我神棗の日記 1
ちょっとテイストの違うものを書きたいと書いたものです。
そもそも、ホラーではなく悲劇を描いていたのですが、出版社から怖い言われ、ホラーにジャンル分けされていました。そこで、本格的なホラーを書こうとしたのがこの作品です。
今日、とある空き家を見つけた。
中から声が聞こえてきたので、覗いてみた。
そこには白い人影があり、すっと消えてしまった。
それが何なのか確かめようと中に入る。
庭から広縁に入り、中を見回す。
黴臭いその部屋は、数年も誰も侵入を許していないようであった。
そこで1つの埃をかぶったインスタントカメラを見つけた。
それを鞄に入れて、屋敷を後にした。
カメラの中には、あるフィルムが残されていた。
それを現像してみると、勿論、見知らぬ人物の写真が15人分、15枚が残されていた。
それを懐に入れてもう1度、あの空き家を調査することにした。
これは勘であるが、あの屋敷、写真に何か重要な意味があると思われた。
あの空き家に忍び込む。
今度は2階に上がり、ある部屋で本棚の中にある日記を見つけた。
その内容は驚くべきものであった。
ここに住んでいたのは、A高等学校の教師で坂岡という名前であったのだ。
ここに住んでいた坂岡達はどうしたのだろうか。
日記をぱらぱらとめくる。
彼はある事実を調べていたようであった。
彼の通勤していた学校では、不可思議な死亡事故が存在していたのだ。
全部で4件。
13年前の屋上からの落下事故。
10年前の校庭落雷事故。
7年前のプール溺死事故。
そして、4年前のひき逃げ事故。
それが偶然ではないと考えていた彼は、学校に何か謎の秘密があると思っているようだ。
最後のページには、学校に泊り込んであることを調べると書き残していた。
A高等学校に来た。
しかし、関係者ではない自分がどうやって調べたらいいのか、ここに来て悩んでしまった。
そこで、校門から出てきた教師と思われる男性に話しかけた。
彼は40歳前半くらいの弱弱しい人であった。
最初は訝しげだった彼も坂岡、という名前に反応して興味を持ってくれた。
「坂岡先生…ですか」
少し離れたところにある街頭の下に導いた物理教師の半田は唸った。
「彼は1年前に失踪しましてね」
そこで、彼が調べていた事件が3年ごとに起こり、彼もそのセオリーどおりに最後の事件から3年後の去年、失踪していた。
おそらく、もうこの世にはいないだろう。
次に例の写真を見せた。
「これをどうしたのですか?」
明らかに驚嘆の表情を見せた半田は写真の4枚を取ってまじまじと見た。
「この4人は、うちの生徒ですね。しかし…」
それ以上、話をしようとはせずに去ってしまった。
あの写真が何を意味しているのか、それを知る必要があると思った。
A高校の生徒から話を聞く必要があるので、再び校門のところに行く。
しかし、夏休みなので学校に来ている生徒は少なかった。
部活や補習が目的の生徒がほとんどで、すぐに通り過ぎてしまう。
その中で、やっと補習帰りの少年を捕まえると、写真を見せることに成功した。
彼は少し考えて、2枚の写真に指差した。
「この2人はうちの高校の生徒ですね。でも、2人とも亡くなっています」
彼が指摘した2枚の写真は、半田が指摘した4枚の内の2枚であった。
すると、この写真に写っている人物全員はすでにこの世にいない可能性がある。
しかし、何故そんなフィルムの入ったカメラが…。
夜に校舎に忍び込むことにした。
深夜にA高校の中の校門を飛び越えて中に入った。
昇降口まで行くと、当たり前なのだが鍵が閉まっていて入れない。
他の入り口を探したが、結局見つけることが出来なかった。
その中であるものが非常階段からぶら下がっているのに気付いた。
よく見ようと少し上ると、それはロープであった。
その下には萎れた花束が風に揺れている。
その瞬間、嫌な空気が辺りに漂い始めた。
とりあえず、今日のところは帰ることにした。
A高校の前に今日も来るが、調査できずにいた。
すると、妙な集団がやってきた。
一昨日、写真のことを話してくれた少年もいる。
彼ら5人の少年少女は僕の周りで騒ぎ出した。
「ほら、言ったじゃないか。『かがみ』を調べている人がいるって」
少年がそう言って、軽く紹介を始めた。
この前の少年は五十嵐浩二。眼鏡をかけた若干A-boyタイプ。
次に各務幸平。校則違反のつんつん頭の少年。
清水麻衣子。ギャル系のライトブラウンの髪をふんわり風になびかせている。
泉屋唯。ショートヘアのボーイッシュタイプ。
最後に細波楓。彼女はモデルタイプであるが、背がやけに低かった。
彼らはその学校に流れる呪いの噂、『かがみ』に興味のあるオカルト好きの仲間であった。
同じ高校でありながら、知り合って仲良くなったのが、インターネットのオカルトサイトというのだから、よくよく変わった連中である。
彼らに高校内の調査を任せることにして、翌日その成果を聞くことにした。
別れ際、1つの質問をした。
「学校の非常階段のロープと花束はなんだ?」
すると、唯が首を傾げた。
「ロープと花束?そんなもの、あったっけ?」
その言葉に僕は言葉を出すことはできなかった。
次の日、彼らが補習を終えて校門から出てくるのを待ってすぐに話を聞いた。
浩二がガムを噛みながら、僕の質問に答える。
「やっぱ、非常階段には何もなかったぜ」
そこで、麻衣子が割って入り、こう付け加えた。
「でも、10年くらいここにいる先生の話なんだけど、10年前に自殺した奴がいるんだって」
10年前。落雷の為に校庭で亡くなった生徒がいたはず。
坂岡が調べた被害者の2番目の被害者である。
「10年前に落雷で亡くなった人もいただろう」
その言葉に5人は顔を合わせて首を傾げた。
「あの先生はそんな話をしてなかったよなあ」
その幸平の言葉に4人は頷く。
さらに、唯がそれに続けた。
「そんな話、聞いたことないし、キリ爺…あの先生もそういうことがあれば言ったはずだし。私、他に何かなかったか訊いたよお」
疑問があったが、あえてそれに触れないことにした。
さらに分かったことを訊いた。
「ああ、坂岡先生が何かを調べていたのは、有名だからね。『かがみ』の呪いだって」
楓の言葉に僕は言葉を割って入った。
「その『かがみ』の呪いって?」
「俺も色々からかわれたから、良い印象はないんだけどな。名前が各務だから」
と、幸平は話を始める。
「この学校には呪いの噂があって、何が『かがみ』なのかは分かんねえけど、この学校のどこかにある場所であるものを見た奴は死ぬんだってよ」
「詳しい話は分からないんだけどね」
と、麻衣子が言った。
「僕は『かがみ』っていう幽霊か妖怪がいて、夜に獲物を見つけて殺すって聞いたけど」
浩二の言葉で、その呪いの噂は曖昧なことが分かった。
でも、その呪いの噂の元を辿れば、由来となった事件が明らかになるはずである。
もう1度、彼らに調査を依頼して分かれることにした。
少年少女達は今日も話を聞かせてくれた。
内容は、坂岡が調べていたのは、どうも旧校舎の資料についてらしい。
『キリ爺』先生こと霧島教諭が教えてくれたそうだ。
しかも、あるものを見せてくれたそうだ。
坂岡氏が以前見せてほしいと言っていた過去の教員記録である。
その写真の中にあの15枚の写真の内8人のものが存在していて、彼らもすでに死んでいるそうだ。
しかも、その中の1人は10年前に落雷で死んでいるらしい。
つまり、この前の話は10年前に落雷で死んだ生徒はいないが、教諭はいたという意味だそうだ。
8人について聞いて見ると、さらに驚愕の事実が分かった。
キリ爺の記憶は定かではないが、それでも死亡事件だったのである程度残っていた。
2人は7年前に修学旅行中に交通事故、3人は4年前に林間学校で海で溺れた生徒を助けようと溺死。
後のメンバーは彼が来る前にすでにその学校にはいなかったので分からないとのことだ。
引き続き、A高校のオカルトフリーク達には、旧校舎を調べてもらうことにして、こちらは別の線から調べることにした。
まず、あのカメラ。
どこで坂岡は手に入れたのだろうか。
あれに写っていたのは、『かがみ』の呪いで死んだ、A高校に関係した人間である。
その呪いに掛かる原因は?
そもそもあの呪いとは?
かがみ。
鏡だろうか。否、そんな簡単なものではないだろう。かがみ、彼が見。彼が身。屈み。
人の名前?鑑、各務、加賀美。
インスタントカメラは現像に出してすでにもう存在しない。
あっても、出所は分からないだろう。
どこにでもあるものであるし。
結局、どう行動していいのか、思案に暮れて終わった。
何故か、A高校に来たが、今日は補習がないのか彼らはいなかった。
胸騒ぎを感じるが、どうしようもないので別の行動をとることにした。高校に関するニュースを図書館で調べた。確かに数件、何とか見つけることができた。死亡事故が多いことがやけに気になった。
全てを見つけることはできなかった。
その中で、気になるものがあった。旧校舎で自主制作映画を撮っていた生徒が2人亡くなったというものである。
やはり、呪いは旧校舎が関係しているのだ。
そして、旧校舎で何かをした(見つけた?)者が呪いに掛かるのだろう。
その自主制作映画のスタッフの生き残りを見つけようと思った。
その事件があったのは、7年前。
彼らの1人の住所を知るために、
また、半田先生に聞くことにした。
校舎に足を運ぶが、半田先生は今日は来ていないようであった。
少年達は今日も見つけることができなかった。心配になったので、探すことにした。校舎内にはいないようなので、彼らは別の場所で何かを調べているのでは、と思い、図書館や公園などを探し回った。
しかし、見つけることができなかった。
今日、朝起きてすぐに飛び上がった。
朝刊に小さな記事が載っていたのだが、そこには、細波楓という名前が並んでいる。
ある建設現場で変死体で発見されたそうだ。
すぐに部屋を飛び出して、現場に行く。
新聞には、詳しい場所は書いてなかったが、検討はついていた。
A高校の近くにバブルの遺産とも言える、いつまでも解体されない建築途中で計画中止されたホテルがあった。
そこに行くと、警官が数人いてテープが回りに張られていた。
野次馬の中に、少年達がいるのではないかと思って見回すが、浩二達は1人も見つけることができなかった。
今日も廃墟ビルは立ち入り禁止だったが、誰もいなかったので中に忍び込んだ。
この建物に何かあることだけは確かである。
埃が鼻に付くエントランスを抜ける。
内装は一切されていなく、配線、配管は勿論施工されていない。
階段をとぼとぼと2階に上ろうとすると、そこにあるものを見た。
白い人影である。
それを追って2階に行き、右手のホールに向かう。
そこで、花束が窓に落ちているのが見えた。
ゆっくりと近付き、その窓を覗いた。
見事にA高校が一望できた。
視線を落とすと、すでに花束は塵と消えていた。
…そうか、ここで呪いは生まれたんだ。
犠牲者、全てを呪いながら、この窓から身を投げた人がいる。
そして、その呪いは、その人が最後に見た景色、おそらく、そこで死を望んだであろう学校へと向けられた。
旧校舎に。
この建物をあの少年達は調べあげたのだ。
しかし、楓という少女は呪いに殺された。
旧校舎で調査をして呪われたのだ。
すると、他の連中もおそらく…。
ここにいても仕方がないので、
外に出ると彼らの足取りを求めて彷徨った。
少年達の行方は依然分からなかった。
夏休みも終わろうという時期に、補習のために高校にも来ていないようである。彼らに確実にかがみの呪いが影を落としたのだろう。
一体、旧校舎に何があったのだろう。
どうにかして、旧校舎に入れないか考えた。
A高校の周囲を見た結果、あることに気付いた。
旧校舎の窓ガラスの1枚が割れているのだ。
今夜、あの窓の割れた部分からクレセントを外して侵入することにした。
深夜にA高校に侵入した。旧校舎の側まで行くと、窓カラスの割れた場所から手を切らないように気をつけてクレセントを開けた。
窓は建付けが悪かったが、何とか開けることができた。
埃っぽい廊下を歩いていく。彼らはここで何を見て呪いを受けたのだろう。回ってみたが、結局、この建物中を見て不審なものを見つけることができず、帰ろうとしたその時、階段下に1冊の手帳を見つけた。
それを拾って内容を研究しようと思い、退散することにした。
遅く起きた後に、拾った手帳を何気なく開いた。
予定表には記述は全くなく、メモのところにびっしりと細かい文字が書かれていた。
その内容は次のようなものであった。
旧校舎の中に隠し部屋があり、そこには『かがみの呪い』に関わる何かがあるという。
昨夜、見つけることができなかったのだ。
もう1度探ることにした。
旧校舎の隠し部屋。深夜に校舎を1周してどこだか探した。
おかしい場所はない。
例のガラスが割れている場所から中に進入して、暗い校内を廊下をきしみさせながら歩く。階段の下。教室と教室の間。
全ての場所を探索したが、何も見つけることができなかった。
昨夜に続いてA高校の旧校舎に忍び込む。
ふと、メモの落ちていた場所に行ってみた。
近くの床を叩いてみる。微かに鈍い音がした。
手で探り、四角い蓋らしきものを見つける。
木造校舎の板張りの廊下なので、全く気付かなかったのだ。それを端の方に持っていたナイフを取り出して差し込むと、蓋を持ち上げた。
中からかなり冷たい空気が飛び出してくる。埃くさい汚れた空気が飛び出してきた。
階段が下に伸びている。その向こうは何があるのだろうか。ペンライトだけでは視界は保てないので、ここは装備を整えて出直すことにした。
今回は大きな懐中電灯にバックパック。デジカメを用意してきた。地下室に降りて溜息をつく。
中は殺風景で何もない。
勿論、鏡も存在していない。
拍子抜けで呪いをかけると思われるものさえもない。
ここで何があったのだろうか。
一通り部屋の中を見た後、外に出ようとしたその時、上へと伸びる階段の脇に何かが落ちていた。降りてきたときには気付かなかったのだ。
それは最新式のDVDデジタルビデオである。それを持ち帰ることにした。
ビデオカメラの前で困っていた。落下のショックか、カメラについている小さなスクリーンは起動しない。専用のコードを持っていないので、テレビやPCにつなぐこともできない。
こういうものに詳しい友人を呼んだが、用事があるので明日でないと都合が悪いとのことだ。
ビデオカメラの方は置いておいて、自分の取ったデジカメの方を見てみることにした。
画像をPCに落として、拡大して確認をした。あの殺風景な部屋が映される。それが5枚が過ぎた後、奇妙な画像が現れた。
デジカメでも心霊写真はあるということを初めてしった。
白い煙が写っている。
それはどんどん濃くなっていき、人の姿のようになっていく。
その顔は醜く何とか女性であることだけが分かった。彼女は誰なのだろうか。かがみの呪いの主なのか。
呪いの犠牲者なのだろうか。
あの建築中の建物から身を投げて呪いの主となったのが、煙の女性なのだろうか。
最後の写真を開いた時に、心臓が凍りついた。女性の顔が大きく鮮やかに広がり、こちらを恨めしそうに睨んでいた。
すぐにウィンドウを閉じるとビデオカメラに視線を落とした。
これには何が映っているのだろうか。
どうして、これが残されていたのだろうか。
持ち主はどうしたのだろうか。
疑問が疑問を呼んでいく。
今日、ビデオのコードを持って友人がやってきた。そのコードは僕のPCに合って、ビデオカメラの映像を見ることが出来た。
最初に映し出されたのは、浩二の度アップの顔。
そして、例の学生達5人が旧校舎の前に集まっている。
しばらく探検の用意をがやがやと済ませると、
唯が渡り廊下の手すりに置いていたカメラを取り上げてナレーションを始めた。
「これから、今まで調べていたかがみの呪いの実体を探りに行きます」
5人は旧校舎の中に進んでいく。
ここまでは何も変わったものは映っていない。
楓の元気な姿が心を打った。彼女はもう、この世にはいない。そこで、微かに女性の声が響いた。
「お姉ちゃん…」
それが彼らに聞こえたのか否か急に沈黙が漂い、重い空気が広がる。
さらに階段下まで来ると、どこで調べたのか、
すぐに床を調べ始める。
幸平が力任せに地下室の蓋を開けて、全員は躊躇いながらも
男性を先頭に中に入っていく。
カメラは最後方から全員の背中を映している。
全員は懐中電灯を部屋中に向ける。
そこで、友人はPCで画像をストップさせて、ある箇所を指差した。幸平と楓の間に、見知らぬ女性の青白い顔があった。ここには彼ら5人しか入っていないし、中に誰もいなかった。
それに、彼らも他の人間を認識していないようだ。僕らは顔を見せ合う。
さらに進める。
画像が急に乱れ始めて、間に見知らぬ女性の白目をむいた顔が一瞬映り、僕らは息を飲んだ。そのうち画像はぷつっと切れて、再び映ると全員がパニックを起こしているところだった。
音声は途切れ途切れで何を言っているか分からない。その内、楓は白昼夢の中のように呆然とゆっくり階段を上っていく。
カメラが急に天井に向けられる。そこには、女性の白い姿があった。それはカメラに向かって襲ってくる。
その途端に画面は地に叩きつけられて逃げ惑う足と階段の1段目が横に映った。カメラは放棄されたようだ。
靴が見えなくなると、静寂があたりを包んだ。
友人は止めると、DVDにその映像を焼いた。
「この映像をもう少し解析してみるよ」
そう言い残して、DVDを持って去っていった。
友人に何もないことを祈るだけであった。
ビデオを保管して、友人が画像解析をする間、あの建築放棄されたビルでかつて死んだ人間を調べることにした。
近くの牛丼屋でアルバイトの定員に聞き込みをした。彼は2丁目のマンションに住んでいたA高校の少女が、子供の頃に自殺していることを覚えていた。
すぐにA高校に足を向けた。
すでに夏休みが終わり、生徒でいっぱいであった。
しかし、13年以上前のことを覚えている人は
教員の中でも極僅かであろう。迷っていると、例のごとく半田教諭が姿を現した。
「かがみ、の呪いね。確かに生徒の間に噂の都市伝説だが」
「何か、知っていることは?」
「16年前に1人の少女がまだ、あのビルが建築途中だったときに亡くなっている」
「その少女が関わっていると」
「その後、旧校舎取り壊しが行われようとしたが、
業者が次々に謎の事故で止めていって、どこも請けてくれるところはなくなった」
「その後、かがみの呪いが始まったと。かがみって何ですか?」
「知らなくてもいいこと、触れない方がいいこともある」
ここまで話しておいて、そう言い残して半田教諭は去っていった。
結局、高校には浩二達は登校していなかったらしい。
下校中の少年を捕まえて色々聞いてみた。
朝に始業式で楓の死について、校長が話をした。
当たり障りのない、身のない話は終わったそうだ。
そして、教室で浩二達が行方不明だということをそれとなく告げた。
勿論、他言無用ということも。
結局、収穫はなかった。やはり、彼らは行方不明だった。
あの最後に分かれた日に、ビデオの撮影された探検が行われた。そう考えるのが自然だろう。
ビデオの感じでは、呪いの主、白い女性の霊が襲い掛かり、楓は自我を失って去っていった。
そして、飛び降りたのだろう。
彼女にあの世に引き込まれたのだ。残る4人はその場は逃げることができたが、呪いが降りかかってしまい、現在どこかで事切れているのだろう。
ふと、寄ったコンビニで、スポーツ新聞に目を止めた。この近くで高校生が車に轢き逃げされたとのことだった。
胸騒ぎとともに新聞を買って店を後にした。
今日はスポーツ新聞に載っていた轢き逃げ事件を確かめることにした。
A高校に行くと、いつものように半田教諭を捕まえて事件を聞く。なんと、その犠牲者は幸平であった。
「彼らはかがみの呪いを受けたんです。残った行方不明の彼らを助けるためにも、呪いについて分かっていることを教えて下さい」
「何も呪いについては話はできない。すでに発動した呪いはどうすることはできないんだ」
そして、去ろうとしたが、今回は違った。
「『キリ爺』、いや、霧島先生に話を聞けば、あるいは」
と、言い残したのだ。
確か、あの少年達が呪いについて調べる際に聞いていたのも、『キリ爺』だったはず。
すぐに学校で霧島教諭を探したが、今日はすでに帰ってしまっていた。明日、会って話を聞こうと思った。
そこに、携帯の着メロが鳴った。ビデオの画像解析していた友人からであった。明日、解析結果を話すとのことだった。
全ては明日である。
早朝、キリ爺を出勤前に学校前で捕まえて話を聞くことにした。彼のことは見るからにすぐ分かった。
声を掛けると、やはりキリ爺であった。
彼はまだ55歳とのことだが、そのあだ名のとおり、見かけがかなり年上に見えた。僕自身、大学の夏休みが終わる9月半ばまで、自由に動けなかった。というのは語弊はあるが。
実際、出席は代返で、試験は過去問題を丸暗記で単位は取れるのだ。
中には講義に1度も出席しないで単位を取るものまでいた。
彼は過去の記憶は残っていた。
「彼女はいじめられていました。16年前のことでした。あの日は奇妙なことがありました。彼女はいつもの様子と違って強気でしたね。いつものめそめそした感じがなく、いじめをしていた人達を論破していました。その日に自殺する訳はないんです。他の日の彼女であれば別ですが」
「それで、かがみの呪いとは?」
彼はうむと唸ってボソッと言った。
「彼女の名前は大垣加賀美と言ったんです。今となっては、それを覚えている人も、呪いの名前の由来を知っている者も、この地元にもいなくなりましたよ」
「で、その呪いとは?」
「興味を持たれない方がいい。貴方のことだから、呪いに首をつっこむでしょう」
「それでも、人を不幸にする呪いは放っておけないんです」
「・・・いいでしょう。ただし、この呪いの謎に深く関わった場合、彼女が気に食わなければ命を落とします」
彼はそう言って、今日の深夜12時に誰もいないことを確認して、この学校に来るように言い残した。
彼と別れると、携帯電話で友人に電話をした。しかし、一向に出ない。心配になって、友人のアパートに向かった。
玄関のドアは鍵が掛かっていなく、中には誰もいなかった。
結局、友人の行方は分からなかった。浩二達の二の舞になってないことを祈りながら、深夜12時にA高校に行くと、そこにはキリ爺は待っていた。
彼は呪いに掛からないようだ。加賀美はキリ爺を気に入っているようだ。当時も彼は教壇についていた。
すると、彼女も教えていたのでは?
そこで気に入られていた?
呪いの主の整然と顔見知りかもしれない。
何か、まだ隠していることがあるのでは。
様々な疑問をよそにキリ爺は僕を旧校舎の中に導いた。そして、例の隠し部屋にたどり着く。
「ここは、元は防災用のシェルターだったんです。それに目をつけたある者は加賀美君を閉じ込められました。3日後に発見されたときは、衰弱が激しくてね。そう言えば、その次の日にあの人が変わったようになり、その日に廃ビルから身を投げたんですよ」
それを聞くとどうも解せないことが多々ある。人が変わったとは?3日もこんな場所に閉じ込められて、衰弱していたのに次の日、いじめっこに食って掛かり論破するくらい元気なのも気になる。
それに、身を投げたということも。
キリ爺は何もない地下室の真ん中でかがんだ。すると、霧が発生する。僕は瞬時に危険を察知して階段のところまで退いた。
「この霧は呪いの本体ですね」
「そう、彼女の魂です。さぁ、出ましょう」
外に出ると、キリ爺はあの場所が呪いの原点であり、加賀美の霊が現れて呪いをかける場所だと話した。
「何故、あそこに執着をするんですか?」
「さあ。その謎はあの建物から落ちた、という状況が鍵かもしれませんね」
それ以上、分かるものはなかった。
早朝に帰り、そのまま1日眠ることにした。
丸1日眠ってしまった。起きると次の日の早朝であった。ゆっくり起きると、充電器に刺さっている携帯に目をやった。
寝ている間に着信があったようだ。
留守電を聞いてみると、行方不明の友人の声であった。
「あの呪いは罠…」
そこで切れていた。
すぐに外出の用意をすると、友人のアパートに再び向かった。以前のように鍵がかかっていないが、もう何日も帰っていないようであった。今回は足を踏み入れて、パソコンの前に向かった。
周辺機器が充実したそれは、かなりカスタマイズされていた。
立ち上げて、例のビデオの解析結果を探そうとした。しかし、どこにもあのビデオの画像ファイル、動画ファイル、音声ファイルは存在しなかった。
不思議に思って、色々といじってみる。霊がファイルを消したのだろうか。ふと、思いたってブラウザーを開く。
インターネットの履歴を見ると、あるサイトを最後に見ていた。
『ドッペルゲンガー』
そこで、全てをはっきりさせた。
友人が罠と言ったのは、呪いは、呪いの主は1つではないということなのだ。
ドッペルゲンガー、つまり、同一体が2体あるのだ。
すぐに友人の居場所を探して外へ飛び出した。しかし、A高校にも、廃ビルにも存在しない。加賀美の家のマンションに向かうと、マンションの前に浩二の飛び降り死体が転がっていた。
サイレンの音が辺りに響く。誰かの助けがいる。明日、またキリ爺のところに向かうことにした。
キリ爺は学校にはいなかった。それもそのはず、気付くと今日は日曜であった。
夏休みになると、日にちの感覚がなくなりがちである。仕方なく、この学校を調べることにした。
友人が映像を見てどこかに行くとしたら、あの映像に映っていた旧校舎の可能性は高い。
日曜に部活の練習をしている生徒達の目に触れないように、こっそりと旧校舎に忍び込むと、友人を捜索しながらあの隠し部屋に向かう。
今回は深夜までは待てなかったのだ。友人の危機なのだから。地下室の蓋を取り、ゆっくりと中に入る。
やはり、殺風景な部屋だ。何故、ここに霊体が現れるのか。どうも自縛霊であることは想像がつく。
その理由はおそらくここに…。
友人は画像解析でこの部屋のある場所に見つけたのだ。その呪いの、霊の元凶を。
最後の映していたのは、階段の側である。階段の裏側を這って見てみる。すると、そこには地面がむき出しになっていた。
地上に戻って、物置を探してスコップを持って再び戻る。
そのむき出しの地下室の床を掘っていくと、やがて固いものにぶつかった。それは白い骨である。
そう、ここで呪いを放っていたのは、本物の加賀美であり、あの霧のような霊であり、目の前にある骨だろう。
キリ爺の話では、彼女はここに3日間閉じ込められた。しかし、次の日、人が変わって現れたということだ。しかし、事実は違った。ここで彼女は死んで、それを恐れたいじめっ子は遺体を埋めたのだ。
すると、次の日、現れたのは別人ということになる。
彼女は廃ビルから身を投げている。
いじめっ子に加賀美の仇を討とうとして、返り討ちにあったのでは?加賀美の双子の姉妹というところだろうか。いじめっこに論破していたという彼の話は、実は彼らと双子の片割れをいじめ殺した事実を問いただしていたのだろう。
しかし、2人の双子の霊が別々に呪いを放つだけが、『罠』だというのだろうか。まだ、疑問は全て解明されていない。
どこにも友人の姿がなく、途方に暮れていた。A高校の周りを調査していた。
呪いの正体が分かったところで、解呪の方法が分からなければ、意味がなかった。
おそらく事実を解明して、無念を晴らすことで浄化できると信じていた。
彼女達は自分達をいじめ、死へと至らしめた者達への恨みでこの世にとどまり続け、関係ない人々を呪い殺している。そのいじめの関係者を探すことにした。キリ爺に会いに校門に足を踏み入れたその時、悲鳴が当たりに響いた。すぐに駆けつけると、駐輪場に首を括った麻衣子の姿があった。
近くにこの騒ぎに駆けつけたキリ爺を見つけると、すぐに加賀美をいじめていた者達を聞いた。
彼は首を捻り唸って言った。
「実はいじめのリーダーはここの生活指導の増井先生ですよ」
いじめの首謀者がまだ生きていたことに驚いた。何故、関係ない人が死に、呪いの対象が生きているのか。呪いに関われば死に、恨みのある者でも呪いに関わらなければ、殺すことはない、ということなのか。
不条理な現状に違和感を覚えた。
もしかしたら、今までの推理が間違っているのだろうか。根本的に、何かを間違えているのだろうか。
もう1度頭の中を整理することにした。
友人は結局、見つからない。とりあえず、呪いの主、加賀美とその双子の姉妹らしき存在の無念を晴らすことにした。増井教諭。彼が加賀美をいじめ殺し、その姉妹まで手をかけたと思われた存在。
彼の大罪を明らかにして、悔い改めることが解呪であると思われた。放課後の高校で増井教諭を待っていると、20時過ぎにやっと姿を現した。
すぐに近付くと、突然、猛スピードのスポーツカーが突っ込んできて彼の姿を視界から消した。跳ね飛ばされた彼は校門近くで痙攣を起こしていた。車は学校の塀に激突して煙を吐いていた。
前半分がつぶれているので、ドライバーはおそらく即死だろう。野次馬がすぐに集まってくる。そこで、ふと、彼の近くに落ちている紙に気付いて拾い上げた。
それには、増井教諭を20時に校門前に呼び出す内容が書かれていた。丸い文字からみて、女性の筆跡のようであった。
加賀美だろうか。呪いに近付いていないだろう彼を何故、今になって?
何か、まだ自分の気付いていない重大なことがある気がしてならなかった。
その手紙の入っていた封筒を探す。背広のポケットに刺さっていた封筒を見つけて、人目を盗んでそれを抜き取ってその場を去った。
封筒の消印を見る。その手紙が出されたのは、B郵便局管轄の地区である。しかし、それは加賀美の家とも、A高校のある地域とも違った。50km離れた隣町である。
呪いと関係ないのだろうか?
その町をネットで調べるために家路につくことにした。
昨日の封筒の消印の郵便局とその周辺の地図をインターネットで表示させて眺めた。隣町だから、A高校も廃ビルも関係ないだろう。
犯人は誰か。手紙の方を見る。ヒントはないかとじっと眺めていた。手紙の端に黒い染みがあった。
そして、におい。おそらく、女性でありがちの手紙に香りをつけていたのだろう。
便箋の束全てに香りをつけていて、その1枚を使ったものだろう。この香りは何だろうか。
とりあえず、パソコンのモニターを眺めていると、いまどき珍しい銭湯のある場所を見つけた。ボイラー室の煤がこの黒い染みだろうか?安易過ぎるだろう。
とりあえず、現地で足を使って回ってみようと思った。
しかし、その日は結局、何も見つけることはできなかった。明日は行っていない場所に向かってみることにした。隣町を捜索して何時間かたった。こう、周りを見ながら歩いていても、何も分からないことは分かっていた。しかし、何もしないでいることはできなかった。
しばらく歩いていると、あの手紙と同じ香りがふと微か鼻に付いた。振り向くと、小さくお洒落な店があった。中に入り、アロマオイルを眺めていると、あるアロマキャンドルに目がいった。
この香り、全く同じだ。
すぐに、最近このキャンドルを買った女性について聞いてみた。そこのおばさんは、少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「そうね、確かC女子高の制服だったわね。とても可愛らしい子でしたよ」
その少女とかがみの呪いに関連性はあるのだろうか。他にその子の特徴を聞いてみた。
「うーん。そうね、色の白い子で確か、首のところに大きなあざがあったわ」
そこで、僕は背筋が凍るような感覚に襲われた。その人物像は、僕の知っている人であった。
再びA高校に来た。すると、旧校舎の方が騒がしかった。そちらに行ってみると、唯の変わり果てた姿があった。旧校舎の窓ガラスが数枚割られて、その欠片が倒れた彼女に刺さっていた。
周りの生徒達は悲鳴を上げて、しきりにかがみの呪いを囁いていた。いよいよ、呪いを調べてくれていた若者全員が命を絶った。巻き込んだ責任を感じつつも、旧校舎を望んだ。
彼らに何が起こり、どうやって死んだのか。とにかく、彼女を止めなくては。呪いの主を求めて、旧校舎の中に入った。
あの地下室の手前でふと思った。ここじゃない。もう1度、重要な意味を持つ場所を探すことにした。
今日は1日地図と睨めっこして考えていた。あいつがいるところはどこだろうか。最も呪いを発動しやすく、目的が達成しやす居場所。A高校はなかった。あの廃ビルでもない。加賀美姉妹とは関係ないのだろうか。
罠。それは加賀美達の霊障で本当の呪いが目立たなくなる、ということだろう。全く、彼女達と関係がない訳ではないのだろうが。
加賀美と一緒にいじめられていた者がいるのだろうか。犯人の目処はついている。しかし、存在しているのは現在。
その意味は…すでに検討はついている。C女子高、には行けないだろう。手紙を出した隣町が怪しい。
地図を眺めていて、めぼしいところをチェックしていく。そこで、よく事故の起こる魔の交差点に目をつけた。これは呪いが関係しているかもしれない。明日、行ってみることにした。
魔の交差点に来た。周りの商店街の人に話を色々聞く。何年前から事故が起こっているかは定かではないが、過去に23回の事故が発生している。
しかも、見通しがいいにもかかわらず、2台が正面衝突して角の家の塀に突っ込んでいた。その家が関係しているのではと思い中を覗くが、特に何の変哲もない普通の家であった。
そこから出てきた人に話を聞いた。
「そうね、私も自分の家にこんなに車がぶつかるなんて、呪われているんじゃないかって思って」
奥さんはそう言って困った顔をしていた。
「事故のきっかけは分かりませんか、いつ頃、何かがあったときとか」
そうすると、意外な言葉が聴けた。
「そうね。この家は私の実家で、親と住んでいるんですけどね。まだ、私が高校生の頃だから、10数年くらい前かな。きっかけは…、そう、同級生の自殺があって、その恋人が私の家に来て、私が彼女の形見を渡した時かな。どうしても、欲しいって言われて」
「それは何ですか?」
「それが変なの。インスタントカメラ。2人でよく旅行に行くので、買い溜めしていて、その残り。そんなものを欲しがるなんてね。彼の方がもっといい形見を沢山持っていたはずでしょ」
そこで、ある重要な場所を見落としていたことを思い出した。僕がこの事件に首を突っ込むきっかけ。
ある空き家で白い人影を見たあの家。インスタントカメラを見つけて、中の写真は被害者の写真であったこと。その人に別れを告げると、頭の中を整理するために家に帰った。
坂岡教諭の棲家だったあの空き家に来た。やはり戻ってきてしまった。ここに奴はいる。靴のまま、リビングに上がると椅子に座って溜息をついた。
気配が突然、背後に現れる。振り返って、見覚えのある人物を見た。
そう、C女子高の格好の少女であった。彼女こそ、あのビデオの画像解析をお願いした友人である。
「君は何者なんだ?」
僕が呼びかけたのは友人である彼女ではなく、その中に宿るもう1人の存在であった。
「私は加賀美」
「加賀美は旧校舎の地下室で眠っているじゃないか」
「忘れたの?私の言葉。罠だって」
友人に取り憑いた加賀美は、意味ありげに微笑んだ。
「あれは泉よ。影のいじめのボスってところね」
「で、目的は何だ?」
「全て終わったわ。貴方は無駄足だったの」
「確かにな。結局、呪いかかわった者、当時、いじめにかかわった者を1人も救えなかった。でも、救う気もなかったけどな」
そう言って微笑むと、彼女は僕を睨んだ。
「貴方では、私は倒せない」
そう言い残すと、友人の体を捨てて加賀美はこの空き家の中に去っていった。そこに、ある人物が到着した。
「遅かったな」
「悪い、でも、間に合ったぜ」
窓から顔を覗かせたのは、大学の同じクラスの今井護である。友人の少女飛鳥を抱えて外に出ると、空き家の四方に盛塩がしてあった。護の仕業である。
「これで、この家から出られない」
彼はそう言って微笑んだ。飛鳥を病院に運んで、護と看病をした。結局、この日に目を覚ますことはなかった。
護と2人で空き家に訪れる。これが最終決戦になるだろう。家には何の異常もなかった。加賀美の霊はどうしたのだろうか。結界が破られたのだろうか。
2人で家中を調べるが、結局何も見つけることはできなかった。
「目的は達成したんだろう?成仏したんじゃないか」
護は楽観的にそう言うと靴を履いて外に出た。僕もこれ以上何もできないので、同じく外に出て廃墟を眺めた。
「本当にこれで全てが終わったのか」
そう呟くしかなかった。これは加賀美の罠ではないのか。疑念はいつまでも拭えなかった。
今日、晴れない気持ちのまま、再開した大学に向かった。しかし、講義に護の姿はなかった。
胸騒ぎがした。全ての講義を終えて、彼の寮に向かう。
そこにもいなかった。バイト先のコンビニに行ってみる。そこも無断欠勤して、店長が慌てていた。
嫌な予感がさらに増していく。
あの加賀美を封印した空き家に向かう。そこにも護はいなかった。
加賀美の呪いは終わっていないのだろうか。はっと、思い立って、すぐに飛鳥に入院する病院に向かった。彼女は病室にはいなかった。困惑のまま、その日は町中を2人を探し回った。結局、2人を見つけることはできなかった。
友人達が見つからないまま、坂岡氏の家に再び帰ってきた。加賀美の霊が鍵を握っているに違いない。
かがみの呪いはまず、呪われた人を神隠しに遭わすのだ。どこに皆を隠すのだ?そのヒントは加賀美が知っている。屋敷の中に入って辺りを見回す。
「加賀美、出て来い」
すると、廊下の板がぎしぎしと鈍い音を立てて、冷たい空気が流れてきた。しばらくすると、髪の長い女性の姿が現れた。
ぎこちない動きのまま、死後硬直した体を無理に動かしているような音が響く。
「加賀美か?」
僕の言葉に答えるように彼女は白目を剥いた顔をこちらに向けた。
「何故、友人が2人も呪いにかかる?何故、成仏しない?」
しかし、彼女は沈黙を保って側に寄ってくる。
「残念だが、僕はそんなことでは恐怖を感じない。さあ、答えろ」
そこで、ぴたっと止まって何かを口走った。それはかなりの早口で聞き取れなかった。誰かに憑いていないと、彼女はまともに行動できないようだ。しばらく、そこで彼女の奇妙な行動を眺めていた。
気付くと、坂岡氏の屋敷で気を失っていた。時間はすでに大学の講義の3時限目が終わる頃。目の前にいた加賀美の霊は小刻みに揺れながらこちらを見下ろしている。ソファで足を組んで、声を掛けた。
「ここは精神力を使うな。少し、眠ってしまったようだ」
そこで、やっと彼女は重い口を開いた。
「私の居場所に彼らはいる」
そこで思い出した。加賀美の死体はまだ、発見されていないのだ。目の前の姿は霊体である。旧校舎の死体の側に彼らがいるのだろうか。遺体の未発見が加賀美の未練なのだろうか。
すぐに旧校舎に向かった。しかし、何故か警察官が見張っているので、入ることができず、この日は諦めることにした。近くの人に何故、警官がいるのか聞いてみた。
「何でも、男女の若者の死体が見つかったんだと」
本屋のおじさんの言葉に愕然とした。
朝起きるとすぐにA高校に向かった。昨日、ここで死亡した男女の正体を知るためにここに来た。しかし、まだ警察官がいたるところにいた。殺人事件なのだろう。しかし、この学校には過去からかなりの人が亡くなっているので、警察も今回の事件に疑問を持っているのだろう。
呪いなんて信じていないので、犯人の手がかりを捜査しているのだろう。しかし、そんなものは無駄だ。
犯人は生身の存在ではないのだ。
彼は、学校から出てきたキリ爺に話しかけた。
「まだ、君は呪いに関わっていたのか」
「ここで誰が亡くなったんですか?」
「それは、関係者以外には口外できないんだが」
「僕の友人達かもしれないんです」
すると、彼は首を横に振った。
「それはない。彼らは生徒だ」
そこで、不謹慎だが、少し安心をしてしまった。
「でも、何故?殺人事件と警察は考えているようですが」
「言えないんだよ」
キリ爺はそのまま逃げるように立ち去った。旧校舎で呪いに関わった生徒がいるのだろうか。次に生徒の1人を捕まえた。
「ねえ、君。ここで亡くなった人のことを教えてほしいんだけど」
すると、彼は疑念の瞳を向ける。
「貴方、新聞記者ですか?」
「いいえ、でもカガミの呪いの秘密を解明しようとしているんです」
「それは無理ですよ」
「やってみないと。それより、その2人とは?」
彼は頭を掻いて話始めた。
「旧校舎に入ったんです。授業中にデートとかで。でも、結局帰ってこなかった。発見された時は、旧校舎の昇降口で手をつないで倒れていたって」
どうも、詳しい話を知らないようだったので、行こうとしたら、彼はさらに言葉を続ける。
「そうだ、その時、一緒に行ったもう1組の奴らがいたんだけど、そいつらは今、D病院に入院しているよ」
すぐに近くの総合病院に向かった。しかし、名前も分からず、見つけることができなかった。明日、大学の講義の後にもう1度操作することにした。
今日は病院で、呪いから生き残った、しかも神隠しに遭わなかった2人を探した。ナースセンターで一昨日、担ぎ込まれた高校生を聞いた。しかし、少年は今朝の未明に絶命したそうだ。
残るはその恋人であった少女である。彼女はICUで、治療を受けているらしい。今日の昼が峠とのこと。結局、会うことも事情を聞くこともできずに病院を後にした。
A高校は今日も警察官の数人がいて、自由に動くこともできない。捜査は行き詰った。友人達も見つけることができない。おそらく、解呪の鍵である加賀美の遺体は旧校舎であろう。あそこに行く者が呪いにかかるのだ。
地下室の白い霧ももしかしたら…。地下室は他に異常はなかった。明日には、警察官の姿もなくなるだろう。
今日は警官が数人しかいなかったので、A高校に忍び込む。誰にも見つからないように、黄色いテープの張ってある旧校舎に入った。床に書いてある人の絵が、遺体の発見場所だと分かる。しかし、何も見つからなかった。
加賀美の遺体はどこかにあるはず。…ただの推測であるが。地下室に再び向かう。ひんやりしたあの場所が広がっていた。殺風景な何もない場所。階段の裏を覗く。
すでに白骨はなくなっている。他に隠しドアも空間もないようだ。地下室ではない、ということであろうか。地下室を後にしようとしたその時、背後に冷たい気配が起こる。振り返ると、霧のようなものが広がり、それが人の形になった。
すぐに駆け上がり地下室の蓋を閉めて溜息をついた。あれは何なのだろうか。加賀美は屋敷の結界にいる。呪いの主は加賀美ではない、ということなのだろうか。あの霧のような存在の正体を突き止めることにして帰路についた。
大学の講義を終えて、加賀美に会うために、坂岡邸に向かった。空き家の中を、勝手知ったる他人の家、とばかりにリビングに上がる。そこで、加賀美が現れるのを待った。
どのくらいたっただろうか。すっかり辺りは暗くなっていた。電気はすでに止められているし、人目につくのでつけられない。その中を何かが蠢く音がした。横を見ると、例の加賀美の這ってくる姿があった。
「なあ、加賀美。あの霧みたいなの、何なんだ?お前の呪いと同じようなことをやるみたいだけど。
双子の姉妹の霊か?」
すると、それは声にならない声をやっと発した。
「い・ず・み」
「あの、いじめのボスの恋人だった?」
しかし、加賀美は首を横に振った。
「私が、い、いる前から、旧校舎は、あった」
「それは、そうだろう…、まさか、カガミの呪いはその前から?いずみってそのことを言っているのか?
同じような呪いを加賀美がかけただけか」
確かにありえる。当時、旧校舎はすでに立ち入り禁止だったに違いない。あの旧校舎について、そして、いずみ、についても調べることにした。すぐに加賀美に別れを告げて、坂岡邸を後にした。
大学の講義が午後のものが休講だったので、すぐに図書館に向かった。そこで、あのA高校についてを調べまくった。あの地域は、加賀美の事件以前には、人が亡くなる事件は起こっていない。でも、旧校舎が使用禁止になったのは、どうもある事件が原因らしい。沢山の薬品が地下室で見つかったのだ。それは旧大日本帝国陸軍の研究施設であったときの名残で、細菌兵器の実験の一部らしい。それ以降、危険だということで、新校舎を建設して旧校舎は閉鎖された。
道理で隠し地下室という学校には不釣合いのものが存在する訳だ。この軍隊の施設を調べる。昔の新聞には、その詳しい情報を見つけることはできなかった。
戦争時代のA高校のことを知っている人はおそらくいないだろう。今の校長は見た目50歳前後。勿論、戦後生まれ。戦前のことを知っている人がいても、軍の機密まで知るものはいないはず。勿論、そのような資料もあっても簡単に手に入るものではない。そこで、この辺りで長寿の人を探した。
すると、かなりの年配のお爺さんが畑仕事をしていたので、駄目元で聞いてみることにした。
「はあ、旧日本軍の基地跡地ねえ。和泉軍曹の科学研究所がこの辺にあったと聞いているが」
それだ。和泉軍曹、いずみ。間違いないだろう。呪いの正体が分かった。後は、彼の居場所だ。
加賀美は自分の遺体のあるところと言っていた。旧校舎を捜索したが、そんな場所はなかった。あの地下室も、一見何もないように見えた。地下室の霊は女性の形をしていた。あの霧は軍曹ではないだろう。軍曹のことを調べれば、その居場所が分かるだろう。
今日は大学は友人に代返を頼んで自主休講。和泉軍曹について、図書館で本を調べまくった。インターネットでも調べまくった。しかし、そんな記述はどこにもなかった。なくて当たり前なのだが。拉致があかず、和泉という名前のこの土地の人物を探すことにした。
すると、あるサイトに合致する内容があった。和泉正造伍長という人物がA高校の付近にあった旧日本軍基地にいたとのこと。軍曹ではないので、呪いの主ではないかもしれない。彼は上層部の密命を受けて、人体実験を行っていた。その目的は不明であるが、その施設に隣接された死体処理場跡が心霊スポットになっているとのこと。
場所はC女子高の隣にあるE銀行とのこと。すると、和泉のいた施設はE銀行の周辺のどれか。西は大通り。北は巨大スーパー。東はC女子高。南は少し細い通り。
通りが現在あるということは、以前から道、または水路があったと考えられる。とすると、女子高、スーパーのどちらかが怪しい。A高校の旧校舎が呪いの元凶と思われたが、とんだ見当違いだったようだ。
とりあえず、詳しい話を聞こうと、サイトの主に質問のメールを出して返事を待つことにした。
今日、サイトの主からメールは来た。明日、実際に会って話がしたいとのことだった。資料もあり、メールでは語りにくいということだろう。もう少し、和泉伍長、もしくは軍曹のことを調べることにした。大学の郷土研究の第一人者、真崎教授のところに伺った。彼は和泉という人物について、少しは知っていた。
「確かに、旧日本軍の研究所の責任者だったと言われている。彼は元々伍長だったが、周りからはその性質から軍曹と言われていた。敵兵を一度に大量に殲滅するために、生物兵器を作り、捕虜で実験を行っていたという文献の一部がGHQによって発見されて没収されたそうだ。実は、彼は掴っていない。この研究所が制圧された時には、すでに彼の姿はなかったそうだ。結局、行方不明だったそうだ」
その話を聞いて、呪いとの関係が深いことが推測できた。もしかしたら、軍曹は未だに生きているのかもしれない。そんなことまで思えてくるほどに、彼に対して違和感を感じていた。
もし、生きていたら、90数歳、100歳近いだろう。明日のサイトの主の話を楽しみにすることにした。
メールの相手は佐藤治といって、フリーターをしているとのことだった。心霊フリークで各地の心霊スポットの研究をしているとのことだった。駅前で待ち合わせした。外でしばらく話をしていた。
地元の心霊スポットである、和泉軍曹のことはよく研究したそうだ。元々、彼が心霊フリークになったきっかけでもあり、祖父から色々話をしていた。
元、日本軍将校直属の施設長代理だったようで、かなり深いところまで知っていたそうだ。しかし、その全てを治が教わった訳ではない。ある程度、割愛されて話を聞いていた。
今はその彼の祖父は他界している。彼は現在のC女子高のある場所の施設で研究をしていたそうだ。そして、現在の銀行のあるところにあった遺体処理施設に人体実験の犠牲者を葬っていた。
彼が知っているのは、その程度であった。
次に銀行を調べてみることにした。
銀行の中に入る。特におかしいところはなかった。軍曹の霊も他の霊も見えない。ここに呪いの根源があるようには思えなかった。考え違いをしていたのだろうか。でも、心霊スポットはこの銀行。何かあるはず。
それも、心霊スポットということは、客が入れるスペースのはず。結局、この日は何も見つけることはできなかった。心霊スポットと加賀美の言っていた呪いは関係ないのだろうか。仕切りなおしである。
今日、大学の講義中に携帯にメールが届いた。パソコンのメールが転送されたもので、和泉軍曹の心霊スポットのサイトの主、佐藤治からであった。内容はあの心霊スポットの霊が出る場所はあの銀行のビルの外であることが書いてあった。
裏にある駐車場の1本杉であると。建物内部ではなかったのだ。すると、その杉の下に加賀美の遺体が眠っているのだろうか。でも、何故、あそこに加賀美の遺体が…。
今になって、そんな疑問が湧いた。講義が終わり、すぐに銀行に向かう。その杉の下に行く。前には気付かなかったけど、結構大きなものであった。上垣の中に立っている。その下を深夜に密かに掘っていると、
霧のようなものが回りに現れ始める。構わず、続けているとやがてスコップは木の根に阻まれた。結局、加賀美の遺体を発見できなかった。
しかし、ここに彼女の遺体があれば、この付近に友人達がいるということになる。
…それにしても、今回は神隠しの人間の死亡する時間が遅いのが気になった。個人的には、その方が助かるのだが。
久々に加賀美に会いに空き家に戻ってきた。そこで、現在の状況を独り言のように誰もいないリビングで話すと、どこからともなく声が聞こえた。
「それは、今までの生徒は私の呪い、お前の友達はイズミの呪い…」
カガミの呪いと軍曹の呪いは似て非なるもの、ということだろう。それ以外、彼女は言葉を発することはなかった。
「すぐに成仏させたいんだけどな。遺体を供養しようにも、それがどこにあるか分からないからなあ」
そしたら、鈍い音が響いて白い霧が現れる。
「イズミの出る場所は、私は眠っていない」
確かに、軍曹の霊が出るからと言って、軍曹の遺体はあっても、加賀美の遺体があるとは限らない。結局、振り出しに戻ったようだ。
大学の講義の中、色々考えていた。加賀美はいじめで殺されたのではない。軍曹の呪いで死んだのだ。
ということは、軍曹の呪いのかかるあの杉の木の側に行ったはず。彼女が行方不明になる前の日は、地下室でいじめの主の恋人が地下室で死んで埋められた。加賀美がやったことなのか。それとも、それも軍曹の呪いなのか。
この時はまだ、加賀美は生きているし、カガミの呪いはまだない。いじめで地下室に閉じ込めようとした彼女を加賀美が返り討ちにしたのか。その後、軍曹の呪いで神隠しにあった。そう推測できる。
では、軍曹の呪いはどこに神隠しをした人間を命を奪って遺体を現せるのか。きっと、加賀美の遺体のありかが、友人達の居場所でもあるだろう。やはり、軍曹が全ての鍵である。もっと、彼について知る必要がある。
治にもう1度メールを送って、他に知っていることがないか確認してみた。この日は、返事は来なかった。
治からのメールが届いた。A高校の旧校舎のあった旧日本軍の施設と、C女子高のあった軍曹の旧日本軍の研究施設は元々、同じ組織の施設であったとのこと。軍曹が旧校舎でも活動していたのだ。すると、旧校舎に何かが隠されている。
久々に何度目かの旧校舎侵入を試みた。今度は図書室に向かう。部屋中を捜索するが、めぼしいものはなかった。すると、壁に掛かる古く大きな油絵に目を奪われた。かなり古いもので、旧日本軍基地時代のものと思われる。この絵の写真を撮って、後で考えることにした。
今日は、ずっと昨日撮った旧校舎の美術室にあった絵画の写真を眺めていた。すると、あることに気付いた。絵画のある場所が輝いているのだ。絵画が劣化したために、画材が落ちているようだが。もし、キャンバスであれば輝くはずはない。その意味は。
すぐに理解できた。これはキャンバスに描かれたものではない。そう、輝くあるものに描かれているのだ。それを隠すために。今日は大学の部活の関係で行けないので、明日、それを捜索しようと決めた。
旧校舎に侵入をして、美術室に向かった。あの絵画の前に行くと、コインで削る。思ったとおり、画材は簡単に剥がれて後ろからガラス面が現れた。それを割ると、後ろに空間が存在していた。その中を覗いてペンライトで照らすと、そこには血の跡がべっとりついた窓のない部屋があった。
その中央には、白骨死体が寝ている。服装が軍服なので、彼こそが呪いの張本人、軍曹なのだろう。しかし、肝心の加賀美の死体と友人達はなかった。もう1度、仕切り直しをすることにした。
再び、旧校舎に忍び込んだ。気になることがまだあったのだ。加賀美はここで命を落とした可能性は大きい。その原因がいじめによるものであれば、地下室で逃げ出した彼女がどこで事切れたのか。この中である可能性は大いになるのだ。
普通、ここを脱出したら、すぐに外に出ようとするだろう。しかし、そうしなかった。おそらく、玄関を閉められていたのだろう。すると、窓から出ようとする。昇降口の後ろにある廊下の窓を見た。この窓の付近で何かがあったのか。神隠しにあったのだろうか。窓を覗いて顔を出した。
そこには、小さな池が広がっていた。池の中に、まさか。すぐに外に出ると、池の周りを探し回った。すると、池の向こう側の倉庫で音がしたので、すぐに窓を割って侵入すると、護と飛鳥が閉じ込められていた。
衰弱をしているが、命に別状はないようだ。窓から2人を脱出させると、すぐに救急車を呼んだ。護の話では、2人は神隠しにあってから昨日までの記憶はないという。とにかく、話を明日ゆっくり聞くことにした。
護の話では、加賀美を廃墟に封印してすぐにA高校の側で立ちくらみを起こしたそうだ。そして、気付いたらあの物置に閉じ込められていたという。まだ意識の戻っていない飛鳥も同じだろう。封印したときに加賀美は呪いを終えたはず。彼女の呪いの終焉と同時に軍曹の呪いが復活したのだ。
しかし、軍曹の呪いは何故…。
加賀美とどういう関係があるのだろうか。
病院の帰りにもう1度旧校舎裏の池に向かう。その池の中を覗いていると、後ろからキリ爺がやってきた。僕は一通り話しをすると、彼はゆっくりと頷いた。
「そうか、カガミの呪いは終わったのか」
「軍曹って、何者なんですか?」
「さあ。詳しい話は分からんが、加賀美という少女が軍曹の呪いで死んでから、軍曹の呪いは納まりカガミの呪いが始まったのは、何かあるのかもしれん」
そして、キリ爺は旧校舎の側にあった大岩をどかすと、その下から白骨が現れた。
「これが加賀美だろう」
僕は唖然として彼を見た。
「偶然、見つけたんだ」
彼はそう言って、次の日にここに来るように言った。
結局、キリ爺は旧校舎に来なかった。嫌な予感がして、高校生に話しかけて聞いてみた。彼は学校に出勤していないとのこと。軍曹の呪いに掛かってしまったのだろうか。軍曹の遺体を見つけ、葬っても呪いはなくならないのだろうか。加賀美も葬っているが、まだ現世にとどまっているか、あの空き家に確かめにいった。すると、あの封印された屋敷には加賀美の禍々しい気配はなく、現れることはなかった。加賀美は成仏したのだろう。軍曹の呪いを解呪できるのか、不安が押し寄せてきた。
今日、キリ爺が事故で落下した廃ビルの看板につぶされたことを知った。現在は意識不明の重態だそうだ。そこで、廃ビルに何かあるのでは、と思った。郷土資料を研究している大学のあの教授に聞いた。当時のあのビルのあった場所は、かつて河川側にあった大名屋敷があった場所でそして、戦前に日本軍宿舎だったそうだ。
軍曹の呪いの関係もしているかもしれない。そもそも、和泉とは何者で、どうして呪いが生まれたのだろうか。加賀美との関係は?
ある事実が分かった。和泉という人間はある研究をしていた。人体実験で生物兵器を作っていた。それは、死者を復活させて思い通りに操る法であった。その結果、多くの犠牲者を出した。そして、ある呪いを完成させてしまった。その内容は不明であるが。最終的に完成した薬を持って、和泉は敗戦の宣言を聞いた後に自分自身にその薬を使って自害した。
次にその呪いの薬、ゾンビの薬は封印されていた場所から発見された。加賀美という女性が秘密の地下室に閉じ込められた時に。その薬は少量で効き目は少なかったが、それでも呪いの効果があった。和泉ほどではないが、彼女も死せる呪いの主となった。1人の女性をその力で殺害して地下室に埋めた。そして、裏庭の池にたどり着き、力尽きた。
そのことを調査、推理して加賀美の呪いと遺体を発見したのがキリ爺であった。彼の日記が加賀美の遺体のあった岩から発見された。自分の運命を知って僕に残したかのように。
キリ爺が亡くなった。護は退院したが、飛鳥は以前、意識を取り戻していない。加賀美は呪いの薬が少ししか効かなかった。では、和泉は?その薬について、何か分からないか。
もう1度、あのサイトの主にメールを送った。しかし、いかに彼であろうとも、そんなことまでは分からないだろう。
…あの日記を残したキリ爺の持っている、
旧校舎にあったであろう旧日本軍の資料があれば、あるいは。キリ爺の通夜は明日。彼の家に通夜も含めて行ってみることにした。
キリ爺の通夜はしめやかに行われた。家族の人の話では、ここ数年間は何かを密かに調べていたとのこと。でも、その資料などは家からは1つも発見されなかったという。家族にも内緒で軍曹の呪いを調べていたのだろうか。考えられるのは1つ。旧校舎の図書室である。
いつものように忍び込んだ。図書室を隅々まで探ったが、見つけることはできなかった。どこに彼は研究資料を隠したのだろうか。結局、この日には見つけることはできなかった。
大学の講義の後、護が会いに来た。飛鳥が目を覚ましたそうだ。彼女が寝ている間に何を見ていたのかを
知るために僕たちは病院に向かった。点滴をつけた彼女は無表情で出迎えてくれた。彼女は加賀美に乗っ取られてから記憶がなかった。昏睡状態のときにある夢を見たそうだ。肉体を捨て、魂のみの不死の状態となった和泉は、人体実験で亡くなった亡者の結界のせいで、この辺りから離れることができなくなっていた。
その中で彼は秘密に近付くものや気に入らない者を呪いで葬っていたのだった。それが本当なのかは分からない。しかし、ヒントになる気がした。
キリ爺の持つ和泉軍曹の日記がまだ見つからなかった。旧校舎にあると思っていたのだが、空振りだった。一体、彼はどこに隠したのだろう。旧校舎裏の池の側に立つ石碑に何かあると思った。キリ爺は呪いを研究していた。ある程度知っていた。僕に言った言葉。呪いの主は気に入らないものを殺す。呪いの秘密に近付くと呪われる。加賀美の遺体を見つけて、石碑の下に葬っていた。加賀美はフェイクを使ったり、双子の姉妹のこともあり、加賀美の事実を知っていなければ、遺体を見つけることもできなかったはず。
石碑の周りを捜索したが、そこにも何も見つからなかった。残るヒントは、ここで見つかった日記。キリ爺の日記にまだ何かが隠されているかもしれないと思った。
キリ爺の日記からは、研究資料の場所は分からなかった。ただし、色々な暗号が隠れていた。その1つを考えることにした。
『N10S20N10W50;ST→ST』
意味が分からなかった。しかし、何かの隠し場所であることは分かる。場所。つまり、位置を意味している。そこで最初のアルファベットの意味が分かった。
N、S、W。簡単に方角の英語の頭文字だと想像がつく。北に10、南に20、北に10、西に50である。その数字から歩数である。すると、次のアルファベットはスタートであるだろう。出発地点はST。STEP。階段。旧校舎の階段から北に10歩。南に20歩。北に10歩。西に50歩。北と南の数は一緒なので、階段から西に50歩である。しかし、50歩も歩くことは出来ない。壁に10数歩でぶつかってしまう。
それに惑わすためだとしても、北、南、北と書くだろうか。この日は、その秘密は分からなかった。
今日は大学の講義の後にA高校の旧校舎に忍び込んだ。あのキリ爺の日記の暗号に思い当たるものがあった。STは階段ではないと思った。西に50歩歩ける場所。それは昇降口だ。ST=START。昇降口=入り口=スタート地点。そういうことかもしれない。昇降口から西に廊下を進む。すると、そこには宿直室があった。
しかし、そこは鍵がかかり、ノブに鎖まで巻かれて封印されていた。今日は出直すことにした。
今日はしっかり用意をしてきた。鎖を縛っている錠の穴にピンセットを挿した。しかし、中はさび付いていて引っかかった。この鍵はずっと開けられたことがないようだ。つまり、この開かずの間はキリ爺によって開けられたことは少なくてもこの鍵がさび付くまでの間はないということだ。
しかし、あの日記に書いてあった暗号には、何か意味があるはず。
そこで、ふと思った。僕は軍曹の呪いに近付いている。なのに、呪いは降りかからない。キリ爺もそうだ。つい最近まで、かなりの秘密に近付いていたのに今さらという感じで呪いに掛かった。キリ爺に関しては、軍曹の呪いが加賀美の呪いの発現時にストップし、その間にキリ爺は軍曹の研究をして詳しくなった。
だから、軍曹の呪いに掛からなかった。
加賀美の遺体を埋葬したことで加賀美にも呪われなかった。そして、加賀美が成仏して軍曹の呪いが復活したから、キリ爺は呪いにかかって命を落とした。では、僕は?
開かずの間は後にすることにした。あの暗号の解読が間違っているかもしれないし。ST。これが何の略なのだろうか。そもそも、これは旧校舎の中のことではないのだ。通り。ストリート。
学校前の通りか銀行かC女子高か。どこの通りだろうか。西に50歩。通りなら、50mかもしれない。
キリ爺の日記のその暗号の書かれたページには、銀行のあった場所に研究所のあったことが書かれていた。
銀行に向かうことにした。ST→ST通りから通り。
銀行の前からC女子高に向かう。その先には別の通りがあった。E通りからF通り。N。S。W。
次はこれが問題である。方角も何もこの通りは東西に走っている。STは通りではない。銀行の入り口。
角地だから東西南北に行ける。
西に50歩。そこは左には喫茶店、西には貸しビルがあった。銀行のある右側が正解だとすると、貸しビルが怪しい。しかし、そこはテナントは入っていなく、入り口は閉まっていた。出直すことにした。
昨日、目をつけた貸しビルのことを周りに聞き込みをした。その結果、次のことが分かった。そのビルはバブル崩壊後に入っていた企業が倒産してテナントがなくなった、というありふれた話である。
次に、テナントが新たに入らない理由が、幽霊が出るという噂である。現に、入って数ヶ月で幽霊が出るので移転したという業者もいたという。その幽霊の正体が気になった。かつて、中に入っていた倒産企業の中にヒントがある気がした。しかし、そこまで調べることは僕には不可能だった。
このビルの管理業者ならもしくは…。
管理会社がこのビルの不利になることを教えてくれる訳はない。友人の護に相談してみた。すると、彼は何とかしてみると言っていた。とりあえず、この件は彼に任せて次の暗号にかかることにした。
キリじいの日記をパラパラめくる。そこにある文字が目に留まった。
『L10S10R5 ST→K』
前回と同じようなものであった。今回はこの暗号解きをすることにした。
誠が大学に来て話をしてくれた。あのビルに事件があったそうだ。どこで調べてきたのか、彼は調査結果を伝えた。有限会社 Sオフィスというところで、そこで殺人事件が起こったそうだ。それと幽霊と関係があるか分からないが、可能性はあると思った。
『L10S10R5 ST→K』
この暗号を考えた。Lはレフト、左でRはライトで右。Sはストレートで直進。数字はメーターか歩数だろう。すると、STはスタートとして、Kは何だろう。キッチンではないだろう。このページは旧校舎について書かれている。結局、この日は思いつかなかった。
大学の講義中も暗号に神経を注いでいた。スタート地点のKの意味を考えた。何かの頭文字だろうか。
Kから始まるものを考えた。旧校舎。高校。でも、英語に訳すとOLD SCHOOLHOUSE、HIGHSCHOOL、OとHだから違うだろう。K。このページには、旧校舎についての記述がある。
旧校舎でKが付くものと言えば、ノブ;KNOB?そこでネットで調べてみた。
K;11番目、ローマ数字の250、キロバイト、三振、1024。カラット、キング、キログラム、ナイト。
ケルビン、キンダーガーデン(幼稚園)K、KIT、KIND,KEY,KEEN。Kの形をしたもの。
この中のどれでもない気がした。強いて言うなら11番目というもの。旧校舎の中で11番目というと、教室だろう。昇降口から左に5部屋、右に6部屋。11番目は右の開かずの間か、左の教室か。開かずの間…。
また、開かずの間が頭によぎった。前回の暗号は、開かずの間は間違いだと思われたが。結局、判明させることはできなかった。それにしても、開かずの間が気になった。
暗号を思案していたとき、護がやってきた。例のビルのテナントに入っていた会社について調べてきたそうだ。Sオフィスとは小さなプロダクションで、数人のタレントが所属していたが、その中の1人が熱狂的なファンに事務所に侵入されて殺害されたそうだ。そのとき、そのファン自身も窓から身を投げたそうだ。
…どうも、軍曹のこととは関係ないようだ。
勿論、あのビルに目をつけたこと自体、勘違いなのかもしれない。もしかしたら、あの開かずの間が鍵なのかもしれない。
開かずの間。誰も入った形跡はないが、キリ爺はあえて暗号に残した。暗号にしたのは、あの日記が僕以外の人間が手にした時のためだろう。何があるのだろうか。あの暗号が開かずの間を表しているのかを確認するために、もうちょっと、暗号を見ることにした。
『WKNIEOSM ST→GT』
一見、何かのアルファベットのつづりのようだが、前回の法則を考えると、W、N、E、Sは東西南北だろう。すると、K、I、O、Mは数字のはず。これらが数字を表すものは、ギリシャ数字である。K=20、I=10、O=70、M=40。今回はGTはゲートだろうと思った。その日記のページには、学校の校庭での事件が描かれていた。校門だろう。しかし、東西南北の4箇所にある。すると、方角はこの4つの校門を表している可能性が大きい。次にこの数字の単位は何だろうと考えた。
この4つの校門からのこの数字が重なる場所があるはず。図書館に向かって、ゼンリン地図のA高校を調べる。地図のコピーを複数用意した。そこから、各校門から2:1:7:4の距離に円を書く。
すると、コンパスを徐々に大きくしていくと、ある大きさで4つの円は重なった。そこには、旧校舎が存在している。しかも、端を走っていた。つまり、あの開かずの間を通っているのだ。偶然だろうか。
今日は意を決して開かずの間に侵入することにした。鎖、鍵はさび付いていて力ではちぎることはできない。そこで、外の勝手口から入ることにした。外はノブの鍵だけなので、ガラスにひびを入れてガムテープでガラスをはがして鍵を開けてドアを開ける。
中は雑然としていた。ベッド、机、棚。奥にはロッカー。それらは傾いたり倒れたりしている。ここで何があったのだろう。キリ爺はここに何があると思ったのだろう。誰も長い間、足を踏み入れた形跡はない。
とにかく、夜の間、ここを捜索したが、結局何も見つからなかった。
一体、ここに何を?ここはどうして封鎖されたのか。疑問だけが残った。
日記に書かれている内容を見返した。すると、ある文章が目に付いた。研究所であった旧校舎の研究室の1つはあの開かずの間だった。あそこに悪魔の所業が行われたそうだ。あそこで軍曹は呪いの生物兵器で人体実験をした。しかし、ということは、加賀美が呪いを受けたのはここ。誰も侵入できないここにどうやって。
すると、僕も呪いに?
だから、軍曹の呪いにかからなかったのだろうか。キリ爺はどうやって。まさか、キリ爺も…。
キリ爺の死は呪いではなく、偶然の事故なのかもしれない。つまり、加賀美が秘密の通路でここに入り呪いにかかる。次にキリ爺もここへの道を知り、ここに来て呪いにかかる。しかし、ここの秘密を知り、加賀美のことも分かる。
ここが重要ということを暗号にして日記に残したのか。結局、秘密の通路は分からなかった。キリ爺は今も成仏せずに漂っているのだろうか。呪いを残して。そして、僕にも呪いが?
護と飛鳥に相談した。
「何で、日記に書いてあったのによく読まないでその開かずの間に言ったんだ?」
護は本当に心配そうにそう叫んだ。
「その記述には、詳しい部屋の場所は載っていなかった。あの部屋に行った後に、そう推測したんだ」
「推測?その根拠は?」
「軍曹が自害した場所の広さだ。両手の届くような、という記述がある。他の教室や特別教室はかなりの広さだろう。そこで、そう思ったんだ」
「加賀美は地下室に閉じ込められた時に、その生物兵器のある場所にたどり着いて呪いにかかったんだろう。すると、地下室に開かずの間に出る秘密の通路があるはずだ。もし、なければ、お前の推測は間違いだ」
「なら、確かめてくる」
僕は飛び出していつものように旧校舎に忍び込んだ。地下室に潜り込むと、その中で秘密の扉を探した。
あれだけ前に捜索したのに、新しい何かを発見できるとは思えなかった。ところが、発見した。怪談の裏の壁に見えない引戸が存在した。よくできている。その引戸を開けて中の狭い通路を抜ける。しばらくすると、行き止まりであった。
手探りで横に引戸があることが分かり、顔を出した。なんと、そこは音楽準備室であった。自分の推測は確信を失った。あの開かずの間も関係なかったのだろうか。
音楽室、音楽準備室は開かずの間の隣の隣である。可能性は0ではないと思われる。しかし、あんなに禁固な場所に侵入することは難しい。第2の抜け道が存在する可能性もある。あの開かずの間が関係ない可能性もあるが。準備室の中を探していたが、抜け道を見つけることができなかった。すると、ここが軍曹が自害した場所なのだろうか。でも、暗号は全てあそこを示していた。推測だが。
大学の講義が終わって5号館を出たところで、制服姿の飛鳥がいた。女子高生が大学のキャンパスにいるということで目立っていた。人目を何となく気にして彼女をすぐに敷地外に連れていき、会いに来た理由を聞いた。
すると、彼女はある夢を見たと言った。軍曹が自害した部屋は旧校舎の一番端の部屋だったそうだ。そして、地下室の天井の真ん中に秘密の抜け道があり、そこから開かずの間に行けるのだそうだ。抜け道は1つではなかったのだ。推測は着実に確信に変わりつつある。しかし、彼女の夢が現実なのか確かめる必要がある。加賀美はどうやって天井の抜け道を通ったのか。それは当時は何か足場になるものがあったのだろう。
すぐに飛鳥と別れて旧校舎に向かった。開かずの間に忍び込み、部屋中を捜索した。すると、横たわっているロッカーの裏に小さな壁の引戸があった。一見、入り口があるのは分からないが、壁を叩いていくと明らかに音が違った。
その中を進入していくと、細い通路は行き止まりにたどり着く。床の扉を手探りで見つけて開けると、地下室を見下ろすことができた。そこで、今までの推論が一応筋が通った。では、飛鳥の夢は何なのだろうか。以前も軍曹の過去を夢で見ている。飛鳥にも呪いが掛かっているのかもしれないと思った。
今までのことを整理しよう。
軍曹は人体実験で呪いの生物兵器で死せる呪いの存在となる。
呪いで人々を死に追いやる。
加賀美も同様になる。
軍曹の呪いはその間、止まる。
加賀美は3年ごとに人々を殺す。
いつの段階だか不明だが、キリ爺は開かずの間で呪いにかかる。
僕たちにより加賀美は成仏。
軍曹の呪いが復活。
軍曹も遺体を葬ることで、おそらく成仏。
僕は開かずの間で、おそらく呪いにかかる。
飛鳥もどうしてか不明だが、呪いにかかっている可能性がある。当面の問題は、キリ爺の偶然の死による呪いの発生と、僕と飛鳥の呪いである。
これらを解決するためには、以前の軍の研究資料が必要である。魂だけの存在となったキリ爺はどこにいるのだろうか。彼なら、知っているはず。
そして、ある出来事が起こった。校庭で1人の少年が心臓麻痺で亡くなったのだ。キリ爺の呪いが発動した。彼はここにいるのだろうか。
今日はキリ爺の呪いを解きに来た。それが僕と飛鳥の呪いを解くきっかけにもなるだろう。これ以上、被害者を出さないために。軍曹の研究資料があれば、生物兵器の正体が分かる。
それから、その呪いの解決方法が分かるかもしれない。もしかしたら、ワクチンも軍曹は作り上げているかもしれない。人殺しの幽霊になるワクチン。それがなんであるのかは、見当もつかないが。学校に来るが、キリ爺の霊が存在する場所が分からなかった。
ただ、校庭で死んだ少年が呪いにかかった場所が分かれば、あるいは。知覚の生徒に聞いてみると、少年は特に変わった場所には行っていないとのことだった。校庭自体に何かあるのだろうか。キリ爺のことを調べてみる必要がありそうだった。
キリ爺はこの学校での呪いを探っていた。つまり、この軍曹の呪い自体が彼の心残りである。この呪いの正体を探ることが、彼の成仏になるだろう。方向性は決まった。まず、キリ爺の呪いは置いておいて軍曹の呪いの捜査を続行することにした。キリ爺の持っていた軍曹の研究資料はどこにあるのだろうか。日記を探ることにした。暗号を見つける。これも開かずの間のことだろうか。
『BUW5N3』
これは何を示しているのだろうか。今までのような法則ではないようだ。
BUW5N3の意味を今日一日部屋で考えていた。今までの法則とは違っていても、全く関係ないとも考えられない。同じ人間が考えたものだから。WとNは西と北と考えるのが自然である。すると、今までの感じで考えると、西に5歩、北に3歩となる。そこで、BUは今までのように考えると、ST→BUということになる。Bは地下と考えられる。地下室のU、つまりUP、上から西に5歩、北に3歩となる。
次にその場所を脳裏に浮かべる。階段室の北側となる。そこには何もなかったはず。直接、行ってみることにした。進入して地下室の蓋から西に5歩、北に3歩行くと右に伸びる廊下の角だった。
壁を見る。そこには落書きが書いてあった。
『LDW16S4』
それはキリ爺が書いたものだと思われた。しかも、それが示しているのは、何となく開かずの間ではないと思った。
『LDW16S4』
これも同じように解明していくことにした。Wは西、Sは南。西に16歩、南に4歩。Lが部屋だろう。
Dはドアということになる。Lがつく教室はlibraryの図書室だろう。
図書室のドア、つまり入り口から西に16歩、南に4歩ということになる。それにしてもキリ爺は回りくどいことをする。すぐに旧校舎に侵入して、図書室の示された場所を見た。そこは小説の並んでいる場所であった。背表紙、本の種類、何かの仕掛け、全てを探ったが不自然なものはなかった。
ふと、視線を上げる。棚の上に何かが乗っているのに気付いた。台を探してそれに乗った。埃をかぶった棚の上に、埃のかぶっていない箱が置いてあった。
それを取って、テーブルの上で蓋を開けた。それを見て驚いて持ってかえることにした。
あの図書室から持ってきた箱を開ける。すると、中には薬瓶が5本入っていた。その中には液体が入っている。しかし、その液体は張力があり、丸く盛り上がっていた。水銀ほどではないにしても、かなりまとまっている。振ってみて、その衝撃から体積に対する質量はかなり大きいようだ。これが軍曹の作った生物兵器だろうか。一緒に入っていた紙切れを見る。
『SB培養液』
培養?細菌?ウィルス?生物兵器は薬品ではなく、生物のようだ。生物が人を呪いの存在に変えるのだろうか。そのメカニズムはすでに人知を超えているので想像すらできない。とりあえず、この薬品は置いておくことにした。
キリ爺の日記の暗号をさらに探した。
『L→O P→I』
今までと違って数字が入っていない。L?図書室ではないとすると、何を示しているのだろうか。
今日は講義の中で紙に文字を書いて考えていた。
『L→O P→I』
まず、矢印の先の2つのアルファベット。OとIは対になる言葉の頭文字だろう。そう考えると、OUTとIN。何かの外、何かの中ということだろう。Lは部屋のことを示しているだろう。
left library laboratory。
ラボ。研究室、実験室。理科室のことだろうか。Pは何だろう。部屋名ではない感じがする。
pond pool。そこで、研究室、実験室のことを思い浮かべて、軍曹の悪魔の実験室のことではないかと思った。
あるいはキリ爺が呪いを研究するための場所があったのか。ポンド、プール。学校のプールということも考えられるが、ここは2つとも共通の訳の池だろう。
旧校舎の側には池がある。実験室→外 池→中。実験室は外、池の中。実験室もしくは研究室は旧校舎、つまり、旧日本軍の施設の外。それも、池の中に存在する、ということだろう。池の中というのは、池の真下だろう。入り口はどこにあるのだろう。別の暗号を探すことにした。
入り口と思われる言葉、IN、DOORなどの頭文字、I、Dの文字を含んでいるものを探した。
『LI S50 W35 ST→G』
これを考えることにした。
今日はA高校に来た。池の前に立ちながらあの暗号を考えた。
『LI S50 W35 ST→G』
Lが場所。ラボ、研究所のことだろう。IはIN。STがスタート。じゃあ、Gはゴール、校門か旧校舎の入り口。否、G、グレイブ、墓、墓石。あの加賀美の墓石の石碑。そこをスタートに南に50歩、西へ35歩の地点。そこは池から少し離れた場所であった。校舎の池とは別側の壁がある。そこを見ても、入り口らしきものはなかった。そこで地面を見下ろした。隠し地下室は床に入り口があった。
ここももしかしたら…。軽く土を蹴る。しかし、浅い場所にはないようだ。これはスコップを持って人のいない時間に出直した方がいいだろう。すぐにこの場所を後にした。
旧校舎の例の地下室の入り口がありそうな場所にきた。時間は深夜。誰もいないのを確認してスコップで掘った。どのくらいたっただろうか。汗だくになって一息ついた。推測が間違ったのだろうか。もう一息掘っていると、カチンと固い音がした。
キリ爺がすでに見つけているということは、こんなに掘って見つけるというのは不自然である。そのスコップが当たった物を見ると、金属の箱であった。LIの暗号の訳が間違っていたようだ。箱の中を確かめると、それには妙なスプレーが入っていた。
水のようだが、軍曹の薬品の可能性もあるし、慎重にそれを箱に戻した。
キリ爺が隠したのだろうか。彼がこの箱の存在を知っていたということは、この箱を隠したのも彼だろう。すると、このスプレーは?生物兵器は前回見つけたあの薬だろうし。これをどこかにかけると、今まで見えなかった何かが浮かび上がる、なんて事を推測してみた。LIが鍵だろう。とりあえず、土を戻して帰ることにした。
LI。その暗号を考えていた。今日は大学の講義の補習のために、1日大学に縛られていた。大学生は遊んでいるイメージがあるが、理系の工学系は朝から遅くまで講義がある。Lは図書室か化学実験室。
それではIは?部屋の場所だけでは、秘密のメッセージは特定できない。部屋を示さなくても、メッセージの場所をピンポイントで示す方法。しかも、アルファベット2文字で。Iは化学記号でヨウ素、ヨード。
ヨードチンキも示す。保健室?否、Lが研究室、Iはヨウ素である方が自然である。薬品庫を調べる価値はあるようだ。
今日は土曜日。早く講義も終えていつもの旧校舎に向かう。科学室に行くと、その薬品庫を眺めた。そこには薬瓶は1つも残っていなかった。当然、予想Iはヨウ素ではなかったのか。
とにかく、スプレーを振って薬品庫にかけてみた。しかし、何も変化は起きなかった。I。小文字に直すと虚数を表す。でも、その線はないだろう。9番目、私、1。どれも違いそうだ。independent:独立Island:島。
島。隔絶したという意味は、英語も日本語もある。隔絶した場所。ラボではない。やはり、図書室のLだ。そして、図書室で隔絶した場所というと、書庫だろうか。すぐに行った。
すると、明らかにこの場所に似つかわしくない本があった。日記のようなものである。しかし、何も書かれていない。すでにお分かりのように、これはあぶり出しだ。スプレーをかけると最初のページにある文字が浮かび上がった。
『MP U→L U→S G』
この暗号は今までのものと明らかに違った。
『MP U→L U→S G』
この文字は何を意味しているのか。休日で昼頃まで寝てしまったので、昼食の後に考えていた。UはUP、上だろう。L、Sはその先にあるもの。MPはスタート地点だろう。Gは最終地点。すると、MPは部屋のことだろう。M、music room 音楽室。P、preparation room 準備室。音楽準備室の上にLがある。確か、あそこには開かずの間があった。すると、Lはlock room、開かずの間、だろう。その上にSがある。その先にGがある。この暗号は解かなくてもいいだろう。
実際に行ってみれば分かる。すぐに出発して、開かずの間の天井を探った。隠された入り口はまもなく見つかった。その中の細い通路を這っていくと、広い空間に出る。そして、中央の階段を下りると(SはここでSTEP、階段と分かる)大きな部屋に出た。Gはゴールなのだろうか。そこはおそらく池の下、軍曹の隠し研究室だった。
その中の書籍等を中央のテーブルに集めて、箱を持ってくるために出直すことにした。
池の下の秘密施設に大学講義後に侵入した。持参したダンボールに研究室の資料を雑にかき集めて持ち帰った。それを部屋のテーブルに広げる。軍曹の研究資料があった。キリ爺の作った研究結果もある。
それを見ていると、生物兵器はある種の変種ウイルスだと分かった。それは人間の精神に反応を起こす。
しかも、残留思念にまで影響を及ぼし、それにより、周りの人間の精神にも及ぼす。
そして、そのウイルスを消滅させるアンチウイルスが存在するのだ。そのワクチンは別の場所に隠してあるとのこと。その在り処はある暗号にヒントがあった。また、暗号か、とうんざりした。
『W3S5 ST→G』
これは前回と同じ法則である。
護から講義中にメールがあった。飛鳥が突然倒れたそうだ。どうも、原因不明で依然の昏睡状態が原因ではないか。そのときに脳に負荷がかかって現状の原因になったのでは、とのこと。僕はそれが呪いのせいではないか、と思った。これは死を招き、魂になった状態で周囲に呪いを招く。急がないといけない。
『W3S5 ST→G』
この暗号は西に3歩、南に5歩である。スタートはG。ゲート、ゴール…。校門ではない。前回の暗号ではGはあの秘密の研究室であった。そうだとすると、池の下の研究室から西に3歩、南に5歩。狭い通路の壁に当たる。
大学の講義が終わるとすぐにそこに向かった。壁には、暗くて気付かなかったが、隠しドアがあり、抜け道があり、それは殺風景の正方形の部屋に通じていた。そこには何もなく、コンクリートで全てが固められている。この部屋のどこにワクチンがあるのだろうか。ヒントは?
壁にあのスプレーをかけていく。すると、目の前の壁に文字が浮かび上がった。
『ウイルスの中にアンチウイルスは存在する』
この文字がどうして暗号ではないのだろうか。暗号にしずらい言葉だからか。しかし、意味が分からない。どういう意味なのだろうか。ウイルスの中にアンチウイルス?とりあえず、ここを後にすることにした。
デスクの上のあの培養液を眺める。このウイルスの中にアンチウイルスが存在する。
ウイルス=ワクチン?
そうなのだ。ウイルスにもう1度感染されればいいのではないか。でも、それは推測だけでしかなかった。キリ爺はどうやってそれを割り出したのだろうか。軍曹の資料からか。その軍曹の資料を眺めるが、僕では専門資料を読破することはできない。しかたがない。賭けに乗るか。瓶を開けて培養液の中の液体を触れてみた。
途端に意識が遠くなっていく。すぐに、瓶の蓋を閉めてその薬を机の引き出しにしまった。立ち上がって歩こうとしたが、足がもつれて倒れた。そのまま、眠るように意識はなくなった。
気付くと病院のベッドに寝ていた。横には護がいた。どうやら、彼が発見して病院に連れてきてくれたようだ。ハブの毒の解毒剤はハブの毒で作る。同様にあの生物兵器もあれが解毒であるはず。自分の呪いが解けたかどうか、分からなかった。正直、呪いさえ、自覚症状はほとんどなかったのだし。しかし、今何も心身ともに異常がないことを考えると、僕の推測は正解だったんだろう。
飛鳥が呪いに殺される前に、薬を持っていかなくては。しかし、退院は許されず、点滴を打たれていた。
護に自分の机の中の薬を飛鳥に持っていくように頼んだ。彼は頷いて笑顔で去っていった。これで飛鳥も助かるだろう。
後はキリ爺の魂と呪いだけが問題だ。ゆっくり、眠りながらそのことを気にかけていた。
続く
主人公の名前から分かるように、この作品はCODEシリーズの一環です。外伝的なものなのか、スピンオフ作品なのかは後編をご覧下さい。




