これからの予定を立てよう!
エレナは、二人の話を聞いていて少し疑問に思う事があった。
「あの……話しているところ悪いんですけど、私が女神になるために、何かここに転送されたときに先代女神? が、とても名誉なこと、とか、元の世界に帰れるとか言ってたような気がするんですけど……」
もしかしたら魔王と何か関係があるかも知れないと考えたので、とりあえず聞いてみる。
「ちょっと待ってくれ。それは新情報だぞ」
「もしかしたら魔王復活と、何か関係があるかも、です。エレナ、ぐっじょぶ」
予想以上の食い付きを見せた二人を見て、エレナは安堵する。
もしかしたらこの事によって解決の手掛かりが見つけられるのなら、エレナにとっても嬉しい。
「もしかしたら、その先代女神は……元の世界に行って何かをしているのでは?」
「でもでも、です。それだと他の世界の魔王が復活するのはつじつま合わない、です」
エレナにはなかなか状況が理解できないが、こう言う現象はほかの世界でも起こっているらしい。
皆、そういう事を知ってどう思っているのかな、とエレナは考えたが、とりあえず協力してくれる先輩がこれだけ居てくれる事が幸せだ。しかも、二人とも頼もしい先輩なのでなおさらだ。
「ただ、エレナはとりあえず魔王を倒せるように何かしなくてはならないと私は思う」
「でもでも、です。エレナの世界で魔王が倒されたら、女神変わる、です。それだと意味がないと思う、です」
「確かにそうだな。でも、新しい女神が来たときに事情聴取したらいいだけの話ではないか?」
確かに、元の世界に帰れたら嬉しいし、久しぶりに両親に会ってみたい気もする。
しかし、このままもやもやとした気分で地上に帰っても何も嬉しくない。
エレナは、さっきはああやって地球に帰りたいと二人に言ったが、あまりそれに固執したくはないな、と考えを改め始める。
「あの……ちょっといいですか。私、やっぱり、何も解決しないままで地球に帰るのは嫌です。だから、他の女神たちに聞いたりして、解決していきたいです」
「ただな……姿も形も分からない者を追いかけるのだぞ。十年単位の計画となりそうなのだが、それでもいいのか」
「まあまあ、です。最近女神になった人があまりにも多すぎると、思ってる、です。もしかしたらその人が見つかるのは、もっと早くなるかも、です」
ソフィアはエレナの事を気遣ってくれているようだ。
しかし、それで次の女神がやってきた時、解決する確証は持てるのだろうか。
エレナはそこが心配だった。
その時、
「やっほー、って、三人もいるじゃーん。私も混ぜてよ」
「「帰ってください」」
「そんなぁ……それはひどいよ」
システィがノックもせずにエレナの部屋に入ってきた。
しかし、三人に突き返され、システィは項垂れる。
本当にデリカシーのない人だし、今は場違いな人物でもある。論点を逸らされるのは勘弁だと三人は考える。
「私はシスティが嫌いだ。というか、重要な話をしている時にお前が居るとすぐに空気が壊れるから面倒くさいのだ」
「帰れ、です。てかさっきもいただろ、です」
「私の部屋に入らないでくださいよ。というかさっきも話したじゃないですか」
「むぅー……もう一日経ったし大丈夫かなって思ったんだけどー」
三人に拒否されて、システィは涙目で頬を膨らます。
そんな姿を可愛いと感じてもおかしくはないのだが、あいにくシスティへの好感度が高い人はここにはいない。しかし、システィはそれなのに普通に会話に混ざろうとする。
「うっとうしいんですよ。先輩って。」
「正直、帰れって言われて帰らないシスティは、うざい、です」
「うっとうしくていいよ! 私は皆と楽しく話したいのー!」
今は楽しくお話をするようなタイミングではないのだが……と、三人は胸の内で呟く。
なんだか一人だけ別の世界に居るようで逆に笑いがこみあげてくる。
「……話逸らしの名人、システィがこの会話に参加するの、本当にやめてほしいと私は思うので、さっさとお帰りください、システィ」
ソフィアが満面の笑みを浮かべて言った。否、目だけは笑っていない。黒い笑みだ。
その笑顔を横目で見たエレナはソフィアに恐怖を覚える。
「いーやです。私はこの会話に参加したいから参加するのです」
システィもソフィアと同じような笑みを浮かべたが、顔のつくりが違うからか、全く負のオーラが感じられない。
エレナとリナは、そんな一触即発のような会話を聞いていて、冷や汗を浮かべる。
さっさと帰ってくれればいいのに……それが、三人の考えだった。
「絶対に動かないんだからね! 居座っちゃうんだからね!」
「いい加減帰れ」
ソフィアの怒りが頂点に達し、今にも爆発しそうだ。
しかし、それに気付いていないのか、システィはソフィアを煽るような言い方で返す。
「ソフィアさんもこう言っているので、さっさと帰ってください。話を進めたいんですよ、私たちは」
「さっさと、帰れ……」
「じゃあ私の前で話したらいいじゃない」
どうやら、システィ側も折れないようだった。
このままでは話が進まないまま一日が過ぎてしまう、そう考えた三人は、仕方なくシスティを部屋に置いておこうと目線を配る。
「もうここにいてもいいよ。その代わり、黙ってろ」
「それは絶対に嫌なんだなー。私の性格、分かってるはずだよね、教育係さん」
「……魔法を使って戦闘したいところだがな、あいにく今の私が使える魔法は攻撃系のものはないんでな……」
「それでこそ……って、あなたには言ってないわよ! リナ、何か答えてよ!」
システィは、いきなりリナに向かって話す。先輩に使う言葉ってこんなもので良かったのだろうか、とエレナは考える。
というよりも、システィはさっきまでソフィアと話していたはずだ。また論点を逸らそうとするのか。
「……話進まない、です。私も仕事残ってる、です」
「だったら早く話すすめようよー」
「お前の失敗した仕事の後始末、取りかかってない仕事の代行、その他もろもろをしていると自分の仕事が進まない、です。これ以上面倒事を持ち込むな」
エレナは、リナの忙しさの理由を知って驚いた。
やはり、システィは人に迷惑をかける天才なのではないか、そんな事をエレナは考える。
その事はソフィアも知らなかったらしく、システィにゴミを見るような目を向けている。
「あの……システィの事はほっといてそろそろ話し進めませんか……」
「確かに、このままシスティとやりあっていても何も得られるものはないな」
「ほっとく、です。それが一番あれにとって堪える事だと思う、です」
「あれって何よ、あれって!」
エレナ達三人はもうこのままシスティとやり取りを続けていても何の意味もないと思ったので、追い出す事はあきらめる。
とにかく早く計画を立て、もう二日後となったプロジェクト始動の解禁に間に合わせなければならない。エレナ達はそう考えたのだ。
「じゃあ、とりあえずは魔王を討伐というか、魔王が暴れる事による被害を何とかして阻止しなければならないな。エレナはそれに関しての案はあるか?」
「とりあえずはあります。まず、私たちの住んでいた地球の、日本という国から人を送り込むのです」
魔王、と言えばまず召喚、転移などでチート能力が授けられた勇者が面白おかしく冒険を楽しみつつ討伐するものだ。
エレナがこの世界にやってきた時、そのような物語がはやったものである。
「何でその国なんだ?別に他の国でもいいと私は思うのだが」
「そういう事の理解が早いのは日本人だと私は考えているのです。私がこの世界にやってきた時、丁度そのような物語が流行っていましたから」
というよりも、エレナも女でありながらそのような世界にあこがれていたのも事実だ。
異世界でチートをもらって魔王討伐、つまらない現実世界で暇をつぶすための妄想でもあったのだが。
「なんか、エレナもそういうのの経験者、っていう口ぶり、です」
「まあ、私も実際に経験しましたからね」
エレナは、薄れつつある記憶を思い出す。
実際に異世界に来てからは、家族が恋しくなったり、日本の生活がとても恵まれていたものだった事を痛感させられたりだとかしたものなのだが、冒険自体は楽しいものだったし、あまり気にしないようにしていた。
「まあ、そんな感じで今から計画を立てたら間に合いますかね?」
「上の許可は、一つでも地位が高い人で良かったんだよな、リナ」
「確かそうだった、です」
「じゃあ、間に合うぞ。すぐに計画が進められるから、良かったじゃないか。多分エレナの性格ならすぐに地位も上がり、いずれ後輩も出来るだろう。その時には、しっかり頼れる先輩に慣れるように頑張れよ。私たちも全力でサポートするから」
ソフィアがそんな頼もしい事を言ったので、エレナは少し照れてしまう。
とりあえずは計画の細部を詰めていこう、そう決心したのだった。




