第十三話 迫るタイムリミット
―――――二人の様子を、主催者は見ていた。
「…あーあ、やられちゃったかぁ。使えないなぁ、本当に」
主催者はテレビを消すと立ち上がり、とある部屋へと向かって行った。「Staff Only」の部屋は彼女が遊ぶ場所だけではない。中には書斎、バスルーム、寝室…と、とにかく快適に過ごせる場所ばかりなのだ。その中に一つだけ――――過ごせる場所とは思えない部屋が存在する。その部屋は地下室。主催者は、ダイニングルームにあるテーブルの足にある小さなボタンを押す。すると暖炉の奥の壁が下へと降り、暖炉の中に隠し通路の小さな扉が現れた。
「よいしょっと。はー、ここを通るたびに灰まみれになるんだよねー。まぁ作ったのは、…………『私』だけど」
カンカン、と鉄のはしごを降りる。するとそこは、先ほどの雰囲気とは随分と違い、部屋の床と壁は全て銀色へと変わって、まるで研究室のようだった。まわりはコードだらけで、コードを踏まないと前へはすすめない。
そのコードは、全て中心にある巨大なポッドへと繋がっていた。
「どうやら君を助けに来たみたいだよ、あの参加者たち」
ポッドに入っている人物は答えない。何故なら、彼女は強制的にその中で眠らされているのだから。
「あなたの事について知ったときは本当に驚いたな。だってこの世界は腐ってる、だなんて一番あなたが強く思ってるんだもん。…それに、すごいよね。この世界。『何でも』思い通りにできるんだもの」
主催者はポッドに手を置き、その人物に話しかける。この事は鬼役の彼らさえも知らない事実。彼らや参加者に知られてしまえば一環の終わりだ。何としてでもこの部屋には入らせないようにしなければならない。
「じゃあ、また来るからね。
―――――×××ちゃん!」
******
「はーーーっ!!長かった、やっとこの倉庫を開けられるぜっ」
「何かお疲れさま、波也」
「本当だなー、プールにも何もなかったし、何か変な粘土みたいな黒い奴に追いかけられるしっ」
愚痴を零しながら、波也は倉庫の鍵を開ける。確かに、本当に此処まで長かった。倉庫が開けられなくて、次の場所を探索しないといけなくなった私たちは、テニスコートやサッカー場などを見て回ったが、何やら可愛らしい見た目をしたマスコットキャラクターらしき存在と、テニスやら野球やらサッカーで勝負しなければ、その場所から出れないというものに引っかかった。波也は「何じゃそりゃ!?」と突っ込みを入れていたが、恥ずかしい話、この設定を作ったのは紛れもなく『主催者』だったころの私だ。主催者は此処の設定はいじっていなかったようだ。あえていじらなかったのか、それともこの設定の存在に気がつかなかったのか……。ともかく、その作ったのが私…というのを絶対に、波也には知られたくはなかった。しかし、マスコットキャラクターらしき存在は、私のことを覚えていたようで、「何で姿が違うの?」と質問されてしまって返答に困った。
………その時の波也の笑い堪えておなかを押さえている顔といったら。「くっそ!腹筋返せぇぇ!ひーひひっひっひっひ!」とか言っていたが、意味がわからない。波也の腹筋奪った覚えとかない。
(死にたい。いや、私、生きている存在なのかどうかわからないんだけど。死んじゃ駄目だけど。なにか精神的な意味で死にたい。とにかく死にたい)
またその事でイジってきたら、さっきの青鬼の時みたいに吹き飛ばしてやろう。
そしてそのゲームの景品で貰ったのがプールへと続く扉の鍵の破片だった。脱出の鍵かと思ったが違った。つなげて元の鍵へと完成させ、プールへと向かった。そして、入ると何故か自動でガッシャン!!と扉が閉まり、ご丁寧に鍵がかけられてしまった。そして、プールから何かが出てきた。胴体がまるで粘土のような二足歩行の怪物。波也は「ホラーかよ!俺、ホラーゲームはやらねえよおおお!!」と叫びながら、あたりを逃げ回っていた。情けない人だ。こんな状況でゲームの事を考えてるなんて、ほんとおめでたい頭してるのね。―――まあ、このままだと面倒くさいから、私は余っている『主催者の力』を使って、その場所の時間を少しだけ巻き戻した。
そして、急いでプールから退散して、一息ついていると、先生から電話があって「一度集まろう」という連絡が来たのだ。そして、別れる前に皆で職員室へと向かい、先生から鍵を受け取り今に至る。
「ほっ!!…っと、何かあるかね」
「乱暴な開け方するわね…、まあ先生もいないからいいけど」
「お前が作ったものだしな。さーてと…」
「気をつけてね…」
「わかってる」
波也がゆっくりと足を踏み入れる。入っていた倉庫は、ハードルやコーンなど体育や陸上部が使うような道具が入っていた。しかし、今は『Moredaze』の世界。何が潜んでいるのか、どんな仕掛けが入っているのかわからないのだ。下手をしたら、死んでしまう可能性だってある。この世界を作った責任者として、どうしてもそれは避けたかった。
「……おっ?」
「! …何か見つけたの?」
「何か本?…だいありー…?」
「『日記』ね。一体誰のかな、ちょっと貸して」
「おう」
日記帳を観察してみる。とても可愛らしい花柄の本で、少し厚い。相当我慢強い人じゃないと、かけないくらいページ数はあるだろう。そして何より真新しい。最近、買ったばかりの誰かの日記だろう。そして、裏を見てみると、持ち主の名前が書いてあった。
「……『若城ひなみ』…?!」
「は!!?嘘だろ…、どうしてそいつの日記が倉庫の中にあるんだよ!?」
「そんなのわかんないわよ! …とにかく読んでみましょう。日記には重大な情報が隠されてるって、よく言ってたじゃない」
「確かにそうだけどさ、大丈夫か?読んだらいきなりザシュって展開がよくあるんだぞ…?或いは何かに逃げるとか…」
「大丈夫よ、そういう気配は感じ取れるから」
「あ、そうだったな…」
「うん、だから…、不本意だけど読んでみましょう」
私はゆっくりとその日記の表紙を開いた。