第9話
テーキスは案の定怪しい行動をした。
村に帰ろうとせずに生い茂った草木の中を進む。
背が高い草木が多く、大きな木が空を覆う。
テーキスは獣道を迷いなく進んでいった、通い慣れた道なのだろう。
やがて小さな池へと到着する、切り立った岩壁を背にし、大きな木で隠された場所だった。
おそらく日中でも日差しが当たらないだろうと思われるそこは、案内無しには見つける事すら困難なように思えた。
テーキスは水面を二度ほどパシャパシャと叩く。
すると水面から女の人が顔を出した。色白で髪の長い綺麗な女性。
水の中から現れたその女性は水面に波を立ててテーキスに近づく。
水に濡れたその身体は下半身が綺麗な鱗に覆われ、僅かな光を反射してキラキラと光る。
モミジの固い鎧の様な鱗とは違い、繊細で透明感のある宝石の様な鱗。
手には水かきが有り、首もとにはエラの様なものも見える。
足は無く、大きく広がったヒレはオーロラを思わせるほど美しい。
テーキスはその美しい半魚人に話しかけた。
「すまん、明日見つかってしまうかもしれない。今から逃げよう・・・、おまえをおぶってどこまで行けるかは分からないし、おまえの体調不良の原因もまだ分かってない。でもここに匿うのも、もう限界なんだ・・・って、伝わりもしないのに・・・バカだな俺・・・」
テーキスの言葉は優しく、半魚人もテーキスを信用しているように見えた。
一部始終を隠れて見ていたアッシュはだいたいの事情を察し隠れる事を止めた。
「あー・・・、まず落ち着いてほしい」
刺激しないように少し遠くから声をかけたがテーキスは慌てふためいて警戒する。
「な!つけてきたのか!人のいる気配なんてなかったのに!」
それはそうだろう、匂いで追えるのだから目視で追跡するような位置にはいなかったのだ。
「見せた方が早いな、モミジ来てくれ」
モミジはアッシュの横へ行くとフードを外し袖を上げる。
固い鱗に覆われた大きく長い腕が露わになり、大きな鍵爪が鈍く光る。
すると今度は半魚人が驚いた顔で水中に隠れた。
「プ・・・ケァー」
「ああ、あんたもモミジの種族知ってるのか、大丈夫、危害は加えないよ」
「おまえ、そいつ・・・、おまえ、も?」
「ああ、そうだ。俺もセリアンスロープと生活している」
アッシュはテーキスと半魚人に近づく。
「クァルルルル」
「大丈夫、モミジはそこにいてくれ」
「考古学者、だったな?何が目的だ」
「テーキスさんとその半魚人のような関係を世界中に認めさせる事が目的・・・かな。その半魚人に攻撃する事を留まった理由を教えてくれないか?」
テーキスは少し躊躇った後、顔を赤くして答えた。
「可愛かったからだよ、悪いかよ。こんな綺麗な奴焼くとこだったんだぞ、急いで炎を戻したら自分の腕を焼いてしまったんだ。そしたらこいつが俺の腕を冷やしてくれて・・・」
「はは、惚れたか、そいつぁ良い答えだ。実に良い」
「バカにしてんのか?」
「いや、そんなバカばっかな世界にしたいのさ」
「・・・はぁ、まぁ、安心したよ。緊張が途切れたらどっと疲れた」
「で、なんだっけ。半魚人、体調が悪いのか?」
「ああ、ここに匿ってから元気が無くなる一方でな。水が合わないのかと思い調べている」
アッシュは半魚人に目をやると話しかける。
「なぁ、なんで体調悪いんだ?」
「ケェウァ」
「あー、そういうことか。テーキスさん、分かったぞ」
「なに!おまえ、言葉が分かるのか?」
「そういう固有魔法なんだよ、で、だな。結論から言うぞ」
「ああ。教えてくれ」
「・・・寒い。だとさ」
「へ?ああ、温度?・・・なんだ、そんなことだったのか・・・良かった。病気じゃないんだな。分かった、すぐに温かい池に移そう」
「良いのか?隠すためにここに来たんじゃないのか?」
「良いさ、もっと人里離れた場所に移動すれば良いだけだ。実は前から計画していた。体調が良くなってから、と思っていたんだが、移動すれば体調が良くなるのなら話が早い」
「どうやって移動するつもりでいたんだ?手伝おうか?」
「それはありがたい。水槽と荷車を用意したんだが、こいつの入った水槽を乗せて一人で山道を移動する自信は無かったんだ」
「力仕事か、ならなおさら俺らの出番だな、固有魔法使いの体力を見せてやるさ。いざとなったらモミジもいるしな」
モミジに目をやるとモミジは半魚人を見つめていた。
「・・・モミジ?」
「クァロロロロ?」
「へ?えー、あー、どっちだろうな」
「ん?そのモミジとかいうセリアンスロープ何て言ったんだ?」
「ああ、半魚人は動物か魚かどっちなのか気になってるようだ」
「・・・それは興味深いな」
「・・・まぁ、水棲の哺乳類で間違いないと思うけどな」
「え、ああ。・・・そうだな」
「プァ・・・ケェァァ」
「・・・スケベ、だとさ」
ごめんなさい、この話は凍結します。
いずれ違う形で書けたら・・・と考えております。
こんなとこ読んでくれる人いないでしょうけど、これは消そうと思っています。