事態が発覚して、それで……
なんだかんだあって一週間過ぎた。
後三日でエレナは新プロジェクトを始動できる日になる。
エレナは、少し詳しく今の地上の状況を見てからプロジェクトを決めようとしていた。
「あのですよ、今少し思ったんですけど、ソフィアって自分のプロジェクトしなくていいんですか?ちうより、私のところに来てからずっと私としゃべってるだけのような気がするんですけど大丈夫なんですか?」
一週間前に、突然一緒に住みたいといわれ、成り行きで一緒に住むことになってしまったソフィアだが、何のために一緒に住むのかエレナにはいまださっぱりわからない。
それに、女神は必ず何らかの仕事をしなければならないはずだと聞いているが、そのあたりはどうなのだろうか。
「私のプロジェクトはな、別の世界で若くして死んだ人を導く仕事をしているんだが、今は年始なのでな。みんな家でゆっくりしているのだろう。全然人がやってこないんだ。それに越したことはないのだけど」
「でも一週間何もないっていうのは逆に異常じゃないですかね?」
確かに、誰も死なずに平和に生活しているということはよいことなのだが、それにしても、病気や事故などで命を落とす人もいるだろう。
それなのに、一週間何もない、というのはかえって異常だとエレナは感じた
「まあ、呼ぶ人はこちらで決められるのでな。使えそうな人しか呼ばないと私は決めている」
「それさぼろうと思えば簡単にさぼれますよね……?」
「さぼったところで暇を持て余すだけだ。だから私は何かしらの仕事がないと困る」
ソフィアはあっけらかんと言い放つ。
自分の仕事ぶりに自信を持っているのか、仕事の話をするときに、エレナの目をしっかり見通していた。
そんなソフィアを見てエレナは憧れの感情を抱く。行動は常軌を逸しているが。
「じゃあ、なんであなたは今何もしていないのですか?私と話すよりも仕事をした方がいいと思うんですけど」
「私はエレナのために行きたいと思ったからだ。エレナと話している時間が一番楽しいと思うし、一緒に居れる時間は宝物だ。その時間を仕事で無駄にはしたくない」
「私にとって迷惑でしかないのですが…… 楽しいんですか?私といて」
なんだか意味の分からないことをソフィアに言われ、エレナは質問で返す。
ソフィアは自分の行動に自信をもっているのだと思うが、エレナにとってはただの変態にしか映らない。
自分を通すのはいいことだと思うが、他人は巻き込まないでほしいとエレナは考える。
ただ、ソフィアはエレナにとっても害はないし、エレナにとっても暇がつぶせるいい人だと考えていた。
「まあ、楽しいかな。なんだか私はエレナに惹かれてしまったのでな。楽しい、というよりも、一緒にいたい、という願望の方が強い」
「ただの変態じゃないですかー。私たち女性同士なんですよ?」
「愛は性別を超える」
「格言みたいに言わないでください」
なんだか百合百合しくなってきたが、エレナは本来の目的を思い出す。
それは、別に一人でもできることなのだが、とあるトラウマがよみがえってくることだった。
「あのですね……恥ずかしいことなんですが、私が元居た世界の魔王城の様子を見てくれませんか?」
「別にいいが、どうしたか?」
エレナは、少し恥ずかしい理由をソフィアに話す。
というのも、グニャグニャと動く魔王上を目の当たりにし、大層気持ち悪く、もう二度と見ないと心に決めていたからだ。
それを聞いたソフィアは笑い、
「別に恥ずかしくない理由だと思うのだが。女性らしく、とてもいい」
「あなたが言うと途端に変な意味になってくるのですが……。まあありがとうございます」
そういってエレナは魔王城の位置をソフィアに教える。
ソフィアは何食わぬ顔でそこまでスクロールし、エレナにそこを指さしてきた。
「見てみな。何も起こってないから」
「いやです。私はもう二度と見ないと心に決めているのです」
と言うと、ソフィアは突然困った顔をする。何かを言うべきか躊躇っているような、そんな顔だ。
「魔王城、動いてないが、活動しているぞ」
「嘘ですよねそれ。私しっかり倒しましたよ」
「でも……」
突然ソフィアが口ごもる。
もし、魔王城が活動再開していたら、エレナの戦った意味はなくなってしまう。それが怖いのもあり、エレナはモニター上であっても魔王城を見ることを躊躇う。
「ただな……前にもこんなことが別の世界であったんだ。だから、魔王場が復活いている可能性もなくはないから、もう一度自分の目で確認してもらいたいのだが」
「動いてないですか? 気持ち悪くないですか?」
エレナは、余程前に見た光景がトラウマになっているのか、ソフィアに念を押す。
ソフィアは頷いた後、そっとモニターの前を離れた。
「……嘘」
エレナは画面を凝視した後、固まってしまった。
「なんでよ! なんで魔王城が、魔王が、復活してるの? 私、しっかり倒した! この目で、仲間の目で、しっかり見たのに!」
エレナは涙目でなにかに向かって叫ぶ。
それもそうだろう。せっかく死力を尽くして倒した魔王が一週間と少しで復活してしまっているのだ。
物に当たり散らさなかっただけましだと思いたい。
「ただ……これはもしかしたらエレナにとってはいいことかもしれないのだぞ」
「何でですか! 私、このまま地上に戻っても、何もできない! できたとしても、意味がないことだ!」
エレナは、今話しているのが先輩であることも忘れて取り乱す。
そんなエレナの姿を見てソフィアは考える。
「……もしかしたら、リナが何かを知っているかもしれない。後で呼んでみるか」
「――何か、言いましたか」
ソフィアがエレナに気遣って考えたことは、エレナの耳には届かなかったようだ。
ただ、それはそれでもいいとソフィアは考える。何も言わずに、今一番エレナが信頼を置いているリナを呼ぶと、もしかしたらエレナの気持ち的に事態が好転するかもしれないと考える。
「ただ、私が言ったことは本当だ。これまでにもこのような事態が数多く起こっている。だからか、突然女神がここから消えたり、最近、突然新しい女神が入ってきたりしている。もしかしたら何かこの世界を超えた何かが起こっているのかもしれない。――取り乱していたところ悪いのだが、エレナは地上に、もしくは元居た世界に戻りたいのか?」
と、ソフィアは早口でエレナに問いかける。
エレナは少し腫れている目をソフィアに向け、はっきりと言った。
「――私は、すべてが解決した後、地球、――元居た世界に、戻りたいです」
「ならば、私はそれに協力してやろう。何せ、私はエレナに尽くすと決めたからな。ここで助けにならず、放っておきっぱなしでどうする」
エレナにとっては、今、この時点で何が起こっているか理解が追い付いていない。
取りあえずは今の現状を整理しようと、ソフィアに確認してもらいたそうなそぶりを見せる。
ただ、エレナは今、ここで自分の考えをはっきりと口に出せた。口に出したからにはしっかり行動しなければならないのだが、エレナは気持ちが少しだけ、軽くなっていた。
ソフィアの存在がとても頼もしいようにエレナは思える。後で感謝の言葉をしっかり伝えないと、とエレナは決断した。
「――では、私は少し外に出るのでな。本当は一緒にいたいところなのだが、少し待っていてくれ」
「えっと、ちょっと、あの……。現状の整理、したいんですけど」
その言葉を無視してソフィアは外に出て行った。
エレナは、頼りたい人に迷惑をかけてしまう自分が嫌になってしまう、と自己嫌悪に陥ってしまう。
自分の中でも、何かしら、この事態に向き合う決心はついているはず、そのはずなのに。
しばらくした後、ソフィアはリナを連れて帰ってきた。
「あー……しばらくぶりね、です。ソフィアに聞いたですけど、またあれが起こったですか……ほんと、鬱陶しい、です」
「まあまあ、そんなことを言うでない。ただでさえデリケートな状態のエレナをこれ以上傷つけてやるな」
「……何か、やっぱり私、皆さんに悪いことしちゃったんですか? 無自覚で?」
リナは、以前にもこのような事態を経験したかのように言い放つ。その言葉は現在のエレナにとって突き刺さってしまう言葉だと捉えたソフィアが注意するが、案の定、エレナは再び涙目になってしまった。
「魔王復活、そして、です。女神が変わるとき、世界の再編、起こるです」
「前に私に言っていたな。その時は半信半疑だったが、実際に起こった人を見ると信じざるを得ないな」
エレナにとって、意味の分からないことが起こりすぎている。
平和だった女神の生活は、これからどうなっていくのだろう。エレナはその思いだけで先輩二人の会話を聞いているのだった。




