ハイハイ勇者の逃走
暗い、夜か。 あまりにも衝撃な事実に気絶してしまったようだ。
まさか、この俺が死に戻りするなんてな。
ーー死に戻り。 この現象は神がもたらす奇跡として、神話として語り継がれていた。 教養のない俺ですら知っていることだ。 ただの架空のお伽話だと思っていたのだがーー
今の状況を考えよう。 どうやら俺は、死に戻りをしたらしい。 なるほど。 それなら今は、過去の記憶が頼りになるな。
俺の記憶がたしかなら、この場所に間もなく魔物の大軍がやって来る。
目的は、俺ーー勇者の抹殺。
前世の俺は、この村の住民たち、そして師匠の生命という犠牲を払って、生き延びた。
今回も、どうせそうなるだろう。
こんな場所に居ても危ないだけだ。
幸いーー俺の存在自体は、奴ら魔物には感知出来ていないらしい。
その証拠に、この村を襲われて以来、魔王からの接触はなかった。
おおかた奴らは、勇者はこの村で死んだと思ったのだろう。 好都合だ。
俺は四つん這いになり、家を抜け出した。 この家は、簡素な物で簡単に外に出られる。
こうして初めてのお散歩は、命懸けの脱走になった訳だがーー意外にもこの村は、大きかった。
それもそうか、俺の体自体が小さいからだな。 まったく不便な体だ。
よし! 村外れに着いたぞ、さようなら故郷。
そして、会うことがない両親。
そういえばあの時、俺の名前を言いそうになっていたな。 ーーそっか、俺にも名前があったんだ。 勇者じゃない、ちゃんとした名前が。
聞きそびれちゃったな。
ああ、なんだか眠くなって来たから寝るか。
ここまで来れば大丈夫だろ。 あれは、テント?
懐かしい。 師匠のテントだーー ここで寝るとしよう。
「ぬ! なんでここに勇者がすやすや寝てるんじゃ! ⋯⋯まずいぞ、お前の両親にバレたら大変なことになってしまうぞ! どうすればいいんじゃ!」
「ミート! 私の太陽知らない?」
「う、噂をすれば⋯⋯ロマーニャ! これは違うぞ」
「あ、私の太陽みっけ! ⋯⋯それから誘拐犯もね!」
「違う、違うって」
「こんなに泥だらけにさせて! そんなに欲しかったのかしら?」
「コイツが勝手に入って来たんだよ! 本当だって!」
「コイツですって! この子にはね、立派な名前があるんです!」
「なんじゃと。 教えてくれんかの?」
「ふふふ。 なんと⋯⋯」
「ブキャキャキャ。 人間の雌がいたぜ! この魔王直属新鋭隊のギュぶげ!」
「うっさいハエね。 ⋯⋯今大事な所なの。 邪魔しないで!」
「ククク。 俺様を殺した所でお前たちの村は今頃⋯⋯ギャー」
「だからうるさいっての! よしじゃ続きよ!」
「村の様子はいいのか! アイツなんか言ってたぞ?」
「大丈夫でしょう。 寝ている時に不意打ちならともかく、今はみんな捜査体制よ! ホラ、村は無事⋯⋯あれ? おかしいわね⋯⋯」
「見事に、村が全壊しておるが⋯⋯」
「アンタ達! なにやってんのよ! 雑魚の大軍如きに、全壊されて! 私の家も残骸じゃないの!」
「ロマーニャ、すまん。 少々数が多すぎてだな⋯⋯でも、全員無事だぞ! 不意打ちだったら、みんな今頃あの世行きだったな、ハハ」
「ハハ、じゃないわよ。 この子と住む家が⋯⋯」
「⋯⋯だったら、儂が預かろう」
「ええ? なんでそうなるのよ? 私が一緒にいるわよ!」
「儂には、テントがあるが、お主にはないではないか」
「しょうがないわね。 誘拐犯の家に預けてるなんて正気じゃないけど⋯⋯」
「だから、違うって言うのに⋯⋯」
「よし、せっかくだから。 この子のために要塞を作りましょう!」
「程々にな。 ⋯⋯お主は、愛されておるの。 勇者や」




