2-1 ある意味動き出している事態
ソフィアの顔はどことなくあかるげだった。どこからも恥ずかしさというものが感じられない。
別に、それはそれでいいとエレナもここ数日のソフィアの行動を見ていてあきらめている事だが、何故あんな事を言っているのに、こうも表情とミスマッチなのか。
エレナもソフィアについてはだいぶ分かってきたつもりであったが、こう言うところが分からない。人間というものが難しいものだ。女神だけど。
「で、エレナは多分もう一人で仕事出来ると思うのでもう私はいらないと思ったな……で、私はまだここに住んでいていいかい?」
「正直前後のつながりがまったく感じられないんですけどね……別にいいですよ。一人だと寂しいですし」
「ならよかった。これでここまで追い出されたとなると、次の新米ちゃんが入ってくるのはいつになる事やら……という感じで、危機感を覚えていたからな」
ソフィアは、若干照れながらそんな事を言った。エレナは、そんなソフィアの姿を見ていると、これは本当に信頼できる先輩なのか、という気持ちが湧きあがってくる。
ただ、システィと違って仕事はしっかりこなしているようだし、エレナの事をしっかり見てくれているので、今のところは大丈夫そうだが。
しかし、そうはいっても何でソフィアはこうも何というか……百合っぽさがあるのか。
エレナは、何度もそれとなく理由を聞こうとしているが、いつもごまかされたりで話が聞けていない。
それが分かれば、理解者も増えてくれるのではないか、とエレナは感じている。というか、あの変人のシスティと仲良くなれる可能性がかなり出てくるのではないか。
「というか、先輩はいつも新米さんに私みたいな感じですり寄ってるんですか? さっきの言い方だとそんな風に取れるんですけど……」
「そうだ」
即答だった。
確かに、ソフィアの語り口から察することはできただろう。しかし、エレナにとっては信じられないのだ。どちらかというと、理解できない感情だ。
ソフィアはよく私より年齢の低い、背の低い子はみーんな天使などと言っているが、それを言うならば何故システィとはあまり仲が良くないのか。
人間だから好き嫌いはあるだろう。しかし、多分本気の拒絶を何度もくらっていて、それでいてもあそこまで年の低い者が好き……まったく、どういう事なのか。
ソフィアは、エレナからの返事がなくて、少し引かれたのではないかと不安な表情でエレナに問う。
「こんな私でも引かないで居てくれるか?」
「どん引きです」
今度はエレナが即答だった。
* * *
「それはそうとしてですけど、私はこれから一人でずっと仕事していくんですよね。何であなたはもう新米としての時期を終えたであろう私に構うんですか?というかあなたはロリコンなんですか。女なのに」
エレナは矢継ぎ早にソフィアへ質問を飛ばす。心なしか前後の質問につながりがあるように思える。
そんなエレナに、ソフィアはやれやれと言った様子で、
「私はエレナの事を見込んでいるのだよ。……ロリコン言うな」
ソフィアは語尾をすぼめながら、少し顔を赤らめて言った。
どうやら自分でも恥ずかしい事だと自覚はしている……のかもしれない。無自覚なだけかもしれないが。
エレナは、ソフィアに見込まれている――というのはどういう意味なのか正直まったくと言っていいほど分からなかったが、とりあえず期待されていなかったらここでおさらばだったわけだ。自分の仕事っぷりに我ながら感謝する。
しかし、期待されている内容によってはソフィアをぶっ飛ばす必要があるので、とりあえず聞いておく。
「私は何で期待されているんですか?」
「いい感じのロリっぽさが……いい」
ソフィアは恍惚の表情で言った。
エレナは、少しソフィアから距離をとり、言った。
「私をロリって言うなぁぁぁぁ!」
エレナ渾身のキックがソフィアに炸裂した。
どん引きである。もうこの人と居るとどんな目で見られるか分からない。
一刻も早くソフィアのどうしようもない性癖を矯正する必要がある――と、エレナは怒り心頭だ。
百合気質のロリコン、というのは正直救いがたいものなのではないか、とエレナは、この時どうしようもないほど悟ったのであった。
「まあそれはそれとして、だ」
「私をロリと言った事、永遠に忘れませんから。というよりも、私はまだ成長期なんですよ?すぐにせーいーちょーう、してみせますからー」
エレナはぷりぷりと怒ってソフィアに突っかかる。
こういう事が出来るのは、先輩仲が良くなった証でもあるのだが――エレナにとっては、どうもそうはいかないようだ。
確かに、周りから見ると、エレナは背も低めだし、何と言っても胸がない。撫で下ろせるほどまったいら。その手の人に好かれても無理はないだろう。
しかし、エレナ自身もそれは自覚しているので、そんな風に見られるともちろん、腹が立つ。
ソフィアは、エレナをじっくりと見て、再び恍惚の表情になった。ソフィアのそんな姿を見て、思わずエレナは後ずさる。
しかし、ソフィアはエレナの態度に物ともせず、
「エレナって、どうしてそんなに真面目なんだ? 別に、そこまで上の階級に上がりたそうに見えないのに」
エレナは、無視された事によってさらに腹を立てる。
とりあえず、この事を忘れさせないために言っておく。
「さっきの話は、後で決着をつける必要があると思うんですよ」
「はいはい」
ソフィアは、エレナの渾身の宣戦布告を軽く受け流す。
エレナは、この人となかなか分かりあえないかもしれないな……と、密かにそんな悪い感情を肯定していた。まあ楽しいからいいのだが。
ソフィアは、もう一度、真面目な顔になってエレナに聞いてきた。
エレナは、さっき感じた空気とはまた別の空気に気圧され、身を引いてしまう。
「真面目にする――というのは、この女神界ではありえないことだ。エレナは、まさか支配者になりたいのか? それだったら、私とは敵になってしまうのだが」




