりあえず、謝るのはやめにして、ちょっと質問に答えてもらいたいんですけど」
「いい、ですよ?」
「何で聞くんですか」
どうやら、この人も結構な変人だと、エレナは悟った。
しかし、女神というものはこんなものでいいのだろうか。ただ、そんな事を考え始めるときりがないので、もう一度女神らしき人に向き合い、エレナは質問を投げかける。
「とりあえず、あなたは女神なんですか?」
「はいぃ」
語尾が少々おかしいが、それに付き合ってるときりがないと思ったエレナは、手短に質問を終わらせようとする。
というよりも、まだ女神一日目のエレナに委縮しきっているこの女神、いったい何者なのだろうか。
エレナの疑問は底がしれない。
「まあ分かりました。じゃぁ、あなたの名前は何ですか?」
「ソフィア……だと思います」
「自分でもあんまりよくわかってないんですね……」
女神というものは、こうも揃いも揃って記憶力、というものが抜け落ちているものなのか。
これまでエレナが出会った女神の二人ともがそうであるため、なかなか女神が神々しいものだと思えない。
「連続で質問して悪いんですが、あなたは私とどういう関係にあるんですか?」
「多分、先輩?に当たる……と思います」
「先輩ならもっと自信持って私に接してくれてもいいのに……」
「えっ……いいんですか?」
何故かソフィアの顔がぱっと明るくなる。
初めからそう思っておけばよかったのに……とエレナは思いながら、
「私の先輩、というよりも教育係を名乗っているあの記憶力皆無な女神はもっと馴れ馴れしいですし、堂々としてますよ」
「……まあ、システィさんは凄い人ですし」
「どういう意味ですか。そしてあなたはシスティ先輩とどんな関係なんですか」
「私は、システィさんよりも女神歴が長いので……一応先輩ですね」
「あなたが何でそんなにおどおどしてるのか、私には理解しかねますよ」
ソフィアは、人とコミュニケーションをとるのが苦手らしく、さっきからずっと小刻みに震えていた。
エレナもそれは結構苦手としていたが、どうやらさっきのシスティとの会話で吹っ切れたのか、先輩に向かってもかなり強気でいる。
それより気になったのは、この女神があのシスティよりも年上で、なおかつシスティを凄いと評価している。エレナは、ぜひともソフィアから、システィの情報も仕入れておかねばならないと思う。
「後は、何でシスティ先輩が凄いって評価出来るんですか?面白いとは思うんですけど、仕事できそうな感じってあんまりしないんですよね」
「……システィさんは、いろんな人と、話せて凄いです」
「ようはあなたは苦手だから羨ましいってわけですか。やっぱり人は持ってない者を求める習性がある、と」
「私たち、もう女神ですよ?」
「元は人だったので同じようなものだと思います」
若干感づいてはいたが、ソフィアから見るシスティは、コミュニケーション能力が高い、と、エレナとほぼ変わらない評価のようだった。それが憧れになるかどうかは別として。
「じゃあ、あなたは私に何をしてほしいんですか?もう大体の話はシスティ先輩に聞いてますし、大丈夫だとは思うんですけど」
「えっと……本当は、あれです。女神について、や、その他もろもろについて話さないとって思ったんですけど、もういいかなって」
「いや待ってください。私には伝えていことがさっぱりわかりません」
「あの……もう帰っていいですか?」
「勝手に侵入しといてそれはないと思うんですけど」
「このパソコンで大体調べられるから……後はシスティさんに聞いてください」
と、言って、ソフィアは空に舞い上がった。
どうやらこの部屋には天井がないらしい。
ソフィアを見送ってから、エレナはとりあえず時間を確認した。
「二十三時か。とりあえず明日までは超暇なわけで。やっぱりちょっとは地上の監視もするべきかな」
と、独り言を呟いてから、エレナはモニターの電源を入れた。
そこには、エレナが住んでいた国が表示されている。
そうして、どんどんスクロールを重ねていくと、エレナがもともと住んでいた町、そして仲間たちの住んでいる街が表示される。
「あー……女神業ってこんなに退屈なのかー。っていう事は、私が異世界に送り込まれた理由も退屈だったから、で済まされちゃうのかな……」
仲間たちのいるであろう場所を発見した。そこでは、どうやらパーティーが開かれているようだったが――
「何で私の存在ってことごとく忘れられてるのよー。私の存在って、いまやマイナーな神、エレナ様なの?意味分かんないし」
と、どうにもならない事に文句をつけながら、エレナはずっとモニターを凝視する。
すると、ある異変に気付いた。
「あれ、何で魔王について皆触れないんだろう。大体の人は知ってると思うし、私がこっちに来た時は皆覚えていたはずなのに……」
確かに、この会場はおかしい。勇者として名を馳せては来ていたが、そこまでエレフィーナたちは有名人ではなかったし、エレフィーナたちのためにパーティーを開く、という事は今まではなかったはずだ。
「っていうか、まあそれは置いとこう。また明日にでも考えますか……ってか、女神の概念には寝るってことがないんだっけか。あー、なおさら暇になる」
と、エレナは大きく伸びをした。
女神には、寝たいという欲求がないのだが、趣味で寝るものもいる。エレナがそれに当てはまるかどうかは、これから二週間後に分かる話だ。
「じゃあ、何か魔王城のほうでも見ようかな。私はあんまりあそこ好きじゃなかったんだけど」
と、言いながら、魔王城のあるところにモニターを動かす。
「何でこのモニターって妙に高性能なのよ。カメラなくっても写せるし、画質は超いいし」
今更な疑問を、居るはずのない人に向かって投げかける。傍から見ればただの危ない人だ。
しかし、当たり前だが、エレナの質問に答えてくれる人は一人もいない。
少し寂しさを感じながら、エレナはさらに魔王城の細部を見ているようだった。
ふと何を思ったのか、エレナはモニター下の時計を見やる。
「あれ、何でもう零時なんだろう……?」
エレナには時計の進み方が妙に早く感じられた。
「まあ、また今度システィに聞きますかな」
ただ、今気にしていても誰も答えてくれないので、とりあえずは頭の隅っこに入れておく事にした。
そうしてから、エレナは再び魔王城に目をやる。
絶対に誰もおらず、平和で穏やかな魔王城のはずだったが――
「なんか動いてるんだけど!私なんか怖いんだけど!」
エレナはモニターの前で悲鳴を上げる。
それもそのはず。今、モニターにうつっている魔王城はぐにゃぐにゃと蠢き始めていたからだ。
女性にとってここまで気持ち悪いものはそうそうないだろう。
エレナは写す場所を即座に別の場所へと変えた。
「あ……気持ち悪かったー。もういい。あそこはもう気にしなくてもいい。ほんとに」
と言いながら、エレナはモニターのいろんな所をクリックしながら、操作方法や各種機能に慣れようとしていたのであった。
時刻は零時三十分、地上ではもう人は寝静まっている。