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メカニカルワルキューレ・ゼロ 第五章 決戦


サイサの計画は究極を言ってしまえば正しいのかも知れない。人は生きている限り争う。火のないところに煙は立たないとも言う。芽が出る前に摘むのは容易だろう。……でも……でもさ……そんなの

──美しくないじゃないか


私はラボに戻るとパワードスーツの改造に着手した。先の戦闘でこのスーツの弱点も見えた。高速の戦闘において視界が遮られるバイザーは不要だと理解した。大きすぎる鎧は人の可動域を妨げるのも分かった。

サイサ、君の美学、少し分かった気がするよ。君の細身のパワードスーツは可動を妨げない素晴らしい設計だった。

私はパーツを手に取り、ジョイントの硬さを確認しながら細部を調整した。金属の冷たさが手に伝わる。工具を握る指先に力が入る。

彼女を早く止めてあげたい。止めないといけない。

その先に、どんな結末が待っていようとも。

やっぱり私は、サイサが大好きだから。




──ベルが成すよりも早く、この世界を平和にする。

──ベルが成せなかった事を私がする。


──じゃあ世界が平和になったら

私は何がしたいの?




雲の上、私はこれから滅びを迎える国を眺めていた。

車が行き来し、家族が笑い合い、老若男女が手と手を取り合う。

──それでも。

そんな国ですら、数年もしないうちに戦争を始めようとしている。止めなければ、この歪な世界を救わなければ……そうだよね、そうでしょう?ベル。


サイサの頬を、無意識に一筋の涙が伝う

「……おかしいわね、世界はこんなにも『綺麗』になろうとしているのに。どうして、こんなに寒いの……ベル。」


──その時

空を切り裂くように翡翠の光がサイサの元に飛来する。


サイサは一瞬、温かな笑みを浮かべた。

その次の瞬間、目の奥に潜む醜悪な笑みが顔を覆う。


「やあサイサ!待たせちゃったかな?」

「ううん、私も、今来たところだから。」


雲の上、まるで待ち合わせした友人の様に穏やかな会話。

──でも

私達はこれから殺し合う。


「……スーツのデザイン変えたのね」

サイサはまるで普段と何ら変わらない様な声で話す

「ああ、君のスーツを参考に私なりに改造してみたよ」

「そう……私のを、参考にしてくれたのね」

サイサは嬉しそうで、どこか悲しそうな、私には分からない表情を浮かべていた。


サイサの表情を見た瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。こんなにも愛しい存在を、私はこれから堕すのだと。


「いかにもな武器がいっぱい…そんなに私が殺したいの?ベルぅ…」


「あはは、お互い様、じゃないかな?」


ベルがふっと笑みを消し、瞳を細める。

「……サイサ。今の私は──君を終わらせるためだけにここに居る」

その言葉が、誰よりも、口にした私自身を傷つけた。


そう、私の為だけに…居てくれるんだ…ベル…ベル、ベル、ベルベルベルベルベル


「ベルぅううぅう!!!!」

サイサは叫ぶと一気にスラスターを吹かす。

私も剣を構えると同時にスラスターを吹かしサイサに激突する。

「剣だなんて!なんて野蛮なのかしら!ベルぅう!!」

「手刀で人を貫こうとする奴のセリフとは思えないな!!サイサァ!!」

紫の光と翡翠の光が空に軌跡を残す。

まるで二匹の蝶が空を舞うような光景。それは殺意であり、祈りであり――あまりにも、美しい。どちらかが死ぬまで終わらないロンドが始まる。


サイサはお腹のメガミドライヴを最大稼働させるとエネルギーを一点に集め一気に放出させた。

高エネルギービーム。あんな物、当たれば一瞬で蒸発してしまうだろう。

私は咄嗟にそれを躱すと、すかさず機体各所に仕込んだマイクロミサイルを炸裂させる。飛行機雲がまるでサイサを捕らえる蜘蛛の糸の様にサイサに伸びていく。


サイサはそれをビームで薙ぎ払いつつ一気に距離を詰めてくる。

私は咄嗟にハンドガン型のビーム兵器をサイサに向けて放つ。

サイサは急制動し回避すると更に上空へ飛翔する。私もすかさず追走する。

すると突然雲の中からサイサが奇襲とばかりにドロップキックを噛ましてくる。量子コンピュータが瞬時に敵の軌道を解析し、微細な関節運動を制御。私は反射的に腕をクロスさせ、衝撃を抑えるが演算を上回る威力に弾き飛ばされ、轟音とともに風圧が炸裂し、雲に巨大な穴が空く。

スーツが赤く点滅するアラートを網膜に投影し告げる。

だが私は無視した。今、この瞬間、私とサイサの邪魔を誰もしないで……。


私は距離を取ると一呼吸をする

あの攻撃力、改めてサイサの天才っぷりが現れていた。メガミドライヴの力を私以上に引き出す設計理論。私は…昔からサイサが目標だった。


昔から私が考えた物をサイサは2手3手超えた物を出してくる。全く、頭にくるよサイサ。

そんな君が眩しくて、大好きだから…


空を見上げる。

雲の上からサイサがこちらを見下ろしている。



──あぁベル…私は貴女の全てが憎い…

憎い…?違う。私はベルが好き

──あぁベル…私は貴女の全てが目障り

目障り…?私ベルが目障りだったかしら…



雲が晴れベルが見える。

こちらを真っ直ぐと見据える鋭い瞳。

「ねぇベル!今回の"比べっ子"なかなかスリリングで良いわね!」

比べっ子だなんて…我ながら他に言い方は無かったのかと苦笑いが溢れる。

私自身でベルを拒絶したのに、私はベルとのこの時間が永遠に続いて欲しいと感じている。我ながら……本当に……


翡翠の光が先に動いた。上空に飛行し剣を振り上げる。紫の光も一瞬遅れて下に飛行し肉薄する。火花がちり激しくぶつかり合う2つの光。

至近距離でベルはハンドガンを発砲するがサイサはそれを腕部装甲で防ぐと膝蹴りをベルのお腹にぶつける。

メキメキとベルの身体と装甲が悲鳴をあげる。

喉の奥に酸がこみ上げる。それでもベルは止まらなかった。サイサの顔面を殴って距離を取る。

そして再びベルは剣を構えるとサイサへ一気に斬りつけに行く。サイサもすかさず手刀を繰り出しベルの装甲を掠め取る。

サイサの装甲も一部切り裂かれバチバチと電気が漏れ出す。殴られたサイサの口からも血が流れ始める。

二人の息が上がっていき、空は二人の荒い呼吸音だけが支配する


サイサが手刀を繰り出しそれを剣で受け止めた事で剣が砕け散る。

バランスを崩した二人はそのまま地面に墜落した。

「ベルぅ!!!!」

「サイサぁ!!!」

それでもなお止まらず走り出す二人。

互いが顔を殴り、腹を蹴り、髪を掴み、相手を投げ飛ばす…もはや論理や美しさはそこには無かった。


「……あは、ひどい顔。ねえベル、これ……全然『綺麗』じゃないね」

サイサが力なく笑った瞬間、空から大粒の雨が降り始める。

「……そうかな…?君はいつも眩しいくらい綺麗だから…それくらいが…ちょうど良いよ…」

ベルも力なく笑いながら震える膝で立ちあがる。

「ははっ……何……それっ……」

サイサは久しぶりに楽しそうに笑った。


「……あはは、ほんと、ベルは変……な……っ」

急にガクンと顔を俯かせるサイサ。


顔をゆっくりと上げるとまたあの狂気の笑みがそこにあった。


──やめて、これ以上、私のサイサを……綺麗なサイサを奪わないで


「もう…」

──終わらせよう  サイサ


泥を巻き上げて走ってくるサイサ。

手刀をこちらに一直線に繰り出してくる。

サイサの指が私の肩の装甲を貫く



でも──それより先に……私の手刀がサイサのお腹のメガミドライヴごと  


サイサを貫いていた



貫いた衝撃が消える。

雨音だけが、世界に満ちていく。

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