確信が持ててきて
エレナ達は計画の細部をがんばって詰めていこうとしていた。
「異世界に召喚する人は、どんな人なのか、です」
エレナは即座に答える。
元から考えはまとまっていたので、基本的な質問は大体迷わず答えられる。
「私が考えているのは、若くして死んでしまった人ですかね。年を取って幸せに逝った人に、これ以上何かを求めるのは酷な話だと思いますし」
たいていこう言う物語の場合、まず召喚されるのは若くして死んだ人であったり、まだ生きているが現実に飽き飽きしている人だ。
ただ、エレナの経験上、まだ生きていて、突然召喚された人は、後々現世にいる両親の事で後悔してしまってやる気をなくしてしまう可能性が高いだろう。
そうなってしまった場合、どうやってもエレナ達は介入できない。
それならば、一回死んでしまって、もう現世に戻っても何も出来ない状態である人を呼んだほうがまだやりやすい――そう考える。
「でもでも、です。その人の選別とかどうする、です? もしかしたら厄介な人を呼び付けるかも、ですよ」
「確かに、もう地上での生活をやめたい。もう考えたくないと言って命を絶つものは少なくないと聞いている。そのあたりは排除しておくほうが無難と言うやつではないのか?」
「私には考えがあるんです。その辺りは大丈夫ですよ」
エレナも、初め召喚する人を考えた時は、そのあたりを真っ先に考え、そして迷ったものだ。
そうして、迷った先の結論は、まず、エレナの中でこんな人を呼びたいとイメージし、それに合わない人を排除する。そのあと、それに引っかからなかった人を呼び、基本的な説明をしてから、自分の人生観を語ってもらい、それに見合った能力を授ける――
本当なら女神の貯蔵魔力を持ってしてもなかなか成し遂げられないほど大量の魔力を使うのだが、幸いエレナはシスティ達に、魔力量は多いと太鼓判を押されているので、大丈夫だろう。
その事を二人……正確には三人だが。に言った。そうすると、システィが
「エレナの計画って何でそんなに正確というか、緻密なのよー。そこまで緻密にしなくてもいいって、前に言ったと思うんだけど―」
「よくよく考えてみると、適当にやっていたら私の負担が大変な事になってしまうって思ったので、綿密にプランを練りなおしてみました」
初めはエレナもシスティの忠告を信じてやや大雑把にプランを組んでいたのだが、後で考えてみるとこの計画ではエレナの精神的負担が大変になってしまう事に気づいたのでこのようなプランにした。
それを聞いて、ソフィアとリナはうんうんと頷いた。
「確かに、エレナの、自分の生き方を見たうえで適切な能力を授けるというのはいい案だと思うぞ」
「そうだと思うです。あと、自分の意識下で呼ぶ人を決められるのもいいと思うですよ。何せ、変な考えを持っている人を呼びつけてしまうとエレナが嫌な役割ばっかりなっちゃうかも、です」
どうやら、エレナの考えは二人には好評らしい。
システィには細かすぎると不評だったが、細かすぎて丁度いいくらいなのだろう。
「じゃあ、その召喚? 呼びつけた人にはどのような力を授けるのだ。私たちも聞かせてくれ」
「確かに、変な能力を授けられたら、やる気なくしちゃう、です」
そこも、エレナにはしっかりとした考えがあった。
多少他の人たちと考え方が違うかもしれないが。
「私は、完璧で、楽の出来る生き方ができる、というのをあまり望んでいないのです。実際に、日本ではいろいろ物に満ち溢れていて、それなのにそんな人生に満足もしなくって……と言う人が多すぎだと、私はこの世界に来てから考えました。
なので、出来るだけ苦労もあるけど、最後には心から楽しいと思える人生を送らせてあげたいなって思っています」
これがエレナの人生観だ。二人は、相槌をつきながらしっかりと話を聞いてくれていたので、エレナは安心して長々と話す事ができた。
エレナも日本にいたころは人生なんてつまらない、と考えていた人の一人だ。しかし、異世界に召喚されてから、その考え方は変わった。
どれだけ日本の生活が恵まれていて、楽しかったのか、それにはっきりと気づいたのだ。
エレナはチート能力をもらって戦闘をしてきていたので、それを身をもって体感した。
完璧な人って、なんてつまらないものなのだろう、と。
なので、エレナは人を完璧にはしない。強いが、どこか欠点をつけて、それを補いながら生活をして行ってほしいと思う。
魔王が倒される事が先決だと思うが、完璧な人、それもチートを持った人に魔王が倒されたとしても、すぐに女神を変えられて、エレナの目論見は一瞬でついえてしまうだろう。
それだったら、多少時間がかかるにしても皆で団結して魔王を倒してほしい――それがエレナの考えだ。
「ただな……エレナ。そういうのはなかなか難しい事なのだぞ。自分が相手の一生を背負っている、そんな覚悟で臨まないといけない」
「そのあたりはソフィアと私は同じ意見だね―。エレナは多分、一人で突っ走っちゃうタイプだと思うから」
エレナが少し体を震わせた。
それには少し、思い当たる事があったからだ。
しかし、もうエレナは一人で突っ走ったりなどしない。仲間と一緒にいろいろやった時間を忘れたくないから、本気でそう思える。
「でもでも、です。具体的な能力を教えてくれないと私は反応に困るですよ」
「確かにそうですね」
エレナは、自分の人生観しか語っていなかった事を思い出した。
自分でもう突っ走ったりなどしない、と宣言しておいて、これはどういう事なのか。
「じゃあ、少しだけ説明します。まず、相手……異世界に行ってもらう人に、異世界でどんな事をしてみたいか聞きます。それで、その希望に出来るだけ添えるように、私が考え付く適切なバランスで能力を決めます。それで、了承を取ってから、異世界に行ってもらう――そう考えています。だから、その場その場で考えていこうかなと考えています」
「エレナは結構そういうところは大雑把なんだねー。まあ、そういうのがあったら私は全然オッケー、なんだけどね。融通きかせやすいし」
「多分私の計画は一人よがりの押し付けになるか、ただただ適当な計画になるか――その二たくしかないと、自分でも思ってるんですけど、大丈夫なんですかね」
システィの言葉に覆いかぶさるようにしてエレナは言った。システィは少し不満そうな顔をしていたが、この際気にしない。起きてしまった事は取り返せないので、後で聞けばいいだろう。
「まあ、そのあたりはエレナの裁量次第だな。自分でも越えてはいけないなと思う線を設定しておけば、ある程度は防げると思うぞ」
「そうだと思う、です。多分、エレナはましだから、大丈夫だと思う、です。安心してほしい」
「それなら良かったです」
二人は、エレナの意見を肯定してくれているので、エレナも自信が湧いてくる。
これならうまくいきそうだとエレナは思った。
「じゃあ、この意見を了承してくれますか? 私は許可がないと動けないはずですでしたし」
「「もちろん、私たちは大丈夫だ」」
エレナは、この計画でいこう、そう決心したのだった。
プロジェクト始動まで、後二日。エレナの鼓動は高まるばかりだ。




