魔王を討伐した少女は新米女神として仕事を始めるようです
あれから夜が過ぎ、また朝がやってきた。
夜通しモニターを見続ける……というのも目が疲れるので、エレナはソフィアと語りながら夜を過ごした。
「ちょっと聞きたい事があるんですけど、何かこの宗教団体怪しくないですかね?」
エレナが、夜通し観察していた世界の中で、少し不審な点を見つけたので、相談してみることにした。
「私はあまり気付かなかったのだが……何かあるのか?」
「私が地上にいた時はこんな宗教はなかったと思うので詳しくは察せないんですけど、夜通しずっと動き続けていて、なんだか長い棒のようなものを持っている人がたくさんいました。人が殺せそうなくらいのものです」
エレナは、始めその光景を見た時は、なんだかテンプレの悪役だな、という印象だった。
しかし、詳しく見ていると、その宗教自体が狂っているのではないか、とエレナは感じる。
皆が寝静まっている、危険な夜に活動する、という事でも常軌を逸しているのに、敵もいないのに長い棒を振り回す――。狂っているとしか思えない。
「まあ、そのあたりは経過観察というところだろう。ここを固定で設定してほしい」
「……あの、固定設定の仕方、分からないんですけど」
エレナはまだこのモニターを触る機会、というものに恵まれていない。
まあ、最初に交友関係を広げておくと後々役に立つので特に何も感じないが、こういう時に後れを取ってしまう。ライバルはみな先輩ばかりだとはおもうが。
「ああ、あれは、メニューを押して、ここをクリックすると出来るぞ」
「ああ、これですね。なんだかサイトのお気に入り登録みたいです。ありがとうございます」
エレナは、いつも分からない事を丁寧に教えてくれるソフィアに感謝する。
初めて出会った時、一緒に住みたいと言われた時は、この人は危ない人なのではないか、と警戒したものなのだが、今見ている限りは感情表現が下手なだけではないのか、という疑惑がエレナの中にある。
「まあ、もう明日だしな、緊張、してるか?」
「なんだかお母さんみたいです。あまり緊張していませんよ。自然体で臨みたい――そう考えているので、多分っ大丈夫です」
「声が上擦っているのだが……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
緊張していない――と言うと嘘になるのだが、特に凄く緊張しているわけではないので、適度なものなのだろう、とエレナは自分で解釈する。
ここまでの経験を総動員して、いろんな人に理想の生き方を追求してもらいたい――それがエレナの仕事への臨み方だと、今一度確認する。
「まあ、結構早くエレナは地上に帰れるかもしれないぞ。多分誰かが悪い人を倒してくれるだろう」
「いきなりですね。でも、それだと私は嬉しいんですけど、他の女神さんがたはどう思うか……それを考えると悲しくなります」
「別に地上に帰る事は名誉でも何でもないから大丈夫だぞ」
「そうなんですか?」
初め、先代女神が言っていた事は嘘になる――。エレナは何が政界で何が間違っているのかが分からないので、いちいち翻弄される。
がんばって経験を積まないと――そう思った。
プロジェクト開始の当日になった。
エレナは、少し緊張しているのか、髪の毛をいじる手を止めない。
「エレナ……やはり緊張しているのではないのか?」
「大丈夫です」
そんな感じで、ソフィアが心配してくれているのだが、エレナは常に笑顔で返す。
今日の使っていい場所は、黒い部屋の中でも一番小さい部屋だ。
先輩女神が言うに、使っていい部屋は毎日変わるらしい。
しかし、エレナはプロジェクトがプロジェクトなので、使える場所は限られてくる――だそうだ。
「でも、私はまだ不慣れなので少し心配です」
「じゃあついていこうか?多分そのほうが皆いいと思うぞ。エレナが仕事を覚えるまで、私が付いて行ってやろう」
突然、そんな事を言い出した。そうしてくれる方が助かるのだは、ソフィアぞ仕事は大丈夫なのか、エレナはそこが気がかりだった。
「でも、ソフィア先輩の仕事は大丈夫なんですか?私ばっかり構ってもらってますけど、仕事が滞ってたりしたらなんだか申し訳ないです」
「私の仕事は最近落ち着いてきているからな。これ以上異世界から能力持ちを送り込んだら大変な事になる――最近そうなってきたからな。一旦お休みだ」
「でも、それって自分で決めていいんですか?」
エレナは、仕事に向かう時間の事や、休みの日の事は全然っ聞いていないな、と思いだし、一応ソフィアに質問してみる。ソフィアはここにスぬ位の時間があるので、あまり役には立たない行けんかもしれないのだが。
「まあ、あれだ。半年ごとに入るチェック以外で上から何か言われる事はないからな。その時にしっかりと成果が出せていたら何ら問題ない」
「実力大事な社会なんですね」
かなり緩い感じでしていく仕事のようだ。
しかし、上からのチェックがどれくらい厳しいものなのか、エレナには分からないので、そのあたりの加減が難しいところだろう。
「まあ、エレナは魔王を討伐してほしい、という風にして異世界に送り込むのだが、他の者はそうとは限らないものなのでな。仕事も緩い感じのものもかなり多い」
「それ、楽ですけどなかなか地上に帰れないやつなのでは……」
「別に地上に帰る必要性が感じられない――そういう人はかなり多いからな」
エレナにとっては、まだ女神としての生活は慣れていないので、違和感しか感じられないが、どうやらこの生活を快適だと感じている人も多いらしい。
エレナとソフィアがほのぼのとした会話をしている、その時だった。
「あ……何か、感じる」
「多分深層意識え呼んだのだろう。すぐに行こう」
「はい」
これは予想していなかった仕事の始まり方だ。
エレナは部屋にあるノートパソコンを抱えて、廊下を走っていく。
少し走ると、第一女神部屋と書かれたプレートが下げられている部屋に出た。
そこのドアノブを押し、エレナは長い息を吐く。
そうして、意識して女神らしいゆったりとした足取りで進む。
しばらく歩くと、そこには一人の少年が立っていた。
おそらくここにエレナが呼んだ人――、日本で命を落とした人なのだろう。
エレナは、たまたま備えつけてあった椅子に腰かけ、少年に向き合った。
そうして、事前に用意していたセリフを言う。
「――ようこそ、天界へ」
これで序章完結です‼
ちょっと幕間を書いてから一章に入っていこうと思いますので、これからもよろしくお願いします




