メカニカルワルキューレ・ゼロ 第三章 衝突
サイサに促され私はパワードスーツを着込んでしまった。
このスーツ、試作品ではあるが性能はメガミドライヴをコアとした物。ハッキリ言って現存する兵器を上回る性能を獲得していた。
私は確かに兵器を作るつもりでいた。でもそれはあくまで抑止力として。戦争は互いが勝てる可能性が有るから発生する。だから圧倒的な力が頂点に居れば、人はそれに逆らわないと考えたんだ。
─けして、けして親友と傷つけ合う為に造った訳じゃない。
サイサのほうを見る。改めてサイサが着込んだパワードスーツを見る。さっき私は無駄が多いと言ってしまった。それはひとえに真実で、私が思った感想だった。でも本当に否定したのはそこじゃない。サイサのスーツは流線型で確かに綺麗に見えるのに─何処か、何処か禍々しく感じたんだ。
「…なぁサイサ?テストって具体的に何するんだい?」
私はあえていつも通りの口調で親友に語りかける。
「あーテスト、うーん、そうね。まずは…耐久テストを試してみたいかしら」
サイサは準備運動をしている。私のスーツと違い細身のそれは一件貧弱そうに見えるのに、私は怖くて怖くて仕方なかった。いつも通りの口調で返した返答とは裏腹に、彼女の目は何時もの知性的な親友のものではなく"自分を獲物として見定める捕食者"の物に感じた。
「そ、そう言えば…サ、サイサ…」
自身でも驚くほどに震える唇を無理やりこじ開ける。
「ンー?」
サイサは準備運動を終えこちらを見据えた。
「て、テストのあと、い、一緒にごはんっ…!?」
私が言い終えるよりも早く、
私が設定した警告音が鳴るよりも先に、サイサの手刀が私に迫っていた。
「ごめんなさいねぇ?貴女との"無駄"な会話、もう…良いかなって」
次の瞬間、サイサは──
これまで見たこともない、見たくもない醜悪な笑みを浮かべながら
私との会話を、物理的に引き裂いた。
私はスーツの過剰なまでの機動力によって何とかサイサの手刀を回避出来た。
「っ…!?…っ…はっ!っ!?」
咄嗟に後ろに飛び退きサイサと距離を取る。
あの速さ───あんなのパワードスーツを装着していても傷どころか致命傷を負いかねない一撃だった。
「"耐久テスト"なんだから、避けちゃダメでしょう?」サイサは笑みを浮かべながら首をかしげる。
「あ、あははっ…その通り…だね…」
私も覚悟を決める。なぜだかは分からないけど今のサイサは普通じゃない。
今この場で親友を止められるのは、私だけなんだから。
私も構えると、サイサはこれまでに無いほどの笑みを浮かべた。
「あはっ、そうでなくちゃ!」
サイサが地面を蹴る。
しかし先ほどと同じ速度だ。私が組み込んだ量子コンピュータが、攻撃の軌道と到達予測を瞬時に演算する。その結果が、私の視界に重なって投影された。
私はサイサの手刀を下からアッパーをかます事で弾き、そのまま両手で張り手を繰り出しサイサを突き飛ばした。
「君を止めるよサイサ。君にはこれからも手伝って欲しい研究が山のようにあるんだからね!」
私は尻もちを着いたサイサに告げる
「っ…!ベルぅ!!」
「サイサ!!」
互いに激しく衝突するように組み合い、
バイザー越しに吐息が触れそうな、
まるでキスする寸前のような距離感になる。
「私っ……貴女が、大っきらい!!」
「っ!そうかい?私は案外好きだったけど…なっ!!」
私はサイサを投げ飛ばし距離を取る。あの速度の攻撃を至近距離で放たれたらいくら量子コンピュータの演算能力があっても回避は難しいだろう。
「ベル…?私、今ベルを嫌いって、言ったの?」
サイサが急に我に帰ったかの様な反応を示す。
「サイサ…?」
「ちょっと待って…ち、違う、これは…私はっ!」
かなり取り乱した様子でサイサはそう言うとスラスターを吹かせて空に飛翔してしまった。
私は呆気に取られ、しばらく構えたままだったが10秒…20秒…30秒過ぎてもサイサが帰って来なかった為、ゆっくりと手を下ろし膝を着いた。
「はぁっ…はぁっ…はっ!っっぅはぁ…!」
一気に疲れが溢れ出てきた。今、私の身体が、アドレナリンと乳酸で悲鳴を上げているのが分かった。
私はパワードスーツのままボロボロになったラボの床に倒れた。
「…大嫌い…かぁ」
ポツリと私は呟いていた。
さっき起こったサイサの異常性を改めて思考しようとする。二重人格?精神障害?様々な思考を巡らせようとするが彼女の放った"大嫌い"がノイズになり取り留めのない考えになってしまう。
「ぅぅ…!うぁぁっぅぅっ…!っ好きだよ…っ大好きだよ…サイサぁ…っ」顔を必死に手で覆うが涙が止まらない。溢れ出したそれを止めるすべを私は知らなかった。




