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メカニカルワルキューレ・ゼロ 第二章 綻び


──私はベルが好き。彼女と居ると毎日退屈しないし、他の頭の悪い連中にいちいち説明しながら話すより、2手3手先を読み合う日々の会話が何より楽しかった。


──でも、少しだけ、本当に少しだけ、私はベルが嫌いだった。

何でも先に思いつくベル、私の発想の先をいくベル、美しさこそ私に劣るけど負けないくらい綺麗なベル…私より人気のベル、ベル、ベル。


もし、ベルが居なかったなら……


私はベットで目を覚ました。まだ時間は深夜の3時。

このところ、毎晩嫌な夢を見る。何時からだろうか

…数週間前、あたりからだろうか。

気分を落ち着かせる為私はベットから降り顔を洗いに行く。

真っ暗な部屋の中でメガミドライヴだけが紫色に光っていた。

鏡をみる。紫の光に照らされた私の顔は酷く歪んで見えた。


紫色の光が、私の呼吸に合わせて脈打っていた。

──ねえ。

頭の奥で、誰かが囁いた気がした。

──ベルは、いつも一番。

──あなたは、二番。

違う。

違う、はずだった。

私は美しい。

私の方が、正しい。

胸の奥に沈めていた感情が、熱を持って膨れ上がる。

それは怒りでも、憎しみでもなく

──そう、「嫉妬」という感覚だった。


気づけば、胸の奥で何かが笑っていた。

壊したい。

傷つけたい。

それと同時に、失いたくないという思いが、同じ場所にあった。


─ラボにて


ベルがいつものように無邪気に

「サイサ!メガミドライヴを有効活用する為の新しいアイデアを思いついたよ!」と、話しかけてきた。以前なら楽しかったはずのその言葉が 私を無能だと証明するための暴力 に聞こえてしまう。

ベルの無邪気な笑顔─あぁ─なんて可愛らしい。可愛らし過ぎて─ぶち壊したくなる。

「サイサ?」

ベルの言葉に我に帰るサイサ

「ん…あぁ、発明…発明だったわよね」

サイサの反応は明らかに普段と違っていたのだが、ベルはあえて気付かないふりをした。ベルは他人の感情を考えるのが苦手だった。だからサイサとの感情でなく理論で語り合える関係が大好きだった。 

「そう!パワードスーツを作るのさ!」

「今もドンパチしてるバカみたいな戦争を1秒でも早く終わらせるためにメガミドライヴを核にパワードスーツを建造するんだよ!」ベルは腰に手を当て高らかに言う。

戦争の無い世界は戦争孤児の2人にとって悲願だった。2人は孤独では無いとはいえ、日常が理不尽に奪われていいと思える思考回路はしていなかった。

「えーっと、つまり貴女は武力で戦争を止めようと…?根本的に今戦争してる奴らと変わら…なく…」と言いかけてサイサは急に俯く。


同じ発明でベルを上回れたなら──

心の奥でそう思った瞬間…

鼓動は強く脈打ち

私の視界は黒い靄に包まれ──歪んだ。


「──良いわね。しましょうかパワードスーツ造り。いつもの様に"比べっ子"……しましょうよ

ベル…」

サイサが笑みを浮かべる。良かった。笑ってるなら大丈夫なはず。ベルは先ほどの違和感は気の所為だったかと安堵し、あえて気にしないようにした。


その日から、ベルとサイサは互いに協力はしあわずお互い別の部屋で基礎理論を同じくした別タイプのパワードスーツの建造を開始した。


─比べっ子の日


互いのスーツを並べた。どちらも既に完成形と呼ぶにふさわしい素晴らしい物だった。

ベルのスーツはあくまで肉体を拡張する機械ツールだと一見して分かるような無骨な兵器然とした物だった。

(……無様ね…)

サイサは醜い物でも見るかのようにベルが建造したパワードスーツを嘲笑っていた。

「造形が美しくないわね。ベル?」

ベルは言った。

「いや、別に動けばいいよ。私は形なんてどうでも、道具は性能が全てじゃないかい?」

その言葉を聞き、胸の奥がざらついた。


「それにサイサ、君のスーツのデザイン、ちょっと無駄が多くないかい」


無駄。


今、無駄と言ったのか。

美しさは、私の力の証明だ。

それを理解しない才能だけの天才が、私より上に立つ。

──それだけは、絶対に許せなかった。


「…じゃあどちらが強く優れているのか、性能テストを実施してみましょうか。貴女のそれと私の"無駄"が多いスーツで」

サイサは笑みを浮かべている。だけど…

「いや、メガミドライヴ性のスーツだ。互いの命だって危ないかも…」

ベルは何か嫌な物を感じサイサの提案を断ろうとする。科学者としては失格かも知れないが、本能として嫌な物を感じたのだ。


「大丈夫。だって……実験に事故は付き物……でしょう?ベル。」

先ほどと同じ笑みを張り付けたサイサ。

サイサにとって「美しさ」とは、ベルには生み出せない、理解出来ない、唯一の聖域だった。それを無駄と言った、"コレ"を許すことは出来ない。




──この時の私はまだ知らなかったんだ。

この「比べっ子」が、まだ引き返せた最後の─

取り返しのつかない一線だったことを。

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