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More daze  作者: 鈴ノ木
 Stage1 原沢高等学校
22/26

第二十一話 探索再開

 ぽこぽこ、と周りから水の泡のような音が聞こえる。もう聞き飽きてしまったこの音は、焦る私の気持ちを落ち着かせてくれる。

 目を開けたいけれど開けられない。私が今いる場所はホルマリンの溜まったポッドの中だから。気が付けばこの中に居て、ポッドの外に『あの子』が私を不気味に笑いながら見つめていた。


 それを知った瞬間、私の心は絶望へ苛まれた。


 いつの間に、と気付くも遅かった。あの子は本当にやる気だ。この世界と現実世界を入れ替えて、ユートピアを完成させるつもりだ。あの子の計画を完全に阻止しなければ、人類の存在さえ危うくなってくる。

 元はといえば、私が『あの子』に関わりなんて持たなければ、こんな事にはならなかったはずだった。あの日、何もかも嫌になってしまった私に手を差し延べてくれた『あの子』と関わりなんて持たなければ、こんなことにはならなかったはずだ。でも、無視なんて出来るわけがなくて。泣いているあの子を、自分と重ねてしまっていたのかもしれない。


 (誰か――…私とあの子を救って。お願い、誰でもいいから―――)


 ただ、私はその時まで待つことしか出来ない。じっと目を瞑りながら、終わりの時を待つことしか出来ないのだ。真実を知り、それでも私を救い出してくれる参加者が現れるまで。






                       *


 


 ありさを救出し、一旦生徒会室へ戻った俺たち。そこで気絶しているありさを寝かせていた。ありさが目を覚ましていない間、俺たちはお互いにあった出来事をそれぞれ報告しあっていた。



 「やっぱり鬼たちは元々人間か…」

 「ハヤテはそれを『機密事項シークレット』だと言ってたっす。もしかしたら参加者には知られたくない情報があるのかも知れない…、この日記もその一つでは?」

 「どうしてそんな事が言えるの?」

 

 歩の質問に対し、燐は口元に手を寄せながら、まるでどこかの探偵かのように語り始めた。


 「―――おかしいと思いませんか?若城ひなみさんが、このゲームの世界に入ったのだとすれば、俺たちと同じ参加者扱いになるはずなんです。それなのに姿を現さないなんて…」

 


 「 「 「 ―――!!! 」 」 」



 ……言われてみればそうだ。どうして俺たちは疑問に思わなかったのだろう。鬼たちから逃げることばかりしか考えていなかったせいで、そこまで頭がまわらなかった。


 「歩、若城ひなみの気配は感じ取れるか?」

 「…出来なくは無いよ。 …………うーん、このゲームの世界にはいるけど、此処には居ないわね。もっと遠いところ―――でも、辿り着くのは難しい…。



 ―――――あああああ!もう!!もどかしいわね!!」

 

 「ひいっ!?あ、歩先輩落ち着いてくださいっす…」


 うまく探し出せないことにイラついたのか、机にバン!と手をつき、俺たちに向かって怒りをぶつけた。



 「どこにいるの!?こっちは死ぬか生き残れるかの崖っぷちだっていうのに! ――ねえ、彼女に関わるようなもの何かない訳!?それがあれば正確に探せるんだけどっ!」

 「見つからないからって八つ当たりすんなよ…。さっき見つけたこれを使ったらどうだ?」

 

 俺は懐から若城ひなみの日記帳を歩に手渡した。少しボロボロになってはいるが、読めなくは無い。この世界に来たときに、危うく何処かで落としてしまったのだろう。それを見つけた主催者が隠していたんだな。




 「――――――それ…、どこで見つけたの?」



 その声の主は、ありさだった。どうやら気が付いたらしいが、顔色がひどく悪い。さっきのこともあって、酷く疲れているのだろう。


 「九川先生! …身体の方は、もう何ともないんですか!?」

 「―――大丈夫よ、だから心配しないで、鬼人さん」

 「…でも…、私のせいで…。私がそもそもこんな世界を作らなければ―――っ」

 「そんな悲しまないで、大丈夫だから。あなたものせいじゃないわ。 ―――波也、その日記はどこで見つけたのよ?」

 「陸上競技場にあった倉庫の中だ。若城ひなみが、この世界にやってきたときに落としたんじゃないかって俺は思ってる。そんでもしかしたらの話だが、そのページの何枚かがこの世界のどこかに落ちている可能性が高いんだ」

 「なるほど…、ページを集めてしまえば彼女のことがわかるかもしれないってことね。どうやってこの世界を知って、参加をしようと思ったのかも―――」


 ありさが立ち上がろうとする。しかし、ハヤテの空間の影響もあってか立ちくらみをし、ふらついてしまった。


 「先生!まだ安静にしなくちゃ駄目っすよ!」

 「でも、私はこの中で一番上で、あんたたちの先生じゃない。大丈夫、あんたたちの責任を取って、安全に帰らなくちゃ…」


 「何が大丈夫だよ、バッカ!」


 「波也…」

 「お前は俺の家族なんだ!だから『先生』だとか『大人の責任』だとかそういうのは御免なんだよ。日記のページは俺と燐が探してくるから、余計な事はするなよ!?」



 すると、ありさは俺の言う事に諦めが付いたのか、消え入りそうな声で「…わかったわ」と答え、俺たちが日記のページを探しにいくことを了承してくれた。


 「気をつけてよ。私は元・主催者だとはいえ、何でも出来るってわけじゃないの。せめて、自分の身は自分で守ってね」

 「ああ、わかってる。そっちも気をつけろよ」

 「すぐに戻りますから」


 そう言い残し、俺たちは拠点である生徒会室を出た。








 「―――さて、まず何処から探そうか」

 「そうっすね…、外は全て探索しましたか?」

 「大体はな。体育館付近はまだだけど――――あそこ、広いだろ?何か仕掛けてくるかもしれねーじゃん」

 「確かに、鬼が参加者を襲うのには最適な場所ですね。では、まだ室内で調べていない場所に行ってみましょうか」


 燐によれば、室内でいってない場所は理科室、職員室、コンピューター室、放送室、進路指導室、家庭科室、食堂らしい。他の教室などは調べ済みで特に何も無かったようだ。確か、職員室は行こうとしていたところで、鬼に見つかって調べられなかったんだっけか。


 「職員室にまず行くべきだな」

 「職員室――っすか?」


 燐は少し自信を無くしたような顔をした。以前、ありさと鍵を取りに行こうとしてその途中、鬼に襲われて少しトラウマになっているのかもしれない。

 

 「怖いか?」

 「―――っ!いえ、全然平気っす。あいつらが元・人間って知った今では何とも…。それに、デイモの事もあるんで」

 「はは、そっか。大体の移動教室は鍵かかってる可能性あるから、鍵は取りに行ったほうがいい。ついでにどうやらここは俺たちの学校とそのままそっくりなんだろ?つー事は、ありさの机もあるかもしれないじゃねえか。荒らしてやろうぜ」

 「貴方って人は…。女性のプライベートをよくもまあ平気で…。―――確認しますけど、九川先生の逆鱗に触れたらどうなるか分かってて言ってるんすよね?」

 「―――…っ、ば、バレなきゃいいんだよ!バレなきゃ!!」


  そう。女性でありながら、有り得ないほどの怪力を持つありさの逆燐に触れるのは、燐や歩も勿論のこと、ここの教師や生徒だって禁忌であることはありさがこの学校にやってきた頃から知られている。  ――――現に、俺が一番良く知っている。幼い頃から散々、逆燐に触れてきたからだ。むしろ、あいつのほうが鬼なんじゃないかって思ってしまうが、心の中に留めておこう。


 なんて考えていると、職員室と書かれたプレートが見えてきた。扉の近くまで来ると、鬼が居ないかどうか確認のため歩き始め、声も抑える。 ……よし、誰もいないみたいだ。


 「…大丈夫そうっすね」

 「ああ。だが、油断するなよ」

 「わかりました、中に入りましょう」


 職員室は電気がついていないせいか薄暗かった。唯一、外の赤黒い月が頼りだ。近くに電気のスイッチをパチパチと押してみるが、蛍光灯は光を灯さなかった。ブレーカーが落ちているのだろうか、それとも元々点かないのかのどちらかだろう。いずれにせよ、何か手元を照らしてくれるものが無いと、探索は出来なさそうだった。

 

 (携帯電話のライトでやるしかなさそうだな)


 俺は携帯電話のライトの明かりを最大に設定させると、それを片手に職員室内を探索し始めた。この学校にいる教師は大体20~27人くらいで、少し男が多い。そして冷暖房設備は完璧で、机に備えられているパソコンも最新型。そして教頭先生の机の後ろにはキッチンがある。そこで先生方は夜食を作ったり、お湯を沸かしてコーヒーを飲むことが多い。現に、キッチンの壁のところに好きな夜食や、コーヒーに入れるものなどが書かれたコルクボードが貼られている。ありさの好物はラスクで、コーヒーには何も入れないブラックコーヒーを飲んでいるようだ。

 次は、各教師達が使用している机の中身を探索してみる。中身はよくわからない難しい書類や、今度やる予定であろう作られた問題プリントの束といった意外と普通なものばかり。中には好かれている生徒からの小物のプレゼントだったり、取っておいたおやつなど…。ゲーム攻略に役立ちそうなものは無い。

 

 探索してから約三十分――――何も見つからず、俺はふと窓の外を見た。相変わらず空は赤く、月も不気味な色をしていた。


 「赤黒い月だなんて不気味だな…。まるで魔界みたいだ」

 「魔界、ですか。言われてみれば確かに、そんな気もしますね。ここが魔界なのだとしたら、もうすぐここは現実世界と入れ替わってしまう―――――本当に、ゲームのような状況です」

 「確かに…。まあ本当にゲームなんだけれども、こんな事は初めてだ。早くクリアして、主催者をなんとか説得して、現実世界に帰らなきゃな。【向こう側】の奴らもきっと俺らがいなくなって心配してる」


 再び探索を始めようと、一歩―――歩みだした時だった。


 「ん…?」


 ほんの一瞬だけだが、踏んだ床のタイルが数センチだけ下に沈んだ。気のせいなのか確認するためにもう一度だけ、今度は思いっきり踏んでみる。すると床はさっきよりも深く沈んだ。



 このタイルの下に何かがある――――そう思い立った俺は、燐を大声で呼んだ。



 「どうかしましたか」

 「ここ、剥がせないか?下に何かあるみたいなんだ。何かこのタイルを捲れる道具とかないか?」

 「ちょっと待ってください、ええと……」


  燐がその場から離れ、道具を探し始めたその時だった。職員室と校長室を繋いでいる扉がガチャリと音が聞こえたかと思うと、ギイィィィィ…と、不気味な音を立てて、開いたのだ。扉の先は真っ暗闇で誰もいなかった。


 「一体なん…、 ―――――!?」


 

  ……ざり、ざり、ざり。



 (――――何かが這いずり回っている。まるでぐしゃぐしゃになってしまった、柔らかい『ナニカ』のような…)


 

 そこで俺は考えるのをやめた。知りたくない、解かりたくも無い。ただ、這いずっている音が近くなってきている――――こっちに向かってきているのは確かだ!!



 『ウウウゥゥゥゥ…、…レダ………ァ…』

 

 「ひいぃぃっ!!?」


 

 這いずり回っている『ナニカ』は野太い声で、うなり始めた。あれに捕まったら最後―――殺されるに決まっている。俺たちは護身用に何も持ってきていないのだ。



 「燐!!早くっ!!!!!」

ものすごくお久しぶりな感じになってしまいました…。覚えてる方、いらっしゃるかな…。

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