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More daze  作者: 鈴ノ木
 Stage1 原沢高等学校
19/26

第十八話 約束

 「嘘でしょ…」


 私は、今目にしたことが信じられなかった。まさか、あの子があの「ハヤテ・サイエンテスト」の社長令嬢で、自らの野望の為に潰したなんて。緑川ハヤテが緑鬼…。―――確か、最初にあの赤鬼が放送で説明していた。まさか、これは緑鬼の能力であって、私は彼女の世界に閉じ込められているというの!?


 「うそ、やだ……!早く逃げなきゃ……っ」


 私は彼女の「思い通りの世界を作る」という野望を目の当たりにした。彼女の欲望はすざましいものだ、そんな善悪の判断が狂ってしまっている彼女を目の前にしたらどうなるかわからない。きっと原型も無く壊されて殺されるに違いない。そうとなれば、早く、早くこの世界から脱出しなければ……!!


 「嫌よ、ここで殺されるわけにはいかないのよっ…!若城さんを無事に助けて、全員返さなきゃいけないのに!あああぁぁあああぁぁ~~~~っ、もう!なんで出口が何処にもないのよおおおーーっ!」


 こうなったら仕方ない、ヤケだ。見知らぬ空間を進むなんて、そんな危険なこと怖くて出来ないけど、ここで何もしないよりはいい。早くこのヘンテコ空間から脱出して、空野くんと合流しなきゃ。


 「頼むから、生きていて。お願い―――…」


 一緒にこの世界へやってきた三人と、若城さんの無事を願って前へ歩き出そうとした。



 

 その時――――


 

 『 ―――待って 』



 「……え?」


 振り向くと、そこに微かだがほんのりと灯る緑色の光。ぽわぽわと浮くその光は、私に近づくと再び話しかけた。


 『 …見たんだね、僕の罪を 』

 「……もしかして、あなたは緑鬼のハヤテ?」

 『 正しくはその残りカスだよ。僕は、最後の最後で【鬼退治】されたんだ。君の連れていた、空野燐とかいう少年にね 』

 「あの子が、あなたを?」


 想像も出来なかった。あの時空野くんは教室に入った途端、気絶したはずだ。心臓は動いて意識もあったから、肩をゆすったり叩いたりしてみたけど中々目を覚まさなくて。その後、私も後を追うかのように意識を失って……。もしかして彼も、彼女の世界に閉じ込められたのかもしれない。


 「信じられないわ、あんなに狂ってしまったあなたを、あんなに優秀で生徒会長も勤めているまじめな空野くんが、あなたを倒したなんて」

 『 彼も相当狂ってるよ。解離性同一性障害―――もう一つの顔が彼にはあるんだ。恐ろしくてたまらなかったよ 』

 「空野くんが…?」


 どうしてそんなこと、今まで言わなかったのだろう。私は彼の学校の生徒であって波也の親戚にも当たる。会う回数は多かったはずだし、中学からの付き合いだったから遠慮というものはなくなっているはずだ。もしかして、本当は嫌われていて陰で悪口とか言われてはいない………と信じたい…。まあ、それはこの空間から出てから後で聞いてみよう。嫌われていないといいな…。


 『 さっきの空間でもみた通り、僕は情報を集める力を持ってる。君が知りたいことなら聞いていいよ、この光が消えるまでなら 』

 「ずいぶんと親切なのね。あなたは敵だったんじゃないの?」

 『 そう。敵だったけれどもう主催者さまのお力にはなれないんだ。僕はもう殺されたからね、もう外の世界に戻ることなんて出来ない―――ここで消える運命なのさ 』

 

 ――――ここで消える運命……。


 もう遅いのかもしれないけれど、鬼達を救うことは出来ないのだろうか。私たちを殺そうとするけれど、彼女たちだって元は人間だ。もし救うことが出来たなら、緑鬼のハヤテもやり直せることだって出来たかもしれないのに。


 『 何、悲しそうな顔してるの 』

 「だって…、あなたはまだ若かったのに、まだ未来もあったのに…。助けることが出来なくて…」

 『 僕はあの日、死刑宣告されてからもう未来はないんだよ。主催者さまは少しだけ延長時間をくれただけなんだ。彼女の約束を破ってしまったけどね 』

 「約束?」

 『 それは教えなくてもわかるよね?見ていたんだから 』


 (もしかして、あの「指切り拳万」の歌?あの歌は約束によく唄われるけど、確か歌詞はすごく残酷な意味を持っていた気がする)


 それと、もう一つ―――…、あの歌には確か……。





 『 指切り げんまん 嘘ついたら 針千本 のます 』





 

 「――――『死んだら御免』、指切った」




 『 ………え、何よそれ 』


 「知らないの?じゃあ、ちょっとだけ教えてあげましょうか」


 ここから私のちょっとした授業。実はこの歌には、「針千本のます」の後に「死んだら御免」という続きがあるのだ。この歌は元々は江戸時代の今でいうヤクザが行っていたもの。本当に約束を破ってしまったら本当に、死ぬか殺されたかしたらしい。江戸時代の子供はそれを遊戯化した。親と子の間でも、嘘をつくことはどんなにいけないことかを子供に教え、「約束を破ったら指を切るよ、一万回殴るよ。針を千本のますよ」と、約束の「指切りげんまん」を歌っていたらしい。子供を少し脅すようだが、しつけにはぴったりだったのかもしれない。嘘をつくのはいけないことだから。ちなみに「死んだら御免」は、「もし自分が死んでしまったらあなたと約束したことは守れない。だから生きているうちはあなたとの約束を守るよ」という意味が込められている。


 「実際、約束を破ってしまった人は自ら命を絶ったといわれているわ。―――それほど、江戸時代の人たちにとって、約束をすることは重いことだったのね」

 『 そうか…。私たちの命の権利を持っているのは主催者さま…。だから殴られて、手足の指全てがもがれ、針が降ってきたんだ…。 』

 「…………どうしてあんな幼い子が、そんな残酷なことが出来るのかしら」

 『 それくらい、約束が破られることを恐れているんだろうね。嘘をつかれるのも、主催者さまは許してはくれないんだ。―――さあ、さっさと事を済ませよう。あなたの知りたいことは何? 』

 「……じゃあ遠慮なく。二つあるわ。一つは、空野くんは無事なのか。二つ、学校を脱出するための鍵の在り処」


 こんなめったにないチャンスはそうそうない。敵からゲームのヒントを教えてもらえるのだから。いわば、「お助けキャラ」というやつだ。


 『 ……君さ、僕を利用してない? 』

 「………ちょっとだけ」

 『 まあ、いいさ。僕は君らがどうなろうと構わないし。いいよ、教えてあげる。まず、空野燐とかいう人だけど、彼は無事だよ。安心していい、君が元の空間に戻っている時にはもう意識を取り戻しているはずだよ。それと、この学校を出るための鍵の在り処も彼が知ってるんじゃないかな 』

 「そう、ありがとう」


 なら、意識が戻ったら真っ先に燐くんと話をしなくちゃ。居なかったら携帯に電話をかければいいし。あと、二重人格者であったことをどうしていわなかったのかも聞かないと。


 『 ……時間みたいだ 』

 「えっ…。 ――あっ、光が…」


 光が、どんどん失われていく。それと同時に辺りが少し薄暗くなっているような気がした。


 『 早く走って、僕の光が消えたら何も見えなくなってしまうよ。消えないうちに早く、この光の先にいくんだ、急いで 』

 「わかった、ありがとう」


 私は急いで、その光を辿って走り出した。


               *****


 ―――九川先生を必ず助けて。


 白川さんと一緒に行動していた参加者であり、このゲームの元・主催者でもある、歩さんの言葉を胸に、私は歩さんに空間の穴を開けてもらい、その九川先生を探していた。必ず助けなくてはならない。それに、あの時の白川さんの恩返しがしたいと思っていたのだ。まさか、こんなところで再会するなんて思っても見なかったのだ。


 「……これで、いいのかな」


 私は、黄鬼のデイモ。つまり、白川さん達の敵であって、本来ならば彼らを殺さないといけない立場なのに。今、私がしているこの行動は果たして正しいのだろうか。もし、九川先生を助けてしまったら、私は他の鬼達にとっては「裏切り者」ということになる。裏切ってしまったら一体どうなるのかわからない。まだ、彼女たちより鬼になってから日が浅いため何もかも未経験で、参加者を殺したことが無いのだ。殺したといえば、あの緑鬼のハヤテということになるのだが。参加者は一度も仕留めたことが無い。ここで考えを改めて、その九川先生を殺したり、逃げて空間に閉じ込めたままにすることだって出来る。だって私は鬼なのだから。参加者を殺してあげるのが、私の仕事なのだから。


 でも―――



 「ううん、迷わない。また【あの時】と同じにはなりたくない。歩さんと約束したんだから、絶対助けるんだ」


 パンパン、と軽く両手で頬を叩く。そして九川先生の気配を辿って、真っ暗な空間の中を走り続けた。

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