おちんぽ様対話篇
淋病――淋しき病。
ククク、皮肉な名前と思わんかね。なあ、君。
「主よ、此度も拝謁の栄に浴し、感無量の思いです」
「よい、よい」
極黒魔羅塔メガ・エッフェル・タワーの頂、謁見の広間にて傅く筆者。
対する人物は、おちんぽ様。筆者は彼に身も心も捧げた卑しい虫けらである。
おちんぽ様は玉座にどっしりと腰掛け、あまり皮をだぶつかせて弄んでいる。
「して、今宵は何用であるか」
「主よ、そのう、お顔色が……」
おちんぽ様はなんだか全体に薄紫色で、赤い水玉模様が浮き出ている。ちょっとお洒落だろうか。
「大事ない」
「しかし、首元のお召し物も……」
ちょっと剥いてみたら余り皮(筆者注:今更いうべくもないが、筆者は重度の仮性包茎である)がパンパンに腫れ上がって、さながらマフラーじみている。お洒落のコツは季節先取りとは言うが、いくらなんでもマフラーは早い。
「大事ないと言っておろう!!」
「主よ、あなたは明らかに性病です!!!」
筆者、絶叫である。人生二度目、五年ぶりの性病が、筆者に牙を剥いた!!
「認めたくはない。認めたくはないが……うむ。花柳病であろう」
「主よ、なにか、なにか私にできることはありましょうか」
「うむ……前回の罹患時は、いかに治癒したであろうか」
「2周間ほど、毎日ユンケルを3本飲んで無理やり治しました」
「底抜けの阿呆とは常々思うておったが、これほどとは」
筆者はこの中途半端な成功体験が災いして、よほどのことでないと医者にかからなくなってしまった。だいたいのものはユンケルで治ると思い込んでいる。
「医者へゆかぬか!!!」
「いやだ!!!医者にちんちんを見せるくらいなら、俺は死んでやる!!!!!」
ユンケルを信じているというより、医者が嫌いなのである。ちんちん見せるならなおさら。
むくつけきオジサマにちんちんを弄られて、「あー性病だわこれ」とか言われたら死んじゃう。
「ではどうするのだ!!朕は執務に支障をきたしておるのだぞ!!」
「主よ、心配しないでください。今回はこれがあります」
筆者が懐から取り出したるは、怪しげな国際郵便梱包。
「これよりオペレーション:セルフ・メデュケイシュンを開始する!!」
「オオサカ堂で買った抗生物質ごときを得意げに見せびらかすでない!!」
医者にちんちん見せるくらいなら怪しい薬を飲み下すのが筆者の愚かな生き様である。
「まあ、これで多分治るでしょ。多分」
「こんな処置で朕が腐乱してもげたら、そのときはどうか風の吹く丘へ弔ってくれ」
風の吹く丘ってどこだよ。
* * *
「ではそういうことで、今日の処理行ってみましょうか」
懐から取り出したるは白くつややかな脱毛機(12万円、パナソニック製、12回ローン払い)。
「ア゙!!!!それ痛いからやーやーなの!!やめて!!」
おちんぽ様、号泣。
筆者は愚かなので、ちんぽを使えない間、ちんぽのために何ができるかを考えた。
筆者のおちんぽ様には、毛が生えている。
そんなの、みんな生えてるやんけ!何を得意気になっている!と読者諸賢は訝しむかもしれない。だが、大体の人は竿自体には生えていまい。ククク。筆者は竿までけっこうびっしり生えている選ばれし者なので(くどき屋ジョーのホームレス形態のヒゲくらい生えてる)、ヘラチオとかされると対戦相手は1分に一回くらい口から毛をぺっぺと取り出す羽目になる。
筆者のちんぽはその仕草を見るとシナシナになるタイプの陰茎なので、これを期に毛無しの竿にしたい。
これもおちんぽ様のため――
「それ、昨日も、やった!!!説明書、読め!!!3日に、1回!!!書いてる!!!」
恐怖のあまりカタコトになるおちんぽ様。実際、竿脱毛はかなり痛い。
「こういうのは、だいたい何かで訴えられたくない企業が保身のために3日あけろとか書いてるだけなんですよ(陰謀論)。2日飛ばすくらい全然許容範囲なんですね。大丈夫、連日やったほうが早く終わりますからね~(楽観予想)ほいでは、ピピッと」
たぶん、デーモン・コア実験とかこんなノリのもと行われたのではないか。
「あいや待たれよ!!!」
「誰だ!!!」
おちんぽ様の前に立ちはだかる、ふたつの影。
「右大臣、左大臣!!」
要はキンタマである。キンタマが筆者の前に立ちふさがっていた。
「主を見やれ。糜爛しておられる。こんな状態で脱毛光線などに晒されてみよ」
「筆者貴様、主のためなどという欺瞞をやめよ。ひとえに貴様の、ヘラチオの際に手弱女がぺっぺする仕草が嫌という、自己中心の願望によるものだろう」
「貴様は人の心とかないんか。それほど我が身が可愛いか」
「主の御心を知れ。しかる後、恥を知れ、恥を」
左右のキンタマに説教されぐうの音もでない筆者。
論破された人間のうち、猿に近いタイプの人間は、おおむね暴力に走リがちだという。
そして筆者のDNAは、ヒトよりもチンパンジーに近しいと言われている。
「黙れ、ぶらぶらするしか能のない陰嚢風情どもが!!貴様らのようなやつらは、死んでしまえ!!」
「ぎえー!!」
「ぬわー!!」
竿に毛が生えているような人間は、玉袋にも毛が生えているものだ(筆者調べ)。
ピカッ、ピカッと奔る二発の赤い閃光――脱毛光線により失神する右大臣、左大臣。
「次はどいつだ!!」
暗がりから、ぬるりと進み出る黒い影。
「ふぉふぉふぉ……我が名は肛門。そこな若いの。この老いらくの命の灯火と、その脱毛光線とやら、どちらが眩いか……試してみるか?」
「肛門だとォ!?括約筋風情が!!粋がるなよ!!」
「肛門様!!やめよ!!無為に命を散らすな!!」
哀泣するおちんぽ様と、気絶した右大臣左大臣をまとめて押しのけ、肛門様へ凶器を押し当てる筆者!!
玉袋に毛が生えているような人間は、肛門周りにも毛が生えているものだ(筆者調べ)。
「喰らえジジイ!!」
脱毛光線の照射は、脱毛機の冷却機能により照射部が急冷され、約2秒後に行われる。肛門がひんやりとした感触にヒクヒクし、筆者が勝利を確信したその時。
――人間は知らず生命の危機に足を踏み入れた際、脳の活動が活発化し、無意識に高速な思考を可能とするという。
照射までの2秒。2秒の時が無限に引き伸ばされ、筆者は、忘れていた大切なことを思い出していた。
・脱毛光線は、黒いものにのみ反応し発熱する
・肛門は一般的に黒い
・説明書に「 絶 対 に 肛 門 に 使 う な 」と書いてある
・肛門に家庭用脱毛機を当てるような者は、一般に「バカ」と呼ばれる
・肛門は体外に露出した臓腑であり、非常に繊細である
・以前、肛門とキンタマ袋にデリケートゾーン未対応の除毛クリームを塗って大変なことになった
絶対に肛門に使うな。絶対に肛門に使うな。絶対に肛門に使うな――
忘れていた警句が、冷たい汗となって筆者の額を伝う。
シナプスの伝令が脳から脊髄、腕と雷撃の速度で疾駆し、「可及的速やかに脱毛機を肛門から遠ざけよ」と絶叫する。
あと少し、もう少し――無限に引き伸ばされたスローモーションの中で、ジリジリと手を遠ざけようと――
「なあ、若いの。――地獄めぐりのつれあいを、探していてな」
肛門様の枯れ木のような手が、筆者の撤退を阻んだ。
「ともに死出の旅へ、まいろうぞ」
「うお――――」
迸る赤い閃光。
おちんぽ様がぎゅっと瞑った目蓋を開いた時、そこには、気絶した右大臣、左大臣が転がっているだけだった。
筆者も、黄門様も、赤い光の向こうへ消えてしまった。
その後、筆者の行方を知るものはいない。
(ここでBEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~ が流れる)
完
おしっこするとき痛いし、うんこするときも痛い。どうしてこんな目に遭うの?