計画を立てよ……う?
エレナとシスティの話は、まだ続いている。
三時間、いや、もう少しで四時間に差しかかりそうな、そんな長話だ。
「じゃあ、ルールは決めるときにまた確認します。ところで、プロジェクトの決め方ってどうやってするんですか?」
「まあ、適当に?やってれば、何とかなるさ!」
「真面目に答えてください」
システィは、おどけた調子でエレナに返す。
エレナは、それを適当に返し、とにかく早くプロジェクトについて知る事ができますように、と切に願う。
「じゃあ真面目に答えてやるよ、子猫ちゃん」
「子猫っぽいのはあなたじゃないですか。容姿的に」
「せっかくかっこつけたのにぶち壊さないでくれません?エレナさん」
「別にいいじゃないですかそれが私の性格ってやつです」
エレナもシスティも、本題に入れるかは別としてどうやら会話を楽しんでいるようだ。
女神には寝る、という概念が存在しないので、いくらでも起きていられる。
だからだろうか。システィには急ぐ、という行動がまったくもって見られない。
「今度こそは!ちゃんと、話すから!」
「なんかの振りですか?」
「いや、今度こそはちゃんと話す!」
「じゃあ早く話してください」
「えーっとねー、じゃーあー、プロジェクトっていうのは―」
「聞くに堪えないので普通に話してください。」
システィはやっぱり変な人だ。
ただ、このように他人とコミュニケーションを深められるというのは、それははとてもうらやましい力だな、とエレナは思った。
よくよく思い返してみれば、エレナはシスティと話している時は笑顔を絶やさなかった。
それは、地上にいたころのエレナには考えられないような姿で。
結構この人はいい人なのではないかとエレナは感じる。
「というよりも、エレナは何でそんなに急ぐの?悠久の時間を生きる私たちにとって、急ぐ、というのは何の意味もない事なのよ?」
「たとえそれでも、今はあまりなれていないのでこの調子でいかせてください」
「あ、そういえばそうだった」
システィが、ペロッと舌を出して軽く謝る。
エレナは、相変わらず記憶力悪いなと思いつつも、この状況を好ましく思うようだ。
「まあ、それはそれでいいや。プロジェクトって言うのはね、細かく言うと、私たちが地上に干渉できる力を宿す許可みたいなものなの。ルールとか、誰にも通さなかったら守らない人が出てきちゃうじゃない。だから、誰でもいいから何かしたいなって思ったら言えばいいの」
「分かりました。するプロジェクトの個数制限ってあったりします?」
「絶対一個だけ。変更も不可能よ」
「それホイホイと決めちゃいけないやつじゃないですかー」
「でも適当に決めたほうが案外うまくいくものよ」
一つだけしかする事が出来ず、変更も不可能。そんな慎重に決めなければ後悔するであろうものを、システィは適当でいいよー、と言ってのける。
エレナは、そんなシスティをある意味羨ましいなと思う。
ルールなどにあまり縛られない生き方、というものも、案外悪くないかもしれない。
「後はね、がっちがちに決めちゃうと、後で融通利かなくなるから、その辺も注意ね。適当なほうが自由度高くて、楽しいと思うよー」
「まあ、そうですね。じゃあ、何かお勧めってあります?」
「んーとねー、あなたがこの地、もちろん地上ね。にやってきた理由を考えてみるといいんじゃない?
正直、私はあんまりこのプロジェクト関連には手出しできないから」
「だから、さっきも言ったと思うんですけど。異世界転移だって」
「じゃあそれを使えばいいんじゃない?」
「適当ですねそれ」
「そんなものよ」
エレナは、システィと話しながら、プロジェクトについて考えを張り巡らしていた。
それは、たった今システィに言われた事とそのままで――
「まあ、一応考えておきます。何かする事とかありますか?」
しかし、なんだかややこしそうなので保留しておいた。
「じゃあ、まずは地上の監視から入らなきゃだねー」
「ふざけてるんですか?」
「だって最初メールに書いたじゃない、二週間経たないとプロジェクトは出来ないって」
「あー、確かにそうでしたね」
すぐには始動できないと知り、エレナはがっかりする。
しかし、気になる事は山積みだ。それを解決してからプロジェクトに取り掛かったほうがいいのかもしれない。
「じゃあ、その二週間の間は何をしといたらいいんですか?ぶっちゃけ暇だと思うんですけど」
「明日になったら扉ができると思うから、その辺を適当に散策しておけばいいんじゃない?」
「何で最初から扉ないんですか、この女神システム」
「それを私に聞かれても」
「ですよねー」
エレナは軽く返し、そろそろ終わりにしなければ、と目をこする。
「じゃ、今日はこれで。いろいろありがとうございました」
「じゃーねー、またいつでもおいで」
「これパソコンですけど」
「まあまあ」
と、そんな調子でエレナはパソコンの電源を切ったのだった。
「……えーと、誰かいるんです?」
エレナは、さっきから奇妙な違和感を感じていた。
その元を突き止めるために、とりあえず呼んでみる。
――しかし、返事はない。だが、エレナは違和感を隠しきれなかったので、ぺたぺたと辺りを探ってみる。
「ここだ!」
突然エレナは叫んだ。
「あの……私、悪い事しました?許してほしい、です」
困惑しきった様子の女神と思われる誰かが姿を現したのだった。