メカニカルワルキューレ・ゼロ 第六章 始まり
雨が降りしきる。世界が泣いているみたいだった。私とサイサの、血も泥も全部洗い流す様な雨だった。
「あ……ベル…」
サイサは寝起きの様な声を漏らす。
私は貫いた右手を抜くことができない。抜けば、彼女がそのまま崩れ落ちてしまいそうで。
鉄の鎧越しに、サイサの細い体の拍動が、弱々しく右拳に伝わってくる。
雨粒がサイサの瞳に落ち、彼女はゆっくりと瞬きをする。
狂気の濁りが消えた、澄んだ瞳。それがベルを捉えた瞬間、サイサの口角が少しだけ上がる。
「……ねえ、ベル。ずっと、言いたかったことが……あるの……」
か細くサイサの口から言葉が紡がれる。
「待って……今から手当てすれば間に合うかも……」
私がそこまで言って、サイサはゆっくりと首を振った。
サイサが、震える手でベルの頰に触れようとする。泥と血で汚れたベルの顔を、愛おしそうに眺めて。
「私……アナタが……ずっとマブしかった……。私が何をしても、アナタはいつもその先にいて……」
「……アナタだけが目標で…でも…本当は……本当に大好きだった……のに……どう……して今、思い、出しちゃうん……だろ……ね……」
サイサは泣きながらも…優しく微笑んでいた。
「ほら……せっかく……綺麗……で……可愛いんだ……から…………笑わ………ない………と。」
サイサの手が力なくベルの頰から滑り落ちる。
拍動が止まり、右拳に装甲を通して微かに伝わっていた「熱」が、雨の冷たさに飲み込まれていく。
──この日私は、親友と私を殺した。
あの日以来、親友を自分の右手で貫いていた、あの日からずっと、右手の震えが消えなくなってしまった。
研究にも影響はあったが、これは親友を救えなかった私への咎なのだ。
その後の研究で、ようやく分かった事がある。魔力結晶には精神に干渉し、眠っていた感情を異常なほど増幅させる。そんな性質があった。
それを知ってから時々、私は自分の震える右手を見つめている。
─親友を殺すしか世界を救う方法は無い
──あの時の私の確信は、本当に私のものだったのだろうか、と。
私が感傷にふけっていると部屋の入り口の自動ドアが開き1人の女性が入ってくる。
「お目覚めでしたか、ハカセ」
銀色の髪と真紅の瞳の女性…もとい、女性型人造人間。名前はキュベレ。私が魔力結晶からの精神干渉を受けない存在を作ろうともがいた、試作品1号だ。
「メガイラの定期検診の結果をお持ちいたしました。」
「ん。チェックしておくわ。」
──メガイラ。彼女もまた、魔力結晶からの精神干渉を受けない存在を作ろうとした試作2号。人でないキュベレではそもそも魔力結晶が受け付けず、私の遺伝子から人工子宮で造ったデザインベイビーだ。
私は母親も子供と言う存在も分からないので教育はキュベレに一任してある。
しかしメガイラは、魔力結晶との適合は成功したものの、メガミドライヴの性能を今一引き出せないでいる。年齢は確か…今年で6才…だったか。もしかしたらこの方法にも、何かしらの欠陥が有るのかも知れない。
現在もパワードスーツの研究も引き続き続けている。 サイサの美学を継ぎ、と言ったら本人にうざがられるかもしれないが、私なりに彼女の美学を考察し、デザインに反映させている。あくまで"サイサならこう作るだろう"と言う感じで、結局私と言う人間は、綺麗や美しさを理解出来なかった。
スーツ群の名前はサイサのメカニカルワルキューレをそのまま拝借した。何となく、響きが良いから。
私はコーヒーを啜りながらホログラムに新型ワルキューレのデザイン案を表示する。
サイサのデザインラインを模した装甲を
震える指でなぞる。
更に私はある計画を考えている。
抑止力とはその威力や驚異を知り得なければ抑止力たり得ない。故に抑止力を抑止力たらしめる為、私は世界の戦争を叩く。
──メカニカルワルキューレで。
「ハカセ。候補者を連れてきました。」
キュベレが二人の少女を私のもとに連れてきた。一人はディアナと言う名でもう一人はアリアだったか。
「入れ。」
私が指示を出すとキュベレの後ろから赤髪の凛々しい瞳の少女ディアナと金髪のやたら元気そうな少女アリアが顔を覗かせる。
二人は戦争孤児で、魔力結晶との適合率が高かった為、本人達に衣食住を提供する事を条件に我がラボに招いた。
「…話はキュベレから聞いたわね。これから貴女達にはメカニカルワルキューレとして戦争を止めるための抑止力になってもらう。理解出来たかしら?」
二人は無言で頷く。頷くしか、親も親戚も居ない身の、自分達の生きる道が無いことも理解しているのだろう。
「まず貴女達にはこれから自身のスーツ適性を見定める為試作パワードスーツでの訓練をうけてもらいます。質問は?」
私が質問を投げかけると先に金髪の少女が質問をぶつけてきた
「姉さんはこれから戦争の無い世界を作ってくれるんだよな?」
「……その土台作りよ。」
「でもでも、最後は皆が笑ってられる、そう言う世界になるんだよな!?」
「……それを貴女達が作るのよ」
金髪の少女は「おう!頑張る!」とニカッと笑った。
次に赤髪の少女が手を挙げたので質問を聞く
「私達に、兵器になれ…と言う事でしょうか」
「………」
「……そうよ。世界には、絶えず戦争があって、それを終わらせる力が必要なの。それが貴女たちよ
。不満があるなら、今すぐここから出て行きなさい。……野垂れ死ぬ自由だけは、まだ……残っているわ」
「……いいえ。回答ありがとうございます。」
キュベレに連れられ、部屋を出ていく二人の背中。
扉が閉まった瞬間、ベルは震える右手で顔を覆い、誰にも聞こえない声で漏らす。
「……あはは、サイサ……本当に……私は」
ラボの研究室
そこに遂にロールアウトしたメカニカルワルキューレ1号"ヴァルキリー"があった。
革新的技術を導入しプロトタイプスーツとは比べ物にならない最強の兵器。
それを見上げる無表情のベル…いや、
ハカセ。
「さぁ……ヴァルキリー。世界を……変えるわよ。」
メカニカルワルキューレ・ゼロ 始まりの鐘 fin
脳内設定だし今後本編には絡めませんがキュベレはサイサが残した量子通信端末を元に開発されていて髪色と瞳の色こそ違いますがサイサと瓜二つの見た目をしています。キュベレを作り始めたのがサイサを亡くした直後だったと言う事もありますが彼女の生きた痕跡を残したかったベルの歪んだ愛の形でもあります。ベルは彼女をサイサに似せて造った事を後悔しています。更にですが、実はベルは携帯端末のデータを全てキュベレに入れた事でキュベレはサイサの残した日記の内容を記録として残しており、ハカセの寝顔を見た時優しく微笑んで「本当に綺麗で可愛らしい寝顔ですね…サイサ」と独り言言ったりしてますが、感情を嫌うハカセの前では感情を表に出しません。




