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More daze  作者: 鈴ノ木
 Stage1 原沢高等学校
13/26

第十二話 抗え

 目の前で起きたことが信じられない。なぜ、この人は笑っているんだ。なんでデイモは何も言わないんだ。目の前で人が死んだって言うのに……!


「あなたは、どうしてそんなことが言えるんだ」

『どうしてって?あゆむはまだ7歳だから、わかんないよ』

「こっちのあなたはもう高校生なんだ。いくら見た目や心がそうでも、ずっと見ていたんでしょう?こっちの歩先輩のことを」

『見ていた――――、か。見ていたというよりは、心の中に潜んで命令していたっていうのかなあぁ?』


 主催者の口角が上がる。三日月のように口を細くして不気味に笑うのを見て、本当に主催者が『本当の歩先輩』だとは思えない。同じ声、同じ声質をしているのに言っている事はイカれている。


『お兄ちゃんにだけ教えてあげるよ。人間ってさ、都合が悪くなると簡単に諦めちゃったりするんだよねぇ。たとえばーぁ、歩だったら、お絵かきとかー、粘土づくりに飽きてぐしゃぐしゃーってやっちゃうんだよね』


 お絵かき、粘土作り…。幼稚園児が好みそうな遊びを具体例に挙げるってことは、この主催者でもあり、本当の歩先輩である彼女の精神年齢はきっと、長い間幼い少女のままなのだろう。


『―――人間関係も同じだよ』

「!」

『人は約束をする。でも、すぐに裏切ってしまう人間が殆ど。 ―――なら、最初からしなければよかったのに。裏切るくらいなら最初からしなければいいのに、この子はしたの。だから嘘をついたってことになるんだよ。だからお仕置きしたの』

「そんなの勝手すぎる!」




『勝手かどうかも決めるのは私よ、燐くん』


 ゾッと背筋が凍る。


『…なーんちゃって!似てた?あはははは! …じゃあ、あゆむは飽きたから戻るね?ばいばーい』


 しばらくして、主催者の声は聞こえなくなった。残されたのは、静寂。暗い空間の中で俺と、デイモと緑鬼だったモノだけ。俺は何も言わず、ただそこに立ち尽くしていた。…何も考えたくなくて、ただずっと。

 どうして本当の『彼女』はこんなことになってしまったのだろうか。先ほど、波也先輩が話してくれたことが本当だとすれば、虐待されていた当事の先輩は先ほどの『主催者』ということになる。


 ―――いつから歯車が狂ってしまったのか。


「……燐」

「っ……、ぁ…」

「大丈夫?」


 口を開いたのはデイモだった。そうだ、俺は彼女に命を救われたんだ。デイモが助けてくれなかったら俺はきっと緑鬼と同じように血に沈んでいた。お礼を言わなくちゃ。


「あ、デイ…モ…」

「何」

「こんな所でいうのもなんだけどさ…、その…助けてくれてありがとう。俺、ちょっと混乱してて。何がどうなっているのやら…」

「そりゃそうだろうね。君は今、意識を手放してハヤテの作った異次元にいる。私も、急いでこの中に入るのは大変だったけれど、無事でよかった」


 優しく微笑むデイモ。――変わらない、あの時の笑顔とそのままそっくりだ。…でも、どうして彼女がここに居るのだろう。どうして鬼の役なんかをしているのだろう。出来ればこういった形で彼女と再会はしたくなかった。


「デイモは、なんで…」

「その話は後だ、早くここから出――――」





 ズズズズズズズズズッ……


 


 その時、地震のような揺れが起こった。一体なんだ、とデイモに問おうとしたが、彼女は「遅かったか」というような顔をして、後ろを振り向き、睨む。


「だから巻き込みたくなかったのに…!」

「巻き込む……? ―――!? なん、何だ、あれ…!?」


 俺達の前に現れたもの。それは、黒い塊の軍勢だった。その黒い塊の化け物は二足歩行で、黒くて細い手足をしている。しかし、それに繋がっている胴体は、形の整っていない黒い粘土をぐちゃぐちゃにつなぎ合わせたようなものだった。はっきりいって気持ち悪い。そいつらは目が空洞にもかかわらず、地面から出てきて俺達のほうへ向かってきている。その出てきている地面の場所は、


 緑鬼・ハヤテがお仕置きを受けた場所!!




「―――ウッ、げええええっ!!」


 先ほどの光景と、黒い化け物が頭の中で混ざり合って俺は、精神的限界に達したのか、気分を害し吐く。その場所は俺達の近くにあったはずなのに随分、遠い場所にあるように見えた。空間がおかしくなっているのだろうかよくわからない。もう、俺の理解の範疇を超えてしまっている。


「燐!無理もないか…。この、薄汚い違反者が…!まだ諦めていないつもり!?」


 デイモは黒い塊に向かって銃を撃ちまくる。しかし、数が多すぎてキリがない。このままではいずれ、奴らの餌食になってしまうだろう。


「げっほげほっ…はーっはーっ…、…デイモ、あいつらは一体なんだ?」

「簡単に言えばあいつのゾンビみたいなものとでも言った方がわかりやすい!この黒い化け物は、操っている奴の未練や怨恨から生まれたものだ。だから、私たちを狙っているんだろうね!」


 デイモは次々と懐から銃を取り出し、敵に向かって撃ち続けていた。しかし、戦うことには限度というものがある。彼女一人だけでは、この黒い塊を全て倒すのは到底無理だ。しかも、こいつらは緑鬼の死んだ場所から次々と地面からやってきているのだから、撃ちまくっていても意味がない。


「俺も戦うよ」

「!? …何を言っているの!私は戦えたとしても、燐はただの人間じゃないか!!そんな得体の知れないものに君が戦うだなんて…」

「なぁ、デイモ。このまま撃ち続けていたって意味ねぇんだよ」

「!」

「わかんだろ」

「………無茶は、しないで」


 彼女から一本の槍を受け取る。何処から出したのかはわからないが、きっと銃が使えなくなった時のためのものだろう。手入れもされていて、切れ味がよさそうだ。


「とっくにわかってるっつーの!!」


 俺は、槍を構え、一歩前へ踏み出す。そして黒い大群へと向かって全力疾走していった。


「どけどけどけどけどけどけどけええぇぇぇぇぇ!!!!」


 槍を振り回しながら、前へと進んでいく。化け物を切り倒していくたびに、黒い鮮血が飛び散る。俺の服はきっと真っ黒になっているんだろうけど今は、そんなことどうでもよかった。とにかく前へ前へと進まなければ、終われない。




 けど――――… ゲームみたいで興奮する……!!この爽快感がたまらない…!!


 

 デイモは進んでいく俺の援護をしてくれていた。前へ立ちはだかる化け物を吹っ飛ばして倒しているのは俺だが、それ以外に横や後ろ、飛び掛ってくる黒い化け物は、デイモが銃ですべて仕留めていた。だからその時の化け物の鮮血も浴びてしまっているわけだが、俺は絶体絶命の状況になっているにもかかわらず、楽しくて楽しくて笑ってしまっていた。


 (見えた!)


 進んだ先に、『あれ』が見えてきた。緑鬼・ハヤテだったものに突き刺さっているいくつかの針の中心に、黒い心臓のようなものがくっついていて、それは生きているかのようにドクドクと音を鳴らし、動いていた。それを見た瞬間、最後にやるべきことが「もうこれしかない」と合図をならしている。


 俺は一度、周りの化け物を吹っ飛ばして、槍を投げる体制を取った。そして、





「いっっけええええええええええええ!!!!!!!」



 勢いよく槍を投げた。投げた槍は黒い心臓に向かっていくたび、スピードが増しているかのように思えた。槍を止めようとする数匹の化け物も、その槍の餌食となり、鮮血を吹き出し、次々と消滅していく。


 そしてグシャリ…と鈍い音。槍は心臓に突き刺さった。そして、大量の黒い鮮血が吹き出す。そして何故か、白く光りだす。


「うあ…っ」


 どんどんそれは光を増していき、俺は目を開けられなくなって気絶した。

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