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「その力は呪いだ」と婚約破棄されましたが、実は伝説の【星詠みの魔力】でした。今更戻ってきたい? もう遅すぎます  作者: 九葉(くずは)


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第6話

王都は、地獄と化していた。

城壁の一部は破壊され、そこから溢れ出した魔物の群れが、悲鳴を上げて逃げ惑う人々を蹂躙している。

空にはワイバーンが舞い、時折吐き出す炎が建物を焼き、黒煙が空を覆っていた。


「聖女様! 聖女様の癒しの光で、どうか魔物たちを鎮めてください!」


王城のバルコニーでは、貴族たちが一人の少女に懇願していた。

桜色の髪をなびかせた男爵令嬢、エリザ。

彼女は涙ながらに両手を天に掲げ、微弱な光の魔法を放っている。


「ああ、聖なる光よ……! この者たちに、慈悲をお与えください……!」


だが、そのか細い光は、魔物の凶暴性を鎮めるどころか、全く効果をなしていない。

むしろ、苛立った魔物が、城壁へ向かって突進してくる始末だった。


「な、なぜだ! 聖女の力は万能ではなかったのか!」


隣で見ていたアルフォンス王子が、顔を青ざめさせて叫ぶ。

彼の信じた「真実の愛」も「聖女の力」も、本物の脅威の前では、あまりに無力だった。


その、絶望が人々を支配しかけた、まさにその時。


ドドドドドッ!!


地響きと共に、整然とした隊列を組んだ一団の騎馬隊が、魔物の背後から猛然と突撃してきた。

先頭に立つのは、黒銀の鎧を纏い、狼の紋章を掲げた将軍。


「ヴォルフェン辺境伯!? なぜ、辺境の軍がここに……!」


アルフォンス王子が驚愕の声を上げる。

リアム様率いる辺境伯軍は、歴戦の強者揃いだった。

彼らは一切の無駄な動きなく、的確に魔物の急所を貫き、次々と血路を開いていく。


そして、人々はさらに信じられないものを見た。

リアム様のすぐ後ろ、同じく馬に乗った一人の女性の姿を。

銀糸のように輝く髪を風になびかせ、その瞳には夜空の星々を宿したかのような、凛とした輝き。


「せ、セレスティナ……!?」


アルフォンス王子の声が、震えていた。

かつて彼が「呪われた令嬢」と罵り、捨てた婚約者。

彼女が、なぜ、あの氷狼将軍と共に、この絶望的な戦場にいるのか。


わたくしは馬上で静かに瞳を閉じ、意識を天に、星々へと繋げた。

【星詠み】の力が、体中に満ちていくのを感じる。


『リアム様! 敵の増援、東門より! オークの隊長格が三体、兵を率いています!』

『騎士団左翼へ! 上空よりワイバーンの急降下! 弓兵の迎撃を!』


わたくしの声は、魔力の糸を通じて、戦場にいる全ての兵士たちの脳内に直接響き渡る。

それは、まるで神の託宣だった。

どこから次の攻撃が来るのか。敵の弱点はどこか。

戦場の全ての情報が、わたくしの頭の中に地図のように広がっていた。


「な、なんだ、今の声は……!」

「敵の動きが、手に取るように分かるぞ!」


王都の騎士たちは驚きながらも、的確な指示に従い、見違えるような連携を見せ始める。

これまで劣勢だった戦況が、明らかに変わり始めていた。


バルコニーからその光景を見ていたアルフォンス王子は、ただ呆然と立ち尽くす。


「馬鹿な……。あれが、セレスティナの力だと……? 呪いでは、なかったのか……?」


隣でエリザが、わなわなと唇を震わせた。

「あんな力……ありえない……! 聖女は、聖女はわたくしのはずなのに……!」


その時、一際大きな雄叫びを上げて、体長5メートルはあろうかというオーガのオーガキングが、王城の門へ向かって突進してきた。


「総員、退避ーっ!」


騎士団長が悲鳴のような叫びを上げる。

あの巨体を、正面から止められる者などいない。


「セレスティナ!」


リアム様の鋭い声が飛ぶ。

わたくしは、彼と目を見交わし、強く頷いた。


「ええ!」


わたくしは馬から飛び降りると、オーガキングの前に一人で立ちはだかった。

そして、両手を天に掲げる。


「――星々よ、我が声を聞け。古の契約に従い、その輝きを力と為し、地に満ちる穢れを祓いたまえ――」


詠唱と共に、わたくしの腕にはめられた腕輪が、まばゆいほどの光を放ち始めた。

それは、遥か昔、わたくしたちがまだ幼かった頃の記憶。


――泣いているわたくしに、お守りだと言って、この腕輪をくれた少年。

その子の名前は、リアム。

彼は、幼い頃に人質として我が公爵家で暮らしていた時期があったのだ。

わたくしが魔力を暴走させてしまったあの日、皆がわたくしを「化物」と恐れる中で、彼だけが、「君の力はすごい。きっと誰かを幸せにできる」と言ってくれた。

そして、この腕輪を――。


全ての記憶が、繋がった。

この腕輪は、彼の魔力とわたくしの魔力を繋ぐ、運命の絆。


「【天槍・シリウス】!!」


わたくしが叫ぶと、夜空から一条の、星そのものと見紛うほどの凄まじい光の槍が、オーガキングの頭上へと降り注いだ。


ズドオオオオオオンッ!!


閃光と轟音が、戦場を支配する。

光が収まった時、そこにオーガキングの姿はなく、地面には巨大なクレーターだけが残されていた。


王の消滅に、残った魔物たちは恐慌状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

それを、辺境伯軍と騎士団が掃討していく。


戦いは、終わった。


しん、と静まり返った戦場で、わたくしは一人、静かに立っていた。

王都の民も、騎士たちも、そして王城のバルコニーにいる者たちも、ただ唖然として、その光景を見つめている。


偽りの聖女がもたらしたのは、無力な祈り。

そして、呪われた令嬢と呼ばれたわたくしがもたらしたのは、絶対的な救い。


どちらが本物かなど、もはや誰の目にも明らかだった。


---


勝利の雄叫びが、戦場のあちこちから上がり始めた。

王都の民衆が、騎士たちが、口々にわたくしたちの名前を叫んでいる。


「ヴォルフェン辺境伯、万歳!」

「あれが、星詠みの姫君様だ……!」


姫君。

その響きに、もう違和感はなかった。

わたくしは、自分の力を受け入れ、その意味を理解したのだから。


リアム様が馬から降り、まっすぐにわたくしの元へと歩み寄ってくる。

その顔には、誇りと、そして隠しきれない安堵の色が浮かんでいた。


「……見事だった、セレスティナ」

「リアム様が、信じてくださったからですわ」


差し出された彼の手を、わたくしは迷わず握り返した。

その温もりが、今は何よりも愛おしい。


その時だった。


「待て! 待ってくれ、セレスティナ!」


みっともなく髪を振り乱し、バルコニーから駆け下りてきたアルフォンス王子が、わたくしたちの前に立ちはだかった。

その顔は、焦りと後悔で醜く歪んでいる。


「すまなかった! 私が、私が間違っていた! 君の力こそが本物だったのだ! だから、頼む、私の元へ戻ってきてはくれないか?」


彼は、信じられないような言葉を口にした。


「君こそが、この国に必要な次期王妃だ! あんな偽物の聖女などではない! なあ、もう一度、私と……」


「お断りいたします」


わたくしは、彼の言葉を遮り、氷のように冷たい声で言い放った。


「アルフォンス殿下。わたくしの力を『呪い』だと断罪し、大勢の前で婚約を破棄したのは、どなたでしたかしら?」


「そ、それは……エリザに騙されて……!」


「言い訳は見苦しいですわね」


わたくしは、リアム様と繋いだ手に、きゅっと力を込めた。

その仕草が何を意味するのか、アルフォンス王子にも分かったのだろう。

彼の顔が、絶望に染まっていく。


「あなたが見ていたのは、わたくしではなく、『クライン公爵家の令嬢』『次期王妃』という肩書きだけ。わたくしセレスティナという人間を、一度でも見ようとなさいましたか?」

「わたくしが孤独に震えていた時、絶望の淵にいた時、あなたはどこにいらっしゃったのかしら?」


「ぐっ……!」


言葉に詰まる王子を、わたくしは冷ややかに見下ろした。

もう、この男に対して、何の感情も湧かなかった。

憐れみさえも。


「わたくしの居場所は、もうここにしかありませんの」


そう言って、リアム様の隣に寄り添う。

リアム様は、そんなわたくしの肩を、守るように強く抱き寄せた。


「そういうことだ、王子殿下。彼女は、俺の……ヴォルフェン辺境伯が妻として迎える女性だ。二度と、気安く名を呼ぶな」


「な……! 辺境伯ごときが、この私に……!」


逆上しかけたアルフォンス王子の背後から、兵士に捕らえられたエリザ様が引きずられてきた。

彼女は、もはや聖女の面影もなく、鬼のような形相で叫んでいた。


「アルフォンス様は悪くないわ! 全部、あの女が悪いのよ! あんな化け物みたいな力で、王子様を誑かして……!」


その見苦しい悪態に、周囲から冷たい侮蔑の視線が突き刺さる。

もう、誰も彼女の言葉を信じる者はいなかった。


王都を救ったのは、誰か。

国を危機に陥れたのは、誰か。

真実は、今や誰の目にも明らかだった。


「お二人には、後日、王家より正式な沙汰が下されることでしょう」


リアム様が冷たく告げると、アルフォンス王子はその場にへなへなと崩れ落ちた。

彼の栄光も、プライドも、全てが終わったのだ。


わたくしは、そんな彼らにもう一瞥もくれることなく、リアム様と共にその場を後にした。

過去との決別。

それは、新しい未来への始まりの合図だった。


夜空を見上げると、災厄を告げていた凶星は跡形もなく消え去り、代わりに、祝福するように無数の星々が、きらきらと輝いていた。

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