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More daze  作者: 鈴ノ木
 Stage1 原沢高等学校
23/26

第二十二話 地下への突入


 ――ガコンッ…と鉄の扉が外れるような音が聞こえた。燐はいつの間にか床のタイルを開き、下にあった何かしらの入り口を開けていた。


「先輩こっちッ!!」


 ヤツはすぐ其処まで迫ってきていた。爪のようなものが当たる直前、少し頭に掠った気がしたが、間一髪、燐に腕をつかまれ、俺はその穴へと引きずり込まれる。


 「うあああああああああああ!?」


 しばらくして頭から落ちた。ゴンッという小さな音が頭の中で響いた。痛みで少しふらついたが、何とも無いようだ。たんこぶが出来てはいるが…。


 「いってぇ…」


 床の入り口からは1mの高さがあった。公園にあるジャングルジムと同じような高さだったため、打ちつけられた身体が悲鳴をあげている。骨折は――――していないようだ、よかった。あの正体不明の爪にもし避けきれずに当たっていたら、致命傷を負っていたかもしれない。そう思うとぞっとする。


 「危なかったな…。助かったぜ、燐。だいじょう――」


 横を見ると、燐は痛みを堪え、丸くなっていた。そしてゆっくりと自分の尻をさすっている。


「………ッ…っぐ、……ッ~~~~~…」


 ―――ああ、アソコをぶつけてしまったのか、気の毒に。アソコは痛い。すごく痛い。


 俺も彼の痛みが治まるまでさすってやることにした。「別の意味で大丈夫か」と声を掛けると、燐はかれた声で「はい…」と返事をした。全然大丈夫そうには見えないんだが、まあいっか…。


 しばらくして燐の痛みが治まると、俺たちは周りを見回した。真っ暗だが手足の感触からして、床と壁は鉄のコンクリートで出来ているようだった。俺と燐は携帯の明かりを頼りに進んで行った。歩くたびにカンカンと音が聞こえる。学校の地下にこんなものが作ってあるなんて―――もしかして、何かの秘密基地とか、敵のアジトだったりするのだろうか。もしそうだったとしても、こんな簡単に見つかる場所に作ってあるものだとは思えない。


 「先輩、あの」

 「…ん?どうかしたか」

 「さっき、俺が先輩を引っ張った時、頭掠ったでしょう」

 「ああ、言われてみればそんな気がするな。 …もしかして、血とか出てるか?」

 「いっ、いえ…、血は出てねーっす…。 ――――ただ、先輩の長かった髪が…」

 「髪? …あ。本当だ」


 そういえば、何か首筋辺りがやけに涼しくて違和感を感じると思ったら――あの時、バッサリ切れてしまったのか。どんな感じに切れてしまったのか、確認したいところだが今は視界が悪いため不可能だった。後で帰り際に、男子トイレによって鏡見るしかないだろう。


 「すいません、先輩。伸ばしていたんでしょう?確か男性は女性よりも髪が伸びるのが遅いんですよね。あの長さだと、相当時間がかかったんじゃ…」

 「別にいいって、好きで伸ばしていたわけじゃないし」


 燐にはそう言いつつも、本当は少し残念だった。あの長い銀髪の髪は願掛けで伸ばしていたからだ。その願いが叶ったとき、自分でバッサリ切ろうかと考えていたのだが…。現実なのか夢なのかもわからないこんな状況だ、仕方が無い。


 (願い――か、叶うのか叶わないのか難しくなってきたな)


 かつて、俺たちがまだ現実世界にいた頃を思い出す。ある平日、屋上に向かっていたときの俺は、入り口付近で先客がいるのを発見した。二つ縛りの髪を高い位置に結んでおり、それが風によってゆらゆらと揺れている。それが一体誰なのかは一発でわかった。歩だ。後ろからきなり声をかけて脅かしてやろうと考えたが―――やめた。何となくだが、後ろ姿を見ただけで何か悩み事があるのだと感じたからだ。

 

 あいつの呟いていた『それが私の課題』というのは、どうやら俺関連のことらしいが詳しいことは知ったこっちゃ無い。何か悩み事でもあるのかと聞けば「好きな人は居るのか」と問われたとき、ものすごく動揺したのを今でも覚えている。まさかあいつの口から、そんな話が出てくるなんて思いもしなかった。 冷静になって考えてみれば、歩は『More daze』で生まれた存在だとしても、現実世界ではごく普通の女の子なのだ。他人から影響を受けてそれらしく成長したのだろう、そういった事に興味を持ち始めているようだった。

 

 もし、そのまま興味を持ち続けてうまくいけば、俺の願いは―――



  いや、やめておこう。今は、この状況の中で生き延びなければならない。そうしなければその願いだって叶わないのだから。



 *****


 「ほとんど真っ暗ですね…。電気をつけられるブレーカーのようなものがあればいいんすけどね」

 「馬鹿を言うなって。ここ地下だぞ?もしあったとしても、どんだけ費用使ってるんだっての」

 「この世界って作るのにお金掛かるんですか?」

 「知らん。歩に聞いてみろよ」

 「はあ…」


 この地下にやってきて――(正しくは、落ちてきてだが)、数十分ぐらいは経過しただろうか。出口らしきものは見当たらず、俺と燐は暗闇の中をさ迷い続けていた。地下のせいであまり空気の入れ替えが行われていないのか、少し埃っぽく、衛生的にあまり長居はしたくなかった。何かこの状況を打破できるめぼしいものはないだろうか。携帯の電源の限りもあるため、早めに見つけないとずっと暗闇の中で歩き続けることになる。


 ―――そこで俺は最終手段として一つのアイデアを燐に挙げてみることにした。


 「壁をつたって歩いてみるか」

 「え、触るんですか…?埃ついてるだろうし汚れちゃいますよ」

 「仕方ないだろ!さっきからずっと歩いてるのにドアらしきものも見つからないんだ…。壁をつたっていくうちにそれが無くなれば、そこは扉か何かってことだろ?第一、携帯だけの明かりだけじゃ手元を照らすだけで精一杯だし、電池もかなり消耗するだろ」

 「うっ…、不本意っすが、一理あるっす…」

 

 そして俺たちは、壁に片手をあてながら歩くことになった。一本道にそれぞれ左右の壁に分かれ、俺は右側の壁を、燐は左側の壁に手をあてて進む。途中、燐の「うう…」という嫌そうな声が聞こえたが、この状況を打破するためだ、諦めず頑張ってもらわなければ。


 「―――ん…?」


 しばらくすると、俺の片手が触っていた壁が消えた。そこからは微かな隙間風が吹いてきている。俺は燐を呼び、携帯の明かりで目の前を照らして見せた。


 現れたのは木製の引き戸だった。隙間風は恐らく、扉の下の部分と床の間から来ているのだと推測できた。引き戸の扉は暗くてどんな状態か見えづらかったが、触ってみるとあまり埃が付いていなく真新しいように思えた。最近、扉を変えたのか、それとも誰かが掃除をしているのかのどちらかだろうが、俺の知っている学校に地下なんて存在しないし、この扉のことも知らない。


 ―――ということはつまり、『歩が作った部屋』の一部か、『主催者の作った部屋』であるということだ。


 「どう思うよ?燐」

 「怪しいですね。ここの扉だけ埃がかぶっていない、ということは誰かがここを頻繁に出入りしている……とか」

 「いい考えだな。その『誰か』はきっと敵のうちの誰か、だ。入るしかないだろ」

 「ですね。 ――気をつけてくださいね、出会い頭なんてパターンもあるっす」


 「わーってるよ。 ―――いいか?開けるぞ…」


 ぎいい…と音をたてながら、扉は右から左へと動いていく。開けた瞬間、俺はその部屋の眩しさに目を奪われた。長い間暗いところを歩いていたせいで、しばらく目を開けることが出来なかった。


 (クソッ、眩しい…)


 他の場所は暗いのに、この部屋だけは明かりがついていた。辺りはブラウン管で何やらゴウンゴウンと音を立てているし、足元は何かの配線の紐だらけで足の踏み場もない。こんな所にあの日記のページの一つがあるのだろうか。そして運がよければ、この部屋にこの地下への出入り口の手がかりがあればいいのだが。


 「なんだろうな、この大量の紐は」

 「俺たちの世界でいうパソコンやらにつながれているプラグの一部のようっすね」

 「この紐、天井のブラウン管のあちこちにつながっているぞ。一体何と何を繋げているんだろうな」

 「さあ…。俺は一度、主催者に会ったんですが『使えるものは使う、役立たずは処分する』といった感じでした。彼女なら、何かヤバイ化け物を育てていそうですね」

 「燐よ、それを世間ではフラグっていうんだぞ。一級建築士にでもなったらお前をぶん殴るからな」

 「お構いなく。俺は先輩を一度、ぶん殴ってるんで」

 「お前なあ…」


 ブラウン管と配線に囲まれた地下室は、長い間放置されているにも関わらず、先ほどの廊下よりも息苦しくは無かった。やはりこの場所に頻繁に出入りしている誰かが居るのだろう。それが味方なのか敵なのかは俺たち二人には考えなくてもわかる。空気が綺麗で、換気もこまめに行われているので行動には困らなかった。


 俺たちは手前の部屋から手当たりしだいに調べていくことにした。地下室はこのブラウン管を動かしている動力室、電力室、空気管理室、個室などの部屋があった。個室には、真新しいお菓子の袋が残っていた。もしこの部屋の奥に何かを監理するようなものがったと仮定するならば、あの個室はその管理人の私室だろう。まず最初に俺たちは、その管理人が居たであろう個室を調べることにした。

 調べている最中に、もし敵が現れたとしても、俺たちは元・不良だ。腕は前より劣っているかもしれないが、何もしないで逃げるよりはマシだろう。その証拠に燐――というよりはもう一人の『燐』が、緑鬼のハヤテを倒している。


 「やっぱり敵は強いのか?」

 「そのようっす。ハヤテは『仕掛け』と鎌で襲ってきました。そしてこの世界の違反を破り、主催者によって葬られた―――出来れば、助けたかった」

 「……なるほどな。お前がそんな風に思うようになるとは、なーんか実の弟の成長を目の前にしているみてぇだ」

 「やめてくださいよ、恥ずかしい」


 そして俺は、燐と行動を共にした時からずっと疑問に思っていたことを彼に問うことにした。



 「なあ燐、一つ聞いていいか?」

 「……何すか」


 燐も俺が何を聞くのか予想していたのであろう、返事は少し自信なさげだった。それでも俺は引かず、質問をする。



 「―――ダチちゃんは、何で鬼になったんだ?」

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