最終話
あれから、二年。
「奥方様ー! 今年もおかげさまで、麦が大豊作ですぞ!」
「星詠み様のおかげで、うちの孫の熱もすっかり下がりましただ! ありがてえ、ありがてえ」
ヴォルフェン辺境伯領は、かつてないほどの活気に満ち溢れていた。
わたくしの【星詠み】の力で天候を予測し、土地に適した作物を育てることで、痩せていた土地は豊かな実りをもたらす黄金の大地へと変わった。
時には、その力で病気の予兆を読み、人々を救うこともある。
領民たちは、わたくしを「星降る地の奥方様」と呼び、家族のように慕ってくれていた。
わたくしは今、公爵令嬢の窮屈なドレスではなく、動きやすいけれど上質な生地で作られた、シンプルなワンピースを好んで着ている。
髪も、きつく結い上げることはなく、緩やかに編んで背中に流しているだけ。
けれど、王都で完璧な淑女を演じていた頃より、今の自分の方がずっと好きだった。
「セレスティナ」
背後から、愛しい声がして振り返る。
そこには、領地の見回りから帰ってきたのだろう、少しだけ日に焼けた夫――リアム様の姿があった。
「おかえりなさいませ、あなた」
「ああ、ただいま。……また、領民たちに囲まれていたのか?」
彼は、少しだけ呆れたような、それでいてひどく優しい顔で笑う。
今や辺境伯領で、彼にこんな表情をさせられるのは、わたくしだけだということを、わたくしは知っている。
「仕方がありませんわ。皆、あなたのことが大好きなのですもの。……もちろん、わたくしも」
そう言って微笑むと、彼は少し赤くなりながらも、わたくしの腰をぐっと引き寄せ、その唇に優しいキスを落とした。
日々の、ささやかで、けれど何物にも代えがたい、幸せな時間。
「そういえば、王都から手紙が届いていたぞ。第二王子ご夫妻に、第一子がご誕生されたそうだ」
アルフォンス元王子に代わり、王太子となった弟君は、聡明で心優しい人だった。
彼はたびたび、辺境のわたくしたちを気遣う手紙を送ってくれる。
「まあ、おめでたいことですわね」
「……俺たちも、そろそろ……」
リアム様が、少し気まずそうに、わたくしのお腹のあたりに視線を落とす。
その言葉の意味を察して、わたくしの頬がカッと熱くなった。
「……あなたったら」
「はは、すまん。だが、本気だ」
彼は、わたくしの耳元で、囁いた。
「君と俺の子だ。きっと、夜空で一番輝く、美しい星のような子になるだろうな」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
わたくしたちは、顔を見合わせて、どちらからともなく笑い合った。
かつて、自分の力は呪いだと信じ込み、孤独の闇の中で生きていた。
けれど、今は違う。
偽りの評価に惑わされず、自らの真価を信じること。
そして、自分を理解し、愛してくれる人の手を、決して離さないこと。
わたくしは、この星降る辺境の地で、本当の幸せを見つけたのだ。
空を見上げると、昼間でも見えるという、この土地だけの特別な一番星が、ダイヤモンドのようにきらりと輝いていた。
それはまるで、わたくしたちの未来を、永遠に照らし続けると約束してくれているかのようだった
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