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More daze  作者: 鈴ノ木
 Stage1 原沢高等学校
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第二話 もう一人の歩

原沢高校昇降口前の屋根の下、赤いコンクリートの上で歩と俺はこれからどうするか会議をしていた。相変わらず空は赤い。そしてただ黒い雲があって、空の色など全然変わらない。ずっと赤色。ゲームをしている間、ずっとこんな赤い空だなんてなあ。青い空が恋しくなってくる。


「…で、とりあえずここは私たちの高校って訳だから場所とかはわかるけど…。どうするの?若城さんを探すの?波也」

「ああ、とりあえずはな。ただ…、外だからな。鬼がここにいないとは限らない」

「…そうだね…、ヘタすれば死んじゃうかもしれない。そうしたらGAME OVER…、二度と現実世界には返れないんだよね」

「そうならないように、若城さんを探してこの学校から脱出しないとな」

「うん…」

「とりあえず、近くのところから回ってみるか。鬼にみつかったらすぐ逃げるぞ。」

「わ、わかった」


俺たちは学校の敷地内を歩き始めた。周囲を警戒しながら。本当に俺たちの通う高校にそっくり再現されている。大きな時計等に掲示板。いつも野球部やサッカー部の掛け声が聞こえてくるグラウンドに、強豪のテニス部が使用しているテニスコート、そしてその隣には陸上グラウンド。

いつも見ている風景なのに、赤い空のせいなのか全ての景色に赤みを帯びていてなんだか不気味だ。

俺たちは陸上グラウンドを最初に調べることにした。辺りはしん、と静まり返っている。


このゲームの参加者は、他にはいないのだろうか。俺たちと若城さん以外、誰もいないのだろうか。


「ねえ、波也。倉庫があるよ」


歩が指差した先には、白い倉庫があった。


「!ああ、陸上部が使ってるハードルとか閉まってるやつか?何かあるといいんだがな」

「だといいね、何か役に立つものとか」


そうして、シャッターに手をかけた。しかしガショッといかにも「鍵かかってます」と言いたげないい音が聞こえた。何とかこじ開けようとするも、頑丈に鍵がかかっていて開かない。


「無理だよ、鍵かかってるんだから」

「くっそ、脱出アドベンチャーゲームあるあるめ…!!あー、探さないとな」

「さすがゲーマー、こういうのはわかってるんだね」

「ゲームに関しては俺超すげえからな!」

「いや、誉めてないから」

「なんだよ…、でも鍵か…。探すとしても時間かかるぞ…」

「あっ、ねえ。燐くんたちに職員室にいってこの倉庫の鍵をとってきてもらえばいいんじゃない?」

「確かに。職員室ならこの学校の鍵が山ほど保管されてある。なら、倉庫の鍵もあるはずだ。」


俺は携帯を取り出し、燐に電話をかけた。数秒して、燐が電話に出た。


『もしもし、先輩?そっち大丈夫っすか?生きてます?』

「お前…、生きてなかったら電話とかしねーから。なんつー言葉かけんだよ。まあいいやこっちは平気だ。そっちは今何してる?」

『ああ、今俺ら職員室に向かってるっすよ!もしかしたら校門の鍵とかあるかもしれないんで』

「お前なあっ、脱出ホラーアドベンチャーをなめてんのか!そう簡単にクリアすると思うなよ!?で職員室に向かってんなら頼みがあるんだが」

『え?なんすか?』

「ああ、実は―――」


用件を言おうとしたその時、隣で歩いていたのであろう、ありさの声が聞こえた。


『!!ち、ちょっと空野くん前!!』

『えっ、う、うわあああああああっ!!』

「!?お、おいどうした!?」


――――プツッ ツー…ツー…ツー…


電話が切れた。これはきっと何かあったに違いない。もしかして、さっき離していた鬼が来たのだろうか。もしそうだとしたら、心配だ。燐とありさが死ぬかもしれない。


「ど、どうしたの…」

「急に電話が切れた…、もしかして鬼が来たのかもしれない」

「ウソ!?大丈夫なの!?」

「俺も心配だけど…多分、大丈夫だ。燐たちはそんな簡単に死ぬやつじゃない。信じよう」

「波也…」


その時、背後から高い二つの笑い声が聞こえてきた。


「キャハハハハハハッ!!聞いた、姉さん?信じるだってさあ!そんなちっぽけな存在の人間のくせにねえ!」

「……ターゲットに余計な感情を抱かないで。ただ私たちは『参加者を狩ること』が使命なんだから。ただそれだけのためにボスは私達を必要としてくれた。だから余計な感情を抱いてはいけない。」

「いーじゃん別に。人間を馬鹿にするのってすっごく気持ちいいよ?」

「…理解不能だわ」


現れたのは、青い髪の少女二人。一人は長い髪をしていて青い服に角が生えていて片手にはランスを持っている。もう一人はサイドテールの少女で、隣の長い髪の少女と同じ身なりをしていて何も持っていない。こいつら… ――――双子の青鬼!!!


「お前ら、双子の青鬼だな?」

「そ、貴方達を殺す青鬼で~す♪私は青鬼のフユカ。そして姉のフユキ。」

「…喋る必要はない、私達はただ目の前の奴を狩るだけよ」

「そんなに早く殺されてたまるもんですか!私たちはこのゲームをクリアして、若城さんを助けて、そして現実世界に戻らなきゃいけないんだから!」


キッ、と双子の青鬼を睨んだ歩は俺に怒鳴りつけるよりも、とても怖い顔をしていた。その表情を見たフユカは歩に対してハッと馬鹿にするように笑う。


「はっ、よくそんなこと言えるよね?長い間、ずっと外側にいたから忘れてると思うから言うけどあんたはこのゲームの主催者の分身ってこと知ってる?」

「!!」

「え…?今、何て…」

「フユカ、そうじゃなくて元・主催者」

「あっ、そっちだったごめ~ん!今のボス、この子を分身だって勘違いしてるんだっけ?」

「そう、そういうこと」


今、コイツなんて――――?

歩が…、主催者?そんなはずない。だって歩は幼いときから俺と母さんと父さんとずっと過ごしてきたんだ。歩がそんな…、信じられるわけ無いだろ。歩が人間じゃないって言いたいのか!?


「違う」

「何が違うのさ。ここに来る前命令されなかった?」

「違う、違う違う違う違う違う違う!!!」

「歩!?」

「お前がその話をするなああああっ!!!」

「!?」


 歩が大きく歯軋りした。こんなに感情をあらわにした歩は今まで見たことが無い。殺気を感じ取った俺は、『邪魔をすれば殺される』と肌で感じ取った。歩の目が光る。チカチカと赤、青、黄色、緑―――…、そして歩は風を起こし竜巻を発生させる。歩が生み出した竜巻はみるみる大きくなっていき、近くの木は次々と折られ倒れていく。


「歩!!歩!!」


俺はただ彼女の名を呼ぶことしか出来なかった。今の歩は恐らく、我を失っている。怒りに身を任せて双子の青鬼を殺そうとしている。ビュウビュウと強風があたりを揺らし、俺は立っているだけで精一杯だった。


「……フユカ、一旦引こう」

「ええっ!?殺さないの!?っていうかなんで!?」

「例え参加者であろうと彼女がボスであるなら、今のボスと同じ力を持っている。私たちを消すことも可能だから…、一回立て直した方がいい」

「――――ッチ、仕方ないね。おい!そこの白髪男!」

「しらっ、白髪じゃねえよこの鬼!」

「鬼ですけど?まあいいや今回は見逃してあげるわ、また会ったときは殺してあげるんだからね」


ヒュウッと一瞬にして二人はどこかへと去っていった。それに気づいた歩は竜巻を抑え、力を解いた。

その後は、俺に背を向けた。


「歩…」

「――――違うの」

「え?」

「今まで隠してごめんね。私、あの人が言ったとおりこのゲームの主催者…、いや主催者『だった』んだよ。でも、本当は違うの。本当は君を…、波也をこんな目に遭わせるつもりはなかった、本当だよ!だから…」

「話せ」

「え?」

「歩、俺に全て話してくれないか?」

「……わかった」



そうして歩は、俺に全て話してくれた。


「……私はね、この世界の空間部屋で生まれたの。何にもないところで、赤い部屋で。その時はずっと何にもない世界だってつまらないって思って、波也たちが生きている世界が憎かった。奪ってやろうと考えていたの。長い間ずっとね。その時このゲームを作ってたときに、この世界と現実世界を通して私に話しかけてきた人物が現れたの。――――それが、『現実世界の歩』。」


「は?ど、どういう意味だ?」


すこしごっちゃになってきてわけがわからなくなってきた。


「つまり…、『交代した』んだよ。精神を、私と本当の歩と。だから今、ここを操っているのは君の家に来るはずだった『鬼人歩』ってこと」

「このゲームを制作中に交代したって言うのか?未完成のまま?」

「そう。私が制作した部分は鬼が居ることと脱出を目的としたところまで。後の殆んどは『本当の鬼人歩』が主催者として作って完成させたんだよ」

「そんな…」


じゃあ、もし空間部屋に行ったとしても歩は俺のことを知らないってことになるのか。知っているのはここにいる、『もう一人の歩』で…


「なあ歩…」

「私は歩じゃないよ」

「でも、俺にとってお前は歩なんだよ」

「…波也…」

「だから、今までどおり接してくれ。こっちだって少し混乱しているんだよ」

「…わかった、そうするよ波也。ほんとあんたは仕方の無い人だよね」

「何だよ、それ…」

「冗談。じゃあごちゃごちゃになるから、本当の私のことは『主催者』って呼ぶね」

「ああ、そうしてくれると分かりやすくて助かる」

「うん、じゃあ他の所をまわろうか」

「そうだな、燐たちの無事を祈って連絡を待とう」


他の場所をまわっている間に、歩は主催者のことを話してくれた。『殺さず生かしてつれてくること』を

命令されたこと。主催者が歩を自分自身の分身だと勘違いしていること。そしてその主催者が歩を取り込もうとしていること。そして何かをたくらんでいること。そして、招待状を送ったのも主催者であること。


「若城さんのことは多分、主催者が知っていると思う」

「なんで?」

「ゲームの主催者は参加者の居場所とか、今生きているかどうか、頭の中で情報を管理しているの。私は元主催者だから…なんとなく波也たち三人の情報は入ってるけど『完全』ってわけではないんだよ。あの魔法少女アニメによく出てくる妖精が、悪者が現れたときの気配を感じ取るようなものに近い。」

「つまり、例えば燐たちの前に鬼が現れたときに危険を感じ取れるってことか?」

「そういうこと。まとめていえば気配を探ったり感じ取れるってこと」


俺はこのとき歩が魔法少女アニメに出てくる妖精になっている姿を想像していた。いや魔法少年でもアリか。もし歩がそのような存在に近しいのなら、もし悪者が現れたら「波也!敵が現れたわ!(波也の裏声)」って知らせて敵を倒させたりするんだろう。いやあ、悪くない。いいかもしれないぞこれ。


「何ニヤニヤしてんの、気持ちわるっ」

「え。俺ニヤニヤしてる?」

「してるよ!!めっちゃ気持ち悪いよ!?ここの世界の警察呼んで変質者がいますって通報しようか!?」

「はあぁ!?つかこの世界に警察あんのかよ!?」

「あるよ!このゲームの世界は私たちが住んでる街が舞台になってんだから!」

「やめろ!!現実世界に帰れなくなるだろうが!」


ぎゃーぎゃーと喧騒がいつまでも続いた。

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