第6話 勇者の葛藤
「おはようございます、師匠」
「うむ。 おはよう勇者よ」
「⋯⋯師匠、体の調子はいかがですか?」
「⋯⋯そうじゃの。 咳が出て来たのう⋯⋯」
「⋯⋯そうですか。 やはりもう⋯⋯」
どうやら師匠はもうじき、限界のようだ。 俺は知っていながらも、変えられない現実に打ちひしがれていた。
「⋯⋯そんなことより、修行をするぞい。 剣を構えよ、勇者よ」
「⋯⋯はい、師匠」
そんな状況でも、俺に稽古をつけてくれる師匠。
ーーだけど俺は、それに甘えてもいいのだろうか? 俺の修行に付き合う分だけ、師匠の疲労が溜まっていく。
「ゴホゴホ。 ⋯⋯今日の修行はこれまでじゃ」
「ありがとうございました。 ⋯⋯師匠。 ここから近くにある、景伯荘に行きませんか?」
「うん? ⋯⋯なぜお主がその場所を知っておるのじゃ?」
「⋯⋯え? なんでってそれは⋯⋯」
「⋯⋯まあ、よい。 行くとするかの」
道中。 師匠は辛そうな表情を浮かべている。 そんな中、俺はある決断をしていた。
「ゴホゴホ。 はあ。 さて、ついたのう⋯⋯」
「はい。 では俺が支配人に話して来ます」
「いや。 儂が行くからええ⋯⋯ゴホン」
支配人に頼んで、師匠を保護してもらう作戦は失敗した。
仕方なく俺は温泉に浸かることに。
たしか、男湯はこっちにーー
「うん? どうした勇者よ、こっちじゃぞ!」
「え? ⋯⋯師匠。 そちらは女湯ですので⋯⋯」
「若造がなに言っておる! こっち来い!」
そう言うと師匠は、俺を担いで脱衣所へ。 そして、衣服を脱いでいくーー
「し、師匠。 やっぱり俺は男湯に⋯⋯」
「なにぐずぐずしておる。 いくぞ」
そして、なかば強制的に浴槽に運ばれて行く。
「ふう、いいお湯じゃ。 のう、勇者や?」
師匠は俺に向かって笑顔で応える。 俺は恥ずかしいくて仕方なかった。
「ホレ! 体を洗うぞ!」
「じ、自分で洗います⋯⋯」
「なにを言っておる! 小童が、儂に甘えろ! まったくウイ奴じゃの⋯⋯」
師匠にされるがまま。 俺は体を洗ったのだった。
「ふむ。⋯⋯なんじゃ、その。 たまにはいいもんじゃのう⋯⋯」
師匠は、お湯に浸かりながら言う。 たしかに、野宿ばかりだったが、俺は師匠といる時間はとても楽しかった。 前世の俺は、きっとこの幸せがずっと続くと思っていたんだろう。
ーーしかし、世の中はそう甘くない。
俺は前世で、師匠との最後を思い浮かべる。
「ゴホゴホゴホ。 ⋯⋯わ、しは、ゴホゴホ」
「ちしょう? げんきないの?」
「⋯⋯すまん勇者よ。 ⋯⋯どうやら儂はここまでのようじゃ⋯⋯」
「ここ? どうちたのちちょう?」
「ふふ。 最後まで、師匠と呼べなかったな。 まだまだ幼い子じゃな⋯⋯生きよ勇者⋯⋯よ。 お前のじんせ⋯⋯」
「しちょうねんねなの? じゃあ、ボクもいっちょにねる!」
ーーあの時の俺は、人が死ぬことの意味を理解していなかった。 翌日、目が覚めても当然師匠は動かない。
その時、師匠の死肉を漁りに魔物が現れた。
シタイ喰い。 後から知ったその名前のあだ名だ。
奴らは俺に目もくれず、師匠を喰らう。 俺は必死に止めるがどうすることもできない。
ーー俺は泣きながら、諦めるしか出来なかったんだ。
俺は、無力な自分が憎い。 なにも出来ない自分がとてもーー
「ふふ。 スキきありじゃ」
「ブ。 師匠! なにをするんですか!」
「浮かない顔をしておるから、吹き飛ばそうと思っての。 ⋯⋯どうじゃ? 元気出たかえ?」
「師匠。 体調が優れてないのに、無茶をしないでください。 ⋯⋯そろそろでましょう!」
「⋯⋯たしかにそうじゃの。 また私の昔話を語ってやるからのう。 次はお前の母親の話しでもしようかの?」
「駄目です。 大人しく寝てください。 体に障りますので⋯⋯」
「ムウ。 連れないの。 まったくかわいい子じゃ!」
師匠の笑顔が俺の決断を固くする。
ーー今日こそ、師匠の元を去ろうと。




