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More daze  作者: 鈴ノ木
 Stage1 原沢高等学校
17/26

第十六話 振り向いた罪

それが大きな事件として世間に知れ渡ったのは、私が『力』を使ってからすぐのことだった。日本中で名を知られている有名な企業会社が倒産――――突然のことに、周囲は驚いた。番組は全てニュースとなり、緊急生放送だった。目の前に映っているニュースアナウンサーが、焦っていてうまく喋れていない。声も震えているし、事件に関する資料を持つ手が震えている。


『ばっ、番組の途中ですが、ニュースをお伝えします!全国で有名と知られている企業会社「ハヤテ・サイエンテスト」がと、倒産してしまったとのことです……。えー、えー、ハヤテ・サイエンテストが倒産した原因は未だにわかっておりません…、この事に関して警察は――――…』


 私は両親が用意してくれた別荘で、電気もつけずに毛布に包まってスナック菓子をバリバリ食べながらそのニュースを見ていた。まだ原因もわかっていないし、誰が倒産させたのかもわかっていない。まさかその社長の娘が会社を倒産させたなんて知ったら、世間はどう思うのだろうか。


(…まぁ、バレちゃったらおしまいなんだけどもね)


 私は悪いことなんてしていない。私はお父さんとお母さんを苦しめているものを壊しただけだ。私が知っている理想の家族のように「ただいま」や「おかえり」を言えなくて、ずっと悲しい思いをしていたはずなんだ。だから、お父さんは私にこの『力』を―――情報を操る方法を教えてくれたのだ。自分の娘がいつか、助けに来てくれると信じて。そうだ、そうに違いない。


「…あ?あっれー、もう無くなっちゃった?意外と入っていないんだなぁ、スナック菓子って。1回食べてみたいなとは思ってはいたけど…。後で食品産業の方にもっと入れてって言おうかな。―――って、ああ…、会社潰したんだった…」


 また新しいお菓子を買いに行かなきゃ、とソファーから立ち上がる。着替えている途中で、自分の携帯の着信音が鳴った。表示された文字は『お父さん』。電話を無視して、私は別荘から出かけ始めた。


 街に出てみると、人々はビルに掛けられた大型テレビの真下に集まって、不安そうな顔をしてニュースを見ていた。中には新聞の号外を配っている人、それを読んで不安そうな顔をしている人や、それに関してニュースのインタビューを受けている人…。皆、私の会社が潰れたことに対して落ち込んでいるように見えた。


「ねえ、緑川さんの会社が潰れたってニュースみた?」

「見たわ見たわ、怖いわねぇ…。一体誰がこんな事したのかしら…」

「あそこが潰れるなんて思っても見なかったわ、これからどうなっちゃうのか不安よねぇ…」


(何で落ち込んでいるの?むしろ、喜んでよ。私は正しいことをしたんだから)


 噂をするご婦人たちを横目に、私は帽子を深く被って近くのスーパーマーケットへ向かう。普段なら生産会社に大量に箱詰めにされたダンボールを注文するかもしれないが、会社を潰した以上、手配なんて頼めるわけが無い。倒産した会社が注文してきたなんて、向こうがどう思うかわからないからだ。


 やってきたスーパーマーケットは、たくさんの客であふれている。調べたところ、商品はコーナーごとにわけられているらしいが、何よりあんまり来たことがないのでちょっと慣れていない。


「すみません、お菓子のコーナーってどこですか」

「えっ、…ああ、お菓子ですか。ご案内いたしましょうか?」

「お願いします」


 黒いメガネをかけた男性の店員は、私を不思議に思いながらもお菓子の売っているコーナーに案内をしてくれた。研修中の名札を着けているから、恐らくバイトをしている人なのだろう。

お菓子の置いてあるコーナーに着くと、「ここですよ」と説明してくれた。見てみると思ったよりもたくさん置かれていて驚いてしまった。何にしようかさらに迷ってしまう。


「うわぁ…、こんなにいっぱい…」

「どんなお菓子をお探しで?」

「えっ、いや別に…。たくさん入っているやつなら何でも…」

「そうですか、ならこちらなんてどうでしょうか?」


 店員が手に取った商品は、チョコレートとスナック菓子、そしてグミが小さい袋に入って一緒になっているセットの商品だった。色んな種類が入っていて豊富だ。一体どんな味なのか気になった。


「これならたくさん入ってるし、ずっと一人で食べていても味に飽きないのでおススメですよ」

「! …なんで、一人で食べるってわかったんですか」

「いや、だって君、口のまわりがスナックだらけなもんだから。一人で食べてるなんて勿体無い、家族とかと食べないの?」

「家族……」


 それは、お父さんとお母さん。二人とお菓子を食べる時間なんてあるわけがないし、食べようと言ってみたって「それどころじゃない」って言われるような気がする。今まで私の事なんて構ってくれなかったし、私よりも仕事が大事のはずだ。


 でも今は―――…


「わからない、二人とも仕事であんまり過ごしたことがないので」

「じゃ、今から誘ってみたらどうかな?今日は家にいるの、お父さんとお母さん」

「……多分、居ると思います」

「じゃあ一緒に食べてみなよ、せっかくだし。俺、バイトだからこういう接客みたいなアドバイス下手かもだけども」

「いえ…、そんなことないです。ありがとうございます。これ、買いますね」


 私は会計をすませた後、急いで走って家に向かった。お父さんとお母さんに会いたくなったから。お父さんとお母さんはきっと喜んでくれるに違いない。だって、自分たちを縛っていたものがなくなったんだから。そうだ、お菓子は買ったものしかないけどちょっとしたパーティを開こう。お茶とか用意してくれる人とかは、会社が潰れて居なくなったけれどやり方を調べれば淹れられるかもしれない。


 私の家は、近所よりちょっと雰囲気が違った派手なお屋敷だ。その敷地内に入れば、住宅街や近所の家は見えなくなる。その代わりに薔薇の庭園が見えるのだ。お母さんはいつも、休みの日は庭園を散歩していたっけ。


「あれ…?」


 異変に気付いたのは、門の近くを急いで走っていたときのことだった。庭がなにやら騒がしい。庭の中に誰か居るのだろうか…。もしかして記者や警察の人たちなのかもしれない。あれだけ大きな会社だったのだから、たくさんの記者や警察がお父さんやお母さんを訪ねにきているのだろう。門に近づいて見ると、案の定たくさんのカメラやマイクを持った人たちが道を塞いでいる。


「! あれはハヤテさんじゃないか!?」

「っ…」

「本当か!?」

「ハヤテさん!ハヤテさんが来たぞ!」


 一人の記者が帰ってきたことに気が付いた。それのせいで、他の記者もこちらに振り向いてマイクを持ってこっちに迫ってくる。


「ハヤテさん、会社倒産について何か一言お願いします!」

「ど、どいてください、通して!」

「会社を潰した犯人に心当たりは?」

「どいて!」

「元・社長だったお父さんいついてどう思われますか!」

「どいてってば!!」


 私は、マイクやカメラを持ったたくさんの人達を押しきって屋敷の中へ入ろうとしたが人数が多すぎる。このままじゃ、もみくちゃにされてしまう。


「うわ、ちょっと押さないでくれないか!!」

「お前邪魔なんだよ!!」

「いいから何か喋ってよ!!」


 ――――ドンッ!!


「あっ…!」


 たくさんの人達に押され、手に持っていたお菓子が地面に落ちる。慌てて拾うとするが、人の波に流されて見えなくなってしまった。そして私に一刻も話を貰おうと、必死にもがいているたくさんの人達に踏まれるのを見た。


「お菓子が……。」


ぐしゃぐしゃになって、潰れてもう食べれなくなってしまった。せっかく買ってきたのに、お金の無駄になってしまった。


「…………帰ろう」


何とか抜け出せた私は、振り替えずに屋敷の中へと入った。


「ただ、いま……」


屋敷の扉を開けて、そっと呟く。お父さんとお母さんは何処に居るんだろうか…。


(……静かだな…)


二人とも、自分の部屋に居るのだろうか。それにしたって静かすぎる。この間までは使用人がまだ居たはずなのに、何処にも見当たらないなんておかしい。私が別荘にいる間に辞めてしまったのだろうか……。


「まいったなぁ、お茶の淹れ方を教わっておけばよかった…。お父さーん、お母さーん、居ないのー?」


廊下を歩きながら、二人を呼ぶが返事がない。やっぱり二人は、自分たちの寝室に居るのだろう。だったら、今度は二人を呼んで、お茶菓子を買いにいこう。そうしたら、二人の意見も聞けるだろうし、何よりお茶の時間は二人と話せる。


 ――――私を見てくれる。


二人の部屋の前まで来ると、私は軽く扉をコンコンとノックをした。


しかし、返事は返ってこない。いつもなら、「…誰だ」とお父さんが返事を返すのに。


「…居ないのかな」


 念のため、もう一度ノックをして呼び掛けてみることにした。


「お父さん、お母さん?居るんでしょ、もうノックをしたら返事をし……………………て、…………」


言いながらゆっくりと二人の部屋の扉を開いた。


 そこにあったのは………、





 「………………」






  



  

  二つのてるてる坊主だった。








 おかしい、こんなのおかしい。何でこんな所にてるてる坊主がぶら下がっているんだろう。確か、てるてる坊主は雨を避けるためのものだ。そんなところには吊るさないし、並べないし、それに見た目だっておかしい。


 左側のてるてる坊主は、髪が長くお団子に結んでいてお洒落で派手な格好をしていた。以前、お気に入りなのだと話していたアクセサリーをじゃらじゃらといくつも身に付けており、お気に入りの服も身に付けていて、その真下にも何着か広がっていた。右側のてるてる坊主は髪が短く、黒くて高そうなスーツを来ていた。腕にはブレスレットと高そうな時計、そしてサングラスが外れかけている。


 縄が揺れ、吊るされている箇所から木の軋む音が部屋に響く。そして、右に吊るされているてるてる坊主と目があってしまった。


その目は生気がなくて、まるで人形のようだった。



「―――ぁ… っ、…あぁぁあああぁあぁぁあああぁぁあああぁぁ!!!!!!」

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