第7話
二人で森の中を歩く、ただ歩く。
「・・・クァルル?」
「・・・ん、んー。正直分からん。ここどこだろうな」
アッシュは森の動物の意思を聞き取る事ができるため森で迷う事は無いのだが、モミジがいると動物達は逃げてしまうのだ。
モミジに少しの間気配を隠してもらおうと思っていた矢先に水の流れる音が聞こえてきた。
川だ。とても澄んでいて幅も深さも有る、ときおり魚の泳ぐ姿も見えた。
「川だな、少し休憩するか。その後川沿いに進もう」
これだけ綺麗な川があれば川沿いに人のいる場所もあるはずだ。
とりあえず今は休憩がしたい、流石のアッシュももうくたくただった。
アッシュは適当な長さの枝を拾うと先端に長い糸を、そしてその先端に針を取り付ける。
川辺の岩を動かし虫を掴み針に刺す。
「クゥルルゥ?」
「釣りだよ、魚を捕るんだ。モミジは燃えそうな枝を拾い集めてきてくれ」
モミジはアッシュが何をしたいのか分からない様子だったが素直に枝を拾いに行った。
しばらくしてアッシュが川魚を数匹持ってモミジの元へと移動する。
魚はすでに腸を抜いて串に刺してある状態だった。
モミジはというと枝を集め終えてアッシュを眺めていた。
アッシュは金属の棒を取り出すとナイフで擦り、木屑に火種を落とす。
モミジの拾ってきた枝をくべると火が燃え移った。
「クゥオー」
「ははは、もう慣れたものさ。まぁ、魔力媒体のライターは俺には使えないから仕方なく覚えた技術だけどな」
アッシュは焼けた魚をモミジに渡す。
「ほら、食ってみろ、これが魚だ。美味しいぞ」
モミジは魚を受け取ると匂いを嗅いだりしてなかなか口を付けない。
アッシュが先に食べ始めるとそれをしばらく眺めてからモミジも魚に口を付けた。
「どうよ。初めての魚の味は」
「・・・ルルルゥー」
「そうか、不味くはないか。一応食えるみたいだな」
結局モミジは最初の一匹以外は食べずに魚の隣で蛇を焼いていた。
「火は通すんだな・・・」
「ルー、ロロ」
「ああ、真似してるだけなのか。てことは基本的には生で食べるのか?」
「クァールー」
「ほう、火は使えたのか、料理の概念はあったんだな。実に興味深い話だ」
火の後始末をしてから二人は川沿いを下る。
しばらく歩くと民家が見え始めた、町というよりは村に近い。
それでもそれなりの規模で人の姿も確認できた。
「モミジ、分かってるとは思うけど、人前ではフードを被って手も隠してくれな」
「ル!」
「よし、良い返事だ」
アッシュは村に足を踏み入れると最初に出会った恰幅の良いおばちゃんに声をかけた。
「こんにちわ、俺たちは旅人なんだが、ここって宿泊施設とかあったりしないかな?」
「おやまぁ珍しい、巡礼者はたまに来るけど普通の旅人なんて初めて見たかもねぇ」
「巡礼者?」
「この辺は綺麗な池が多くてね、聖地の一つなんだってさ。だからほら、あそこに教会あるだろ?巡礼者はそこに泊まるのさ。旅人も受け入れてくれると思うけど、なんならうちにくるかい?もちろんタダとはいかないけどねぇ」
「ははは、考えておくよ。それともう一つ、おかしな事聞くけど、この辺で獣人に関する話題は無いかな?俺は考古学者なんだ、調査しながら旅をしてるんだよ」
それを聞いたおばちゃんはビックリした様子を見せた。
「え?もう噂広まってるのかい?」
「噂?いや、俺たちが来たのは偶然だけど、良かったら教えてほしい」
「半魚人さ。巡礼者達が池で見つけてね、巡礼者のうちの一人が魔法で退治したんだよ。その人ならまだ教会にいるから話聞きたいなら直接聞いてみると良いんじゃない?」
「退治・・・、殺したってこと?」
「んー、そうらしいねぇ。でも死体は見つかってないから念のため教会に滞在して他の巡礼者に注意喚起してるんだって。怪我の療養も兼ねて、だけどね」
「ケガ?半魚人にやられたのか?」
「いや、攻撃魔法の制御ミスの反動で自分の腕焼けちゃったんだってさ。詳しい事は本人に聞いたら良いんじゃないかねぇ」
「そうするよ、ありがとう」