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太古の爪  作者: 枝節 白草
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第1話

君の爪が食い込む

俺の体に食い込む

君は獲物を見つけた

そんな顔で俺を見つめた



大昔、高度な文明を持たない時代に、人間の祖先は他の人類の祖先を駆逐した。

しかし、更に強い人類が現れたなら人間も駆逐されて然り。

およそ二千年前。強靱な爪、牙、角。屈強な肉体に頑丈な鱗。

多種多様な戦闘に特化した人類がいた。セリアンスロープ、獣人と呼称される。

絶滅の危機に瀕した人間だったが、特殊な力に芽生える者が現れた。

そう、それが魔法の始まりとされる。

魔法の力により勝ち残った者達が我々の祖先であり、現在の魔法文化を築くに至った。


と、まぁこれが教科書にも乗っている最有力な説である。

もちろん壁画や化石等の証拠に基づいた説であり、多くの支持を得ている。

しかし、そんな事はどうでも良く、みんな魔法の研究、利用方法の開拓に余念が無い。

平たく言えば昔の事など興味が無いのだ。




「よう、アッシュ。飲んでるか?」

夕方の酒場に二人の男、歳は互いに二十台前半。

先に飲んでいた黒髪の男は、後から来た赤髪の寝癖頭の男に声をかけられ隣の席へと促す。

「それなりに、な。今日は何のようだ、クラム。また発明か?」

「お、さすがだな親友。話が早い」

「分かるよ、おまえの嬉しそうな顔見りゃな」

クラムと呼ばれた赤髪の男は顔を綻ばせて自信満々に小さな瓶を取り出した。

小さい、とは言っても拳程の大きさが有る。

中には液体、そして蓋からは二本の金属の棒が生えていた。

「・・・なんだそれ」

「ふふふふ、まぁ見てろよ」


クラムは電線の付いた電球を取り出すと、電線を瓶の金属棒に当てた。

次の瞬間電球がぼんやりと光り出した。決して明るいとは言えず不安定。

まぁ、電球を取り出した時点でアッシュには想像は付いていた事ではあった。


「どうよ、電気を持ち歩けるんだ。俺はこれを電池と名付けようと思う」

「どや顔のとこ悪いがな、要は魔石の代用品か?しかも電気以外に汎用性がねぇな。魔石より優れたところはあるのか?」

魔石というのは魔力を蓄えた石で、魔力というのは汎用性に優れたエネルギーだ。

この魔力に電気という方向性を持たせる事で電気を生む事ができる。

「魔石が無くなったら頼る物が無くなるだろ?魔石は便利過ぎる」

「無くならねぇよ。魔力を蓄えるだけのありふれた石だしな、魔力を入れ直す事も容易だ。おまえの電池はどうなんだ?」

「ああ、何度だって使えるとも。中の液体と棒を入れ替えれば良い」

「もう瓶以外使い捨てじゃねぇか、しかもこの蓋蝋付けされてるぞ」

「持ち運ぶのが目的なんだ、漏れたらだめだろう?」

「・・・そうか、もう良い」

「まぁまぁ、とりあえず一つやるよ」

そう言うとクラムはアッシュに電池を強引に手渡した。

「ったく・・・、荷物増やしやがって」

「そう言うなよ親友。俺の発明はおまえみたいな固有魔法使いのためでもあるんだから」

「固有魔法・・・ね。もうその呼び名も廃れて無能力扱いだけどな」


魔力というのは人間の体内に多く存在する。

媒体を通す事で魔力というエネルギーに方向性を持たせる媒体魔法を通常は魔法と呼ぶ。

固有魔法と言うのは、自分自身の身体が媒体となってしまう体質なのだが、外部の媒体を通す前に魔力は意味を持ってしまう。

汎用性が無い上に能力を選ぶ事が出来ず、更に人体が媒体となるため、生き物としての能力を強化する類にしかならない。

この体質は極めて稀であり、自身を媒体に出来るのもこの体質だけである。


「悪くないと思うけどな、おまえの魔法。ちょっとメルヘンチックなとこあるけどさ」

クラムはからかうように笑うが、アッシュも自分の魔法に対して悪くは思っていない。

「まぁ、仕事には便利な魔法だよ。明日は良いものが見つかりそうだと森が教えてくれた」

「無理はすんなよ、また飲もうぜ、考古学者のアッシュ先生」

「からかうなよ、まだ成果は上げていないんだ。上げたところで評価はされないけどな」

「はははは、お互い理解されないねぇ。頑張っていこうぜ親友」



クラムと別れたアッシュは夜の街中を歩いていた。

石畳の道と石造りの建物が月明かりと街灯に照らされる。

街はまだ賑わいを見せており、多くの店が建ち並ぶ。

アッシュはその中でも小さな、看板すら無い店に用があった。


民家にすら見えるほど非常に質素な店には、「魔石充填します」の張り紙が風に揺らされて今にも剥がれそうになっていた。

「おばちゃん、いるかい?今日も頼むよ」

「おお、アッシュかい。まぁ、あんた以外の客はめったに来ないけどなぁ。そろそろ店やめようかねぇ」

「それは困る、おばちゃんが入れてくれる方が魔石が長持ちするんだよ」

そしてアッシュがここに来るのはもう一つ理由がある。

アッシュの父親は普通の魔力を持った人間だが、アッシュが独りでも生きていけるようにという理由でアッシュの生活には手を出さないのだ。


「お、分かるかい?あたしゃこれの為に魔力温存してるしね、入れ方にもコツがあるのさ」

機嫌を良くした四十台後半だと思われる女性は、アッシュから魔石を受け取ると、足の付いた高い台の上に置いて手をかざす。

魔石は透明な薄い飴色で、丸みを帯びたガラス細工の様な見た目だ。

女性が手をかざし暫くした後に黄色の色素が滲み込んでゆく。


魔石は純粋なエネルギーとしての魔力しか吸わない。

固有魔法使いのアッシュには魔力の充填が出来ない。

それなのに道具のほとんどは魔石をエネルギーとして動くのだ。

魔石は微量な魔力を効率良く持続的に放出してくれるため、魔力を無駄に消費するのを防げる。

これが魔石を用いた道具の優れた点だ。

クラムが言う魔石に頼らない道具、それはアッシュにとってはとても魅力的ではある。

しかし残念な事に少数の意見が通ることはまず無い。


「ほら、終わったよ。魔石三個、充填完了」

家で使う分が二つ、仕事に持って行く物が一つ。

「ありがとう。助かるよ、これでまた暫く保ちそうだ」

「あいよ、またおいで」



アッシュは家に着くと道具の点検を始める。

アッシュの家は代々考古学に携わっており、それなりに名家なのだが今は廃れている。

一代毎に拠点を変え、父の代でここへ来た。

一般家庭よりも少しだけ大きな家は、物で溢れ一般家庭よりも狭い。


「いずれその時は訪れる」

アッシュは父親に言われてきたが、父親もまた祖父に言われてきたらしい。

意味は分からない、無いかもしれない。しかし気になるのだ。父親もそう言っていた。

「ははは、そういう血筋なのかもな」


今日の探索時、森の声が聞こえた気がした、「明日、答えの欠片が見つかる」

それははっきりとした声では無い。漠然とした空気。

「メルヘンチックな能力、か。違いない」

アッシュは流行る気持ちを抑え、リュックサックに荷物を入れ終わると床に着いた・・・。



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