計画を立てよう!
思い出話を一方的にする形となってしまったが、システィはしっかりと聞いていてくれたようで、エレナは安心した。
しかし、思い出話をただ一方的にしているだけでは何も楽しくない。相手にとっては楽しいかもしれないが。
「じゃあ、私の思い出話はこれくらいですかね。ちょっとあなたの思い出話も聞いてみたい気もするんですが……」
「いいよー。でもあんまりおもしろくないと思うけど」
システィは、エレナのお願いも快く……とは行かないものの、聞いてくれるようだった。
エレナは、こんな優しい人が先輩女神で良かったな、と自分の運に感謝する。
「私が女神になったのはねぇ……かれこれ百年くらい前かな?私はもともと地元の人で、何か世界は変わった―!とか叫ぶ、奇妙な人が来たと思った時、急に暗い部屋にいたの。ああ、その時は大体十五、六くらいだったかな。」
「へぇ……」
と、そんなシスティの状況にエレナは苦笑する。
まだまだ私は女神一日目。というよりも一日目ですでに暇を持て余しているのに、こんな生活が百年も続くなんて、これならまだ早くに死んだほうがましかも知れないとエレナは思う。
「んで、私はその時から容姿とかは何も変わってないわけだけど……」
そう言いながら、システィはその場で立ち、一回転した。
確かに、見た目は十代のそれだ。しかし、顔を見るとその美貌はとても大人びており、ぱっと見二十代前半に見える。
「それにしては、ずいぶんと大人っぽいですね……生まれた時からそんなに美しかったんですか?」
「確かに、言われてみれば……」
「いやいや、というより、何で気づいていなかったんですか?私の世界ではその美しさだとたちまち注目の的になりましたのに。」
エレナにとっては、そんなシスティの美しさがうらやましく思える。
というよりも、その美しさがどうして自覚できないのかが、エレナにとっては不思議でしかなかった。
「てか、やっぱりまだ堅いねー。ため口で話して。私がしんどい」
「は、はい」
「それがだめなの―!もっと砕けてよー」
急に話題が逸らされたかのようにエレナは感じた。
というよりも、システィは神になる前もこんな軽い人だったのだろうか。
エレナは少しシスティの過去について気になった。
「そういえばですけど、システィって女神になる前からそんなに軽い人だったのです?」
「なんかいろいろ混じってる……まあ、それはどうなのかな。私が神になってから三十年くらいは経つと思うしねいろいろ忘れてきたよ」
「……あの、さっきは百年前になったって言ってた気がするんですけどそれは……」
「細かいことは気にしない気にしない」
「結構大きなことだと思うんですけど……」
この人は結構適当な人だとエレナは感じた。
ただ、とっつきやすそうで面白い人だなとも感じた。
「それで、システィはなんか、プロジェクト?みたいなやつってしてたりするんですか?」
「なんか敬語とため語が混ざってて面白いんだけど……詳しく聞きたい?そんなに面白くなんてないよ」
「それでもいいですよ。ぜひ聞きたい」
「じゃあ話すね。私のプロジェクト、女神降臨プロジェクトだ―!」
「何ですかその名前」
女神降臨プロジェクト、というふざけた名前のプロジェクトだが、それを話そうとするシスティの顔はとても楽しそうだ。
エレナは、そんなシスティを見守るような形で、なおかつ真剣に何かを学ぼうとする。
敬語とため語の混ざった話し方といい、システィとエレナはなんだか不思議な関係であることは否めない。
「じゃあねー、まず私がそんなプロジェクトを始めた理由を話していくよー」
「まあはじめはそこからですよね」
「まず私は女神になった時、なんか私の先輩女神からいろいろ教えてもらったの。
で、なった時はまだ全然女神の仕事なんて知らなかったからほんと暇だったのよ。未練もあったし」
「まあ普通はそうだと思いますけども」
案外システィも普通の感性を持っているようだ。
エレナと置かれていた状況が似ているので、少し共感もできる。
しかし、エレナにはここまでですでに引っかかる部分が出ていた。
「あの、なった時は暇だったって、その言い方だと今は暇じゃないんですか?」
「それがこの話の本題よー」
どうやら今聞くべき事ではなかったらしい。
エレナはパソコン越しに軽く会釈した。
話に夢中になっていて気が付かなかったが、どうやらもう夜と呼ばれる時間に差し掛かりつつあるようだった。
「んじゃ、早速本題にはいるよー」
「あ、お願いします」
「えっとねー、私は百年くらい前になんかいきなり真っ黒い部屋にいて、後から先輩になる人に言われたの。女神になれって」
「大筋はさっき聞いたので、早くそのプロジェクトとやらを聞かせてくださいよ」
「先輩の長話はちゃんと聞かないと嫌われるよー?」
「……別に嫌われてもいいです」
全く話を進めてくれないシスティをそっけなくあしらう。
エレナはもとからせっかちなので、のんびりとしたシスティの態度には苛立ちが隠せない。
しかし、どうやらシスティはそんなエレナを気にも止めず、話を続けた。
「あー……プロジェクトってあんまり人に言うもんでもないんだけど、言うって言っちゃったら仕方ないよねー」
「勝手に叫んでおいてそれはないと思います」
「まあまあ。んとね、女神降臨プロジェクトっていうのは、監視しかできなくて暇を持て余しすぎた私が、見事に監視してる地上に降臨、いろんな人助けして、向こうにも住処おいて楽しんでいくっていう素晴らしいプロジェクトのことだよー」
「自分で素晴らしいって言っちゃいますか。というよりも、それってルール的にありなんですか?」
エレナは、常軌を逸したシスティのプロジェクトに驚きが隠せない。
というよりも、そんなことが許されるのなら、なぜほかの女神はしないのか。
みんな暇を持て余しているはずなのに。
と考えていると、システィが口を開く。
「あー……あのね、私の場合いろいろ複雑でさ、これにこぎつけたのも大変だったのよ。本当はルール的に結構危ないんだけど、先輩女神が融通を効かせてくれたっていうか……」
と、システィが急に焦り始める。
エレナは深くは追及しないことにした。
「じゃあ、それについては深く追求しません。じゃあ、私がするプロジェクトってどんなものがいいのでしょうか?」
「あー、えっとね、エレナってこの世界、女神の世界じゃない方ね。どうやって生きてきた?」
「結構特殊なんですけど、ていうかさっき話しましたよね。異世界からの転移者だって」
「なんかさっき言ってた気がする。ごめんね、記憶力がなくって」
「別にいいです。話が進まないので」
システィはあまり先輩としては頼れないとエレナはこの時はっきりと感じ取った。
というよりも、話してから二時間もたっていない。覚えていないとはどういうものか。
「じゃあ今度こそ話すね。プロジェクトっていうのは、まあ女神が暇しないためのシステム、っていうと嘘になるかもしれないけど、簡単に言うと現実世界に干渉で来て、いろいろする事ができるの。もちろん、ルールもあるけど」
珍しく一気に話したシスティに驚きながらエレナは黙って頷く。
「そうそう、ルールっていうのは、女神はほかの人に危害がかけられない―、とか、地上で神として活動しない―、とかいろいろあるの。まあ、私の場合は地上に降りた時は普通の人として生活してたからぎりぎりセーフだったわけなんだけど、ここまで大丈夫?」
「全然大丈夫です。結構分かりやすくて驚きです」
「ちょっと待ってよー、私そんなに頭悪そうだった?」
「まあそうですね」
「私これでも地上にいたころは成績トップだったのに―!」
「頭が悪いほうでですか?」
「ちょっと、信じてよーー!」
モニター越しのシスティの絶叫がエレナの部屋に響き渡る。
それは、エレナがここに来た時のは微塵も考えられなかった光景で――
「やはり、あの子にシスティを置いたのは正解だったようだ」
と、誰にも聞こえない声で、エレナの部屋に潜んでいた女神が言った。