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「その力は呪いだ」と婚約破棄されましたが、実は伝説の【星詠みの魔力】でした。今更戻ってきたい? もう遅すぎます  作者: 九葉(くずは)


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第5話

辺境の地での暮らしは、驚くほど穏やかに過ぎていった。

リアム様とギデオン師に見守られながら、わたくしは少しずつ、けれど着実に【星詠み】の力を自分のものにしていった。


最初は蕾を綻ばせるだけだった力が、やがて満開の花を咲かせられるようになり、天候を読んで農作業の助言をしたり、領地の水源を探し当てたりと、人々の役に立てる場面も増えてきた。

領民たちは、最初は遠巻きにわたくしを見ていたが、次第に「星詠み様」と呼び、慕ってくれるようになった。


「呪われた令嬢」と呼ばれていた日々が、遠い昔のことのように感じられる。

自分の力が誰かの笑顔に繋がる。

その喜びが、凍てついていた自己肯定感を、春の陽光のようにゆっくりと溶かしてくれていた。


そして、リアム様との距離も、少しずつ縮まっていた。

彼は口数が少なく、愛情表現も不器用だったけれど、訓練の合間に淹れてくれる不格好なハーブティーや、わたくしが星を見やすいようにと城の塔を改修してくれた優しさが、何よりも雄弁に彼の気持ちを物語っていた。

彼の隣が、いつしかわたくしにとって一番心安らぐ場所になっていた。


そんなある夜のこと。

わたくしは、いつものように改修された天文台で、夜空に浮かぶ星々の配置を読んでいた。

リアム様から贈られた腕輪が、月の光を受けて淡く輝いている。


(……おかしい)


胸騒ぎがした。

星々の配置が、不吉な形を描き出している。

今まで見たこともない、禍々しい瘴気を纏った凶星が、王都の真上で輝いていた。


次の瞬間、わたくしの脳裏に、鮮烈な未来の光景ビジョンが流れ込んできた。


―――燃え盛る王都。

―――人々の絶叫。

―――地面を埋め尽くす、おびただしい数の魔物の群れ。オーク、ゴブリン、そして巨大なワイバーン。

―――王城のバルコニーで、なすすべもなく立ち尽くすアルフォンス殿下と、彼の隣で偽りの祈りを捧げるエリザ様の姿。


「……っ、は……ぁっ!」


あまりの衝撃に、わたくしはその場に膝から崩れ落ちた。

全身から血の気が引き、呼吸が浅くなる。


「セレスティナ! どうした!」


異変に気付いたリアム様が、駆け寄ってきてわたくしの肩を強く抱きしめてくれた。


「王都が……王都が、魔物の大氾濫に……!」


「なんだと!?」


震える声で見た光景を告げると、リアム様の顔から血の気が引いた。

魔物の大氾濫。

それは、数十年から百年に一度、魔素の乱れによって発生する、この国最大の災厄。


「ギデオンを呼んでこい! すぐにだ!」


リアム様の鋭い声が響き渡り、城内はにわかに緊張に包まれた。

すぐに駆けつけたギデオン師も、わたくしの話を聞くと、厳しい表情で頷いた。


「星詠みの予知は、絶対じゃ。間違いあるまい。……しかし、これほどの規模の大氾濫、王都の騎士団だけでは……」


王都の守りは、平和に慣れきって久しい。

対する辺境伯の軍勢は、日々魔物と対峙する少数精鋭の実戦部隊。

だが、今から王都へ向かっても、間に合うかどうか……。


「セレスティナ」


リアム様が、わたくしの手を固く握った。

その黒曜石の瞳が、覚悟を決めた強い光を宿して、まっすぐにわたくしを見つめていた。


「君の力が必要だ。君の【星詠み】の力があれば、魔物の動きを正確に予測し、被害を最小限に食い止められるかもしれん」


「わたくしの、力……」


「怖いか?」


怖くない、と言えば嘘になる。

あの王都へ戻ること。

わたくしを拒絶した人々の前に、再び姿を現すこと。

そして、これほどの大規模な魔力の行使は、未知の領域だった。

もし失敗すれば、今度こそ取り返しのつかないことになる。


でも。


わたくしは、自分の腕で淡く光る腕輪を、ぎゅっと握りしめた。

この腕輪をくれた人。

呪いではないと教えてくれた人。

新しい居場所をくれた人。


この人の隣でなら、きっと大丈夫。


「……怖く、ありません」


顔を上げ、はっきりと告げる。


「リアム様とご一緒なら。……わたくし、行きます」


「……ああ」


リアム様は、力強く頷くと、わたくしの手を引き、立ち上がらせた。


「全軍に通達! これより王都へ向けて、全速力で進軍する! 辺境伯の誇りに懸けて、民を一人たりとも死なせはせんぞ!」


彼の号令が、夜の城に響き渡る。

もう、あの夜会で無力に立ち尽くしていた、か弱い令嬢はどこにもいなかった。

わたくしの胸には今、星々から授かった確かな力と、愛する人を守りたいという強い意志が宿っていた。


災厄の星が輝く下、わたくしたちの運命は、再びあの王都へと向かって、大きく動き出したのだった。

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